kitty on your lap


第二十四話

aosen




−1−

僕の頭に浮かんだ疑問。

ひょっとしたら、アスカの学習スピードはかなり早いのではないか?という事。

いくら漢字にルビがふってあるとは言え、彼女は小説をかなりのスピードで読み終えている。

その他にも、一度見聞きした事は大体覚えているし、この二週間でかなり人間の世界についての知識を得ている。

この事が、僕の疑問を肯定していた。

それを踏まえて、これからの方針を決めていかなくちゃならないな、パートナーとしては。

そして、時は流れ、六月。アスカとの生活を始めてから一番の事件が発生した。


−2−

六月始めの日曜日が終わり、次の月曜日。

昨日はアスカに元気が無く、ずっと家で図書館で借りて来た本を読んでいた。

散歩に行こうか?と誘っても、アスカはただ黙って首を横に振るだけ。

まぁそんな日もあるさ、と軽く考えていた僕は、月曜日の朝、ぐったりとしているアスカを見て仰天する。

呼びかければ弱々しい声で返事をするけれど、まったく動こうとしない。

彼女の体を触ると、いつもより体温が高い事が解る。

病気かと思い、パニックに陥りそうな思考回路を叱咤して、僕が取れる最善の行動を考え・・・猫神様に電話する事にした。

電話をかけると留守録になっていた。

「ただ今、私は電話に出る事が出来ません・・・」

くそ、なんだってこんな時に!!

「もしも猫の事で相談があるのなら、今から言う場所に行ってみてちょうだい。」

・・・ひょっとして、今日何かが起こる事は予測済みなのかな?

留守録にあった住所をメモし、僕はアスカをバスタオルでくるむと、それを愛用のママチャリの篭に入れて出発した。


−3−

アスカの事を気遣い、あまり振動を与えないように、でも最大限のスピードで僕は自転車を運転する。

ここまで緊張して自転車に乗っていたのは、きっと生まれて初めてだろう。

「伊吹犬猫病院・・・伊吹犬猫病院・・・あ!あった!!」

留守録にあった通り、そこには犬猫病院があった。

ママチャリの篭に入っているアスカを抱き上げて、病院入り口にあるインターフォンを押す。

「はい、すぐ開けますね。」

応答したのは、若く綺麗な女性の声だった。

なんとなく初老の男性の声を想像していた僕は、ちょっと面喰らう。

「もうすぐお医者さんに診てもらえるからね、頑張って、アスカ。」

タオルにくるまれたアスカから、消え入りそうな鳴き声が返ってくる。

そして、入り口のドアが開かれた。

出て来たのは、二十代前半の女性だ。

黒い艶やかな髪をショートに切り揃え、ピンク色の白衣(・・・あれ?)を身に付けた、綺麗な人だ。

「あの、猫が・・・」

緊張して、上手く舌が回らない僕に

「中にいらっしゃい。君の猫ちゃんは、責任を持って診てあげるから。」

と微笑んでくれた。


−4−

こぢんまりとした病院の中で、アスカの診察が終わるまで十五分ほど待たされた。

待っている間、胃がキリキリと痛む。

やがて、診察室からさっきの女医さんが出て来た。

深刻な表情の僕の肩を叩いて、

「安心して、結論から言うと、君の猫ちゃんは大丈夫よ。」

心底安堵する。

「もっとも、今日一日は入院してもらうけどね。」

入院!?

「あの、やっぱりどこか悪かったんですか?」

「そういうワケじゃないの。退院出来る明日を楽しみに待っていてちょうだい。」

そう言って、女医さんは名刺をくれた。

それには、『伊吹犬猫病院院長 伊吹マヤ』という名前と、病院の 電話番号、住所等が書いてあった。

「あ・・・院長先生だったんですか?」

「マヤ、でいいわ。何か困った事があったら、ここに電話してね。」

にこり、と微笑むマヤさん。

「はい、解りました。」

「初診料金はおまけしておくわ。明日、夕方頃迎えに来てちょうだい。」

「え、でも、そんな・・・悪いです。」

「いいのよ、君みたいな可愛い男の子にはサービスよ」

笑いながら、マヤさんはそう言った。

『可愛い』・・・あんまり嬉しくない。

が、ここは素直に厚意を受け取っておく事にする。

「ありがとうございます。」

「そうそう、素直な所も可愛いわよ。ところで、学校はどうするの?急げば遅刻で済むんじゃない?」

時計を見ると、まだなんとかなりそうな時間だった。

「はい、それじゃ、アスカの事を宜しくお願いしますね。」

僕は伊吹犬猫病院から出ると、自転車に跨って自宅へと向かった。





第二十五話へ

小説地獄へ

トップページへ

aosen

aosen