kitty on your lap


第五話

aosen




−1−

「それじゃ、そういう事で。よろしくね、シンジ君。」

そう言い残すと、猫神様はいきなり消えた。

別に比喩でも何でも無い。

僕の目の前で、リツコさんがいきなりピカッっと光ったかと思うと、いなくなっていたんだ。

さすが、神様。こういう力って、本当に有るんだなぁ・・・

一人で

「うんうん」

とか言いながら頷く僕。

会話に入って来る事が出来なかったアスカが、いきなり僕の手を引っ張った。

「ねぇ、シンジ。アタシもああいうことできるようになる?」

無邪気な瞳で、彼女が僕を見上げてる。

・・・あのね、アスカ。人間には、ああいう事は出来ないんだよ・・・


−2−

僕は買って来た服をアスカに着せ、散歩に行く事にした。

外は小春日和でぽかぽかと暖かく、散歩をするには絶好の日曜日だ。

「おっさんぽ、おっさんぽ!」

とはしゃいでいるアスカに帽子を被せ、ネコミミを隠す。

「みみいたい!ぼうしはキライなの!」

と抵抗するけど、丁寧に彼女にも解る言葉で説明してあげたら、なんとか解ってもらえた。

「にんげんになるのも、あんがいたいへんね。」

そりゃそうだ。大体、なろうと思って人間に生まれて来る人間なんているワケがない。

「そうだね。頑張ろうね、アスカ。」

さっきまでアスカがいた所に向いてみると・・・

そこには、彼女はいなかった。

「はやくいこう!」

玄関の外で、アスカの嬉しそうな声が聞こえる。

・・・タイミング悪いな、僕。

「どうしたの、くらいかおして。げんきだしなさいよ!」

靴をはいて玄関から出ると、いきなりそう言われた。

『タイミング悪いな』という思いが顔に出てしまったんだろう。

「うん、そうだね。」

ははは、と情けない笑い声を出しながら彼女の手を取って、公園へと歩き出す。

ちっちゃい手で僕の手をぎゅっと握り返してくる、このネコでも人間 でも無い女の子の未来を考えると、不安になる。

いや、別に僕が不安になる理由は無いんだろうけど、なんとなく。

「だぁかぁらぁ、くらいかおしないの、ばかシンジ!!」

解っちゃいるんだけど、ね。

「アンタはアタシのかいぬしなんだから!もっとどうどうとしてなきゃだめなの!」

飼い主って、堂々としていなくちゃいけないんだっけ?

違う、そんな事はどうでも良い。一つ、アスカに教えなきゃいけない事がる!

歩みを止めて、しゃがみ込む。そしてアスカと同じ目の高さに合わせると、僕は彼女に言い聞かせた。

「僕は、アスカの飼い主なんかじゃ無いんだよ。」

「じゃあ、なんなの?」

不思議そうな顔をして僕をみつめるアスカ。

「僕は、アスカが人間になれるようにお手伝いをする人なんだ。」

「うん。そうしてくれるひとがごしゅじんさまなんだって、リツコがいってたもん。」

『アスカの飼い主』とか『アスカのご主人様』という単語に、言い様の無い不快感を抱く僕はおかしいんだろうか?

この、人間になれなかった少女に・・・人間になる為に頑張る少女に、ご主人様なんて必要無い!

「うぅん、そんな偉いモンじゃ無いんだよ。僕だって、『人間って何だろう?』っていう勉強をしている途中なんだ。」

「なんで?シンジはにんげんでしょ?」

さっぱり解らない、とアスカの目が語る。

「人間だよ。でもね、僕もまだ人間が良く解らないんだ。」

これは、きっと人間が生涯かけて考える命題の一つなんだろうと、僕は思う。

「だからね、僕もアスカとおんなじなんだよ。別に『飼い主』とか『ご主人様』とか・・・そんな偉そうな人じゃ無いんだ。」

「よくわかんない!じゃあ、シンジはアタシのなんなのよ!」

「そうだね・・・『パートナー』かな?」

「よくわかんない!」

そろそろこの変にテツガクな話しに疲れたのか、アスカは苛立っているみたいだ。

「えぇと・・・『いつもいっしょに頑張る人』かな?」

「うん、アタシ、シンジといつもいっしょにがんばるよ!!」

彼女は、まるで向日葵みたいな笑顔を見せてくれた。





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