−桜木荘−
モラトリアム伝説編 第2話(ピヴィ)
| 起きて、ご飯を食べて、寝る生活が続いています。 たまーにバイトして、たまーに買い物にも出かけます。 そうしないと、頭にキノコが生えてきます。 今日も、そんな感じで、ぐだぐだと買い物に出ました。 南田中商店街までの道のり、佐藤くんはいろいろなものに出会います。 たとえば、電信柱の陰に隠れる電信柱ちゃん(佐藤くん命名)。 いつも、電信柱の陰から佐藤くんを見ているのですが、 近づいたり、注目するだけで電信柱の後ろへ隠れてしまいます。 「こんにちはー、電信柱ちゃん」 そういって、手を振ると、柱の陰から恥ずかしそうに手を振り返してきます。 未だに、男の子か女の子かも判りません。 (足があるから、幽霊ってわけじゃないんだろうなぁ…) と、漠然と考えています。 二丁目の田中さんの角を曲がると、遭遇するのが、野良犬の辰(佐藤くん命名)です。 辰さんは、この辺りを仕切っているボス野良です。 特技は「立つ」ことでたまに二足歩行しているのを目撃されます。 人に見られたのに気が付くと、ばつが悪そうに四足歩行に戻ってしまいます。 (多分ただの犬だとは思うけど…)「辰さん、こんにちはー」 野良同然の佐藤くんも、ボス野良の辰さんに挨拶を欠かしません。 初めて会った時に噛まれたから恐れている、というわけではありません。 辰さんはちらりとコチラを見て、ふいと去っていきました。 「いなせだ」 それから、カタツムリのカッちゃん、ハシブトカラスのカーくん、カッパのカンさんなど と出会いますが、佐藤くんは挨拶だけで通り過ぎてしまうので、割愛。 知り合いが多くて、外に出るのは億劫だけれども、以外と楽しんでます。 「挨拶するだけで、けっこう時間食うもんだよな」 基本的に独り言です。 南田中商店街は、近くに大きなスーパーがあるせいか、駅が近くにないせいか、 とても寂れています。 通りの入口では、大きな看板がアーチを描いて『南田中商店街へようこそ』と歓迎してくれます。 衣料品店、お茶屋、お菓子屋、クリーニング屋などが並びます。 魚屋や米屋もあるような気がします。 一番気にあるのは、みんなが噂をしている『あの、細い路地』です。 いつも何か事件が起きそうな雰囲気ですが、起きた話は聞きません。 今日は、食料調達の日なので、佐藤くんは八百屋に向かいました。 「へい、らっしゃい」 やっとまともな人に声を掛けられたわけだけれど、 この八百屋、佐藤くんにとってはまともではありません。 「えーと、このキノコの詰め合わせっぽいやつを」 と、八百屋の親父に頼むがはやいか、「おいら達を食うのかよ!」 「買って食うのかよ!」 「購入していただいちゃうのでございますか!」 「消化しちゃうのかよ!」 「んでだしちゃうのかよ!」 キノコ達が騒ぎ出します。 佐藤くんが買おうとする野菜はみんなしゃべり出します。 「ま、まぁ、これが新鮮って言うんだろうなぁ…。 おやじさん、はやいとこ包んでくれない?」 聞こえるような、聞こえなかったことにするような、 佐藤くんは、おやじさんにお金を払うと、急いで包みを買い物袋に詰め込みます。 帰り道の間中、キノコ達はしゃべり続けます。 「包丁で切っちゃうの?」 「血とか出るぞ、血とか!」 「内臓飛び出すかんな!」 「スプラッタは嫌でございます!」 「んでだしちゃうのかよ!」 今日はお鍋です。 とはいっても、鍋の中には、しょうゆベースの汁とキノコしか入ってませんが。 あと、一人鍋ですけどねぇ。 「熱いよ、熱いってば!」 「土左衛門みたいにふくらむぞこら!」 「の、のろってやりますぅ」 「食ったら、キノコはえるからな!」 「んでだしちゃうのかよ…ぶくぶく」 「おーい、佐藤くーん」 どかどかとやってきたのは103号室の井野やんでした。 相変わらず鍵を掛けていない部屋の戸を勢いよく開けて入ってきます。 「鍋か、一人で鍋なのか!?」 「お、おう…」 それを聞いた井野やんは、だだだだっ! と部屋を飛び出したかと思うと、 どかどかっ! と手に袋を提げて戻ってきます。 「鍋っていったら、白菜でしょ。提供するから、一緒に食べようよ」 井野やんは流しから包丁を持ち出してきて、白菜を手早く刻むと、 鍋が埋まるほどの量を一気に放り込みます。 「井野やんの白菜はしゃべらないのな…」 「ん?」 「いや、なんでもない」 二人で鍋が煮えるのを待つ間、特に何もしゃべりません。 「そろそろいいんじゃないか」 井野やんはmyお椀を取り出し、山盛りによそいます。 次いで、佐藤くんのお椀を受け取り、同様によそってくれます。 ふーふー、はぐはぐ。 「うまいねぇこれ。いいキノコ見つけたねぇ」 「そ、そうか? よく食えるな…」 井野やんはがつがつ行っていますが、佐藤くんはちょっと手が着きません。 「どうしたの、たべないの?」 「いや、そういうわけじゃないんだけど」 おもいきって、白菜ごとキノコを口に放り込みます。 「あ、うまい」 二人で綺麗に食べてしまいました。 (ん、朝か…) 翌朝、佐藤くんが目覚めると、枕の上がなにやらもぞもぞします。 何だろうと、目をしばたいてよく見てみると、 「あー!」 そこには、ぽろぽろと、キノコが落ちていました。 慌てた佐藤くんが頭をぽりぽりと掻くと、ぽと、ぽと、っとキノコが落ちてきます。 「うーむ」 少し考え気味の佐藤くん。 「ラッキー、今日はこれでご飯にしよう」 そして今日もキノコのご飯でした。 |