−1−
「あれ?おっかしいなぁ・・・」
僕は、確かに眠ったハズだ。
仔猫のアスカと一緒の布団に入って、目をつぶって、アスカが温かくて、それで気持ち良くなって・・・
「あ、そっか。これは夢なんだ。」
僕は、奇妙な場所に居た。
太陽やライトはどこにも見えないのに、四方八方から光に照らされて、とても眩しいどこかに。
上下左右の感覚は無く、ただそこに漂っているような感触。
「でも・・・」
夢って、こんなに冷静に見る物だっけ?
「はじめまして、碇シンジくん。」
びっくりして、心臓が止まるかと思った。
この変な場所には僕一人しかいなかったハズなのに、いつの間にか別の人が現れたんだ。
「どうも、こんばんは。」
我ながら間抜けな挨拶だと思うけど、今の僕にはこれしか思い浮かばなかったんだ。
僕に言葉をかけた人は、金髪でちょっと冷たい感じのするお姉さんだった。
「あら、嬉しいわね、お姉さんだなんて。」
さすが夢の中だ。僕の考えている事は、みんなこの女性に筒抜けらしい。
「夢の中だからという理由じゃ無いわ。私は神様だから、貴方の考えている事が解るのよ」
神様が出てくるなんて、やっぱり夢なんだなぁ。
「貴方って、結構頑固なのね。まぁ、良いわ。」
「なんか、いつのも夢と違うなぁ・・・」
大抵、僕の見る夢には意味というか、何のとりとめも無い映像が流れるだけなのに。
「私は猫神。全ての猫の運命と人生を司る神よ。」
猫の神様だって?・・・やっぱり夢だ。
「今日、貴方は仔猫を拾ったわね。あの仔猫は、本当は人間に生まれるハズだったの。」
「アスカの事ですね。」
柔らかい笑みを浮かべながら、猫神お姉さんは続ける。
「ええ、そうよ。良い名前を付けてくれたわね。で、そのアスカちゃんの事なんだけど」
「はい。」
「ちょっとした手違いで、彼女は猫でも人でも無い中途半端な存在に生まれてしまったの。そこで私は人の運命を司る神様と相談して、彼女に試練を与えた・・・」
「試練、ですか。」
どこかで聞いたような話だなと思いつつも、僕は猫神お姉さんの言葉に耳を傾ける。
「彼女が人間として生きるのか、それとも猫として生きるのか・・・それを見極める為のテストをするの。貴方にはこれから一年の間、アスカと一緒に暮らしてもらって、彼女を教育してもらうわ。最後の日が、彼女の運命の分かれ道。」
「ちょっと待って下さい。アスカが猫として生きるのか、それとも人間として生きるのか、どちらが幸せかなんて、本人にしか解らないじゃないですか。」
「それを一緒に考えてあげるのも、貴方の仕事よ。」
「なんか・・・」
大変な事になったなぁと思いながら、僕の意識はまた深い闇に・・・
−2−
僕の布団の上に、何か重い物が乗っている感触がする。
せっかく変な夢が終わって、心地よくうつらうつらしていたのに、それが気になってどんどん目が覚めていく。
「重いよぉ・・・誰か退かせてよぉ・・・」
一人暮らしを始めてから回数の多くなった独り言。
この『重いよ』も独り言のつもりで言ったんだけど・・・
「しつれいねっ!アタシはおもくないわっ!」
僕の知らない女の子の声が返ってきたんだ。
まどろんでいた僕の脳は一瞬で覚醒した。
「だ、誰!?」
目を開けると、布団の上に乗って僕の顔を覗き込んでいるマリンブルーの瞳が見えた。
どこかで見た憶えがある瞳の色なんだけど、どうも思い出せない。
もうちょっとよく観察してみると、色々な事が解ってきた。
まず、僕の上に乗っているのは、小学生低学年くらいの女の子。
綺麗な蒼い瞳に、赤茶色の髪の毛を肩よりもちょっと下の所で揃えている。
僕のお気に入りのTシャツを着ていて、当然の事ながらサイズが合っていないからだぶだぶだ。
何より特徴的なのが、頭から生えている可愛らしい猫のような耳。
記憶に残っている夢の内容や、瞳や髪の毛の色からある程度の予想は出来たけど、僕の中の常識がその予想を認めてくれなかった。
「あの・・・どちら様ですか?」
馬鹿な事を聞いているなと思いつつも、自分の理性を納得させる為に、この少女に問いかける。
「わすれたの!きのう、アタシをひろってくれたじゃない!アタシよ、アタシ!!」
・・・やっぱり。
「ひょっとして・・・アスカ?仔猫の?」
「そうよ!」
嬉しそうに言うアスカ。でも、この体勢はお互いにちょっとマヌケだ。
「色々と話があるから、とりあえず退いて。ご飯食べてから話そう。」
体勢以上にマヌケな僕の台詞に、アスカは
「おなかへってたの!はやくつくって、つくって!」
とはしゃいだ。
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