−1−
焼き魚とお漬け物、白いご飯にお味噌汁という簡単な朝食を作り、ちゃぶ台を出して並べる。
「ごっはん!ごっはん!」
僕が台所に立っている間も、人間の姿になったアスカは騒ぎ続けていた。
それを彼女の目の前に並べた途端、さらに騒がしくなる。
「たべていい?たべていいの!?」
エプロンを外し、僕はアスカに向き合う位置に座った。
ふと、夢で会った猫神様の言葉を思い出す。
『ネコとして生きるのか、それとも人として生きるのか・・・』
(人として生きるなら、『いただきます』は教えておいた方がいいよね。)
「アスカ。食事の前には、『いただきます』って言うんだよ。」
上手い具合に焼けている魚を穴の開くほど見つめているアスカに、人としての礼儀を教えてあげた。
「わかったわ。いただきます!」
よっぽどお腹が空いていたんだろう、アスカは昨日のミルクを飲み干した時と同じ勢いで食べ始めた。
どこで習ったのか、器用に箸を操り、魚を食べ易くほぐす。
「・・・箸使うの上手だね、アスカ。」
「ふふ・・・リツコにおそわったのよ!」
大概の動作は出来るのかもしれない。という事は、僕はアスカに、人としての常識みたいなモノを教えてあげればいいのかな?
「ふぅん・・・偉いね、アスカ。」
「とうぜんよ!だってアタシは、にんげんになるんだもん!」
なるほど。アスカは猫じゃなくて人間になるつもりなんだな。じゃあ、僕は彼女の願いを叶える為に精一杯の努力をしよう。
改めてアスカの事を見てみると、ネコ耳とネコしっぽが付いている以外は普通の、ハーフかクォーターの女の子だ。
この子の置かれた境遇を想うと、ちょっと涙が出てくる。
「アスカ、僕が人間の女の子になれるように、協力してあげるからね。」
「とうぜんよ、ばかシンジ!アタシがにんげんになれなかったら、アンタのせいだからね!!」
小さな女の子とは思えない眼光と台詞に、僕はちょっとたじろいでしまった。
「そ、そうだね」
「まったく。これじゃ、アタシがにんげんになるためのべんきょうをするまえに、アンタのきょういくをしなくちゃだめね。きょうからビシバシいくからね!!」
ほっぺたにご飯粒をくっつけたまま胸を張る少女の台詞に、僕はただ頷く事しか出来なかった。
僕の立場って、いったい?
さっきの決心が、ちょっとだけ揺らぎ始める。
僕は、アスカと上手くやっていけるんだろうか?
−2−
朝ご飯を終え、僕は取り敢えずアスカの洋服を買ってあげる事にした。
当然の事ながら、僕はアスカが着られるような服を持っていない。
「アスカ、今、君の服を買って来ようと思ってるんだけど・・・何かリクエストはある?」
服という単語に反応して、アスカの耳がピン!と上を向く。
「えとね、えとね・・・かわいいやつ!!」
ご飯中に叫んだ台詞からは想像がつかないほどの、可愛らしい答えがかえってきた。
「それでね、きれいで、うごきやすいのがいい!!」
なかなか無茶な注文をしてくれる。
「わかったよ。なるべくそういうのを見つけて来るよ。」
「アタシはどうしてればいいの?」
ちょっと心細そうな声を出すアスカ。
「留守番してて。チャイムが鳴っても出なくてもいいから。」
「まかせなさい!アタシのいえはアタシがまもるから!!」
本当に、アスカは表情がくるくると変わる。
不安そうにしていたのが、今はふんぞりかえって張り切っている。
まるで、猫の瞳みたいだ。
・・・って、彼女は猫でもあるんだっけ。
「じゃ、行ってくるからね。いい子にしているんだよ。」
彼女の、僕を送り出す言葉は『行ってらっしゃい!』では無くて
「こどもあつかいしないでよ、ばかシンジ!!!!」
だった。
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