−1−
「にゃあ・・・」
帰って来てからずっと、アスカの様子がおかしい。
昼ご飯もあまり食べずに、ずっと僕の膝で丸くなっている。
「どうしたの、アスカ。お喋りシート持って来るから、ワケを話してよ。」
アスカは、僕の言葉に首を横に振るだけだ。
「まいったな・・・あ。ひょっとしたらアスカ、体の調子が悪いの?」
・・・答は、NOだった。
僕の膝でぐったりする彼女を邪険に扱うワケにもいかず、僕はちょっと困った。
取り敢えず、敷きっぱなしになっている布団にアスカを寝かせ、そのとなり僕も寝転がる。
アスカの視線が僕の視線と同じ所に来るように位置を調整して、小さな声でアスカに語りかけた。
「お散歩はもうちょっと後にして、今はお昼寝しよう。・・・ひょっとしたら、嫌な事でもあったの?・・・大丈夫、僕はいつもアスカの味方だからね。」
今の彼女は猫だから、
「にゃあ」
としか言えなかったけど、僕にはその声が
「ありがとう」
と言っているような気がした。
−2−
色々な事を考えて弱気になっていたアタシを、シンジは優しく包んでくれた。
柔らかい、シンジの匂いがする布団に、シンジと一緒に入っていると、さっきまでの不安が嘘のように溶けていく。
そして、シンジの『味方だからね』という台詞。
もしアタシが人間の姿だったら、涙を流していただろう。
そんなに長い間生きてきたワケじゃないけど、こんなに嬉しかったのは初めてだった。
「おやすみ、アスカ。」
耳に心地良い、シンジの声。
猫の言葉で
「おやすみなさい」
と返事をしてみるものの、きっとシンジにはいつもと同じ鳴き声にしか聞こえてないんだろう。
それでもいいや。ありがと、シンジ・・・
人間の世界で、『パートナー』という言葉がホントはどんな意味を持っているのか、アタシは知らない。
猫の世界には、そんな言葉は無い。
じゃあ、アタシの世界では?
・・・それは、きっと『優しい気持ちにしてくれる人』という意味なんだろう。
そう思いながら、アタシは深い眠りに落ちていった。
−3−
僕が目が覚ますと、もう夕方だった。
寝癖でボサボサになった髪の毛を触りながら、僕は起き出す。
アスカと一緒に暮らし始めてから、眠っている時間が長くなったような気がする。
まぁ、いいか。
学校は卒業出来れば良い。英会話さえマスターすれば、後は何もやる事はない。
隣を見ると、眠っていた仔猫の姿は無い。
「アスカぁ〜?」
布団の上であぐらをかいたまま、彼女を呼ぶと、玄関の方から
「にゃあ!」
と返事があった。
それと同時に、赤茶色の塊が僕に向かって突進してくる。
布団の手前でなんとか急停止に成功した赤茶色は、もちろんアスカだ。
元気溌刺、といった感じ。
ちょこん、と座っているアスカの頭を
「元気になったんだね」
と言いながら撫でると、彼女は嬉しそうに鳴いた。
「夕飯の材料が無いから、買いに行かなくちゃならないんだ。ついでに、散歩する?」
「にゃ!」
当然!とばかりに頷くアスカ。
何はともあれ、彼女が元気になったのは、僕にとっても嬉しい事だ。
「じゃ、支度するから待っててね。」
外出してもおかしいしくない格好に着替え、寝癖のついた髪の毛をどうにか整える。
サイフをポケットにねじ込み、アスカの散歩セットをリュックサックに詰めて、準備完了。
「じゃ、行こうか、アスカ。」
「にゃ!」
こうして、僕とアスカはお散歩&買い出しに出発した。
第十九話へ
小説地獄へ
トップページへ