−1−
お散歩用品(フンを入れる為のビニールとか、ティッシュとか)をリュックサックに詰めて、アスカと一緒に外に出る。
『これじゃ猫の散歩じゃ無くて、まるで犬の散歩だな』と苦笑いする。
でも、アスカは僕と一緒に散歩したいらしく、
「一人で行っておいで」
と言っても首を横に振るばかり。
まぁ、いいか。
月は綺麗で、夜風は適度に冷たい。
この散歩は彼女の為だから、行き先やルートの全部アスカ任せ。
「どこに行ってもいいけど、人が通れる道を頼むよ。」
そう声をかけると、アスカは任せておきなさい!とばかりに鳴いた。
−2−
十分ほど歩いただろうか。最近では珍しい、とある店の前に通りかかった。
今まで元気一杯にはしゃぎ回っていたアスカが、僕へ走り寄って背中に隠れる。
「どうしたの?」
「・・・にゃぁ」
力無く鳴くだけで、彼女は僕の後ろから出てこない。
抱き上げると、僕の胸に顔を埋めて、震えている。
僕らの目の前にあるお店は・・・三味線屋さん。
そういえば、三味線って、猫の皮を使ってるんだっけ?
アスカの弱点発見!と思ったけど、三味線の事をネタにからかうのはシャレにならないと判断。
僕は、ぷるぷる震える彼女を抱えたまま、足早にそこを立ち去った。
−3−
三味線屋さんから離れると、アスカは段々元気を取り戻した。
でも、僕から降りようとしない。きっと、腕の中が気に入ったんだろう。
彼女の重みを感じながら、川沿いの土手にある遊歩道を歩く。
川から上がってくる水の匂い。
疎らにある街灯からの光。
そんな物に包まれながら、僕は歩いて行く。
前方に、人影が見える。こんな時間に散歩している奇特な人間は僕だけだと思ったら、どうやらそうじゃ無いらしい。
近付くと、その人影はケンスケだった。
「やあ、ケンスケ。」
「シンジか。こんな時間に、珍しいな。」
ケンスケは僕が抱いているアスカに気付いたらしく、びっくりした表情。
「その仔猫、どうしたんだ?」
「土曜日の夜に拾ったんだ。名前はアスカ。」
「へぇ・・・奇遇だな。」
ケンスケは、土手の茂みに
「マユミ!」
と叫んだ。すると、真っ白い仔猫が現れた。
「俺もシンジと同じ日に猫を拾ったんだ。名前はマユミ。」
「にゃあ」
とても大人しそうな猫だ。アスカとは大違い。
突然、僕の腕からアスカが飛び出して、ケンスケの猫に近寄って行った。
「にゃあ」
「にゃあにゃあ」
猫同士にしか解らない言葉でひとしきり会話した後、二匹(一人と一匹?)は草むらに入っていった。
「お前の所のアスカと、ウチのマユミ、知り合いだったのかな?」
ふと、僕はアスカが僕の所に来るまで、どこで何をしていたのか知らない事に気付く。
ケンスケの猫マユミと、アスカが知り合いだとしても、何もおかしく無い。
「そうかもね。」
「シンジ、お前さ・・・」
唐突に話を切り出したケンスケ。
「霧島のヤツ、可愛くなったよな。」
『シンジ、お前さ・・・』と『霧島のヤツ、可愛くなったよな。』じゃ話が全然繋がってないけど、僕は気にせず次の言葉を待った。
「お前、今、誰か好きな女の子はいるのか?」
これまた全然話が繋がっていない。
「何が言いたいのさ、ケンスケ。」
「いいから質問に答えろよ。」
はぁ、とため息をついてから、僕は口を開いた。
「いないよ、誰も。」
「そうか・・・」
遠い所を見つめる目のケンスケ。
小さな声で、
「霧島も苦労するよな」
と呟いた。
「だから、何が言いたいのさ」
話が全然見えないどころか、ケンスケが喋る度に謎が深まるばかり。
「お前がいかに鈍感かって事だよ。」
「何だよ、それ。全然解らないよ。」
「だからお前は鈍感だって言われるのさ。」
呆れたように言い放つケンスケに、僕はちょっとムッとしていた。
「マユミ、帰るぞぉ〜」
さっきと同じように、ケンスケは草むらに声をかける。にゃあと鳴きながら、マユミとアスカが出て来た。
まるで、人間の言葉が解るみたいに。
・・・まさかね。きっと、ケンスケの声が聞こえたアスカが、気を利かせてマユミと一緒に出て来たんだろう。
「じゃ、明日、学校でな。」
そう言うと、ケンスケは真っ白い仔猫を連れて帰っていった。
「アスカ、僕らも散歩の続きしよっか。」
足元でにぃにぃと鳴いている仔猫に声をかけると(端から見ると、
不気味かもしれない)僕達は散歩を再開した。
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