kitty on your lap


第十四話

aosen




−1−

アスカが僕の家に来てから、六日が過ぎた金曜日。

僕は、マナの手料理を食べる機会に恵まれた。

学校の帰り道、スーパーの前を通りがかったら、彼女が買い物袋を下げてスーパーから出て来る所だった。

「シンジ君、やっほー!」

空いている方の手をひらひらと振りながら、マナは僕に向かって歩いて来る。

ちょっと恥ずかしい。

「やあ、マナ。」

「突然だけど、これからシンジ君の家でご飯食べない?私が作るからさ。」

「うん、構わないけど・・・材料とかは?」

「えへへ、実はもう買っちゃってたりして」

ぺろり、と舌を出しながら言うマナ。

まるで、悪戯が見つかってしまった悪戯っ子みたいだ。

「じゃあ、材料費半分出すよ・・・いや、三分の二出すよ。同居人がいるから。」

「あぁ、この前話してた猫ちゃんね・・・名前は何って言ったっけ?」

「アスカって言うんだ。」

「じゃあ、そのアスカちゃんにお近付きの印の意味を含めて、私がおごるわ。」

確かに僕の経済状態は良くないけど、あんまりマナに迷惑をかけたくない。

「それは駄目だよ。僕にも材料費出させて。」

ちょっと困った様に微笑むマナ。

「シンジ君って、そういう所だけは頑固よねぇ〜」

マナの次の台詞は、簡単に予想出来た。

「『全然昔と変わってない』でしょ?」

「そうそう!」

二人で、クスクスと笑う。

ふと我に返ると、買い物帰りのおばさん達に珍しい動物を見物している時の目で見られている。

その視線に耐えかねた僕は、

「とりあえず、歩きながら話そうよ」

と、マナを促した。


−2−

スーパーから僕の家までの道のりを、マナと一緒に歩く。

話題は、もっぱらアスカの事だった。

この数日間で、気付いたアスカの事を色々と話す。

仔猫のクセに、やたら縄張りが広い事。

朝五時になると、必ず僕を起こして窓を開けさせ、散歩に行く事。

猫じゃらしとボールで遊ぶのがお気に入りだという事。

きちんとご飯を食べさせないと、怒って僕を引っかく事。

そんな話をしていると、いつしか家の前に着した。

「ここが僕の住んでいるアパートだよ。」

「へぇ。いい所じゃない。私、もっと古くて汚い建物だと思ってた。」

そりゃ無いよ、マナ・・・


−3−

部屋では、お腹をすかせたアスカが待っていた。

エサ入れの前で、ちょこんと座って

「にゃあにゃあ!」

と夕飯を催促している。

「きゃあ!可愛い!!」

アスカを見つけたマナが、にこにこしながら近付く。

マナを初めて見るアスカは、どうやら警戒しているようだ。

「ねぇねぇシンジ君、この子何歳なの?」

逃げようとするアスカ。でもマナは、そんなアスカを強引に抱き上げると、胸に抱えた。

『だれ?てき?ひっかいていいの?』

キラキラと輝くハンターの眼差しで、僕にそう訴えるアスカ。

首をちょと横に振って、それを制止する。

「何歳なのかなぁ?僕が拾った時と、体の大きさとかはそんなに変わってないんだけど。」

「貸して、マナ。」

彼女の胸の中からアスカを渡してもらう。

「料理、何か手伝う事ある?」

「うぅん、シンジ君は何もしなくて良いよ。」

僕の腕の中から、敵意の篭った瞳のアスカが不機嫌そうに

「にゃ〜」

と鳴いた。

「調理道具とかはそこ、調味料は上の棚、お皿はそれだから。」

「りょーかい!あんまり期待しないで待っててね!」

アスカと抱いていた手を洗い、マナはテキパキと料理の準備を始めた。

僕はアスカと一緒に、僕の部屋へと退散する。

「駄目だよ、アスカ。マナは僕の幼馴染みなんだから、仲良くしてよ。」

アスカが何か言いたそうなので、ルーズリーフにひらがなを書いてある『お喋りシート』(命名者→僕)を出す。

「やだ。しんじがつくるごはんがいいの!」

「そんな事言わないでさ・・・」

「やだったらやなの!」

約一週間暮らしてみて解った事だけど、アスカはかなり我侭だ。

一度『やだ!』と言ったものは、よほどの事が無い限り駄目だ。

「・・・言う事聞いてくれないと、これからアスカのご飯作ってあげないよ。」

もちろん、気の小さい僕にはそんな事が出来るハズが無い。

「それでも良いの?」

「にゃぁ・・・」

力無くうなだれるアスカ。どうやら、しぶしぶながらも納得してくれたみたいだった。

「解ったね。マナの事、ひっかいたり噛んだりしちゃ駄目だよ。」

「にゃあ〜にゃあ〜」

そっぽを向いて、つまらなそうにしているアスカ。

そんなアスカを見ていると、僕まで気が滅入ってしまう。

「・・・明日の昼、散歩に連れて行ってあげるから、元気出してよ。」

必死で猫のご機嫌を取る僕。他人が見たら笑うだろう。

「にゃ!」

この一言で機嫌を直してくれたらしく、アスカは僕にすり寄って来る。

「シンジ君、味見してぇ〜」

台所からマナの声が聞こえる。

「よし、それじゃ戻ろうか。」

アスカを後に連れて、僕はキッチンへと歩いていった。





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