kitty on your lap


第三十話

aosen




−1−

僕の部屋に来客用の布団なんて気の利いたモノがあるハズも無く、僕は結局毛布一枚で眠る事になった。

六月とはいえ夜はまだ肌寒く、風邪なんか引いたらイヤだなと思いつつも我慢して眠る。

アスカの健やかな寝息をBGMに、僕は目を閉じた。


−2−

嫌な予想というものは、こういう時に限ってよく当たる。

目覚ましの音で目を覚ますと、視界がぼやけ、頭が痛かった。

完璧に風邪だ。

それでもなんとか体を起こし、学校へ行く支度をする。

学校をキャンセルして病院という手もあったけれど、それほど酷い風邪でも無さそうだ。

朝食を作る為に台所へと足を運ぶ途中、足もとがふらつく。

・・・目前に迫る床の映像。

『倒れている途中なんだな』という間抜けな感想を胸に抱きつつ、僕の意識はホワイトアウトした。


−3−

アタシは、大きな音で目が覚めた。

辺りを見回すと、シンジが床に倒れている。

「大丈夫!?」

慌てて駆けつけるけれど、シンジは気絶しているらしく、何も返事が無い。

手に触れると、とても熱かった。

・・・風邪引いたのね。アタシが布団を占領したせいね・・・

後悔と反省を後回しにして、シンジをなんとか持ち上げて布団へと運ぶ。

洗面所のタオルを水で絞って、ヤツのおでこに乗せてやった。

次は、風邪薬。

戸棚に救急箱があったのを思い出し、それを開け、風邪薬を取り出す。

・・・あ。こういうのって、ご飯食べた後に飲むんだっけ?

テレビから得た乏しい知識を振り絞って、風邪の時の対処方法を考える。

そうだそうだ、栄養!!

栄養を取って、よく眠って、薬を飲めば大丈夫・・・って、ドラマの女優が言っていたのを思い出す。

栄養って言ったら、どんな料理かな?

肉汁たっぷりハンバーグ・・・はツラそうだし。

猫大好きフリス○ー・・・栄養はあるけど、人間の食べ物じゃない。

待ってなさいよ、シンジ。アタシが、栄養たっぷりの料理を作って、風邪なんか一発で直してやるんだから!!


−4−

料理の材料を買いに、コンビニに来た。

家にある食材は頭に入れてあるので、それと組み合わせて作る事を前提に、品物を物色する。

・・・重大な事に気付いた。

アタシは、シンジが料理している所を見た事が無いし、料理を作った事が無い。

つまり、野菜炒めなら野菜と肉を使う事が判っているけれど、どんなタイミングでどんな材料を使うか判らないのだ。

レトルト食品は栄養が偏りそうだし・・・

一旦コンビニの外に出て、頭を冷やす事にする。

そして、アタシは・・・


−4−

伊吹医院の朝は、いつもと違う始まりを見せた。

普段なら、こんな朝早くには鳴らないハズの電話がけたたましく鳴り響いたのだ。

医院を一人で切り盛りしている女医、伊吹マヤがその電話に出ると、若い女性のすすり泣く声が流れる。

聞き覚えが無い声ならばただのイタズラ電話だが、マヤにはその声の主が判った。

人間見習いの猫、アスカのものだ。

「もしもし、アスカ、どうしたの?」

尋常では無い雰囲気を察し、落ち着かせようと優しい声を出す。

「ただ泣いてちゃ判らないわ。何があったの?困った事があったんでしょう?」

マヤはアスカの居場所を聞き出し、そこに駆けつける約束をすると、診療所の入り口に『本日臨時休業』の札をかけ、泣いている彼女の元へと急いだ。





第三十一話へ

小説地獄へ

トップページへ

aosen

aosen