超能力ロボハチ五郎外伝


 

すすけた背中が暖簾をくぐる。

味キングの店(プニプニほっぺ団本部)とその暖簾には書かれていた。

「へい、らっしゃい」

辛気くさい親父の声がかかる。

照明を落とした暗い感じの店内にはぱらぱらと客がいた。

縦に並んだカウンターに座ると、「芋焼酎。」

「はいよ」

カウンター腰に手を伸ばし、店の親父がコップを渡す。

洗ったんだか、どうなんだか、

白く汚れたコップもおつなもんで……。

くいっと流し込んだ。

「どうだい、調子は?」

「まぁ、見ての通りだ。柳生のはどうだい?」

「いや、まったく。宇宙に出ることもできやしない。

佐々木おさみに超巨大戦艦ギャラガ88を破壊されて以来、

良いこと無しだ。

宇宙セールスマンの名が泣くぜ……」

「お前さんはまだ良いよ。

俺なんか未だに団子やのおばちゃんだぜ。

男で、しかもお好み焼きやのはずだったのに……」

はぁ。

深いため息が店に木霊する。

チカチカと切れそうな電球、

すす汚れた壁には茶色く変色した

品書きと、近所の店のチラシ、酒屋のチラシなど

整ったところが無く、

いかにも貧乏団子屋の雰囲気を醸し出していた。

もともと団子屋だったが、それだけでは経営が成り立たず、

今では酒やお好み焼きにまで手を伸ばしている。

「おい、親父。醤油団子3本くれ」

奥の席に座っているくらい感じの男から声がかかった。

「へい」

服部は後ろの棚から団子の串を取り出すと、

特性醤油をつけて焼きだした。

店内に香ばしい臭いが充満する。

柳生がちびちびとやっている間に、団子は焼き上がり、

服部はそれを持って男の方へ向かった。

「いや、そっちで食おう」

男はそう言って柳生の隣へ座った。

「食いなよ。おごるぜ」

そう言って柳生に一本勧めた。

「おお、すまない」

遠慮なく頂こうと手を伸ばす柳生の腕を、

男はさっとつかみ取った。

「あんた柳生さんだろ?」

見上げる男の顔にはいくつもの傷があった。

「おまえは……傷男!!」

「そうだよ。俺はいったいどこへいっちまったんだ?

誰かの霊にとりつかれてセールスマンとして働いていたが、

最近我に返ってな。

こんなところでくすぶっているってわけよ」

ぎくりと背中に冷たいものが走る柳生。

その霊が自分であることに、

気が付かないでくれ、と心の底で祈った。

「お、おまえはおさみを追っているのではなかったか?」

「そう言うお前さんもおさみを追っているんだろう?」

「ああ、互いに追っている意味は違うがな」

再び背中に冷たいものが走る柳生。

やぶ蛇だったのか!

「俺は、たぶんややこしいから

そんな設定も出番も無くなっちまったんだろうよ」

「つらいな」

「ああ、だがお前さんらは名を変え品を変え

出番があるじゃねぇか。

教師ってぇのは儲かるのかい?」

「あれは割のあわん仕事だった。

出るだけ出て放って置かれたからな」

「俺もだ。あの時は最悪だった。

ほとんど名前だけだった……」

暗い話が続く。

この店の雰囲気は暗い話にもってこいだった。

「おい、これでも食ってくれ」

カウンターから服部が出したのは、

味キング特製のお好み焼きだった。

その上で踊る鰹節が香ばしい匂いを発している。

「店のおごりだ」

皿を置いて服部が片目をつむる。

「おばちゃん、きしょくわりい」

それから1時間、客足はぱったりと途絶え、

服部が貸し切りにしようと店の戸口に向かったとき、

ちょうどそこへ、一人の客が現れた。

「おきゃくさん、すみません。今日は貸し切りなんですよ」

そう言って男の方を見やると、

「お、おまえは!!」

「そうだよ。俺だよ。貸し切りは酷いんじゃねぇか?」

服部はその男を連れ立って、

カウンターの柳生の隣へ座らせた。

「良い店だ」

男は点にを見渡していった。

「ありがとうよ」

お世辞と思えなかったので服部も素直に礼を言う。

おそらく、この部類の男には気色ばった店よりも、

こういった寂れた店の方が心地いいのだろう。

「お前さんとは初めてだな」

柳生に振り向き、話しかける。

「ああ。名前は聞いてるぜ。

俺もあのシリーズには出てたからな。

ヒットマン波多野さんだろ?」

「ああ、そっちは柳生さんと、傷男だろ。

まぁ、よろしく頼むよ」

そう言って手を出してきた。

柳生はためらいもなく握り返したが、

傷男はそれを一別しただけで

再び団子をくわえた。

「何がよろしく頼むだ。

あの時はお前さんに話し持っていかれて、

俺の出番がほとんどなかったんだぞ!」

何かと恨み言の多い傷男。

「そいつはすまねぇ」

素直に謝られても、つんとそっぽを向いてしまった。

「おいおい、けんかばっかするんじゃねぇよ。

3人ともこれでも飲みな」

芋焼酎をなみなみと注いだコップを3人に差し出す。

「わき役同士、仲良くやろうや」

そう言って、柳生が乾杯の音頭をとる。

傷男も遠慮がちに杯を合わせるが、

しばらく酒が入ってくると、

だんだんと気もほぐれてきて、

ヒットマン波多野と肩を組んで歌ったりしていた。

どがががががっがががががががががががががががが

どすんどすんどすんどすんどすんどすんどすんどすんどすん

大地が震え、命の鼓動が消えそうな

とてつもない振動音が突如「味キングの店」を襲った。

中には店主の服部、柳生、傷男、波多野と

数人の無関係な客がいた。

振動はだんだん強くなり、

何かが近づいていることを示していた。

「な、何か近づいて来るぞ!」

あわてる柳生。

しかし、彼の周りで騒ぐ傷男、波多野の二人は

気が付いてもいないようだった。

しかし、カウンターの中で青くなる服部には

何が来るのかわかっているようだった。

「服部、あれはなんだ?」

「ああ、……ああ……」

何か口には出すのだが、要領を得ない。

とても恐れていることは確かだった。

震度7。もう店がつぶれる限界かと思われたとき、

ガラガラと音を立てて、店の戸が開いた。

「いるでごわすか〜!!」

野太い声がした。

そして、戸口から見えるのは男と思われる巨大な体だけで

顔を見ることが出来なかった。

身をかがめ、体を縮めるようにして大男が店内へ入ってきた。

狭い店内が一気に埋まってしまったような、

そんな錯覚が全員を襲った。

「なんだ!!」

柳生が男に向かって声を発した。いや、絞り出した。

「この店の持ち主の代理でごわす。

早く金を払うか、店を出ていくでごわす」

!!

柳生は驚いて服部を振り返る。

「ここは、お前の店じゃなかったのか……」

服部は頭を垂れながら、申し訳なさそうにいった。

「借りてるんだ。金が足りなかったから……」

「なぜ? ……ハチ五郎Zか!?」

「それだけじゃない。妻の店がな、警察に……ぼったくりで。

それから、この店の前にやってた団子屋も不況のあおりで」

がっくりと肩を落とした。

「わかった。服部、これを使ってくれ」

そう言って懐から取り出したのは、

山のような札束だった。

「柳生、これは……!?」

「こつこつ貯めて来たのさ。空の夢が捨てられなくてな……」

「そんな、それは駄目だ。

私のために夢を捨てないで!!」

急に女のような声を出し、おばちゃんらしさをアピールする。

「そうか。じゃぁやめるか」

「はっ……!!」

服部の顔に衝撃が走る。

「そうはいかんでごわす。

この金はもらっていくでごわす」

巨体の男は柳生から金をふんだくると早々に立ち去ろうとした。

「まて、お前は武蔵坊蛮太だろう」

柳生、服部の背後から傷男の声がした。

「なにでごわす?

それがどうかしたでごわすか?」

興味がなさそうに、再び外へ出ようとする蛮太。

「その二人は柳生さんと服部さんだぞ!!」

その名を聞くと蛮太の動きが止まった。

「お前、なんでやくざなんかに身を落としているんだ?

お前も出番が無くなった口か?」

状況がいまいちのみこめていない柳生と服部と波多野。

「こいつは一度だけ出番のあった武蔵坊蛮太って野郎なんですよ。

けっこう有能な奴でね。ロボットでもないのに奴らと渡り合ったりして

でもね、その出番もまた今度また今度と言っている内に

無くなっちまった悲しい奴なんですよ。

ピラミッドに置き去りにされたとか噂を聞いたが、

この町に戻ってきていたとは」

傷男がオペレーターばりに蛮太の身の上を話した。

「服部さんと柳生さんだったでごわすか!

おい、おいはお二人に憧れていたでごわす。

申し訳ないことをしたでごわす。

お詫びにこの店の権利書を奪ってくるでごわす!!」

蛮太はそう言って店を飛び出していった。

「あいつも可哀想な奴なんだな」

カウンターに戻った一同は蛮太に乾杯をした。

「今日はいろんな奴に会えて良かった。

これで明日からまた端役に甘んじられる気がするよ」

芋焼酎を飲み干して柳生は席を立った。

それに続くように、傷男、波多野と出ていき、

残りの客もいつの間にかいなくなっていた。

服部は一人残った店の中で、後かたづけに興じ、

台を拭いて店を閉める準備をした。

「おーい、服部さん。取って来たでごわす!!」

店の火を落とした頃に武蔵坊蛮太がやってきた。

「あれ? 他の人たちはどうしたでごわすか」

「みんな帰ったよ」

「そうでごわすか。もっと話がしたかったでごわす」

「おまえ、もう行く当てはないんだろう?」

「おいは親分に逆らってしまったでごわすから……」

でかい体を蟻のようにちぢこませていた。

「だったら、この店で働かないか?」

「ほんとでごわすか!?」

「ああ、俺一人じゃちょっと賄いきれないと思っていたところさ」

「ありがたいでごわす」

「でも、給料はあんまりだせんぞ」

「それでも、おいてくれるなら……」

こうして味キングの店の一日は終わった。

プニプニほっぺ団の本部として、

また、プニプニほっぺ団の憩いの場として、

末永く店は続いていくのだろうか?

──────終わり──────