−1−
目を覚ますと、時計の針は四時を指していた。
「ふぁぁ・・・」
大きな欠伸をして背を伸ばすと、僕の隣で眠っているアスカがもぞもぞと動く。
「うにゃぁ・・・」
彼女を起こさないように布団から出る。
さて、と。
「夕ご飯はどうしようかなぁ。」
クセになっている独り言を呟きながら、僕は冷蔵庫を開ける。
その中から、あまり保存が効かない物を選んで、夕食の材料にする事にした。
後は、お風呂の準備をするだけだ。
バスルームの扉を開けて、浴室へと入る。
ここ一週間くらい、僕はずっとシャワーしかしていなかったので、浴槽は全然洗っていない。
シャワーを使って浴槽を軽く流し、風呂掃除専用洗剤をスポンジに含ませてごしごしと洗う。
洗いながら、ふと思う。
女の子は、お風呂が好きな場合が多い。
猫は、だいたい風呂嫌い。
じゃあ、アスカはどうなるんだろ?
「シンジ〜どこにいるの〜?」
リビングの方から、アスカの声が聞こえる。
「お風呂掃除してるよ〜!」
アスカの僕を探す声に答えると、すぐに彼女はやって来た。
「おっふろ、おっふろ!」
何が楽しいのかは知らないけど、嬉しそうな顔でアスカは浴室の扉を開けた。
「アタシ、ねてたらあせかいちゃった!」
なるほど。
「アスカは、お風呂好きなの?」
「うん!」
にこにこしながら頷くアスカ。
そんな彼女を見ていると、なんだかこっちまで楽しい気分になる。
「じゃあ、ご飯とお風呂、どっちを先にする?お風呂を先にすると、ちょうどお腹が減る頃に夕ご飯が出来ると思うけど。」
「おふろがさき!」
即答だった。よっぽどお風呂が好きなんだろう。
「解ったよ。すぐに洗うから待っててね。」
「うん!」
僕は、いつもよりちょっと丁寧に風呂掃除をした。
−2−
風呂掃除が終わり、お湯をはる。
風呂おけが小さいので、お湯はすぐに溜まった。
「アスカぁ〜お風呂入れるよぉ〜」
湯温をもう一度確認してから、僕は彼女に声をかける。
着替えを持って、脱衣所にアスカが現れる。
「頭と体をよく洗って、お湯につかって百まで数えてから出るんだよ。」
こういう事を言っていると、なんだかお父さんになった気分だ。
「わかったわ。」
「お風呂から上がったら、ご飯作るからね。」
「うん!」
彼女の笑い顔に見送られて。僕はバスルームを後にした。
リビングに戻ると、携帯電話が鳴っていた。
液晶には、相田ケンスケと表示されている。
ケンスケ。
僕とは小学校時代からの腐れ縁で、親友と言ってもいいくらい仲が良い。
カメラとビデオが好きで、将来の夢は映画監督だそうだ。
クラスでは、学校の事情通として有名だ。
受話器を取ると、昨日の飲み会の時と変わらない声が聞こえる。
『よぉ、シンジ。』
「どうしたの、ケンスケ。」
『面白い情報を掴んだから、お前に教えてやろうと思ったんだ。』
「面白い情報?」
彼が言う所の面白い情報というのは、ゴシップである事が多い。
他人の恋愛沙汰や、教師の異動に興味が涌かない僕は、ケンスケの”面白い情報”にあまり期待出来なかった。
『明日、俺らのクラスに転校生が来るらしいんだ。凄く綺麗な女の子らしいぞ。』
「ふぅん・・・」
ゴシップの類じゃ無かったけれど、やっぱり興味が涌く内容じゃ無かった。
『ちなみに、お前も知ってる女の子だよ。』
どういう意味だろう?
テレビに出ているようなアイドルでも転校して来るんだろうか?
『転校生が誰なのか、今日の夜にでもじっくり考えてみろ。じゃあな。』
唐突にケンスケは電話を切った。
取り残された感じの僕は、頭の中が転校生の事で一杯になる。
誰だろう?
心当たりは無い。
敷きっぱなしの布団の上にあぐらをかいて、僕はアスカがお風呂か
ら出るまでの間、ずっと転校生の事を考えていた。
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