ラジオ


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−1−

高速道路を疾走する、赤いスポーツカー。

ハンドルを握るのは加持、ナビシートに座るのはミサトだ。

カーステレオからは、深夜のドライブ用にチョイスしたジャズが響いている。

ちらり、と時計に目をやるミサト。

「そろそろ、ね。」

そう呟くと、彼女はジャズを止めてラジオに切り替えた。

ラジオから流れるのは、二人が良く知っている少年少女の声。

使徒戦争後、総合商社として生まれ変わったネルフの事業の一つ、ラジオ放送にシンジとアスカがDJとして出演しているのだ。

時刻は、2時きっかり。ぽーん!という、時刻を知らせる音の後に、番組のテーマソングが流れ始める。

「例のラジオか・・・」

ぼそり、と加持。

その声には、妹と弟を思いやる兄のような趣があった。

「さぁ、始まるわよ・・・」


−2−

「アスカと!」

「シンジの!」

「「ミッドナイト・ランデヴー!!」」

「さぁ、今週もこの時間がやってきたわよ!!お相手は、みんなのアイドル、頭脳明晰、容姿端麗、必殺必中、アスカちゃんと!」

「今日もなんとか生きてます、シンジです・・・」

「のっけから暗いのよ、バカシンジ!」

「だって、台本にそう書いてあるんだよ・・・」

「台本書いたのは・・・アベちゃんね、シンジにもっと明るい事言わせないさいよ!」

「アスカ、時間押してるよ」

「ったく、しょうがないわね・・・さて、アベちゃん苛めはこれくらいにして、今日のテーマは何かな」

「テーマは、結婚だよ。昨日、あんなに台本読み直せって言ったのに・・・」

「うっさい!さぁ、サクサク行わよ!」

「では、最初のお葉書を・・・第三新東京市にお住まいの、ラジオネーム『ビール大好き!』さんからです。えぇと・・・『私の彼は、とっても女たらしで困っています。この前も浮気されそうになりました。でも、そんな彼からついにプロポーズを受けたんです!・・・でも、結婚後も彼がまた浮気したらと思うと、不安で不安で、ビールも喉を通りません。どうしたら良いでしょうか?』だそうです。どう思う、アスカ?」

「なぁんとなく、知り合いからの投稿のような気がするんだけど・・・まぁ、いいわ。良いんじゃない、結婚しちゃっても。」

「えぇっ!?なんで?」

「結婚なんて、所詮人生の一通過点にしか過ぎないんだし、生活してみて駄目だっ!って思ったら、離婚しちゃえばイイじゃない。今時離婚歴があるからどうだってのよ。」

「・・・アスカらしいや。」

「なんか言ったぁ!?・・・つまりね、『結婚』っていう言葉の魔力に惑わされないで欲しいの。」

「なるほどねぇ。僕には、よく解らないや。」

「ま、アンタはお子様だからね。」

「でも・・・これだけは、言っておかなくちゃならないんだ。聞いて、アスカ。」

「何よ、突然真顔になって。」

「僕はバカだから、今までよく目の前が見えていなかったよ。」

「それに気付いたんなら、大した進歩ね。」

「ちゃかさないで。で、今解ったんだ。」

「え?」

「一番大切な人が、誰か・・・って事に。」

「・・・それって、もしかして・・・」

「もう!・・・もう遅いかもしれない。だけど、もし間に合うんだったら・・・僕の気持ちに答えて欲しいんだ・・・」

「・・・」

「アスカ・・・好きだよ。け、結婚して欲しいんだ!」

「えぇ!?結婚!?・・・アンタ、それ本気?え・・・あぁん、どうしよ・・・うぅん、迷う事なんか無いわ!!オッケーよ、オッケー!!嬉しいな、シンジから告白されるなんて・・・これでアタシの人生は決まったようなモンねぇ・・・薔薇色よ、薔薇色なのぉ・・・!」

「・・・ほら、アスカだって取り乱してるじゃないか。結婚は人生の一通過点じゃ無かったの?」

「・・・シンジ、ひょっとしたら、今の・・・ウソ?」

「うん、ちょとアスカを試したんだよ。」

「うぁぁぁぁぁ!!ひっどぉぉぉぉい!!・・・駄目、そんなの認め無い。男が一旦口にしたんだから、責任取ってよ!!」

「せ、責任って・・・アスカが好きなのは加持さんじゃ無かったの!?」

「・・・バカ。加持さんには、憧れていただけ・・・なんだと思う。アタシがホントに好きなのは・・・シンジ、アンタよ。」

「あ、あはは・・・そうだったんだ・・・悩んでて損した・・・僕も、アスカが好きだよ・・・」

「お互いの気持ちも確認出来た事だし、サッサと教会行って式をあげるわよぉ〜!!」

「ちょちょちょっと待って!式って言ったって、僕らまだ中学生・・・」

「そんなの、司令・・・じゃない、会長・・・いえ、お義父さまに頼めば、法律をちょちょいのちょいと改正してもらえば!」

「そういう問題じゃないよ、アスカ!」

「それじゃ、これからアタシ達は色々と準備があるから、番組はここまで!」

「番組を途中で終わらせないでよ!」

「来週のこの時間は、アタシとシンジの結婚式で公開録音した番組をオンエアするからね!待っててね!」

「どうしてそういう無茶な話になるのさぁ!!」

「んじゃ、またねぇ〜!」

「アスカってばぁ!!」


−3−

唐突に番組は終わり、CMが流れ始める。

「葛城・・・これは一体!?」

ややげんなりした表情の加持。それとは対象的に、ミサトの顔は笑っている。

「いいアドバイスして貰ったなぁ〜・・・加持、浮気したら離婚してやるからね!」

「まだ結婚してないぜ、葛城。」

生まれて初めて『絶対絶命のピンチ』というヤツを体験する不精髭の女たらしは、油汗を流しながらそう返答するのが精一杯だった。

ニヤリと笑って、ミサトが言葉を続ける。

「シンちゃん達よりも早く結婚式あげなくちゃイヤだからね。」

早まった事をしたな、シンジ君・・・

これでオレ達は、一生を決められたも同然なんだぞ・・・

顔で笑って、心で泣いて。男、加持リョウジ、年貢の納め時だった・・・




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