kitty on your lap


第十六話

aosen




−1−

土曜日の朝。

週休二日制度が導入されたおかげで、土曜は学校に行く必要が無い。

でも、僕はやっぱり早く起きるハメになった。

アスカが、朝の散歩をするために、僕を起こして窓を開けさせるからだ。

一日くらいアスカが散歩を休んだって世界は平和だと思うけど、彼女は自分が朝のパトロールを休むと、たちまち平和が破られると考えるみたいだ。

「にゃ!」

眠っている僕の頭を、目が覚めて元気一杯のアスカがぽんぽんと叩く。

ひょっとしたら、これが噂のねこパンチ?

寝ぼけた頭でそんな事を考えながら、窓を開けてあげると、紅茶色した弾丸が外へとすっ飛んで行った。

「ほんと、元気だねぇ・・・」

そう呟いて、僕はまた眠りの世界へと旅立つ事にした。


−2−

外は、アタシの世界、アタシの天下だ。

朝の、まだひんやりとした空気を胸一杯に吸い込むと、元気が出てくる。

アタシは、アスカ。

人間見習いの仔猫だ。

とはいえ、猫として自分の縄張りを守る事はしなくちゃならない。

ホントは『パートナー』のシンジの家も守らなくちゃいけないんだけど、それはシンジに任せてある。

まぁ、人間なんだからどうにかなるでしょ。

それよりも、今日は色々とやる事がある。

まず、縄張りを広げる事。

仔猫のアタシに喧嘩で負けるような弱っちいヤツに、平和を任せておく事なんて出来ない。

昨日の朝に、ケンカして取った縄張りの端まで来ると、見た事も無い黒猫がいた。

ふぅん・・・ここから先は、コイツの縄張りなのね・・・

耳を伏せて、背中と尻尾の毛を逆立てる。これがアタシの戦闘体制。

「アンタ、アタシと縄張りを賭けて決闘しなさい!」

シンジ達人間には解らない言葉で、相手に決闘を申し込む。

黒い猫は、つまらななそうにそっぽを向いた。

「なんや、仔猫かいな・・・アホらし、家帰って寝とれや」

その言葉に、カチンとくるアタシ。

「ふん、仔猫たって、そこらの仔猫じゃ無いわ・・・」

「なら、なんやっちゅうねん。嬢ちゃん、ケガせんウチに帰り。」

その時、黒猫がふんふんと鼻を鳴らした。

「この匂い・・・人間見習いか・・・」

「そうよ!何か文句あるっての!?」

「嬢ちゃんか、最近ここらの縄張り荒らしとるんは・・・なら、ちょっとオシオキせんといかんのぉ・・・」

「やれるもんなら、やってみなさい!!」

それが、開戦の合図だった。


−3−

結局、この黒猫とアタシの決着はつかなかった。

お互い、決定的な傷を付けられず、さらには戦意を失っていない。

息を切らせながら、黒猫が言った。

「嬢ちゃん、強いのぉ・・・」

「アンタも、なかなかやるわね・・・」

アタシは・・・息が切れる所の話じゃない。

胸がばくばくいって、今にも倒れそうだった。

「仔猫やのにごっつ強いんやから、ここらの縄張りは任せてえぇやろ。」

予想外の黒猫の言葉に、アタシは驚いた。

「ワイは、ここらのボス、元人間見習いのトウジや。よろしゅうな。」

「ボスだったの・・・じゃ、強いハズだわ・・・」

トウジと名乗った黒猫は、今まで闘ったどの猫よりも強かった。

それにしても・・・

「元人間見習いってどういう事よ?」

「色々あったんや、色々な・・・あかん、そろそろ時間や。ほな!」

唐突に、トウジと名乗った黒猫は、家の屋根に登ってどこかへ行ってしまった。

ま、いっか。

今日は、すごい収穫があった。

ここ一体のボスに、認められたんだ!

という事は、大概の猫はアタシに道を譲る。

ほかの猫の縄張りだって、ケンカせずに自由に出入り出来る!

猫のアタシにとって、これ以上嬉しい事は無い。

嬉しさに浸っているアタシの耳に、人間の声が聞こえて来た。

「・・ウジ、トウジぃ〜!」

声の方へと目を向けると、シンジと同じくらいの年の女の子がいる。

黒い髪を・・・おさげっていうのかな?そんな形に縛った女の子だ。

「にゃあ〜」

と、鳴いてみる。

するとその子はアタシに気付いたらしく、側まで歩いて来た。

「あ、可愛い猫ちゃんね・・・」

昨日、シンジの家に遊びに来たマナとかいう女の子とは違い、変な匂い(香水、っていうらしい)もしない。

「ねぇ・・・貴方、この辺りで黒猫見なかった?」

見たよ。あっちの方へ行ったよ。

無駄だと解りつつも、猫の言葉でそう答える。

前足でトウジが行った方向を教えてあげれば良いんだろうけど、シンジに『人間の言葉が解る事を、バラしちゃいけないよ』と言われているので、それも出来ない。

「そっか・・・知らないよね・・・」

悲しそうにそう呟く女の子に、アタシのちっちゃい胸は痛んだ。

「さよなら、猫ちゃん。」

アタシの頭を撫でて、女の子が立ち去る。

その手は、シンジみたいに優しくて温かかった。





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