−桜木荘−
モラトリアム伝説編 第5話(氏照)
| #5 焼肉は遠くになりにけり 今日も今日とて大変ヒマな佐藤君。 だがそれよりも重大な問題が発生していた。 「アー、腹へったなー。井野やん」 自室で寝転んでいる佐藤君、すぐそばでは井野やんが壁にもたれかかっている。 「そーだねー」 「給料日まであと何日だっけ?」 「エート……28日だから、三日後だね」 「井野やん、あといくらあんの?」 ポケットをまさぐる井野やん、財布は持ち歩かない主義である。 「1…2…3……263円」 「アー、オレの勝ち」 「えっ! 佐藤くんいくら持ってるの!?」 「188円」 「エー、少ない方勝ちなの!?」 「足していくら?」 「……451円だね」 「今日を入れて、平均いくら使えんの?」 「150円、余り1円だよ」 「少ねーなー……。冷蔵庫になんかあったっけ?」 「じゃあ、僕の部屋ののも確かめてくるよ」 ゆっくりと立ち上がる二人、それぞれの冷蔵庫から残っているものを持ち出してくる。 ドカドカとテーブルに物が置かれる……とよかったのだが、コトコトぐらいである。 「うおーい、ロクなもんがないなー」 「まあ、仕方ないよね」 佐藤君の冷蔵庫には…… 梅干2つ マーガリン 納豆のたれ×3 玉ねぎ1/2 である。 井野やんの冷蔵庫には…… イチゴジャム1/3 スライスチーズ2枚 魚肉ソーセージ1袋(6本) かつお節1袋 だ。 「主食系が何もないのが痛いなー」 「買ってくるしかないね……」 「米は買えねーべ」 「一応ファイナルマートのチラシも持ってきたよ」 ファイナルマートというのは大通り沿いのスーパーである。 『最後に辿り着く』ファイナルマートだ。 二人でそのチラシをじっくり眺める。 「こーして見るとさー、イチゴって高いなー」 「うん、ぎりぎり1パック買えないね」 「かぼちゃ1個も買えないぜ」 「刺身1パックは……買えるけどぜんぜん腹は満たされない」 「オーストラリア産牛肉のステーキ……買えねぇ、150グラムがすごく遠い」 「肉とか刺身はダメだね」 「寿司食いたいなー、のり巻系か稲荷しか買えないけど」 「寿司も無理だよ……袋めんの5食パックが188円だからこれにしようよ」 「仕方ない……あと263円」 「あとこの食パンでいいじゃない、128円」 「残り135円。って、おかず買えないじゃん……」 「この特売の卵105円だよ」 「並ぶぜ」 「仕方ないでしょー、100円だもん」 「30円余ったぞ」 「共同貯金に入れとこうよ」 「あれもゼンゼン貯まらないなー」 共同貯金というのは二人で2リットルのペットボトルに貯めている小銭の積立金だ。 「確かこないだ数えたとき……1306円だったよ」 「マジでー!? 焼肉には程遠いなぁ」 ともかくも、ファイナルマートで先の食糧を買い込む二人。 今度はその配分である。 「さー、どーするか」 「食パンは8枚切りにしたから朝夜で2枚ずつだね」 「昼抜き?」 「3食は無理でしょー」 「じゃあラーメンも一日で2食か」 「そだね。1食分余り、これで今日は乗り越えようよ」 「どーすんの?」 「玉ねぎと魚肉ソーセージを納豆のたれで卵とじにして、ラーメンに入れようよ」 「おお、すげえ、豪勢じゃん」 「あとかつぶしかけて梅干つまめばいいじゃない」 「そーすっと残り2日は貧弱だなー」 「目玉焼き食パン×2と卵ラーメン×2だね」 「マーガリンとジャムとチーズはパンのときに使うか……」 早速ソーセージの卵とじラーメンを作る井野やん。 二人でチマチマとなべをつつく。 「なんつーか、人間苦しいときこーやって支えあってゆくわけやね」 「そーだねー、いーよねー」 黙々と食べ、すぐになべは空になる。 いつもどおり、水道水を飲んで一息つく。 窓の外は雨。 ボンヤリと外を眺める。 「やっぱ、肉だな」 「やっぱり、焼肉だね」 「次はいつ食えんのかなぁ」 「給料出たら食べに行こうよ」 「キビシイっしょ……」 そんな月末の夜でした。 |