−1−
「それじゃ、そういう事で。よろしくね、シンジ君。」
そう言い残すと、猫神様はいきなり消えた。
別に比喩でも何でも無い。
僕の目の前で、リツコさんがいきなりピカッっと光ったかと思うと、いなくなっていたんだ。
さすが、神様。こういう力って、本当に有るんだなぁ・・・
一人で
「うんうん」
とか言いながら頷く僕。
会話に入って来る事が出来なかったアスカが、いきなり僕の手を引っ張った。
「ねぇ、シンジ。アタシもああいうことできるようになる?」
無邪気な瞳で、彼女が僕を見上げてる。
・・・あのね、アスカ。人間には、ああいう事は出来ないんだよ・・・
−2−
僕は買って来た服をアスカに着せ、散歩に行く事にした。
外は小春日和でぽかぽかと暖かく、散歩をするには絶好の日曜日だ。
「おっさんぽ、おっさんぽ!」
とはしゃいでいるアスカに帽子を被せ、ネコミミを隠す。
「みみいたい!ぼうしはキライなの!」
と抵抗するけど、丁寧に彼女にも解る言葉で説明してあげたら、なんとか解ってもらえた。
「にんげんになるのも、あんがいたいへんね。」
そりゃそうだ。大体、なろうと思って人間に生まれて来る人間なんているワケがない。
「そうだね。頑張ろうね、アスカ。」
さっきまでアスカがいた所に向いてみると・・・
そこには、彼女はいなかった。
「はやくいこう!」
玄関の外で、アスカの嬉しそうな声が聞こえる。
・・・タイミング悪いな、僕。
「どうしたの、くらいかおして。げんきだしなさいよ!」
靴をはいて玄関から出ると、いきなりそう言われた。
『タイミング悪いな』という思いが顔に出てしまったんだろう。
「うん、そうだね。」
ははは、と情けない笑い声を出しながら彼女の手を取って、公園へと歩き出す。
ちっちゃい手で僕の手をぎゅっと握り返してくる、このネコでも人間
でも無い女の子の未来を考えると、不安になる。
いや、別に僕が不安になる理由は無いんだろうけど、なんとなく。
「だぁかぁらぁ、くらいかおしないの、ばかシンジ!!」
解っちゃいるんだけど、ね。
「アンタはアタシのかいぬしなんだから!もっとどうどうとしてなきゃだめなの!」
飼い主って、堂々としていなくちゃいけないんだっけ?
違う、そんな事はどうでも良い。一つ、アスカに教えなきゃいけない事がる!
歩みを止めて、しゃがみ込む。そしてアスカと同じ目の高さに合わせると、僕は彼女に言い聞かせた。
「僕は、アスカの飼い主なんかじゃ無いんだよ。」
「じゃあ、なんなの?」
不思議そうな顔をして僕をみつめるアスカ。
「僕は、アスカが人間になれるようにお手伝いをする人なんだ。」
「うん。そうしてくれるひとがごしゅじんさまなんだって、リツコがいってたもん。」
『アスカの飼い主』とか『アスカのご主人様』という単語に、言い様の無い不快感を抱く僕はおかしいんだろうか?
この、人間になれなかった少女に・・・人間になる為に頑張る少女に、ご主人様なんて必要無い!
「うぅん、そんな偉いモンじゃ無いんだよ。僕だって、『人間って何だろう?』っていう勉強をしている途中なんだ。」
「なんで?シンジはにんげんでしょ?」
さっぱり解らない、とアスカの目が語る。
「人間だよ。でもね、僕もまだ人間が良く解らないんだ。」
これは、きっと人間が生涯かけて考える命題の一つなんだろうと、僕は思う。
「だからね、僕もアスカとおんなじなんだよ。別に『飼い主』とか『ご主人様』とか・・・そんな偉そうな人じゃ無いんだ。」
「よくわかんない!じゃあ、シンジはアタシのなんなのよ!」
「そうだね・・・『パートナー』かな?」
「よくわかんない!」
そろそろこの変にテツガクな話しに疲れたのか、アスカは苛立っているみたいだ。
「えぇと・・・『いつもいっしょに頑張る人』かな?」
「うん、アタシ、シンジといつもいっしょにがんばるよ!!」
彼女は、まるで向日葵みたいな笑顔を見せてくれた。
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