kitty on your lap


第三十三話

aosen




−1−

暮れかけの校舎に、チャイムが鳴り響く。

今日の授業はこれで終わりだ。

マヤさんの事もあるし、今日は早く帰る事にする。

寄り道せずに、まっすぐに家路を行く。

よくよく考えてみれば、アスカが僕の家に来てからというもの、こうしてずっとまっすぐに帰宅している。

以前なら、かならず本屋やゲームセンターに寄っていたのに。

まだ親がいる時は、別に早く帰ろうとは思わなかった。

せいぜい、夕飯に遅れないようにするか、外で食べるなら早めに連絡するか。

・・・実の息子でもまだ慣れない、父さんのひげ面を見たくないっていう理由があったのかもしれないけど。

今、家に帰ると可愛い同居人がいる。

可愛い上に、ネコ耳がついているという、不思議な女の子。

同居していると、ご飯を作る手間がちょっと増えたり、洗濯物が増えたり、彼女のリクエストに答えて買い物をしているとサイフを圧迫するので、そういう意味ではあまりメリットが無い。

しかし。

この奇妙な同居生活に何も不満は無かった。

ただ面倒なばかりだった食事の仕度も、自分以外の誰かが食べてくれて、しかも「美味しい!」と言ってくれると張り合いが出る。

買い物だって、彼女が見せてくれる、嬉しそうな笑顔の対価だとすれば、安いもの。

彼女は飲み込みが良いから物を教えるのも楽しいし、僕には無い新しい観点から物事を捉えるから、自分の勉強にもなる。

・・・どうやら、最近の僕の生活は「充実」しているみたいだった。


−2−

自宅に辿りつくと、同居人が出迎えてくれた。

「おかえり、シンジ!」

紅茶色の髪の毛と、海色の目をした女の子。

「ただいま、アスカ。」

彼女は僕が愛用しているエプロンをかけ、鼻の上には白い泡がちょこんと乗っかっていた。

よく見れば、腕まくりもしている。

「アスカ、ひょっとしたら皿洗いでもしてたの?」

靴を脱ぎながらそう問いかけると、アスカはちょっと俯き加減に

「まぁね・・・」

と答えた。

今まではほとんど僕に任せっきりだった家事を、彼女のやってくれる。

これは、アスカが精神的に成長した証・・・・だといいな。

どうせ、いつもの気まぐれなんだろうけど。

「ありがとう、アスカ。」

彼女が小さかった頃からのクセで頭を撫でてやると、

「もう子供じゃないんだから!」

と怒られてしまった。

・・・声が怒ってるだけで、表情は嬉しそうだったけど。

「風邪・・・直ったんだよね?」

でも、嬉しそうにしていたのはほんのちょっとの間だけだった。

暗いトーンで僕に体調を尋ねるアスカ。

「うん、アスカが看病してくれたからね。」

「・・・ごめんね、アタシのせいよね・・・」

どうやら、責任を感じてくれているみたいだ。

「風邪くらい、誰だってひくよ。」

「うん・・・でも」

「でも、僕以外の人には優しくしてあげてね、そうじゃないと嫌われるちゃうからね。」

苦笑しながら僕は言う。

・・・ふと、僕以外の人間とアスカが仲良く暮らしている姿を想像してしまった。

なぜか、胸が痛かった。

「うん・・・」

お互い暗い雰囲気になりそうだったので、会話をそこで打ち切り、僕は自分の部屋へ向かった。

部屋着に着替えて、居間へ。

どうやら洗い物は済んだみたいで、彼女はエプロンを外して寝転がっていた。

「あのさ、アスカ・・・」

僕が目を覚ましてから見つけたマヤさんの書置きの事を話す。

その紙片はアスカの目にも留まっていたらしく、興味津々で

「なんの事なんだろうね」

と目を輝かせていた。

その時。

ピンポン!と来客を告げるチャイム。

僕よりも早く彼女が反応して、とてとてとドアへ歩いて行った。

来客は・・・予想通りマヤさんだった。





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