「…サー……君…」
何処かで俺を呼ぶ声がする…
「……ド………ってば!」
…うるせェな。人が気持ちよく寝てるんだぜ?
起こすなよ…
「起きんかい!ボケ!」
「ったく…誰だよ…うるさいぞ」
「うるさいは無いでしょ?人が折角、優しく起こしてあげてるんだよ?」
サードの目の前にいる女性…
マリーが少し怒ったように文句をたれる
「ちょっと待て…どこが優しくだ?」
「何か言った?」
「…いや、別に…」
逆らったら殴られそうなのでサードはそれ以上追求する事をやめる
「んじゃ、行こっか♪」
「行くって何処に?」
「昨日言ったじゃん。買い物に付き合ってくれるって」
(…言ってたような言ってないような…)
とりあえず、逆らったら地獄を見そうなのでサードは渋々付き合うことにした
「んー♪いい天気だねサード君♪」
「ああ、そうだな…で、買い物って何買うんだ?」
「んーとね…店長に頼まれた食材に…あとは、私は服でも買おっかな♪」
「…店長の食材は兎も角…お前の買い物は付き合わないからな…」
とりあえず自分の意見を言ってみる
「んー、何買おっかな♪」
聞いちゃいなかった…
「お、マリーちゃん今日は彼氏と買い物かい?」
雑貨屋の親父がマリーを見つけると気さくに声をかけてくる
さっきから声をかけられる辺りを見るとマリーはここの市場ではかなり顔が広いようだ
「え!?ち、違うよ!?この人は店の従業員だよ」
マリーが照れたように答える
「そうだ…俺はコイツにこき使われてるんだ助けてくれ」
「え!?人聞き悪いこと言わないでよ!」
そう言ってマリーはサードの鳩尾に蹴りを喰らわす
「ぐあっ…」
「は、はは…従業員ねぇ…」
どうやら、かなり引いたようだ
「そうだ親父さんいつものね♪」
いきなり話を変えた
サードは隣でうずくまっている
かなり、苦しそうだ。見事に決まったらしい
「あ、ああ…毎度…」
「…?サード君どうしたの?私、ちょっと買い物してるから適当にぶらついてていいよ」
「ああ…分かった」
どうやらやっと痛みが引いてきたようだ
普通の人間ならまだ花畑を見ていることだろう

「さて、何処に行くかな…」
とりあえずサードは街をぶらついてみる
(そういや、まともに休みもらえなかったからこの街をゆっくり歩くのは初めてだな)
今まで半年もタダ働きで休みが無いとはどれだけ働いているのだろうか…
いつの間にか街の外に出ていた
このまま進めば別の街に行けるのだろうか…
「なんだありゃ?」
サードの眼前には黒いモノが固まっている
「……行ってみるか」

「だぁー!だから、ちょっと貰っただけだろうが!」
近くに寄ると黒い固まりの中でなにやら声がする
「人が居るのか?」
もっと近くに寄ってみる
「げ…ありゃ、魔物の群じゃないか…」
ヤバイ…厄介ごとに首を突っ込んじまった
サードは心の中で自分の好奇心を呪った
「あ…兄さん!ちっと助けてくれ!」
魔物の群から黒いモノが飛翔し…
サードの肩に乗る
(ちょっと待て…肩に乗るだ?)
サードは恐る恐る自分の肩を見てみる
そこには一匹のカラスがちょこんと羽を休めている
「…おい…てめェなんで俺の肩に乗ってるんだ?」
「まあまあ、取り敢えずは彼奴らを片づけてくれよ…サードの兄貴…」
(…?なんで俺の名を知ってる…)
「ぐ…がぁぁぁぁ!」
カラスを取り囲んでいた魔物の群が一斉に動く
数は…12,3辺りか…
近づいてくるにつれ魔物の容姿が次第に分かってくる
その容姿は……一見すると鬼のようにも見える
鬼…のような魔物はその鋭い爪をサードの喉元を目掛けて突き立てようとする
「ちぃっ!」
サードはその爪撃を刀…逆禊で弾きそのまま半身を捻り刃を一閃する
「ぐがぁ…」
低い呻き声を上げながら鬼(?)はその場に平伏した…
静音鳥楽に刃は付いていない…
だから、一時の間眠ってもらうだけ…しかし、いくら刃が付いてないと言っても鋭い斬撃でしばらくはまともに呼吸もできないだろう…
「さ、次はどいつだ?」
刃を魔物の群れに突きつけ言い放つ
いつの間にかこのカラスを助けることになっていた
「ぐるるる…がぁ!」
残りの魔物全てが一斉に跳んだ
相手はサード一人…当然、この数では敵わないと思ったのだろう
しかし、サードは全ての魔物の攻撃を尽くかわしていく
その動きはまるで舞を踊ってるかのように美しかった…
「十二神帰神法…空颪」
そう呟いて印を組み腕を思いきり振り下ろした…
半年前に修得した神を屠る神の禁技…
魔物の群れの前方の空間が…破壊された…
多分、魔物にはそう見えたことだろう
「が……!?」
呻き声と共に魔物の群れは気を失いその場に平伏した…
本来なら空間ごと魔物も爆砕されたことだろう
サードなりの気遣いというやつだろうか
「ったく…相手見てから喧嘩売るんだな」
動かぬ魔物の群れを見てそう吐き捨てる
「いや、流石兄貴だぜ♪」
「で、お前何やったんだ?」
この、人語を喋るカラスが襲われた理由を問いただしてみる
「話は長くなるんだが………ちょっとこいつらの飯を頂いた…」
長いと言うわりにはかなり短かった…
「…って、自業自得じゃないか!?」
「世間一般ではそう言うらしいな」
あっけらかんとカラスは答える
「はぁ…ほら、さっさと行け…このクソカラスが…」
最後にカラスに文句の一つでも言ってやりたいがこれ以上話を長くするのも面倒なので毒の一つくらいで済ませる
「まあまあ、俺は兄貴が気に入ったぜ?だから、ついていくぞ♪」
どうやら、このカラスに気に入られてしまったようだ
「…はぁ…好きにしろ…」
断っても無理矢理ついてくるだろうとサードは半ば呆れながら了承する
だが、どうにも引っかかることがある…
「お前…名前とかあるのか?」
この、カラスに名があるとは思えないが取り敢えず聞いてみる
いわゆる好奇心というやつだ
「名前?ああ…クロノスだ…」
クロノス?はて、何処かで聞いた名前だな?
しかし、そんなことよりもサードはカラスに名があることに怒りを覚え始めた…
「…何、立派な名前持ってやがる!今日からお前は黒田だ!」
黒田…サードの美的感覚を疑うような怪しい名だ
「何故に!?」
流石にカラスもイヤなようだ
当然と言えば当然だと思う
「あ?イヤなら名字にアンラッキーとかつけてやるぞ?」
アンラッキー・黒田…もっと、怪しい気がする
「…黒田でいいです…兄貴…」
やはり、ついてくの止めようかな?とカラスは心の中で呟くが目的のためには避けては通れない道なので渋々了承する
「それから…その『兄貴』てのは止めてくれ…サードでいい」
「そうか?んじゃ、サード…これからよろしくな♪」
「ああ、よろしくな…非常食」
どうやら、サードの中で黒田は非常食決定なようだ
「ま、まて…今は非常じゃないよな?」
黒田は恐る恐る聞いてみる
これで、非常なら全速力で逃げなくてはならない
「ああ、今のところは、な」
サードの肩から飛び立つ準備をしていた黒田は深い溜息をおとす
しかし、これからは自分の身がサードに狙われないように気をつけなければと黒田は心に深く誓った
「…久シイナ…現人神…」
突如、周りの空気が不穏な物へと一変する
忘れもしないあの感覚…ヤツだ…
先程、倒した魔物の一つが力無く立ち上がる…
目には生気など宿っていない…
「お前か…しつこいな…禍神」
「ツレナイデハナイカ…感動ノ再会ダゾ?」
当然、感動の再会というわけでは無い

現人神の因縁の相手…

友と呼べる存在の仇…

「何が感動だ。お前のことは一度も忘れたことはない…ケリつけに来たか?」
「我ハ汝如キニハ倒セヌヨ…マア、今日ハ新シイ器ガ見ツカッタノデ挨拶ニ来タ」
「…禍神…お前が…」
黒田がだれも聞こえないような呟きを発する…
「ン?其処ノ、カラス…何処カデ会ッタカ?」
「さあ?人違いじゃない?」
黒田は明らかに動揺したような表情で答える
「ソウカ…ナライイ…」
「で?その、魔物が新しい器か?なかなか格好いいじゃないか」
サードは皮肉げな言葉でからかってみる
まあ、この堅物には冗談なんて通じるわけもないが…
「ソウカ?マア、コレジャ無イガナ…」
意外と冗談が通じるようだ…
「ほう、で…やるのか?」
「アア、汝ガドレダケデキルカ…見テヤロウ」
そう言うやいなや魔物は跳んだ
先程とは比較にもならないほど早い
魔物の体からは筋肉が切れる音がはっきりと聞こえる…動きに器がついていってないようだ
「…遅ェ!」
遅い…先程の魔物ならもっと遅かったのだろうか?
サードは爪撃をかわし刃に魔力を込め爪撃をした方の腕を切り裂く
腕は宙を舞い…そして、ドサリと落ちる
「言ッタダロウ?我ハ無…斬撃モ魔術モ我ノ前デハ全テ無ニ帰ス…」
サードは一旦距離を開け…
そして、印を組む
「十二神帰神法…神凪!」
サードの前方の空間が開け…そこから、自分の身長の2,3倍はあるであろう長刀が現れる
「…切り裂け!」
長刀は自分の意志があるが如く魔物を切り裂く
「グ…十二神帰神法カ…小賢シイ…」
「どうした?もう、終わりか?」
「クク…ダガ、マダマダダ…現人神、アストローナ大陸デ会オウデハナイカ…」
そう言い残すと魔物から黒い霧が勢いよく発生し…空へと昇っていった
「…ホントに挨拶だけだったな…」
「…みたいだな。よし、行くぞ黒」
そう言ってサード達はアルバーグの街へ引き返していった
(アストローナか…。そろそろ、こことオサラバするか…)

「あ、サード君何処行ってたの?探したんだよ」
街の中央広場でマリーがふくれっ面で言った
「悪いな。ちょっと野暮用だ」
当たり障りのない返答をしとく
「ふーん…で、その肩にいるカラス君は新しいお友達かな?」
マリーが黒田を指さして言う
「クロノs…じゃない黒田だ。よろしくお嬢ちゃん」
(あ、バカ…人前で喋るなよ)
「うわ!カラスが喋った!?」
「悪いかよ?喋っちゃ…」
いや、悪くはないが…流石にイキナリは驚くだろとサードは心の中でツッコミを入れる
「悪くはないよ…えと、よろしくね黒ちゃん♪」
黒ちゃん?
マリーには初対面の相手でもこういう風に呼ぶ癖があるようだ
まあ、それがマリーが街の人に慕われている理由なのかもしれない
「挨拶は済んだか?…そうだ。俺は明日ここを離れることにした」
いきなり本題に入る
「え……?何で?」
「悪いな…。急に離れたくなったんだ」
「そっか…。サード君は旅人だもんね…仕方ないんだよね…」
一気にマリーの表情が曇る
「ああ、突然で悪いな。店長にも、今日言うつもりだ」
「うん、じゃ今日は送別会だね♪」
意外とマリーは強いようだ…
だが、その笑顔にサードの胸がズキリと痛む
「じゃ、とっとと店長に言ってきてよ。私は準備してくるね」
「ああ」
そう言い残しサードは住み込みで働いている店…ブルースカイへと歩を進めた

「…というわけで今日ここを出ることにした」
「…そうか…お前のツケは全て払ったんだ…好きにしろ…」
店長は無表情のまま答えた
「…世話になったな」
「…まったくだ…お前のような客はもうごめんだからな…」
初めて店長の笑顔を見た気がする
半年とはいえ…もう、2,3年居たような気がする
思えば色々あったものだ…
「…マリーにはもう言ったのか…?」
「今日出るとは言ってない。アンタから言っておいてくれ」
「…情が移る前に行く…か…お前らしいな…」
「ま、その内また来るさ」
今度はちゃんと金を払えよ?と相変わらずの無表情で店長が言う
そして、サードはマリーに見つからないように港へと向かった…

「…行きですね?3000sになります」
3000s…今までの給料でギリギリだった…
しかし、躊躇せず3000sを渡す
「では、よい船旅を」

ボーッ!っと勢いよく汽笛を鳴らす
心地よい潮の香り…
そして、離れていく住み慣れた街…
「ホントにあの嬢ちゃんに言わなくてよかったのか?」
肩に乗った黒田がサードの顔を見ながら言う
「ああ、ここは居心地が良すぎた…それに、送別会なんて柄じゃないしな」
「そうか…」
黒田はそう言って何も言わなくなる
しかし、この船は…目的のアストローナへは向かわなかった
着いた場所は極寒の大陸…
無一文のサードはその大陸でまた住み込みで働き
アストローナに着いたときはここから5年もかかっていましたとさ…
アストローナのお話はまた…別の機会でお話しよう…