−1−
お風呂と夕食が終わっても、まだ寝るには早い時間だった。
それに、昼寝をしてしまったから、今日は余計に眠れないだろう。
何もする事が無い僕は、テレビを見る事にした。
テレビ。
きっと、アスカが人間の暮らしを知るにも良いメディアだろう。
・・・だと良いなぁ・・・
電源を入れ、適当にチャンネルを回す。
僕の興味をそそる番組は無かった。
「アスカ、何か見たいものはある?」
ちょうど、この地域のローカル放送に合わせた時だ。
「これ!!」
瞳をきらきらと輝かせながらアスカが見たいと言った番組は、アニメだった。
昔のアニメのリメイク物で、僕も見た記憶がある。
画面は、今からオープニングテーマを流す所だ。
・・・まぁ、小学生くらいの精神年齢なんだから、アニメでも良いか。
彼女はテレビに噛り付いている。
暇な僕は、アスカと一緒にアニメを見る事にした。
−2−
アニメの内容は、単純な勧善懲悪モノだった。
途中で展開が読めてしまった僕は、見るものをアニメからアスカへと変える。
僕の隣に座り、ヒーローの行動にいちいち一喜一憂する彼女の姿は、とても微笑ましい。
主人公がピンチに陥れば画面に向かって声援を送り、危機を脱出すれば大喜び。
ヒーローが必殺技を繰り出すシーンでは、両手をぶんぶん振り回して応援していた。
アニメなんかよりも、アスカを観察していた方がよっぽど面白い。
「ほぉらぁ!シンジもいっしょにおうえんするのぉ!!」
僕が静かなのに気付いたアスカは、振り返ると僕にも声援を送れと言う。
・・・は、はずかしい・・・
でも、彼女の瞳は真剣だった。
僕が小さい頃、同じような事を父さんに言って、無視されてとても悲しかった事を思い出す。
「頑張れぇ〜!」
「がんばれ、がんばれ!!」
苦労して悪の親玉を倒したヒーローは、(最終回だったらしい)荒野へと消えていった。
「シンジ!!」
まだ興奮したままのアスカが、僕の手を握りながら言った。
「アタシ、にんげんになったらヒーローになりたい!」
「いや、あのね、アスカ。あれはテレビの中でのお話で・・・」
「わかってる!アタシ、ああいうばんぐみにでたいの!!」
さすがに、そこまで世間知らずじゃないらしい。
アニメに出たいと言うと、声優かな?
「ヒーローの声をやりたいの?」
「ちがうの!いっしょにでるのぉ!」
じゃあ、特撮なのかな?
となると、やっぱりジャパン・アクションクラブとかかな?
猫なんだから、運動神経は良いだろう。
アスカの就職希望先はJACか・・・
まあ、夢を持ってるのは良い事だし。
「解ったよ、アスカ。人間になったら、ヒーローになれる所で働こうね。」
「うん!!」
まるで向日葵みたいに笑うアスカ。
この無邪気な笑顔を見ていると、優しい気持ちになる。
アスカは、アニメが終わって次に始まった番組には興味が湧かなかったらしく、リモコンでチャンネルを回している。
「アスカ、しばらくテレビ見てて。僕は、明日の準備してるから。」
「うん!」
アスカから離れて、僕は机に向かう。
学校に行く準備をしてから、一年後に旅立つ予定のアメリカで不自由しない為の英会話の勉強を始めた。
時折聞こえるアスカの笑い声をBGMに、僕は英会話のCDを流す。
三時間くらい経っただろうか、ふとアスカの声が聞こえなくなっているのに気付いた。
テレビの方を見ると、そこには眠っているアスカが。
テレビ見ながら寝ちゃったんだな。
微苦笑しながら布団を敷き、彼女をそっとその中へ運ぶ。
時計を見ると、まだ十時だ。
小学生なら、このくらいの時間に眠っても仕方無いか。
アスカを寝かせた後、僕は深夜まで英会話の勉強をして、それから眠りに就いた。
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