−1−
アタシが目を覚ますと、窓からは夕日が見えた。
診察室のベッドに寝かされていたハズなのだが、天井が違う。
「あれ、アタシ・・・」
思わず洩れる独り言。
ふと、重要な事に気付く。
今日は日曜日では無いのに、なぜかアタシは人間の言葉を喋っているのだ!!
「え!なんで!?」
慌てて自分の体を確認してみると、人間になっていた。
ひょっとしたら、もう人間見習いを卒業出来たのかな?と思い、頭に手をやってみると、そこには猫耳があった。
「なによ、どういう事なの・・・?」
部屋を見回してみると、こざっぱりとしていて、落ち着いた雰囲気の良い部屋だった。
大き目の鏡台が目に入ったので、そこまで歩いて、自分の姿を確認する。
自分が寝かされていたベッドから鏡まで、そんなに大した距離を歩いたワケではなにのに、アタシはちょっと違和感を感じた。
そして、鏡を覗き込み、その違和感の正体を思い知る。
−2−
夕日を背中に浴びながら、僕は下校していた。
夕飯の材料を、家に続く道の途中にあるスーパーで買い、とぼとぼ歩く。
誰も居ない家に帰る・・・この事が、僕の足取りを重くしていた。
アスカと出会うまでは、そんな事は平気だと思っていたし、それで良いと考えていた。
けれども、ついこの間まで、アスカと一緒に生活していて、猫だろうが猫耳少女だろうが、出迎えてくれる人がいる生活の心地良さを知ってしまうと、なんとなく『誰も居ない家』に帰るのが寂しくなってしまう。
「はぁ」
自然に洩れるため息。
僕の生活は、アスカと共にあったんだなぁ、と改めて感じる。
明日、彼女が帰ってきたら盛大にお祝いしよう。
そう思った。
−3−
アタシが鏡の前で絶句していると、マヤがやって来た。
「あら、起きたのね。」
「マヤ!」
「うふふ、凄く可愛いわよ、アスカ。」
にこにこ笑いながら、マヤはアタシと一緒に鏡を覗く。
黒い髪をショートカットに切り揃えた女性の隣には、赤毛の、16歳くらいの女の子が映っている。
マリンブルーの瞳がきらきらと輝いていて、頭に猫耳さえ無ければ、完璧に人間の美少女だ。
「ねぇ、これって、もしかして・・・」
頭では理解していても、まだ夢の中にいるみたで、実感が無い。
「そうよ、貴方は成長したの。外見だけ、ね。」
「・・・信じられない・・・」
小学生の姿から、一気にここまで。
いくら人外の存在とはいえ、これはやり過ぎなのでは?
「いいじゃない。これで、アスカの好きな人にちゃんと見てもらえるわよ?」
思った事が、口から洩れてたみたい。
「す、好きな人って・・・!」
真っ先にシンジの事が浮かんで来て、アタシは頭を振る。
たしかに、図書館で借りた本はタシみたいな女の子と、シンジみたいな男の子のお話だったけど・・・
意識し過ぎてるな、アタシ。
「ま、いいわ。お姉様が、色々と『人間の、年頃の女の子』について教えてあげる。」
悪戯っぽい瞳で、アタシをみつめるマヤ。
ちょっとイヤな予感もしたけれど、アタシは素直にマヤに教えを乞う事にした。
「・・・お願いします、マヤ先輩。」
「よしよし、女の子の道は厳しいぞ!」
鏡の前で、アタシ達はしばらく笑っていた。
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