−1−
駅前に出来た新しい喫茶店や、穴場の本屋、コンビニとかの場所を、僕とマナはブラブラと歩いた。
「ここの道ってさ・・・」
「あ、ここを通ると近道なんだよね・・・」
もっぱら解説に回っている僕。マナは、微笑みながら相槌を打つ。
小さい頃、僕とマナとケンスケでよく遊んだ公園の前に通りかかった時、彼女は微笑むのをやめた。
それもそのはず。
思い出の公園のあった場所には、マンションが建っていたから。
「ねぇ、ここって・・・」
「うん、あの公園があった場所だよ。一昨年くらいかな、マンションになっちゃったのは。」
「やっぱり、変わっちゃうのね。」
マンションを見上げるマナ。
でも、きっとその瞳はマンションを映してはいない。記憶にある、懐かしい公園を思い出しているのが、僕にも解った。
そんな彼女を見ているのがなぜか痛ましくて、僕はそっと彼女に声をかけて、ここから退散する事にした。
−2−
腕時計の針は七時を指し、辺りはもう暗い。
この街に不慣れ(前まで住んでいたんだけどね)なマナを自宅まで送る事にした。
歩きながら話をしていると、話題は自然にお互いの近況についてになった。
「へぇ・・・今は一人暮らしなんだ。」
「うん。同居人はいるけどね。」
マナは両親と暮らしているらしい。
僕らの年齢を考えると、一人暮らしの方が珍しいか。
「同居人?」
「うん。雌の猫だよ。名前はアスカ。」
「ふぅん・・・あ、そうだ。一人暮らしなんだよね。食事とかはどうしてるの?」
「自炊してる。外食すると、栄養が片寄るし、お金がかかるし。」
「じゃあさ!」
目を輝かせながら、マナは言った。
「今度、ご飯作りに行ってあげようか?」
ご飯。
お転婆だったマナのイメージからは、想像もつかない。
その思いが表情に出てしまったのだろうか、マナが抗議の声を上げる。
「ひっどぉい!これでも、家庭科の成績は良いのよ!」
「うん。じゃあ、マナが暇な時にでもお願いするよ。」
そんな会話をしているうちに、マナの家の前へと到着した。
「明日ね!」
「うん、じゃあね!」
すっかり遅くなってしまった。
ひょっとしたら、アスカが怒ってるかもしれない。
僕は、ネコ少女が待っている自宅へと急いだ。
−3−
自宅へ帰ると、アスカの熱烈な歓迎が待っていた。
「にゃあ!」
と一声鳴いて、僕の方へと走り寄ってくる。
「ただいま、アスカ。」
彼女を抱き上げる。
返って来たのは、ひっかき攻撃だった。
「いたたたっ!」
存分に僕の顔をひっかくと、アスカは僕の腕から逃げる。
何を怒っているのか、よく解らない。
彼女が喋れないのは、何とも不都合だ。
ふと閃いて、僕はルーズリーフとペンを取り出す。
『あ』から『ん』までの文字を一つ一つ書き並べて、部屋の奥に隠れているアスカの前にもっていった。
「アスカ、これ」
五十音が書かれている数枚のルーズリーフと僕を交互に見る彼女。
意図を察してくれたらしく、僕がアスカの前にそれを差し出すと、器用に文字を一字づつ前足で指していった。
『あ』『た』『し』『も』『そ』『と』『に』『い』『き』『た』『か』『っ』『た』『の』
『アタシも、そとにいきたかったのぉ!』
『さ』『み』『し』『い』『か』『え』『る』『の』『お』『そ』『い』
『さみしかったのぉ!かえってくるのおそいよぉ!』
と言った所だろうか。
「ゴメンね、アスカ。明日からは気を付けるよ。」
『ゆるしてほしい?』
「うん。」
『だったら、おさんぽ!おさんぽいくの!』
マナの案内をしていたおかげで歩き疲れていたけど、せめてもの罪滅ぼしとして彼女と散歩に行く事にした。
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