超能力ロボハチ五郎外伝その3(ピヴィ)
| 私の名前は闇野美里、16、7,8歳……よくわからない。 なぜならそう、まだ寝ているからだ。 たしか、なんとか学園にかよっているような。 今日も学校へ行く日のような。 だんだんと意識がはっきりしてくると、外の情報が入ってくる。 ジリリリリリリリリリリ! けたたましく鳴り響く音に一気に意識を覚醒させられる。 なんだ、うるさ〜い! ズバコ〜ン!! 振り下ろした右手が音の元凶を直撃する。 ジリ…リ……沈黙。ふっ、私の勝ちだ。 そして世界が徐々に暗転していく〜… しかし、 「美里〜、起きなさ〜い」 聞き慣れた声がする。まずい、この声は! 「はーい、おきてまーす」 と、未だ目も開かぬうちに反射的に返事をする。 ドン、ドンドン… 部屋に近寄る足音が大きくなる。 早く、早く目覚めなければ。 「美里、起きてるの〜?」 ガチャ、扉の開く音。 間一髪、私は飛び起き、平然とたばこをふかすような仕草を取ってごまかす。 「お、おはよう、お母さん」 「おはようじゃないわよ、もう7時59分よ。急がないと遅刻するわよ」 「はーい」 それだけ言うとお母さんは去っていった。 恐ろしい、寝ていたことがばれては48の地獄落としを食らうところだった。 あれだけはまっぴらごめんだ。 7歳の頃、あれのせいで私は半身闇に染まったのだ。 あんなことはもうごめんだ…って、7時59分!? あと11分しかないじゃない!! あわてて顔を洗いに洗面所へ。髪をとかし部屋に戻るまで15秒。 40秒で制服に着替えると階段を駆け下りる。 台所にはお母さんが作ってくれた朝ご飯が山のように積まれている。 こいつを片づけなければ殺られる。 急いで口の中へと放り込むが、平らげるのに5分の時間をロスしてしまった。 学校までの距離は約20km、家を飛び出したのが8時5分。 まるでお嬢様が歩いているかのようなおしとやかスタイルを装いつつ、秒速108mで学校へ向かう。 周りの人間の目には一瞬だけうつるお嬢様な私が刷り込まれていくことだろう。 何とか学校前の坂までたどり着く。 8時8分。またいつものやつが待ち受けているに違いない。 「おはよ……」 来た。そう思った瞬間、強烈な前蹴りを食らわしやつを踏み台にする。 「ブグハッ!」 肉だるまのようにつぶれてはじかれる。気持ち悪い物体が地面に転がる。 「どけ白豚! 邪魔なんだよ!」そう言うと私は一気に跳躍した。 校門はもうほとんど閉じられていた。生活指導の柳生は時間前から閉めはじめるいやらしいやつだ。 私は肉塊を踏み台にした跳躍力で一瞬にして門を飛び越えると、 一転おしとやかモードに変わって「おはようございます」と、にこやかに挨拶をするのだった。 教室についてからも、私は毎日やつの視線を感じていた。 ううぅ、気持ち悪い。 一番前の席というのが最悪だ。授業中寝ることも出来ない。 しばらくすると担任の服部先生が入ってくる。 「みんなも知っているように、今日から転校生がこのクラスに入ってくる」 転校生かぁ。かっこいい男の子だったらいいなぁ。 なんて甘い妄想をしていると、続けてガラッと戸が開き転校生が入ってきた。 「佐々木おさみ、24歳、独身!」 「同じく超極悪ロボ、17歳、独身!」 甘い夢は一気に覚めた。入ってきたのは年増女とボロくず… しかも、ボロくずの方は私の隣の席に… 「よろしくずら」 「よ、よろしくね」 私の甘い学園生活にさらなるかげりが見え始めたのだった。 私の心は暗くしずんでいた。 ストーカー的なやつのせいでもある。 彼氏が出来ないせいでもある。 青春ラブストーリーな高校生活を期待していただけに 言い寄ってくる男が、あの樽だけだとは… せめてハム四郎君くらいなら……って、ダメよ美里 いくら男っ気がないからってハムスターにあこがれるなんて!! 私は人間、人間の王子様としか恋愛しないのよ! ロボとかハムスターとかそんなもので妥協してはダメなの!! 疲れ果てたある日、美里は寝坊してしまったのだった。 「美里、起きなさ〜い!」 お母さんの声が聞こえる。でも、なぜか体が動かない。 「(は〜い、起きてますよ〜)」 返事をしたが、声が出ない。 「美里、まだ寝てるの!」 「(起きてる、起きてるから〜!)」 「お母さんが優しく起こしてるのに起きないなんて、悪い子にはお仕置きね」 「(やめて、起きてるからゆるして〜)」 どうしても声が出ない。あれだけはいやだ、あれだけは許して… 「どうしても起きないつもりね、なら仕方ないわ… 48の地獄落としの一つ タコさんにゅるにゅる地獄!!」 お母さんのその声が発せられた瞬間、私の体は地の底へと落ちていった。 2階のベッドから1階へ、そして地中へ、さらに落ちていき… そこは 大量のタコが渦巻いていた。美里はその中へと落とされる。 にゅるにゅるにゅる 体中にタコがからみつく。吸盤が吸い付き、体中をぬるぬるが… 「ダメ〜!! ここからは自主き…せい……して」 ピーーーーッ 本人の希望により、しばらくお待ちください。 … …… ………。 ある日、とある教室の中で。 黒いカーテンを全面閉めた真っ暗な部屋の中で、 闇野美里とその手下数人が次なる計画を練っているところだった。 私の青春を謳歌する計画に一つだけ邪魔な物がある。 やつだ……ハチ五郎! やつとやつの仲間を排除しなければ私に平穏の日々はやってこない。 白馬に乗った王子様との甘い恋愛も ちょっと不良な彼とのロマンスもなにも叶わない。 秘密裏に組織した私の手下どもを使って何度も抹殺計画を実行するも、 ことごとくおかしな超能力で防がれてしまう。 こうなっては、あのお方に頼むしかないのではないだろうか。 南の海に眠るあのお方。 はたして今の私に呼び起こすことが出来るのだろうか。 あの、悪夢のような地獄の中(思い出すの禁止!)、唯一つかんだ希望の光。 この書物に書かれたいくつもの神。 最初の方に書かれていた術は成功し、私は力を得た。 手下を操り、この組織も作った。 しかしそれでもハチ五郎達は倒せなかった。 そして私に残されたのは、この最後の儀式のみ。 私は、この最後の希望にかけるのだ。 「儀式を始めます」 そう言うと手下達がそれぞれの配置に付く。 魔法陣の各頂点に蝋燭を持って立ち、邪悪な呪文を唱えはじめた。 部屋の空気が冷たく、重くなる。 呪文によって紡がれた言葉が、怪しく部屋をつつみ、細かな振動を起こしはじめる。 ガラスがビリビリとふるえる。 5人の手下と私自身の言葉が徐々に耳から薄れていく。 意識がもうろうとして、恍惚状態に入っていく。 無意識に言葉が紡がれていき、魂が吸い出されていくのを感じる。 ドサッ 何かが倒れる音がした。 ドサッ また。 ドサッ、ドサッ、ドサッ 私以外の者がすべて倒れているようだ。 いや、私もすでに倒れているのかもしれない。 ここに立っているのは私の魂だけ。 その時、周りが白い光に包まれていくのを感じた。 目の前は部屋ではなくどこかの通路のようだった。 私はその通路を歩いていき、光の出口にさしかかる。 巨大な神殿のようだった。 光を出た瞬間に私の目に飛び込んでくる。 神殿は人間よりも遙かに大きな者に造られたようだった。 階段一段一段が私の背丈よりも高く、上るのに苦労する。 108段ある階段をすべて上りきる頃には、私はもうへとへとに疲れていた。 中へはいると殺風景な石の部屋だった。 その中心になにかがいる。 いけない、これはいけない。 そう思いながらも私の足は勝手に進み、私の目はそれを凝視していた。 それはもう、私の手の触れるところにあった。 巨大な固まり、暗がりではまだそのようにしか映らない。 それが幸いしている。 圧倒的な存在感。だが、何もないような気もする。 いや、私が何もあって欲しくないと思っているだけか? そっと手を伸ばす…… 「やめるロボ!!」 背後から耳障りな声が聞こえた。 その声が私を正気に引き戻す。 目の前には巨大な、人のような、タコのような。 なんだこれは 「きゃ〜〜っ!!!!」 「美里〜っ! ロボ〜」 理解を超えたものに私の頭は混乱する。 自分の意識をまもるように、目の前が真っ暗になり 8時8分。 いつものように学校の前の坂にさしかかる。 私は全力で坂をダッシュする。 「おはよ…ブグハッ!」 何かを蹴飛ばしたようだ。 「どけ白豚! 邪魔なんだよ!」 そう言って私は大きく跳躍した。 私の学園生活はまだまだこれから、次はどの術を試そうか…。 |