「…今日はもう店終いだ…」
「はい、お疲れさまです」
店主が店終いを告げると店で働いていた女性は身支度を済ますと帰路へと向かおうとした
しかし、出ていって1分もしないうちに戻ってくる
「て、店長!そ、外で人が倒れてる!」
「?…何?」
「だから、外で人が倒れてるんだってば!」
店主の無表情な顔が珍しく感情が露わにし急いで酒場の外へと向かう
「…おい、大丈夫か!?」
店主が倒れてる人物…サードに訊ねる
反応は全く返ってこない
「…ねえ、店長…大丈夫かな?この人…」
「…さあ、な」
けたたましい鋼の絶叫が響き渡っていた
しかし、サードの刃とソニアの刃は触れあっていない
2人の一閃した刃を止めたのはどこからか飛来した一本の青龍刀だった
「…もう、遅い!」
「何が遅いですか…。私にやらせろと言ったのは貴女ですよ?」
いつの間にか2人の間に青年が立っている
歳は20代後半といったとこだろうか。
童顔のせいかハッキリとは解らない
黒い双眸にこげ茶色の髪が顔とよくあっている
見た目は…見たとおり物腰は柔らかそうだ
「うるさいなぁ、私かサードどっちか死ぬ所だったじゃない」
「貴女はもう死んでるでしょうが」
「ぅ……」
どうやら、ソニアはこの男に頭が上がらないようだ
「誰だ?コイツは…」
「ん?ああ、コイツはレイド…一応、二代目現人神だよ」
密かにソニアは毒を吐く
「一応は余計です…。サード…君だね?よろしくレイド=エクリプスです」
「ああ…よろしく」
(何か調子狂うな…)
「で?俺は合格なのか?」
無理矢理、ソニアに話を振る
「そうだねぇ…私よりは強くなってるかな」
「そうですね。貴女は訓練をサボり気味ですから」
「おだまり」
「俺の力量なんか見て何かあるのか?」
「それは儂から話そうかの…」
なぜだろう…前に会った気がする
「あ、ジジイ!金払いやがれ!」
「何じゃイキナリ…払ったじゃろう?」
「あの、刀と本で飯が喰えるか!」
何処からともなく現れた老人…それは、少し前にサードの大道芸を見ていた老人だった
「こらサード!あの人は仮にも初代現人神なんだよ。失礼のないようにね」
「仮にもは余計ですね…」
「仮にもは余計じゃな…」
ソニアに2人のツッコミが同時に入る
「あの本は兎も角刀は使い物にならないじゃないか」
「何じゃ、あの『逆禊』は刃に魔力を込めて刃と成す代物じゃぞ・・・要らないなら返してもらおうかの」
「ほう、切れ味バツグンってことか・・・まあ、いい貰っておく」
「それと、お主の力量を見たのは我等が操ることのできる『全体』、『因果』、そして『存在』の適正を見るためじゃ」
「ちなみに全体は『空間』を因果は『時間』を存在は『重力』を操ることができますよ」
「で?ファウスト、サードはどれが使えるの?」
どうやら、老人の名はファウストというようだ
そして、『時』、『空』、『重』の内どれか1つのみが使えるというのが普通らしい
「そうじゃな・・・。見た限りでは3つの適正があるようじゃ・・・」
「!?本当?やったねサード♪」
どうやら、3つを扱えるのは相当稀なようだ
サードの横でソニアは子供のようにはしゃいでいた
「どうも、よく分からないんだが…」
「そうですか・・・。やはり彼は終焉の時を迎える者なんですね・・・」
「…そういうことじゃな…これで、最後のようじゃ…。では、サード=エクリプスよ…しばしの間、目を閉じよ」
サードは言われるままに瞳を閉じる
『終焉の時を迎える者』それは、呪われた時を終わらせなければいけない者
もし、終わらせなければ三つの力を持たず呪蛇紋を持つ子が生まれてしまう…
三つの力(三柱の力)を持たずに生きることは不可能である
瞳を閉じているサードの頭の中には膨大な量の情報が流れ込んでくる
十二神帰神法の印の組み方…
『時』、『空』、『重』の操り方…
呪邪紋の暴走を抑える術…
禍神を屠る術など…
今、サードに必要な情報全てが其処にあった
「さて…もうよいぞ」
「お疲れさまです。サード君」
そう言ってレイドはいつの間にか煎れた紅茶を差し出す
「ああ、さんきゅ」
紅茶を受け取り一口飲む
何の葉かは解らないがいい香りがした
「さて…そろそろお別れだね…」
「そうですね…サード君、君と会えてよかったですよ」
「また…会えるか?」
「ううん、もう此処に来ることは出来ない…死ぬまではね」
「儂等の子孫、そして現世のためにも禍神を時と空の狭間に屠ってくれ…」
「俺は現世のためとかじゃなくて俺の呪邪紋を消すためにアイツを…殺す…英雄とかは俺の柄じゃないからな」
「ふぅ、貴方らしいと言えば貴方らしい理由ですね…」
レイドはやれやれといった表情でサードを見る
そして、サードをソニアが突然抱きしめた
「サード…絶対無理しちゃ駄目だよ…風邪なんか引かないでね…」
「ああ…わかってる…」
10年ぶりに母と呼べる人に抱きしめられた気がする…
そして、サードの意識は薄れていき時は再び早送りで進みだす
「…ぉぃ!…しっかりしろ!」
誰かの声がする…俺を呼ぶ誰かの声…聞き覚えががある
「おい!起きろ…!」
「…ん、ああ…」
「…おい、大丈夫なのか…?」
どうやら、現世に戻れたようだ…
サードの意識が飛んでからそれほど時は経っていないようだ
「ああ、大丈夫だ…心配かけたな」
「…お前じゃなくて金の方だ…」
サードは一気に現実に引き戻された
余韻もあったものじゃない
「金?え、えっと…スマン…かなり足りない」
「…ほう、じゃあどうするんだ…」
店長の顔には明らかに怒りの表情が見て取れる
「…ねえ、店長?この人ウチで働いてもらったら?」
後ろで心配そうに見ていた女性が口を開く
「此処デ働カセテ頂キマス」
「…まあ、いいだろう・・きっちり働いてもらうからな…」
「OK、店長♪話がわかるじゃないか」
「よかったですね」
「…少しでもサボったら…殺すぞ…」
「肝に命じます…」
「と、とにかくよかったね…あ、ボクはマリーって言うんだ。よろしくね♪」
「サードだ…よろしく頼む」
「うん♪よろしくね、サードさん」
「…では、ようこそ…ブルースカイへ…」
これからサードは少しの間、酒場「ブルースカイ」で働くことになる
少しと言っても半年はいることになるが…
その理由などは…また、別の話…