kitty on your lap


第八話

aosen




−1−

目を覚ますと、時計の針は四時を指していた。

「ふぁぁ・・・」

大きな欠伸をして背を伸ばすと、僕の隣で眠っているアスカがもぞもぞと動く。

「うにゃぁ・・・」

彼女を起こさないように布団から出る。

さて、と。

「夕ご飯はどうしようかなぁ。」

クセになっている独り言を呟きながら、僕は冷蔵庫を開ける。

その中から、あまり保存が効かない物を選んで、夕食の材料にする事にした。

後は、お風呂の準備をするだけだ。

バスルームの扉を開けて、浴室へと入る。

ここ一週間くらい、僕はずっとシャワーしかしていなかったので、浴槽は全然洗っていない。

シャワーを使って浴槽を軽く流し、風呂掃除専用洗剤をスポンジに含ませてごしごしと洗う。

洗いながら、ふと思う。

女の子は、お風呂が好きな場合が多い。

猫は、だいたい風呂嫌い。

じゃあ、アスカはどうなるんだろ?

「シンジ〜どこにいるの〜?」

リビングの方から、アスカの声が聞こえる。

「お風呂掃除してるよ〜!」

アスカの僕を探す声に答えると、すぐに彼女はやって来た。

「おっふろ、おっふろ!」

何が楽しいのかは知らないけど、嬉しそうな顔でアスカは浴室の扉を開けた。

「アタシ、ねてたらあせかいちゃった!」

なるほど。

「アスカは、お風呂好きなの?」

「うん!」

にこにこしながら頷くアスカ。

そんな彼女を見ていると、なんだかこっちまで楽しい気分になる。

「じゃあ、ご飯とお風呂、どっちを先にする?お風呂を先にすると、ちょうどお腹が減る頃に夕ご飯が出来ると思うけど。」

「おふろがさき!」

即答だった。よっぽどお風呂が好きなんだろう。

「解ったよ。すぐに洗うから待っててね。」

「うん!」

僕は、いつもよりちょっと丁寧に風呂掃除をした。


−2−

風呂掃除が終わり、お湯をはる。

風呂おけが小さいので、お湯はすぐに溜まった。

「アスカぁ〜お風呂入れるよぉ〜」

湯温をもう一度確認してから、僕は彼女に声をかける。

着替えを持って、脱衣所にアスカが現れる。

「頭と体をよく洗って、お湯につかって百まで数えてから出るんだよ。」

こういう事を言っていると、なんだかお父さんになった気分だ。

「わかったわ。」

「お風呂から上がったら、ご飯作るからね。」

「うん!」

彼女の笑い顔に見送られて。僕はバスルームを後にした。

リビングに戻ると、携帯電話が鳴っていた。

液晶には、相田ケンスケと表示されている。

ケンスケ。

僕とは小学校時代からの腐れ縁で、親友と言ってもいいくらい仲が良い。

カメラとビデオが好きで、将来の夢は映画監督だそうだ。

クラスでは、学校の事情通として有名だ。

受話器を取ると、昨日の飲み会の時と変わらない声が聞こえる。

『よぉ、シンジ。』

「どうしたの、ケンスケ。」

『面白い情報を掴んだから、お前に教えてやろうと思ったんだ。』

「面白い情報?」

彼が言う所の面白い情報というのは、ゴシップである事が多い。

他人の恋愛沙汰や、教師の異動に興味が涌かない僕は、ケンスケの”面白い情報”にあまり期待出来なかった。

『明日、俺らのクラスに転校生が来るらしいんだ。凄く綺麗な女の子らしいぞ。』

「ふぅん・・・」

ゴシップの類じゃ無かったけれど、やっぱり興味が涌く内容じゃ無かった。

『ちなみに、お前も知ってる女の子だよ。』

どういう意味だろう?

テレビに出ているようなアイドルでも転校して来るんだろうか?

『転校生が誰なのか、今日の夜にでもじっくり考えてみろ。じゃあな。』

唐突にケンスケは電話を切った。

取り残された感じの僕は、頭の中が転校生の事で一杯になる。

誰だろう?

心当たりは無い。

敷きっぱなしの布団の上にあぐらをかいて、僕はアスカがお風呂か ら出るまでの間、ずっと転校生の事を考えていた。





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