超能力ロボハチ五郎外伝その5(氏照)


 

【超能力ロボハチ五郎】シリーズ

extra episode:アナウンスB子の青春!

―これまでの登場人物―

【柄パンツ後醍醐】
本名、大子一洋。秘密結社PH団の構成員、A級エージェント。
天狗の力を持つ青年。神通力と風を操るウチワが得意技。
胡散臭い関西弁を話し、その振る舞いは怪しい。

【近野響子】
山ノ上高校2年C組の生徒で柄パンのクラスメート。
新聞部部長だが、正義感の強さと口煩さからよく風紀委員などに間違えられる。
ツリ目、メガネ、オデコと三拍子揃ったツン系女子。

【花浦幹】
近野響子の幼なじみで同級生、剣道部員。
線が細く色白でまったりした仕草と穏やかな性格、女の子っぽい名前で中性的な男子。
ハム四郎とは剣道のライバル同士。

【ヒットマン波多野】
山ノ上高校2年C組の担任、野球部顧問。
元社会人野球でプロを目指していたがそれは叶わず、教師として甲子園代表監督を目指す。
PH団のC級エージェントで主に諜報をこなす。戦いは苦手。


巻ノ二 放送部、北上涼奈

柄パンツ後醍醐こと大子一洋は秘密結社PH団の構成員である。
とある女子高生の監視を行うため任務のため山ノ上高校二年C組に潜入した。
が、ターゲットと同じクラスではないうえ、学年も違うという失態。
それもこれも、同じくPH団に所属しているヒットマン波多野こと波多野先生が
バカ正直に柄パンの年齢から自分のクラスに編入させてしまったためである。
やむなく、目標のクラスと所属部を聞き出した柄パンは
休み時間や放課後を狙って彼女を監視することにした。
二年C組では新聞部部長の近野響子の隣席となる。
その後ろが響子の幼なじみ花浦幹である。
響子は明らかに不審な柄パンを警戒し、
隣の席と決まったときもヒットマンに猛抗議をしたほどである。
一方幹の方は柄パンと意気投合し、二人のなだめ役となるのであった。
ところで柄パンの任務の方である。
ターゲットの名は北上涼奈、通称『アナウンスB子』。
命名の経緯についてはよく知らないが、ハチ五郎との絡みで何回か会っていた。
最も、そのときは柄パンツ後醍醐としてで、高校生大子一洋として会うのは初めてである。
山ノ上高校1年B組、放送部所属、両親を早くに亡くし、祖父母と暮らしている。
彼女の持つ特殊な能力が悪の組織に狙われる恐れがあるため、
その監視、場合によっては保護をするのが任務である。
彼女は昼休みや放課後はだいたい、
放送室にいるとの情報をヒットマンから聞いた柄パンは、ひとまず放課後を待つことにした。

昼休み。
生徒たちは弁当やパンなどを持って思い思いに散っていく。
食事を準備していない者は購買部へと走っていく。
弁当は持ってきていない柄パン、同じクラスとなった花浦幹に誘われて、購買部に向かう。
やはり同じクラスで幹の幼なじみでもある近野響子も一緒である。
響子は不承不承といった素振りであったが、
柄パンの素性が気になっていたこともあり、付いて行くことにした。
カランコロンと下駄を鳴らして歩く柄パンの姿はやはり目立つ。
そのうえズボンの裾は破れたようにボロボロで、足首が完全に露出している。
もっとひどいのは上着で、肩から先がちぎれたように無くなっていている。
中に来ている真っ赤なロンTとあわせて、独特の雰囲気を醸しだす。
帽子も全体が潰れていて真ん中に穴が空いている学帽で、
全体の感じからは大昔の漫画に出てくるような番長風である。
そのため、教室を出てからずっと周囲の生徒の注目を引いている。
チラチラ見ながらコソコソ話す者、苦笑して通り過ぎる者、
中にはこっそりケータイで写真を取る者までいる。
彼女はそんな奇異の目に、その仲間かと思われるのではないかと気になって仕方がない。
「つーか、何でアンタ上履き履いてないのよ」
響子が睨みつけるように柄パンに訊く。
「わい普通の靴、履いとると水虫なってまうんや〜」
柄パンがカラカラと笑いながら答える。
「その年季がかった制服は何なのかしら?」
「これ中学のときから着てますのや。よう似合ってますやろ?」
歩きながら彼女に見せるようにポーズをつくって答える。
「……で、どこに行くにもいちいちそのウチワは必要なわけ?」
「そらもう、わいのトレードマークやから」
「わいとコイツは切っても切れへん、
それはまるでわいと幹はん響子はん、三人の仲のようなもんやね」
柄パンは真ん中に入って二人の肩に手を回す。
「そんなことより響子は〜ん、
せっかく隣の席にもなったっちゅうのになんだかわいに冷たいで〜?」
そう言って、響子の広いおでこにぐーっと顔を近づける。
「せっかくの美人がそんなムスっとした顔してたらあきまへん!
わいにプリティな笑顔を見せ……ギニヤァッ!!」
「気持ち悪いこと言ってんじゃないわよッ!!」
言いかけたところで響子が柄パンの手を振り払い、
ついでに思い切り強く、かかとで彼の足を踏んづける。
あまりのダメージに思わずしゃがみこんで踏まれたところをパタパタとうちわで扇ぐ。
「ひ、ひどいで響子はん……、わい生足やからめっさ効きますやんか〜」
「やっぱりあたし一人で食べるわッ!」
響子はぷいっと顔を背け、それだけ言い残して来た道を戻っていった。
「ははは、響ちゃん怒ってたねぇ。でもホントはやさしい子なんだよ?」
残された幹が柄パンに手を貸してそう言う。
「あたたた……、もうとっととメシ食いに行きまひょか……」

空腹の生徒で押し合いへし合いの購買部でなんとかアンパンとコロッケパンを
買い付けた二人は、近くの中庭でそれを食べることにした。
今日はよく晴れており風も穏やかということで、先客が多い。
ベンチは埋まっていたので桜の木が植わっている芝生に座ることにした。
やっと腰を落ち着け、パンの包みを広げる。
柄パンはふと、この中庭に何か音楽が流れていることに気づく。
パンをパクつきながらしばらく聞いていると、次の曲紹介に入る。
「続いては三年B組極悪さんのリクエストです。テレビアニメ、
UFO戦士ダイアポロンの主題歌……」
春の穏やかな日に相応しい、爽やかな声であった。
そしてこの声には聞き覚えがある。
彼が追っているアナウンスB子の声だ。
話の通り、放送部で活動しているようだ。
周囲から、彼女の噂が聞こえる。
「やっぱり涼奈ちゃんの声は癒しだよねー」
「癒されるねー、ベホ○ラーだね」
「オレ早速『涼奈の放課後ラジオ』録音したし」
「マジで、すばやいなー」
「やっぱオレの嫁ですから、当然でしょ」
「このバカの発言は置いとくとして、本人もカワイイよね」
「そーなんだよ。昨日山田と放送室の前張りこんだんだけどさ、神でしたよ」
「やっぱそーなの? やべぇ、オレも見に行こう!」
冴えない男子生徒数人がそんな話をしている。
最高にどうでもいいセリフの連発ではあったが、気になる情報もあった。
「幹はん、この子昼休み以外にも活動してはるんでっか?」
「うん。放送室にミニFM曲があって、放課後に放送部の生徒が日替わりでラジオを流してるんだ」
「彼女、一年生なんだけど新入部員紹介のときにすぐ人気が出て、
ゴールデンウィーク前にもう放送が始まったんだ」
「そうなんや、まあ確かにいい声してますもんなぁ」
人気が出るのには理由がある、柄パンが彼女を監視するのもその理由ゆえだ。
「ともかく、今日の放課後にでもあたってみますかいな……」
そうつぶやいて、残った牛乳を飲み干した。

放課後、早速柄パンは放送室へと向かう。
放送室付近の階段、廊下では所在無げにウロウロする数人の生徒の姿があった。
どうも昼間の男子生徒が言っていたように、
待ち伏せして一目B子を見ようという輩がいるようである。
「なんやわいもあん人らの同類みたいになってまうなぁ……」
ウチワで頭を掻きつつ考える。
ともかく、放送室の前まで近寄ることにする。
場合によってはウチワの力で風を操り、部屋の中の会話を聞き取ることもできる。
柄パンはそ知らぬふりで部屋に近づく。
そのとき、ガラガラと扉を開け、隣の部屋から一人の女生徒が出てくる。
その女子は柄パンに気付くと、指をさして声をあげる。
「大子一洋ッ! こんなところで何やってんのよッ!」
その、ポニーテールに真ん中わけのオデコがまぶしい女子は近野響子であった。
彼女の登場に、ウロウロしていた生徒たちもゴキブリのようにサササッと物陰に隠れる。
響子はなにやら不機嫌な表情でツカツカと柄パンに近づいていく。
「何? アンタもその辺に隠れてる奴らと一緒で北上ちゃんに用があるのかしら!?」
「アンタみたいのに付きまとわれたら彼女も迷惑じゃないでしょッ!」
響子の剣幕に柄パンはジリジリと後退る
「イヤイヤ、違いますがな。わいはちょーっと校内を散策してただけですって!」
とは言え、実際には彼女の指摘は概ね正しい。
「ふ〜〜〜ん。それならいいけど……寄り道してないでとっとと帰りなさい」
かなり疑わしい目である。
「はい、はーい。速やかに下校しマース」
柄パンは辛うじておどけて見せて反撃を試みるが響子は何の反応も見せない。
ともかく、この場は一度離れて再度出直すことにした。
振り返り、一歩踏み出そうとしたそのとき、今度は目の前の放送室の扉が開く。
出てきたのは左右にお下げを垂らした素朴で清純な印象の女生徒。
柄パンには見覚えがある、紛れもなくアナウンスB子こと、北上涼奈であった。
そして、彼女の方から声を掛けてくる。
「あの……もしかして柄パンさんじゃないですか?」
「へ!? あの、わいのことでっか?」
彼女ははっきり『柄パン』と呼んでいた。
以前に何度か『柄パンツ後醍醐』として会ったことはある。
が、そのときはもちろん正体を隠しており、姿も全く違う。
「エート、わいと会ったことありましたっけ……?」
とりあえずトボけて見せる。
「北上ちゃん、コイツのこと知ってるの?」
まずいことに響子が詮索をしてくる。
素直なB子はすぐに答える。
「あ、近野先輩。先輩のお友達なんですか?」
「まあ、友達っていうか……同級生ね」
「ひどいなァ響子はん。二人はラブラ…………ッ!!」
柄パンが口を挟もうとすると響子がすかさずスネにケリを入れる。
「アンタは黙ってなさいよッ!」
「あ、あの、前にハチ五郎さんたちと一緒に……」
「何、やっぱりあのバカたちと関係あるのッ!」
ジロリと柄パンを睨む。
「エー、そうやったかなァ。勘違いやあらしまへんのかー?」
「だって、柄パンツ後醍醐……」
カンカンカンッ!
柄パンはとっさに下駄を踏み鳴らしてB子の言葉を遮る。
「わーわーわー、思い出したで!」
「ヒットマ……いや、波多野先生が涼奈はんのこと呼んでたんやー。
さあさあ、早よ行きましょッ!」
オーバーなアクションでさっきの発言を誤魔化す。
そして、ガシッとB子の腕を掴み、逃げ出すようにその場から離れる。
「え、あ、あの……」
B子は特に抵抗するでもなくそのまま連れられていく。
「ちょッ、北上ちゃんを放しなさいよッ! この変態ーーッ!」
遠く、響子の声が廊下に響いていた。

あまり人気のない、非常階段まで逃げてきた。
そろそろ日も傾いてきたが、グラウンドでは運動部の生徒たちが走り回っている。
柄パンはまず、B子がなぜ自分のことがわかったのか聞きだすことにした。
「涼奈はん、いや、B子はん。何でわいが柄パンツ後醍醐やとわかりましたん?」
単刀直入に訊いた。
「はい、『声』が同じでしたから……」
素直に答える。
「声って、そんだけかいな? ぜんぜん見た目は違うねんで?」
「そうですけど、『声』も『言葉』も同じでしたから……間違いないって思いました」
B子はまっすぐ柄パンの眼を見ながら答える。
「そりゃ、どーゆーことかいな……?」
「声色や雰囲気を変えても、
その人の本質が『声』や『言葉』から失われることはありません。
私にはそれがわかります」
柄パンは彼女のやわらかな微笑みの前にやや緊張する。
「しゃべりかたが同じっちゅうこと?」
B子は少し困った顔を浮かべて話しを続ける。
「えと、違います。ちょっと上手く説明できないかもしれないんですけど……」
「『声』はその人の意志の表れ、『言葉』はその人の魂の表れです。
それらはいくら表面を取り繕っても誤魔化せないんです」
「言葉で何もかもわかるわけじゃないんですが、全てを隠し通すこともできないんです」
「だから、柄パンさんのこともすぐに気付きました」
B子は一通り話し終えると、ふうっと息を整える。
「それがB子はんの『能力』でっか……。『言霊使い』の実力は本物のようですなぁ」

へべく