−1−
マナの作ってくれた食事は、とても美味しいかった。
最初は恐る恐る食べていたアスカも、ぺろりとたいらげる程だ。
「ふぅ・・・ご馳走様、美味しかったよ、マナ。」
「へへ、私の料理の腕も、そんなに捨てたもんじゃないでしょ?」
にこやかに笑うマナ。僕の見間違えじゃないなら、ちょっと頬っぺたも赤い。
室温はそんなに高くないハズだから・・・照れてるのかな?
「良かったら、ちょくちょく作ってあげるけど?」
さすがに、そこまで甘えるワケにはいかない。
「いや、いいよ。材料費だって馬鹿にならないだろうし。」
食費が結構かかるのを、僕はこの数ヶ月の一人暮らしから学んでいた。
何もバイトせず、高校生の平均的な小遣いにはちょっと重荷だろう。
「そう・・?」
残念そうなマナ。
その時、聞き慣れない携帯電話の呼出音が部屋に響いた。
マナは、制服にある内ポケットから電話を取り出して耳にあてた。
「もしもし・・・うん・・・うん、もうちょっとで帰るから。」
そう言って、電話を切る。
時計に目をやると、もう遅い時間だ。
きっと、娘の帰りが遅い事を心配したマナの両親からの電話だろう。
「ごめんね、シンジ君。親が早く帰ってこいってうるさいの・・・後片付け出来ないみたい・・・」
「気にしないで。それより、早く帰った方がいいよ」
日常的にご飯を作っている僕に、後片付けはあまり苦ではない。
壁のハンガーから制服の上着を取ると、マナはいそいそと帰り支度を始めた。
僕も、彼女を家まで送る用意をする。
「家まで送るよ」
「え、あー・・・いいよ。実は、タクシーで帰って来いって言われてるから。」
「じゃあ、タクシー乗り場まで・・・」
「うぅん、シンジ君の家に遊びに行って言ってあるの。だから、タクシーもこの家の前までもう親が呼んじゃったみたい・・・」
タクシー、しかも迎車。
マナは、よっぽど両親に大事にされているんだろう。
もしくは、お金持ち。
・・・いや、ひょっとしたらその両方かも。
僕がそんな事を考えている間に、マナはすっかり準備が出来たみたいだ。
「じゃね!」
手をひらひらと振るマナ。
「うん、また学校でね!」
そして、彼女は玄関の外へと消えた。
その背中を見送るアスカ。
「にゃあ!」
マナが帰った後の鳴き声は、とても嬉しそうだった・・・
−2−
後片付けを終え、僕はアスカとじゃれる。
彼女の目の前で、ハンカチをぱたぱたと振り、彼女にそれを引っかかせる。
ただアスカの反応が面白いからやっていたこの遊びも、よく考えてみると彼女が猫として生きる事になった時の、狩猟の練習になっている。
・・・かもしれない。なっているとイイなぁ・・・
ぱたぱたぱたぱた・・・
がしっっ!
「離して、アスカ。ほら、もう一回!」
ぱたぱたぱたぱた・・・
がしっっ!
「上手だね、アスカ。」
彼女の頭を撫でてやると、とても気持ち良さそうな声をだす。
「にゃぁ・・・」
それは、もっとしてくれと催促しているみたいだった。
「よし、じゃあ、続けるよう。」
こうして、僕とアスカの夜は更けていった・・・
第十六話へ
小説地獄へ
トップページへ