kitty on your lap


第十七話

aosen




−1−

新しい縄張りを手に入れたアタシは、今度は自分の領地を見て回る事にした。

他の誰かに、アタシの縄張りを荒らされる所を想像すると、ゾッとする。

・・・アタシの縄張りと言えば、シンジの家もその一部だ。

前から住んでいるシンジはいいとして、昨日来たマナとかいう女はキライだ。

せっかく、アタシがつけた縄張りである事を他の猫に知らせる為の匂いを、香水とかいう変なニオイで台無しにした。

アタシを抱く時、腕に力が入り過ぎてて痛かった。

いつも楽しみにしている、シンジの夕ご飯。それを、あの女はでしゃばって、シンジに作らせなかった。

あと、シンジになれなれしい事。

シンジはアタシの『パートナー』なんだから、アタシとだけ遊んでればいいのに。

『パートナー』。

アタシがいる、猫の世界には無い言葉。

何をすれば良いのか、何を目標にすれば良いのか解らないアタシに、シンジは『一緒に頑張ろう』と言ってくれた。

アタシには、『一緒に頑張ろう』と言える人・・・つまり、『パートナー』はシンジ一人しかいない。

それは、アタシが猫と人の間にいる、中途半端な生き物だからだし、アタシと同じ仲間がいないからだ。

シンジは?

シンジは人間だ。

道を歩いていれば、シンジ以外の人間をよく見かけるし、きっとシンジが通っている『学校』とかいう所にもたくさん居るんだろう。

そして、本能が告げる事。

これは、最初に『パートナー』という言葉を聞いた時に感じたもの。

それは・・・『違う種族なのに、そんな親密な仲になれるのか?』という事だ。

・・・そんな事を考ていると、とても嫌になった。


−2−

僕が目が覚めた時、もう昼近い時間だった。

でも、まだアスカは帰って来ていない。

ひょっとしたら、窓が閉まっていて、部屋の中に入って来れないだけなのかもしれない。

そう思って、窓を確かめてみるけど、キチンと開いている。

取り敢えず、僕とアスカのご飯を作って待っている事にした。

魚を焼いて、味噌汁を作る。

昨日の夜に、マナがちょっと多めに炊いたおかげで、ご飯を新しく研ぐ必要は無い。

そんなに時間もかからず、準備はすぐに整ってしまった。

なんとなく食べる気分になれなかったので、僕は敷きっぱなしの布団に横になり、今日のお散歩コースを考えていた。

近所を歩いて、公園に行って、帰りにコンビニに寄って・・・

いつものコースとあまり変わらないけれど、まぁいいや。

うつらうつらとしながら、彼女を待つ。

こういう生活も悪くないな。

そう思った時、アスカが帰ってきた。

−3−

栗色の髪の毛をショートに切り揃えた少女は、自室のベッドに寝転がっていた。

彼女の名前は、霧島マナ。

時折、サイドボードにある写真を見つめて

「ふう」

とため息をつく。

その写真には・・・幼い頃の自分と、初恋の相手である碇シンジが写っている。

「良かった、あの頃と何も変わってなくって・・・」

懐かしい、あの日々。

自分の転校が決まった時、彼女の恋は音を立てて崩れさった。

遠距離恋愛以前の問題で、マナは彼に想いを告げてすらいなかったのだ。

それから、四年。

親の転勤先での中・高校学校生活は、少女にとってあまり楽しい思い出を残さなかった。

理由は簡単、シンジがいないからだ。

いきなり懐かしいこの街へ帰ると聞かされた時は、神の存在を信じても良い気分になった。

そして、今。

現在、シンジがフリーな事を知った時に、彼女は懐かしい想いを力に変えて、ある決心をした。

相手は、手の届く距離にいる。

相田ケンスケという、昔から自分を応援してくれている人間もいる。

想い人には、決まった相手はいない。

つまり、運は彼女に味方している。

「マナ、ご飯よ!」

リビングからそう呼ぶ母の声で、彼女は思考の海から引き戻される。

「うん、わかった!」

そう答えて、母の元へと向かう。

「『初恋は叶わない』なんて、私は信じないんだから!」

霧島マナ。

彼女もまた、自分の想いを叶える為、日夜戦う少女だった。





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