kitty on your lap


第三十二話

aosen




−1−

僕が目を覚ますと、辺りはすっかり暗くなっていた。

どうやら、アスカが作ってくれた料理を食べた直後に、また眠ってしまったらしい。

生活のリズムが崩れるのがイヤで、もう一度眠ろうとするけど、目はパッチリと冴えてしまっている。

「んん・・・」

なんとなく伸びをして、布団から這い出る。

薬が効いているのか、体は軽く、頭痛も無い。

僕を看病してくれたネコ少女は、リビングのテーブルにつっぷして船を漕いでいた。

すぅすぅと寝息が聞こえる。

これじゃ、僕の風邪が治っても今度はアスカが風邪を引いてしまう。

「アスカ、起きて・・・ほら、風邪引いちゃうよ?」

寝ている彼女の肩口を掴み、ゆさゆさと揺する。

・・・が、反応が無い。

きっと、慣れない家事で疲れているんだろう。

取り合えず、アスカを抱きかかえて布団まで運ぶ事にした。

背負おうとしても、彼女に意識が無いので巧くいかない。

僕は、俗に言う『お姫さま抱っこ』でアスカを持ち上げ、布団まで歩く。

まず最初にびっくりしたのが、その軽さ。

体力は平均男子よりもやや下くらい、と自負している僕が軽々と持ち上げられるのだ。

きっと、アスカは相当軽い女の子なんだろう。

それを思うと、なんだかとてもいとおしく感じた。

「心配かけてごめんね」

布団に寝かせたアスカにそう呟くと、僕は彼女の額をそっと撫でた。

無理な体勢で寝ていたからなのか、部屋はそんなに暑くないのに、少女はうっすらと汗をかいていた。

綺麗な蜂蜜色の髪の毛が、そのおでこに貼りついている。

それをそっと直してやると、僕はリビングへと向かった。


−2−

朝。

結局僕はそれから一睡もせず、学校へ行く事となった。

明るくなってから気付いたのだけれど、テーブルの上にはマヤさんの書置きがあり、昨日の事件の顛末が詳しく記されていた。

結びの文句は、こうだった。

『ちょっと世間知らずみたいね、彼女は。・・・私にいい考えがあるから、元気になったら連絡ちょうだい』

いい考え。

いったい何だろう?

そんな事をボンヤリと考えながら、学校への道のりをてくてく歩く。

「よぉ、シンジ!」

後ろから唐突に声をかけてきたのは、ケンスケだ。

「どうしたんだよ、昨日は。シンジが休むなんて珍しいな?」

口調はおちゃらけているけど、その瞳は僕を心配しているようだ。

「ちょっと風邪ひいちゃって、ね。でも、もう直ったよ。」

「ふぅん・・・って事は、アスカちゃんにでも看病してもらったのか?」

「うん。」

「そうか、そうか・・・羨ましいヤツめ。」

ジト目で睨むケンスケ。

「何言ってるんだよ、ケンスケだって病気したらマユミちゃんに看病して貰えるだろ?」

「違う違う、そこが羨ましいんじゃないの。看病してくれる美少女が一人、その事実を知ったら絶対看病してくれる美少女がさらにもう一人。その状況が羨ましいっての。」

「?」

一人はアスカだと見当がつく。でも、もう一人は一体誰だろ?

「お前・・・前にも聞いたけど、ホントに判ってないのか!?」

呆れたようなケンスケ。

でも、いくら呆れられようと、心当たりが無いものはしょうがない。

「ケンスケが勘違いしてるだけじゃないの?」

ケンスケの情報網は凄いけど、時折間違いやデマも混じる。

きっと、今回も勘違いしているんだろう。

「・・・この鈍感総理め・・・」

総理。

総理大臣の略。

・・・それだけ僕の鈍感さ加減がスゴイって事かな?

・・・なんだかなぁ・・・

「・・・じゃあ、おれは横恋慕番長か、嫉妬マスクだな・・・」

俯き加減でブツブツと独り言を呟くケンスケ。傍から見てると、ちょっと怖い。

「おっはよーッ!」

この声は・・・

「ねぇねぇ、昨日はどうしたの?」

予想通り、霧島マナだった。

「おはよ、マナ。」

「よぉ、霧島。」

軽く挨拶を交わす。

「ねぇねぇ、昨日はどうしたの?」

心配そうな声で、僕に問い掛けるマナ。

女の子に心配して貰えるのは、ちょっと嬉しい。

・・・いや、別にケンスケに心配してもらって嬉しく無いワケじゃないけれど・・・

「風邪引いただけだよ。もう治った。」

「ふぅん・・・あ、そうだ。病み上がりなんだから、家事とかキツいでしょ?今日、私がご飯作りに行ってあげようか?」

・・・好意は嬉しいけど、ちょっとマズい。

アスカ(しかも大人バージョン)がいるし、何よりもマヤさんの『いい考え』が気になる。

「あ、ごめん。今日はちょっと用事があるから。」

「そっか・・・残念。んじゃ、また今度ね!」

にぱっ!と笑うと、マナは駆け足で学校へと向かっていった。

昔と変わらない、元気な女の子だ。

「・・・所詮、おれは『持たざる者』か・・・」

またまた、意味不明なケンスケの独り言。

でも、僕にはそれがなぜか酷く哀しそうな響きに聞こえた。



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