星の船で征こう!その1


 

星の船で征こう!投稿者:うじてる投稿日:2010/11/24(Wed)22:55No.62  

新地球歴170年。
旧西暦でいえば2237年。
ここは地球からほど近い、宇宙に浮かぶとある人工衛星。

カンカン!

一人の女がキツめに扉をノックする。
その仕草からは少々イラついている様が感じられる。
そして、返事を待つことなく扉を開ける。
すうっとオートドアがスライドし、中に踏み込む。
「どうぞ……って、もう入ってきてしまいましたか」
中に居た青年がスッと立ち上がり述べる。
「ああ、悪かったね。年寄りはせっかちでね」
二人は制服を着ている。
地球連合宇宙軍の制服である。
青年はすぐに右手でソファを指し、勧める。
今度はその合図を待った女性が、どっかと腰を下ろす。
「で、今度はどんな用さね。近頃はすっかり平和だと思うが?」
女性は座るやすぐに話を切り出す。
「おやおや、お茶ぐらい出そうかと思ったんですが……」
「本部のお茶は不味いからね、いらないよ」
「なら、ワインはどうです?
 僕が個人的に置いているものがありますよ」
青年が背後の棚のグラスを示す。
「……酒は医者に止められてるよ」
不機嫌そうに返事する。
「そうですか……。ではすぐに話を始めましょう」
青年は立ったままデスクのコンソールを操作する。
すると、ソファの前のテーブルにホログラフが浮かぶ。
それは球体とその断面、およびそれらの説明文である。
「なんだい、こりゃあ」
女性はいぶかしげな声を上げる。
「見ての通りです。特弩級惑星艦ウミヤマ。
 第1方面軍第9艦隊特殊分艦隊所属の新造艦」
青年は淡々と説明する。
「……こいつが船だってのかい?」
「ええ、自航する以上は『船』とするのが妥当ではないでしょうか?」
ウミヤマは小惑星を球体に加工し内部をくりぬき、
球体の内側を居住空間とし、外殻部に推進装置及び武装を施してある。
さらに外殻部を流体金属で覆い、装甲としている。
従来の宇宙戦艦と比較してもかなり巨大で、要塞に近いと言える。
「もちろん前例の無い、艦艇です。
 ゆえに指揮官に困りまして……、だからこそあなたを呼びました。
 宇宙軍に讃えられる『不屈の闘将』キャプテン・ミソラを」
堂島美空大佐。
数多の作戦を成功に導き、幾度となく軍を壊滅の危機から救っている。
その一方で独断専行・命令違反も過ぎるところがあり、
その都度予備役に退いていたが、
危機が訪れる度に現役復帰を繰り返していた。
「この艦には民間人も多数乗艦します。
 絶対的に信頼できる方にしか任せられません」
「民間人?」
「ええ、具体的に言えば……
 この艦には街が丸ごと一つ内包されているということです。
 第二海山市、その住民約十万がです」

つづく

 

第2話投稿者:ピヴィ投稿日:2010/11/25(Thu)15:29No.63  

「てやんでぇ、ここにゃぁ新鮮な魚はあるんだろうな!」
威勢のいい声が狭い通路にこだまする。
「こちとら江戸っ子でぃ、江戸前が無くてどうやって寿司を出せってんだ」
白い調理服を着込んだ初老の男が暴れているのを、
同じような格好をした若い男がなだめようとしている。
「親方、そんな暴れないでくださいよ。ほら、みんな見てますよ」
通路には大勢の人たちが並んで歩いていた。
皆この船に移住する事になった海山市の市民である。
約10万の市民がすべてこの船に乗り込むことになっている。
それには仕方のない事情があったのだが、すべての人が納得して乗り込んでいるわけではない。
この通路には不安な顔をしている人がほとんどである。
親方はそんな周囲を見回すと、さらに威勢のいい声を張り上げた。
「しけたつらぁしてんな、あとでうちの店にくりゃぁうまい寿司をたんまり食わせてやらぁ」
「わーわーぎゃーぎゃー、てやんでばーろちきしょー」
と、親方は一向に収まらない。
周りは変なオヤジだ、迷惑なオヤジだと親方の方へ目をむけるが、
そのおかげで今いる現状の不安を一瞬だけ忘れていた。
しばらくすると出口が見え始める。
通路を抜けると、そこには巨大な街が広がっていた……が、雪は降っていなかった。
基本的な構造は海山市とほとんど同じだが、空もなく太陽もない。海もなければ山もない。
遥か上空の天井からは無数のライトが煌々と街を照らしている。
「まぶしいな」
目の上に手をかざし、親方は街を見渡した。
「おお、オレの店があるじゃねぇか。しかし、海も山もないんじゃ、海山市の名が泣くな。
おい、さっそく店に入って仕込みを開始するぞ。とりあえず挨拶にまわらにゃならねぇ所があるからな」


コンコン
「誰だい?」
キャプテン・ミソラは自室で大量の書類に目を通していた。
この時間に来客の予定はなかったと思うが、書類から目を上げるとドアを見つめた。
「入りな」
そういうやいなや、バーンと勢いよくドアが開かれる。
「ババァ、引越祝いに来てやったぞ!!」
でかい寿司桶を両手に持った親方がずかずかと入り込んできた。
「あんた、どうやってここまで入ってきたんだい?」
まぁ、いつものことと半分あきれ気味にキャプテン・ミソラは親方を迎え入れた。
「私の部下達は怪我をしてないかい? 後藤蛮太はまだ健在ってことかねぇ」
「まぁ、この通りよ」
親方は腕をまくってニカッっと笑って見せた。
「しかし、長旅だっていうのに老人ばっかりよく集めたもんだよ……」
キャプテン・ミソラは小声でつぶやいた。

つづくのか!?


キャラクターデータ
後藤蛮太 59才 寿司職人 身長170cm 体重85kg
蛮太の名を持つがそんなにでかくはない。
キャプテン・ミソラの昔の仲間?
まぁ、力仕事が得意なんでしょう。

 

第3話投稿者:ベガ投稿日:2010/12/17(Fri)20:07No.64  

わずかな振動が断続的に続き、『船』を揺らしていた。
どこからともなく、ミシミシと不気味な音が聞こえる。
「興味深い」
「…なんだって?」
「興味深いと言ったのです、艦長」
四畳半の和室。
部屋の中央には質素な座卓が置かれ、その前にはミソラ艦長その人が座っている。
座卓の上には、一輪の花を咲かせる植木鉢が、ちょこんと置かれていた。
ミソラはその花に向かって言った。
「何がそんなに興味深いんだい?」
「あなたたちですよ」
ぐらりと『船』が揺れ、思わずミソラは畳に片手を突いた。
「知れば知るほど、実に興味深い」
ぴくりとも葉を動かさず、紫の花はそう言った。
「…そうかい」
ミソラは呟いて花を見つめた。紫の小さな花は、スミレだろうか。
「そうです、私はスミレです」
スミレの花が言った。
「やっぱり。よく道端に生えてたよ」
「知っています。あなたの記憶はすべて見ましたから」
「へぇ〜そうかい、じゃあ初恋の相手もわかるってのかい?」
「面白いですね」
「何が?」
「なぜ誤魔化そうとするのです?」
金属的な機械音がどこか遠くから聞こえる。
無理やり高速で回転するファンのような不快な高音だった。
ミソラは言った。
「なんのことかわからないね」
「先程もはっきり聞こえていたのに聞き返しましたね? なぜです?」
「記憶がすべてわかるってんなら、その理由もわかるんじゃないのかい?」
「本心を隠すのがあなた方の習性だというのは理解できます。しかしその理由が理解できない」
ミソラは黙ってスミレを見つめた。紫の花はただの花にしか見えない。
「…それを知るために乗り込んできたんだね」
断定する口調だった。
スミレは言った。
「侵略、支配、乗っ取り…実にユニークな発想ですね、艦長」
「……」
「勿論違います。安心してください」
「だったら『船』のコントロールを返しちゃくれないかい?」
「それはできません。18光年先に、我々の子供たちが瀕死の状態でいるのです」
「艦長として、彼らが助かるよう取り計らうと確約する」
ミソラは即答した。
「ええ、確かにあなたはそう考えている。でも一方では別のことも考えている」
「ミセス・スミレ…そう呼んでもいいかい?」
「スミレで結構ですよ、艦長」
「ではスミレ、この『船』はあたしの『船』だ。10万人の命を守らなきゃならない」
「知っています。そのプレッシャーも」
「だったらわかってほしい」
「完璧に理解してますよ、艦長」
スミレの思考がミソラの頭にまざまざと映し出された。
それはミソラの記憶そのものだった。

2日前、この座卓に植木鉢が置かれていた。
ミソラは、てっきり誰かからの贈り物かと思った。
だが、そうではなかった。
やがて『船』の針路が、許可なく変更されていることに気が付いた。
あり得ないことだった。
即座に捜査班が組織され、徹底した調査が行われた。
結果、捕まった犯人は、機関部で働く技術職員、その大半だった。
彼らはまったくの無意識に、ごくごく小さなミスを犯していた。
それ自体は何ら問題にもならない、つまらないミスだった。
しかし、そのミスが積み重なり、結果として『船』の針路を大きく変えていたのだ。
驚くべきことだった。
到底偶然とは思えない。何の意図もなくそのようなことが起こるはずもない。
そして、植木鉢の花が咲いた。
スミレが喋り出した。
彼女(もしくは彼)は、『船』のシステム奥深くまで侵入していた。
指揮権までをオーバーライドし、彼女のコードなくして『船』を動かせなくしてしまったのだ。
鉄壁の防御網も、スミレのテレパシーの前ではまったくの無力だった。
今も機関部では、スミレの指示により機械が自動操縦で作動している。

再び襲った大きな揺れに、ミソラの意識は現実に戻った。
「…スミレ、ひとつ教えといてやるけどね」
唸るようにミソラは言った。
「勝手に人の思考を読むのは無礼だ」
「なるほど、覚えておきます。非論理的で実に興味深い」
スミレが言った。
「しかし今、あなたが気にかけているのは、大きな不安と戦闘準備、そして人命のことです」
その言葉に、部下の顔、海山市の様々な人々の顔がミソラの脳裏に浮かぶ。
「けれども何よりも気にかけているのは、『船』のコントロールを奪われていること、その事実です。
あなたはそれが気に入らない。必ず奪い返そうとする」
ミソラはため息をついた。
「わかった、お手上げだね。確かに『船』を奪われたことは気に入らない。
でもあんたの子供を救いたいって気持ちには同情する」
再び大きな揺れが『船』を襲った。
明らかに機関部で何かが起きている。それが『船』を振動させ、危険に陥れている。
ミソラは身を乗り出し、スミレを睨み付けた。
「…だからね、必ず助かるよう取り計らうと確約する。あたしの『船』を返しな」
「残念ながらできません」
「なぜだい!」
「取り計らうだけでは不十分だからです。即座に助けに向かわなければなりません」
「…あんたね、18光年ってのがどれだけの距離かわかってるのかい?
この『船』でさえ何ヶ月もかかるって距離だよ?」
「勿論、よくわかっています。しかし不可能ではない」
「…どういうことだい?」
「機関部をお借りして、多少の改造を行っています」
「…いい加減にしときな、こっちにも考えがあるよ」
「先程から部屋の外で待機している人間たちのことですか?」
「そうだ」
「室温を下げ、私の活動を鈍らせ、冷却装置で捕らえようという?」
「…そうだ」
「面白い」
スミレがそう言った途端、ミソラの目の前に、突如後藤が現れた。
後藤は刺身包丁を片手に握り、腕まくりをしている。
その恰好のまま、逆さになって宙に浮いていた。
凍り付いたようにまったく動かない。
いや、動けないのだ。スミレの念力がそれを許さない。
「彼をこのまま『船』の外へテレポートすることもできます」
スミレは言った。
「彼だけではなく、あなたをテレポートすることもできます」
「…そんなことしたら、子供たちは救えないよ。待機してる部下たちがおまえを氷漬けにする」
「どうするかは、あなた次第です」
そのとき、一際大きな揺れが『船』を襲った。
「くそ! いったい何をやらかしてるんだい!」
「準備が整いました、艦長」
スミレが言った。
「なんだって!」
「エンジンの改造が終了しました。ワープに入ることができます」
「…なに?」
「このまま私の子供たちを救いに行くか、それともここで抵抗を試みるか、あなたが決断してください、艦長」
スミレはそう言った。

つづく

NewCharacter
スミレ
知性を持った植物。後のウミヤマ副長。
人類を遥かに超える技術力を擁した植物型種族の末裔であり、
強力なテレパス。念力やテレポートにも長ける。
独自の機械・電子工学にも精通し、人類の技術が輪ゴム鉄砲くらいにしか見えない。
ただし、輪ゴム鉄砲なのに「実によく出来ている」と評している。
論理的思考を持ち、個人よりも全体を優先する傾向が強いが、
艦長の片腕として公私共に助力することとなる。
趣味は日向ぼっこ、ねこじゃらしを生やして猫をあやすこと。
制作費をケチるため、俳優の代用だった鉢植えがそのまま使われた。


第4話投稿者:うじてる投稿日:2010/12/30(Thu)22:54No.65  

地球連合宇宙軍、第一方面軍、第九艦隊附属、特別独立遊撃艦隊。
通称、ドージマ艦隊。
これが宇宙軍におけるウミヤマの所属である。
なお、通常は艦隊司令官の名を取って部隊名を呼ぶ。
第一方面軍は地球近海の防衛に当たる精鋭軍であり、
その中でも第九艦隊は特殊任務に就く部隊のみが所属している。
ドージマ艦隊の戦力は以下の通りである。
旗艦、特弩級惑星戦艦ウミヤマ。
重巡洋艦牡丹。
軽巡洋艦椿。
駆逐艦芒。
駆逐艦菖蒲。
戦闘用人型重機(ヘビーアーマー:HA)40機。
陸戦用パワードスーツ(ライトアーマー:LA)200着。
巡洋艦は戦艦に比べ戦闘力で劣るが、速度が速く航続距離も長い。
よって、広域の哨戒活動や交戦宙域への先行隊として運用される。
駆逐艦は小型の攻撃艦で、惑星やコロニー近海での輸送艦などの護衛、
拠点防衛などの主力として運用されている。
いずれもヘビーアーマーを4機(1隊)搭載しているのが普通。
ヘビーアーマーはパイロット1名によって操縦される人型のロボットである。
現代においては交戦時のジャミングが強力で、
遠距離からの誘導兵器はほぼ無力となっている。
そのため、戦闘の大半は有視界の範囲で行われる。
あらゆる艦艇は近距離では巨大な的になってしまうため、
戦闘の最前線はヘビーアーマーの出番となる。
ヘビーアーマー隊が撃破された場合、
艦艇の防御力は著しく低下するため撤退するのが一般的である。
ゆえに戦闘はヘビーアーマーを中心とし、
味方艦艇・拠点を防衛しつつ、敵方HAを討つというスタイルになっている。
ただし、戦艦は強靭な装甲と対地空防御を持ち、単艦でも強力な戦力である。
ライトアーマーは拠点内への侵攻、市街地の占領などに使われる。
ドージマ艦隊はその名の通り、ウミヤマのミソラ艦長が司令官も兼任している。
本来なら第九艦隊の長が司令官となるところであるが、
独立分艦隊であるためミソラ艦長が『代将』として指揮を執る。
そのため、ドージマ艦隊を率いる間は准将扱いとなり、
艦隊司令官として必要な階級が与えられる。

ミソラ艦長たちがスミレと悶着を起こしている間、
艦内の第二海山市では関係なく日常生活が営まれていた。
ゴールデンウィークも終わり、初夏の日差しもまぶしい朝。
と、言いたいところだが陽の光りではなく人口の光りである。
ただ一応、春夏秋冬の季節や曇りや雨ふりも再現されている。
第二海山高校の二年生、黄原豹介と青海鮫、赤羽鷲雄も揃って登校中であった。
ちなみに三人は幼馴染であり、小中高と同じ学校、同じクラスの腐れ縁である。
ウミヤマ乗艦のどさくさで学校も休校となっていたのだが、
ついに再開となり今日が初めての登校である。
「豹介よう、さっそく情報を仕入れてきたぞ」
鮫が豹介の肩に腕をかけヒソヒソと話してくる。
「鮫の情報ってことは女の子のことでしょ?」
豹介があきれ顔で答える。
鮫は何かにつけ女子を追い掛け回しているがその戦果は甚だ芳しくない。
「……」
赤羽鷲雄は寡黙である。
二人の話をいつも無表情で聞いている。
「まぁ〜確かに女子だったら申し分ないんだけどさぁ……」
「いったい何がさ?」
「転校生だよッ! 代わり映えのしない新学年から約一か月、
 この気だるい五月に転校生だぜッ!」
「転校生ねぇ……」
「オイオイオイッ! ずいぶんテンション低いじゃないのッ!?」
「……で、どっからの情報?」
「うちの叔父さんがミソラ艦長の知り合いじゃん? そっからよ」
「なんで軍ルートから……」
「そりゃあ……どうやら軍人が転校してくるみたいなんだ」

つづく

○にゅ〜きゃらくた〜

【黄原豹介】きはら・ひょうすけ
高校二年生。もちろん男。
豹介とは名ばかりで肥満体型のインドア少年。
HA研究会所属。

【青海鮫】あおみ・こう
高校二年生。むろん男。
鮫とは名ばかりで狙った獲物をとり逃し続ける少年。
帰宅部。

【赤羽鷲雄】あかばね・わしお
高校二年生。やっぱり男。
鷲雄の名に恥じない視力の良い少年。
剣道部、柔道部、空手部、相撲部、レスリング部を日替わりで掛け持ち。


第5話投稿者:ピヴィ投稿日:2011/01/06(Thu)07:57No.66  

スミレは冷静なふりをしつつミソラと対峙しながらも、
内心では少し焦りを感じていた。
エンジンの改造は上手くいったが、重要な人物の思考がどうしても読み取れないでいた。
(まったく非論理的だ)
滅多にないことではあるが、スミレは苛立っていた。
なんとか予定通り進んでいるのは該当の人物が現在眠っているらしいからだ。
「艦長、早く命令を出してください」
スミレが声ではない声でミソラに話しかける。
「焦っているじゃないか、子供を助けるのは1秒を争うものなのかい?
そうじゃないね。
私の部下は私にも手に負えないものが多くてね、手間取ってるみたいだね」
「そんなことはありません、なんでしたら彼をこのままずっと眠らせておくことも出来ます」
「そんなことはさせやしないよ!」
ミソラは素早くコンソールを取ると怒鳴った。
「くぉら、岩尾機関長さっさと起きんか〜!!」


一升瓶とともに抱え込んでいたコンソールから突然ミソラの怒鳴り声が聞こえ、
岩尾巌は跳ね起きた。
ゴンッ
そしてしたたかに頭をぶつけた。
「イテテ、なんだここは……」
たんこぶの出来た頭をさすりながら、もぞもぞと動き出す。
ここは機関室のダクトの中だったはずなんだが…
周りを見ると見知った部分もあるが大幅に変化していた。
「艦長、こいつぁどうしたんだ。
ワシの知らん間に勝手に改造したんか!」
岩尾はその小さな体を器用に動かしながら、
いつの間にか複雑に入り組んでしまったダクトから這い出してきた。
機関室に出てエンジンを見る。
「なんじゃぁこりゃぁ……」
自分の見知ったエンジンとはまったく違うものに、変わっていた。
左側コンソールをいじってエンジンの状態を調べてみるが、
内容はわけのわからないものだった。
少なくとも自分の知識内には存在しないものだった。
「おい、こいつぁどうなってるんだ!?」
エンジンルームは静寂に包まれ、機関部員達は黙々と何らかの作業をしている。
その顔からは表情や生気といったものが感じられない。
そこへ、コンソールから艦長の声が発せられた。
『ミスター岩尾、船が乗っ取られた。エンジンをなんとかしてくれ』
「簡単に行ってくれる、こいつぁワシの知識じゃ2時間はもらわんと」
『時間がない、5分でやってくれ』
「しょうがない、奥の手で行くか。こいつはワシのエンジンじゃないと効かない手だが……」
そう言うと、岩尾は手にした一升瓶の蓋を開けると
エンジンに付けられた秘密の挿入部から中の液体を注ぎ込んだ。
とたんにエンジンが怪音を発し、激しく振動をはじめる。
機関室内に警報が鳴り響き、エンジンの異常を訴える。
「ひゃっひゃっひゃ〜、どうだ、久々の酒はうまいだろう」
岩尾ははしゃぎながらコンソールを叩く。
同時に自分の口へ液体を注ぎ込むことも忘れはしない。
ぷはぁ〜
うひゃひゃうひゃひゃ
といっている間に、機関部のコントロールは完全に岩尾の手に戻っていた。
「艦長、こっちは完璧だぃ」

『艦長、こっちは完璧だぃ』
岩尾の声が静かな部屋に響いた。
「どうだい、スミレ。船は取り戻したよ」
ミソラはふーっと息をつく。
足を組み直し、そっと目の前の植木鉢を見つめる。
「なんと、あの人間はなんですか」
「ありゃぁ、ただの酔っぱらいさぁ」
スミレはあきれたように首を振る……ようにミソラには見えた。
「どうやら彼を操作することは出来ないようです。こうなれば……」
「あわてんじゃないよ、あんたがちゃんと頭下げりゃぁ
あんたの子供達を助けに行ってもやるさ」
にやりと口をゆるめ、ミソラは一口水を含んだ。

つづいとく?


新個性:

岩尾巌(いわお げん)65歳。
ウミヤマの機関長。
天才機関士といわれているが、ただの酔っぱらいでもある。
彼が扱うエンジンは独自の改造が施されるために、
彼以外には扱えなくなるという欠点がある。
身長140cm、無精髭にややはげ。


第6話投稿者:ベガ投稿日:2011/01/08(Sat)12:52No.67  

「でらべっぴん!」
怒号にも似た鮫の叫びが教室にこだました。
一斉に第二海山高校二年へ組の生徒たちの視線が集まる。
だが当の鮫の視線は教壇の脇に立った少女を熱心に見つめていた。
「やっぱ、やっぱでらぺっぴんじゃん!」
古のエロ本のタイトルを連呼する鮫。
それは彼の言葉で「とてもキュートな女の子ですね」という意味がある。
無論、彼にしかわからない。
故に、生徒たちの表情には「また始まったよ」的なニュアンスが強い。
しかし、教壇脇に立った少女だけは違っていた。
「ふむ、実に興味深い」
少女は物珍しげな視線で鮫を見つめていた。
「ただ私と交配することは理論上不可能です。しかし、ありがとう。あなたの私への賛美は嬉しく思います」
慇懃に言って、ぺことお辞儀をしてみせる。
その頭の上で小さな紫の花を咲かせた植木鉢が、わずかに揺れた。
「お、おおぅ…」
思わぬ反応に珍しく鮫が言葉に詰まる。
「あー、とにかく座れ」
担任のラムズフェルドが鮫に言った。
「スミレ、自己紹介をしろ」
ラムズフェルドの言葉に、植木鉢を頭に乗せた少女は小さく頷いた。
「私は、
地球連合宇宙軍第一方面軍第九艦隊附属特別独立遊撃艦隊特弩級惑星戦艦ウミヤマ機関部所属スミレ代理少尉
です」
「少尉!?」
今度は豹介が叫びながら立ち上がった。
「何か問題があるのか、豹介?」
ラムズフェルドが竹刀を片手に言う。
「い、いや、問題ってわけじゃないですけど…」
「なんだ? 言ってみろ。これから仲間になるんだ。気になることは言っておけ」
「…えと、僕たちと同じ高校生で少尉ってのは、いささか疑問があります…」
「おまえのイササカ先生なんかどうでもいいだよ! それよりさスミレちゃん!」
すかさず鮫がしゃしゃり出る。
「なんで頭に植木乗っけてんの? それってファッション的なものなの? ねーねー」
その瞬間、二年へ組の生徒全員の頭に、スミレの思考が直接叩き込まれた。
それは、スミレがウミヤマに潜入したことや、エンジンを改造したこと、
それにより巡航速度がこれまでのほぼ倍になったこと、
そして和解したミソラ艦長が針路の変更を許可してくれたことなどだった。
加えてその代わりとして、遥かに人間を超えるその能力を
機関部の技術顧問として提供することや、
アクセス権限の利便性から、階級は代理少尉扱いになったこと、
さらには人間のことをよく知りたいという願望に応えて、
高校入学が許可されたこと、
そして、自作のホロプログラムによって、人間らしい姿を持ったことなどが、
詳細に渡ってレポートされたものだった。
「…と、いうわけです」
にっこり微笑み、スミレは言った。
人間の表情に慣れていないのか、その笑顔は酷くぎこちない。
だがテレパシー耐性のない二年へ組の生徒たちはそれどころではなかった。
酷い頭痛と吐き気に襲われ、机に突っ伏し、悶え苦しんでいた。
数百時間に及ぶスミレの体験が、つまり知性を持った植物の体験が、わずかコンマ数秒に凝縮され、
ダイレクトに叩き込まれたのだ。脳神経が混乱をきたすのも無理はない。
「な、なるほど…さすがでらべっぴんだぜ…」
それだけ言い残し、鮫は派手に嘔吐した。未消化の朝食が撒き散らされる。
「うっ!」
目眩を起こしていた豹介は、その強烈な臭いに思わず両手で口を押さえた。
せり上がって来るものを無理やりに抑え付ける。
だが間に合わなかった生徒たちも多くいた。
あちこちで嘔吐が繰り返され、一瞬にして教室内は、嘔吐が嘔吐を呼ぶ阿鼻叫喚の嘔吐地獄と化していた。
さながら小学校の遠足の帰りのバスのような惨状である。
酸っぱい刺激臭が充満する中、よろよろとラムズフェルドが竹刀を床に突き、ようやく身を起こす。
「ス、スミレ…今後許可のないテレパシーは禁止だ…」
「あ、はい…ごめんなさい」
申し訳なさそうに謝ったスミレは、だがぺろと舌を出してみせた。
その姿を、唯一平然と席に着いていた鷲雄が見つめていた。
「……コイツ…やるな……」
それが数ヶ月ぶりに発した鷲雄の言葉だった。

つづく

Newcomer
アンナ・ラムズフェルド
傭兵あがりの体育教師。
元ヘビーアーマー乗りだが故あって教師をしている。
当然、女。常に赤いジャージに竹刀を持った乙女。
基本だらだらしてる。
酒は焼酎、煙草はセブンスター、好きな食べ物はやきそばである。


第7話投稿者:うじてる投稿日:2011/01/10(Mon)21:25No.68  

― ウミヤマ司令部 

「艦長! 一体どういうことですか!?」
どん! と拳で机を叩きスキンヘッドの男が抗議する。
ここは会議室、ドージマ艦隊の幹部たちが集まっている。
艦隊の針路変更と今後についての確認のためである。
冒頭、美空がスミレのことに加えその目的地について告げると、
艦隊付き参謀である南條が猛反対した。
「どうもこうもないよ、言った通りだ。
 乗組員や住民の安全を考えればそうするしかないだろう?」
美空が淡々と述べる。
が、南條は引き下がらない。
「九軍司令部に報告もなく、今後の演習を無視して行き先を変えるなどッ!」
スキンヘッドを真っ赤に染め、汗とツバを飛ばし抗議する。
「現場の状況が優先される、そのための独立部隊だ。
 あたしの権限で決定できることだろ?」
ギロリと南條を睨んで言う。
「それに、みすみす進路を変更されたうえ
 機関部までいじられた岩尾機関中佐の責任はッ!」
「岩尾と航海長、甲兵長には1日謹慎を命じてある」
「たった1日の謹慎ですか……それではしめしがつかないッ!」
「南條、まだ出航したばかりだ。あまり厳罰にしても士気が下がる」
「あのわけの分らぬ植物に対しての処置!
 軍に引き入れるなど承服しかねますッ!」
「ギャンギャン騒ぐんじゃないよ……。
 結果的にウミヤマの機関部は強化された。
 これからのことを考えれば彼女にも協力してもらう必要がある」
南條以外の者たちは成り行きを見守っている。
もとより、彼らは美空の決めたことに異議はない。
「いずれにせよ、今後は戦闘が起きることを考えなきゃあならない」
「艦長、『いずれにせよ』とは一体?」
出席者から疑問の声が上がる。
「それは参謀殿がよく知っていると思うが?」
横目で南條を見ながら言う。
「私が? 何を知っていると……」
水を向けられた南條が慌てる。
それを無視して美空はコンソールを操作し、壁面の大モニタに資料を映す。
そこには当初予定されていた航路上の惑星や人工衛星基地などが見える。
「我々の元々の目的はこれらの拠点を巡り『演習』を行うことだった。
 さて、あたしが独自に調べたところではこれらの拠点で不穏な動きがある」
美空が指摘した通り航路上の各地域では宇宙海賊の活動の活発化、
反地球勢力の武装蜂起計画、植民星の内乱などが噂されていた。
「それらに飛び込んでいけば戦闘に遭う可能性は極めて高い……。
 いや、必ず起こるよう仕組まれているんだろうさ」
「一体何のために……?」
「それはあたしにもわからない。
 ただ、南條参謀は知っているんだろう?
 それをさせるためにお前は派遣されてきたんだ」
ウミヤマの乗組員の大半はこれまで美空の下で働いてきた者たちである。
だが艦隊参謀の南條とウミヤマ副長のコーネフ中佐は、
宇宙軍参謀本部からの指令で直接配属されてきた。
そこに何らかの意志があるのは確実であった。
「ぐ……、私は知らない。偶然だ!」
南條がうめく。
「まあいいさね。参謀本部のやり方はよーく知ってる。
 戦いが起こると思ったから引き受けたんだ。
 住民を守るためにはあたしらがやるしかない」

― 第二海山高校 

昼休み、豹介は弁当を食べながら一枚のチラシを見ていた。
この時代にあって既に紙のチラシなどほぼ消滅しているが、
第二海山市ではごく普通に出回っている。
街全体が旧世紀の日本、昭和40〜50年代の雰囲気である。
そのチラシには『民間防衛隊員募集』の文字が躍っていた。
豹介は一種の軍事オタクであり、ヘビーアーマーに詳しい。
むしろ詳しいを超え、専門家と言ってもいい。
それはシミュレーターから始まった。
様はアクションシューティングのコンピューターゲームである。
簡単な物から限りなく軍仕様に近い物まで数多くある。
かつてHA乗りであったラムズフェルドからも根掘り葉掘り話を聞いた。
彼の腕はかなりのものであり、本職のパイロットにも引けを取らない。
プレッシャーに弱い、という弱点はあるがあくまでもゲームである。
さらには独自に機体の設計も研究している。
こと、趣味に関しては卓越した行動力を発揮する彼は、
海山市にある民間の研究施設に頼み込み、出入りしている。
プログラム上では彼の機体は実際に動いており、
その知識は現場で通用するレベルである。
そんな彼を魅惑する言葉がチラシには載っていた。
『入隊者特典、HA体験試乗会』
民間仕様の人型重機に乗る機会はそれなりにある。
だが、現用の本物に乗れる機会は皆無である。
武装の外された旧型機にはかつて乗ったことがあるが、
所詮、動きもしない旧型機である。
が、現用機を実際に動かせるというのである。
こんなチャンスはそうそうないであろう。
しかし、民間とは言え防衛隊に入れば身の危険もあるのかもしれない。
そのあたりが彼を悩ませていた。
そして、悩みに悩んで結局そのまま家に帰ってしまうのが
最近のパターンになっていた。
と、そこに鷲雄が現れた。
豹介の手元のチラシを覗き込むと一言言った。
「豹介、俺は入るぞ」
「エッ!?」

つづく

○にゅ〜きゃらくた〜

【南條秀実】なんじょう・ひでみ
宇宙軍統合参謀本部大佐。42歳。
スキンヘッドにサングラスとちょび髭の筋肉質な男。
その大柄でマッチョな身体は参謀であることを感じさせない。
ドージマ艦隊の艦隊付き参謀として派遣される。
ウミヤマ副長として来たコーネフ中佐共々、美空の監視役である。
のち、艦内で謎の死を遂げる。

○設定解説

【機関長】
艦の整備及び工作隊の総責任者、階級は機関中佐/少佐。
個別には動力部の管理が主要な任務。
ウミヤマにあっては岩尾が機関中佐として当たる。

【航海長】
艦の航行責任者、階級は中佐/少佐。
運行と通信のほかHAや小型艦艇の離発着なども担当。
巡洋艦、駆逐艦では副長兼任。

【甲兵長】
甲兵隊(ライトアーマー隊)の指揮官、階級は少佐。
海軍における陸戦隊に相当し、生身でも戦える。
艦内の警備も任務の一つ。


第8話投稿者:ピヴィ投稿日:2011/01/12(Wed)17:36No.69  

「18光年のところには何があるんだい? 惑星かい?」
ミソラは、目の前で浮かれてはしゃいでいる少女にむかって
厳しい視線を送る。
目的地についてまだ何も知らされていないし
そこでどんな危険が待ち受けているのかもわからない。
そんなミソラをよそに、少女は新しく作り出した体を堪能していた。
「行けばわかるわ、そしてとても危険よ。
でも、あなた方であれば……あなた方でなければ
私の子供達は救えない」
真剣な話しとは裏腹に、スミレはオペラの1節をそらんじている。
最近はこの体で歌を歌うのがお気に入りのようだ。
その中でもオペラは彼女のお気に入りになっている。
その内容にはお構いなしで、単に音が気に入っているらしい。
ところかまわず急に大音量で歌い出すことが
苦情として何度か報告されている。
「それはわかった、だが具体的に言ってもらえないと作戦の立てようもない。
艦の上級士官達の中にはお前を不審がるものもいる。
あたしにしても完全に信じているわけではないが……」
「あなた艦長でしょう?
そんなの命令でなんとかしなさいよ。
それとも、また私がやりましょうか?
反乱分子くらいすぐに割り出して放り出してあげるわ」
歌いながらも、話しはテレパシーで送っている。
「ほら、こんな風に……」


「ぎや〜」
聞きたくもない野太い叫び声が廊下にこだました。
近くを通っていたクルー達があわてて駆けつける。
「た、たすけてくれ〜」
そこには、苦痛に歪んだ表情を浮かべた南條大佐が倒れこんでいた。
大佐は体中から大量の血を吹き出していた。
体の内側から弾けたように内臓が飛び出し、
逆に外側の皮膚の部分が内側へひしゃげていく。
クルーの1人が急いでコミュニケーターから医療室を呼び出す。
「医療室、南條大佐を早く転送してくれ!」
するとみるみる大佐の体が薄く消えていく。
「ぐはぁ、紹介で未来を書くと次の話で実現されるのかぁ!」
大佐の謎の声が響き、そして消えていった。


「医療室から連絡があった。南條大佐が死んだと。
体の内側と外側がひっくり返っていたそうだ、
人間業や自然現象ではあり得ない」
ミソラの表情は厳しい。
「彼は裏切り者よ」
「裏切り者ではない、ただ別の指令を受けているだけだ」
「でも、彼を残しておくと後々大変なことになるわよ」
「その時はその時だ、だからといって殺していいというわけではない。
スミレ、艦長として命令します。
ただちに医療室へ行き、超能力を封じる処置を受けなさい。
また、艦内であたしのクルーに危害を加えることがあれば、
あんたへの協力は出来なくなる。わかったか!」
ミソラの気迫に押され、スミレはしぼみながら部屋を出て行った。

つづく


nextnewcharacter
日村ヒロシ(30歳)医療主任
ちょー美形の天才ドクター。
ドクターヒムと呼ばれている。
別にポーンのような形はしていない。
ナンパで不真面目、クルーにはあまり信用がない。
ちなみに、遺伝子操作はされていない。