星の船で征こう!その2


 

第9話1/4投稿者:ベガ投稿日:2011/01/15(Sat)13:16No.70  

「副長」
ラムズフェルドの言葉にコーネフはきびきびとした動きで振り返った。
身長185.4cmのぶ厚い体躯に角張った顎、
金髪のクルーカットに制服をぴたりと着込んだ姿はいかにも軍人らしい。
「何だ? 教師がこんなところに来ていいとは聞いていないぞ」
二人は1番デッキ近くの通路にいた。
通常、軍人以外の立ち入りは禁止されているエリアである。
「ハーニャがどこにいるのか聞きたいんだが」
コーネフの言葉を気にした風もなく、ラムズフェルドは言った。
「誰だそれは?」
手にしたノートパッドに視線を落とし、コーネフはなにやら忙しげに操作している。
「甲兵長のハーニャ・マカロワ少佐だよ」
「甲兵長?」
パッドから目を上げ、コーネフは言った。
「謹慎中だ」
「知ってる。スミレの件だろ」
「…確かおまえはアレの担任だったな」
「ああ」
頷いてラムズフェルドは言った。
「それで暇になったハーニャとコンポジットバトンの試合をする予定だったんだ」
「謹慎は暇という意味ではない」
「だけど連絡が取れない」
コーネフの言葉を無視し、ラムズフェルドは続けた。
「家にも行ってみたが、いないらしい」
「いないのではなく、出て来ないのだろう。それが謹慎というものだ」
再び視線をパッドに戻し、コーネフは言った。
「よくそれで副長が務まるな。部下の居場所も把握していないのか?」
「君のようにフラフラできる自由の身ではないのでね」
「それはどういう意味だ?」
「意味を聞きたいのか?」
視線だけを上げ、コーネフはラムズフェルドを見た。
「ああ、聞きたいね。返答次第じゃ、あんたに試合の相手をしてもらおう」
「では言ってやろう」
コーネフは上から見下ろすようにラムズフェルドを見つめた。
「仲間を裏切って傭兵になった挙げ句、
それも辞めて民間人になり下がった者のように私は暇ではない、という意味だ」
「ふん」
ラムズフェルドは鼻で笑った。
「その民間人を守るのがあんたらの仕事と違うのか?」
「違うな」
コーネフが即答する。
「我々の任務は滞りなく航海を遂行することだ。
市民を危険から遠ざけるのは無論だが、航海に支障が出るようなら、誰であれ、排除する」
冷徹な視線でコーネフは言った。
「それが我々の任務だ」
「ふん、感謝するよ中佐」
ラムズフェルドが口の端を歪める。
「艦隊を辞めた理由を思い出させてくれてね」
それだけ言うと、くるりと振り返り、ラムズフェルドが通路を去っていく。
「ちなみに私のコンポジットバトンの腕前は、上級ランクだ」
コーネフの言葉に、ラムズフェルドは振り返らなかった。
その後ろ姿を見送ったコーネフは、何も表示されていないパッドを手にターボリフトに乗り込んだ。
「コーネフ342089X10RF、隔離エリアへ」
その言葉にターボリフトは音もなく下降した。
深く深く、どこまでも深く……


第9話2/4投稿者:ベガ投稿日:2011/01/15(Sat)13:17No.71  

「なあ鷲雄、ここってどこだと思う?」
そんな地下深くの場所に鮫の間延びした声がこだました。
「……」
鮫の言葉に鷲雄は無言で返す。
「たぶんあれだよ、格納庫的なとこ」
代わって豹介が言った。
「さすがミリオタ、艦内の配置はバッチリだな」
手を叩いて鮫は豹介を讃えた。
「…だと思う」
途端に自信がなくなったのか豹介は小さく付け加えた。
「おいおい、しっかりしてくれよ」
三人はウミヤマの地階深く、薄暗い通路にいた。
民間防衛隊員に応募しようとやって来たのだが、思いっきり迷子になっていた。
「しっかし薄気味の悪いとこだなあ」
二人にくっ付いて来ただけの鮫が不平を漏らす。
通路の照明は弱々しく、人気はまったくない。
「だったら帰ればいいだろ」
「いいじゃんか、俺もそのボーエー隊に興味あんだよ」
「うそ言うな、興味あるのは防衛隊の女の子だろ?」
鮫の笑い声が薄暗い通路にこだます。
「やあ〜バレたか」
「当たり前だよ、いいか、防衛隊ってのはな」
「誰だ、そこにいるのは?」
豹介の言葉を遮り、女の声が響いた。
ぎくりとして三人が周囲を見回す。
だが人影はない。
と、換気ダクトの格子状の出入口がかぱりと開き、タンクトップ姿の女と、
植木鉢を頭に乗せたスミレが現れた。
「ス、スミレちゃん!」
鮫が大声を張り上げる。
「ふむ」
ひとつ頷いて、スミレは不思議そうに三人を見つめた。
「こんなところで出会うとは興味深い」
「スミレ、あんたの友達?」
タンクトップ姿の女が言った。
「ええ、そうです。私のクラスメートです」
「てことは、アンナの生徒たちか…」
思案げに女が言う。
「は、はいそうであります少佐殿! ラムズフェルド先生の門下であります!」
唐突に言った豹介が、しゃちほこばって敬礼をする。
「ん…ああ」
女は自分の胸に付いた艦隊バッジに視線を落とした。
豹介がじっとそれを見つめている。
「よく階級がわかったね。だが今はいい、休みなさい」
「は、はい!」
まったく休む気配もなく、豹介が気を付けの姿勢を取る。
「スミレちゃ〜ん! 会いたかったよ〜!」
一方、鮫はスミレの姿に歓喜している。
「てっきりサツジン罪でシケイになったかと思って心配してたんだよ〜」
すがりつかん勢いで言う鮫。
言葉は知っているが、意味はわかっていない。
「ええ、事件のことなら知っています。でもあれは私ではありません」
「は?」
「スミレ!」
厳しい目で女がスミレを見る。
「わかっています。確かに彼らは民間人です。
しかしここで私たちに出会ったことで、既に巻き込まれている。
事態を説明すべきです」
「だが…」
言いよどんだ女は視線を豹介に移した。
「…君たちここへ何をしに来たの?」
「は、はい! 自分たちは民間防衛隊に入隊しにやって参りました!」
「志願兵か…てことは、まるっきりの素人ってわけじゃないのね」
「もちろんです! ラムズフェルド先生からも手ほどきを受けています!」
「…そう、わかった」
諦めたように女はスミレに頷いた。
「え、え、なんの話? ねーねーおせーてよー」
いわくありげな二人の視線に鮫が喰い付く。
「事件を起こしたとされるスミレ、あれは私に似せて造られたコピードロイドです」
スミレが言った。
「ええっ!?」
驚嘆に叫ぶ鮫の声が通路に響く。
「で、でも俺様の眼力を以ってしても本物のスミレちゃんにしか見えなかったぜ?」
「いや、でも…」
直立不動だった豹介が、ふと気付いたように言った。
「言われてみれば、いきなり言動がラリってたような気も…」
「……」
無言で鷲雄が頷いてみせる。
「でもでも! じゃあなんでそんな偽物が?」
「それは」
「それはスミレに罪を着せ、南條大佐を殺害するため」
スミレの言葉を継いで女が言った。
「あ、自己紹介がまだだったね」
ぎょっとする三人の視線を受け、女は言った。
「私はハーニャ・マカロワ少佐。一応、ウミヤマの甲兵長をやっている」
「し、失礼しました甲兵長殿!」
びしりと敬礼しなおす豹介。
「だからいいってば」
笑ってハーニャは手をひらひらとさせた。
「し、しかし甲兵長殿…いったい誰が、どうしてそんなことを?」
豹介がおずおずと言った。
「民間人に妄言を吹き込むのは関心せんな」
唐突に響いた声に、全員が通路を振り返る。
「コーネフ…」
ハーニャが唸るように言った。
そこには薄暗い照明の中、コーネフ中佐がひっそりと立っていた。
「実際ラムズフェルドが時々うらやましくなる。迂闊な部下を持つと上官が苦労する」
眉ひとつ動かさず、コーネフは冷然と言った。
「それにスミレ」
「はい」
素直にスミレが答える。
「おまえのような異星人がいると話がややこしくなる。はっきり言って目障りだ」
「ちょっとちょっと! そりゃどう意味だよおっさん!」
スミレをかばうかのように鮫が立ちはだかる。
「『植物人間』の存在は厄介極まるという意味だよ。我々人類にはまだ早すぎるとね」
コーネフは鮫に向かって言った。
「それは聞き捨てなりませんね、副長」
その言葉に皆が振り向く。
ちょうどダクトから埃まみれのイイ男が出てくるところだった。
「彼女の能力は人類にとって、いや、宇宙にとって有益なものですよ」
「ドクターヒム…君が彼女たちを手引きしたのか」
「ええ、そうです。あなたのやったことはすべてわかっていますよ、副長」
にやりと笑ってドクターヒムこと日村ヒロシは得意げに言った。
いまだダクトから抜け切れていないがそう言った。
「天才ドクターの僕の手に掛かれば陰謀を暴くぐらい造作もないことですからね」


第9話3/4投稿者:ベガ投稿日:2011/01/15(Sat)13:18No.72  

「ほう、いったいどんな陰謀があったのかね?」
「コーネフ、今更しらをきる気?」
ハーニャが言った。
「南條大佐を殺害し、その罪をスミレに着せた。しかもそれに気付いた私まで捕らえておいて、
今更言い逃れはできない」
「捕らえた覚えはないぞ、少佐」
「ふん、よく言う」
「それに私はドクターに話を聞いているのだ。彼の説明をぜひ聞きたい」
動じた風もなくコーネフが言った。
「いいでしょう、僕から説明しますよ」
ダクトから無理やり抜け出し、ドクターは軽やかに立ち上がった。
「まず僕が疑問を持ったのは、スミレ君の『処置』が可能だという報告ですよ」
ドクターは言った。
「僕でさえスミレ君の生態を満足に解析できていないのに、
どうして彼女の特殊な能力をどうにかできるんです?」
「科学部から『処置』可能だと報告があったからな。信用に足るものだ」
コーネフはどうということもないといった口調で言った。
「君は少し自分の能力を過信しているんじゃないか?」
「ところがそうじゃないんですよ、副長」
ドクターがコーネフを見つめる。
「その報告を艦長に提出しているのは副長のあなただ」
「当然だろう。報告を私が受け取り、艦長に提出したのだ」
「つまり、改ざん可能だということですね?」
断定するようにドクターが言う。
「その必要があるのかね?」
「僕もその点が疑問だった。あなたが保守的な人物だというのはわかっていましたが、
そこまでしてスミレ君をどうこうしようとする理由がわからなかった」
「つまり、君の思い違いだな」
「いいや、断じて違いますね」
「何か証拠でもあるのか? 断っておくが君の言っていることは軍法会議ものだぞ」
「そのお言葉、そのままあなたにお返ししますよ、副長」
にやりと笑いドクターは言った。
「僕はスミレ君に協力してもらい、あなたの思考を読んでもらった」
「…ほう、それで?」
「全てわかっているんですよ、副長。
あなたが反地球勢力の中でも過激な保守派として知られる『赤き森』の主要メンバーであることもね」
「ほう…それはまた…ずいぶん唐突な話だな」
「あなたは人類初のファーストコンタクト、スミレ君とウミヤマの接触を快く思っていなかった。
保守派の地球中心主義は根強いですからね」
「ふむ、それで?」
「しかもスミレ君の能力の前では、あなた方、『赤き森』の計画も危険に晒される」
「ほう、それはどんな計画だね?」
「聞きたいんですか?」
「ああ、ぜひ聞きたいね。興味がある」
「…いいでしょう。簡単な話だ。紛争地帯にウミヤマを向かわせ、
地球側の先制攻撃によって戦争をおっ始めるんです」
ドクターは言った。
「もちろん、副長であるあなたの手引きによって、ウミヤマはそこで壮絶に撃沈する」
「ほほう」
「反地球勢力の大勝利というわけですよ」
「なるほど、それは連合にとって大きな痛手だな」
「ええ、しかも攻撃を仕掛けるのは地球側ですからね」
「ふむ、そうなれば責任の所在も厳しく追求されるだろうな」
「そういうことです」
「しかし、だとすればなぜ私は南條大佐を殺害するのだ?」
「簡単です。参謀本部の南條大佐は情報部出身。あなたはウミヤマに来る前から既に目を付けられていた」
「…ほう、それは初耳だ」
「正体がバレそうになったあなたは、邪魔な二人、大佐とスミレ君を同時に亡き者とするため、一計を案じた」
「だがスミレはこうして生きているぞ?」
コーネフがスミレを見つめる。
「私まで大佐のように突然死去するのは、あまりに不可解です」
スミレが言った。
「だからコピーが必要だった。既成事実を作り、艦長を味方に付け、
『処置』する過程で事故死したと報告するためです」
「ふふん、なるほど」
コーネフはひとつ頷くと皆を見回した。
「だが何ひとつ証拠がないな」
「艦長に話せばわかってもらえる」
ドクターが言った。
「異星人にマインドコントロールされた者の言葉、果たして誰が信用する?」
「マインドコントロールなどされていない!」
声高にドクターが叫ぶ。
「だがそう思われても仕方ないだろうな。今の君はまったくそのものに見える」
「甲兵長の私と医療主任の言葉、艦長が無視するとは思えない」
ハーニャが言った。
「少なくとも疑念は持つでしょうね。そのときコーネフ、あんたはどう言い繕う?」
「ふむ、確かにそれも面倒だ」
そう言ったコーネフが片手を上げる。
「やはりここで殺しておこう」
「う!」
途端に豹介が身体を硬直させた。
「ど、どうした豹介?」
豹介がコーネフの背後、暗がりを指差す。
目を凝らし、鮫は闇を見つめた。
「げげっ!」
暗闇に見えたそれは、ただの影ではなかった。
漆黒のアーマーに全身を包み、顔を覆う頭巾を被った人々の群れだった。
その口元には、一様にガスマスクの吸収缶のような突起物が露出している。
それが物音ひとつ立てず、ずらりとコーネフの後方、通路一杯に居並んでいた。
「て、転送班だ…」
豹介が震える声で言った。


第9話4/4投稿者:ベガ投稿日:2011/01/15(Sat)13:19No.73  

「て、転送班? なんだよそれ?」
「艦の闇に棲む者たち」
二人の前に立ったハーニャが言った。
「な、なんすかそれ?」
「ウミヤマの『転送』は人力で行われる。人体強化された人々によってね」
「その動きは残影しか残さず、真の姿を見た者はいないと言われている…」
呟くようにドクターが言った。
「彼らは軍属じゃない。地球連合の所属でもない。艦そのものに所属するんだ」
「ど、どういうことですかそれって?」
「誰の命令も通用しないってことさ、純粋な営利によって任務を遂行する」
「随分詳しいわね」
ハーニャの言葉にドクターが顔を俯かせる。
「僕の両親は元転送班だったからね…」
「ほう、それは面白いな、ドクター」
コーネフが言った。
「だが残念だ。ここで全員死んでしまうのだからな」
上げた手を振り下ろす。
「殺せ」
コーネフの脇を抜け、影が、闇が、じわりと押し寄せてきた。
静かに、だが確実に、迫って来る。
逃さず、包囲し、一瞬で、仕留める。
その殺意だけが、闇に滲むかのように溢れていた。
「スミレちゃん! てれ! てれ!」
「テレポートだ」
言葉に詰まる鮫に代わって鷲雄が言った。
「不可能です。このエリアは極めて高密度の重力フィールドで遮断されています。
テレパシーさえ通りません」
「ええっ!?」
「私たちがここから抜け出せなかったのもそのためです。迂回路を探していたのですが」
「え、スミレちゃんたちはいつからここに?」
「そうですね、744分12秒23ほどです」
「…ええ〜っと…」
「12時間以上だ」
頭を捻る鮫に鷲雄が言った。
「え…じゃあなんで僕たちはここに来れたんだ?」
思わず豹介が言う。
「おそらく中佐が来る際、一時的にフィールドが解除されたのでしょう。
その間をあなたたちは潜ったのだと思われます」
「じゃあじゃあどうすんのさ!?」
諸手をあげ騒ぐ鮫。
それに対し、至極冷静にスミレは言った。
「艦のエネルギーのほとんどを遮断フィールドに回しているようですね。
このままだと数十分でウミヤマは全機能を停止するでしょう。照明が暗いのもそのためかと」
「冷静に言ってる場合じゃない! 来るよ!」
「この対応から見て、どうやらコーネフ中佐は、私のような種族と戦うのは初めてではないようです」
そうスミレが呟いたとき、影が一斉に襲い掛かった。

つづく

【新人】
ハーニャ・シードロヴナ・マカロワ。
少佐。ウミヤマ甲兵長。女。
荒くれ者ぞろいの甲兵隊の中にあってずば抜けた運動・格闘能力を持ち、
中でもゲリラ戦及び隠密作戦において優秀な実績を誇る。
実力で甲兵長となった苦労人。
ラムズフェルドとは士官学校時代からの腐れ縁。
雑なラムズフェルドに対し、気配りのできるイイ女である。
趣味はホバーラケット、コンポジットバトンなど。
ちなみに「ハーニャ」は「アンナ」のウクライナ語バージョン(のひとつ)。
※ホバーラケットとは、ホバーラケットを使ったテニスである。
※コンポジットバトンとは、最小三人で行う複合格闘技。殴打武器で戦う。

【転送班】
ウミヤマにおける『転送』は人力であり、精鋭技能集団「転送班」が行う。
具体的には、人員及び物資を可及的速やかに艦内の目的地へと担いでいく。
そのため、「さらい屋」などとも呼ばれている。
一般的に彼らは、地球連合の正式な市民ではなく、艦隊所属でもない。
艦ひとつひとつに(勝手に)棲み付いた人々であり、
その真の姿を見た者は誰一人としていないと言われている。
同族以外との接触はほとんどなく、秘密主義的で排他的集団である。
しかしその能力は非常に有用であるため、
主に艦長個人と契約を結び、居住権及び廃品利用の権利を与えられて、
その要請に応えている。
その動きは、残影しか残さない、と言われるほどに素早く、
『転送』されたものは目の前から掻き消えるかのように運び去られる。
一説には、極めて高水準の光学技術を用いており、姿を不可視に出来るという。
また艦内のあらゆる抜け道を熟知しているとされる。
超巨大艦におけるアンダーグラウンドの住人だと言える。

【エンジン改造について】
惑星戦艦ウミヤマは、戦艦でありながら地球連合史上最速レベルの『船』である。
最高巡航速度で光速の約102倍の速度を誇り、わずか数分で太陽系横断を行う。
しかしそのためには莫大なエネルギーを必要とし、
広大な敷地と膨大な人員、そしてありったけの設備を要した。
それ故に惑星船となり、街を丸ごとひとつ移設した、という噂である。
あくまで噂であるが。
いずれにせよ、ウミヤマはスミレのエンジン改良により、その速度を増し、
最高巡航速度は、光速の約214倍に達した。
これは20光年の距離を約1ヶ月で航行可能な速度である。
ちなみにスミレの言う「ワープ」という言葉、及び概念は、
地球連合には存在しない。


第10話投稿者:うじてる投稿日:2011/01/17(Mon)22:00No.74  

転送班が見えざる刃を手に迫る。
火器を使用しないのは内部を破壊して、
他の人間に気付かれないようにするためである。
「ドクター。あんたは戦えるのか?」
鷲雄が問いかける。
「この天才にもできない事はある……。
 それは、女性を泣かすことと殴り合いのケンカだ!」
日村はそう言うと頭を抱えて亀になる。
「つまりこの状況では役に立たないということですね」
スミレが冷静なツッコミを入れる。
ハーニャとしては非戦闘員を守りたいところではあるが、
人数が多いうえに相手の動きも見えないとあっては、一人では守りきれない。
見たところ、鷲雄という少年は身のこなしからして、
格闘技に通じているようである。
それでも他の三人をカバーできるか自信はなかった。
そんなハーニャたちの事情に関係なく、転送班が襲い掛かってくる。
噂に違わずその動きは素早く、ハーニャの目にも彼らの接近は映らない。
が、一瞬だが自分の腹を突き刺そうとするのが見えた。
すかさずナイフでその攻撃を受け流す。
ガシィィィン!
金属音と共に火花が散る。
スミレや少年たちをチラリと横目で見ると、
今まさに豹介の目の前で白刃が閃く。
「避けろッ!!」
間に合わない、と思いつつも叫ぶ。
だが、その刃は少年まで届かなかった。
豹介の前に音もなく、瞬間に光の壁が浮かび上がり、消える。
襲撃者の攻撃はその壁に弾かれた。
「パーソナルシールドか!」
頭を隠して皆の陰で縮こまる日村が喝采をあげる。
パーソナルシールドとはライトアーマー用の防御兵装である。
ごく簡単に言えばバリヤーだ。
個人の護衛用として小型化されたものも存在する。
ただ、LA用のものと比べ、稼動できる時間はごく短い。
お年玉や小遣い、アルバイトでお金を溜めて手に入れた、豹介の取っておきである。
彼は顔を引きつらせ今にも気を失いそうだが、スミレと鮫がその身体を支える。
一方、鷲雄はいつの間にか防刃グローブをはめており、
巧みに転送班の攻撃を防いでいる。
それを確認したハーニャがすかさず指示を出す。
「よしッ! 三人で盾になって向こうの壁まで下がるぞ!」
背後からの攻撃を避けるため、壁を背にする手である。
見えない敵の攻撃を防ぎつつ、後退する。
「ハーニャさん、しばらくはどうにかなるがいずれもたなくなるぞ」
鷲雄が下がりながら訊く。
「…………」
わかってはいるが、今はまだ手がない。
ただ、すでに仕込みはしてある。
それがいつ結果を出すかだった。
今のところは耐えるしかない。
だが、闇の住人たちの攻撃はより激しさを増していた。
同時に二、三人の攻撃が繰り出される。
ハーニャもついに受けきれず、逸れた一撃が脇腹をかすめる。
タンクトップが切り裂け、地が噴き出る。
「クッ!」
無意識に前蹴りを入れると、薄暗闇の中に転送班の不気味な顔が浮かび上がる。
そいつはまともに蹴りを食らい後ろに吹き飛ばされる。
すぐさま体勢を立て直すと再びその姿は闇に溶けていく。
「中々にしぶといな……そこの少年共々いい腕をしている。
 だが結果は変わらん。そんな植物型人間を助ける必要もあるまい?」
コーネフが冷たく問う。
「アンナの生徒を見殺しにするわけにもいかないんでね……」
「かわいこちゃんを見捨てるなんて俺にはできないぜ!」
ハーニャと鮫が答える。
「つまらぬ奴らだ……まあいい。
 これ以上時間もかけたくない、決着をつけさせてもらおう」
コーネフは懐から拳銃を取り出し、ハーニャに銃口を向ける。
「さらばだ……」

ズガァァァンッ!!

引き金に指を掛けた刹那、閉ざされていた格納庫の扉が爆風とともに吹き飛ぶ。
爆風にあおられ、彼の打った弾丸は標的から逸れる。
「糞ッ! なんだ!?」
彼が銃を持った右手を上げると転送班たちはいったん彼の後ろに引き下がる。
煙が晴れるとそこには赤いジャージに竹刀、背中に機関銃を背負った女と、
Yシャツとネクタイにベスト、スラックスを履いた七三分けの中年男性が立っていた。
「やれやれ……アンナ君、ちょっとやりすぎじゃあないのかい?」
「仕方がないだろう、生徒たちの命には代えられん」
パンパンと埃を払い、近づいてくる。
「あ、あ、ラムズフェルドせんせェッ!」
鮫が歓喜の声を上げる。
「それに女影先生だな」
鷲雄が淡々と述べる。
女影は海山第二高校の体育講師で剣道部顧問でもある。
二人の姿を認めると、コーネフは彼らを睨みつける。
「貴様ら……なぜここに?」
「ハーニャからの救難信号をキャッチしたのさ。
 重力フィールドを張っていたようだがあんたが中に入った時、
 一瞬だがフィールドが途切れ、信号を掴めた。」
「悪運の強い奴らめ……。
 それに女影大佐、あなたも彼女らの味方かね?」
「今は高校の講師です。生徒を助けるのは教師として当然だね」
「食えない男だ……」
女影は手に持った刀をカチンと打ち鳴らしコーネフに近づく。
「コーネフ副長、これだけの騒ぎだ、
 しばらくすればハーニャ君の部下たちも集まってくる。
 そろそろあきらめ時じゃあないのかい?」
「その前に始末をつければいいことだ!」
コーネフが合図を出すと再び転送班たちが襲い掛かる。
ラムズフェルドが機関銃を構えるが、女影はそれを制する。
「こんなところでぶっ放したら死人が出る、僕が行こう」
彼はすらりと刀を抜くと同時に床を滑るように走っていく。
「馬鹿がッ! 死にに来たかッ!」
そんなコーネフの声とは裏腹に、女影の刀は見えない敵を次々と打ち倒していく。
転送班たちの攻撃よりも一歩も二歩も早く刀が打ち出されるのだ。
そのすべてはみね打ちである。
「あ、あれがかつて宇宙軍最強と言われた女影大佐……!」
豹介が興奮気味につぶやく
「ここはこれまでか……」
敗北を悟ったコーネフは転送班の一人に合図を出すと、その場から逃げだす。
すぐさまラムズフェルドが拳銃を放つが半歩、間に合わない。
「逃がしたか、だがもうこれでヤツは反逆者だ」
すくっと立ち上がったドクターヒムが鼻水をたらしつつもかっこよく締めようとする。
「お前は何もしてないだろッ!」

パッチィィィィンッ!!

ハーニャとアンナの平手打ちが彼の両頬を見舞い、日村の意識は遠のいて行った。

つづく

○次回予告
めでたく民間防衛隊に入隊した豹介、鮫、鷲雄たち。
だが喜んでばかりもいられない、彼らの前に鬼教官が現れる。

○にゅ〜きゃらくた〜

【女影誠一郎】おなかげ・せいいちろう
第二海山高校の体育講師、46歳。
家族は妻と娘、息子が一人づつ。
かつて宇宙軍ではハーニャの上官であった。
ラムズフェルドとともに傭兵から教師へと転身した。
女影一刀流の道場主でもある。



第11話投稿者:ピヴィ投稿日:2011/01/20(Thu)14:56No.76  

「へそ毛先生!」
「はら毛先生!!」
「いや、おなかげせんせいだろっ」

「うひゃひゃひゃひゃ」
鬼教官として新人教育を任されている後藤蛮太は爆笑して撃沈していた。
新たに民間防衛隊に入隊したサンバカトリオに芸を仕込んで喜んでいた。
「女影は昔っから根暗でなぁ、オレがあそこまで仕込んでやったんだが、
結局根暗だけは直らなかったなぁ」
蛮太はひーひーと息を切らせて腹をよじっている。
「鷲雄はあいつにそっくりだな、あいつにかなり仕込まれてるんじゃねぇか?
だがなぁ、あいつみたいになったらお先真っ暗だぞ。
地味なおっさんになって一人寂しく死んでいくんだ。
オレがそうならないようにゆーもあって奴を教えてやらぁ」
鷲尾はばしばしと背中を叩かれる。
十分に鍛えているはずの鷲尾だが、その一撃一撃で気を失いそうになる。
「寿司屋の親方がそんな人だったとはねぇ」
その隣で鮫が軽口を叩くが、内心ではかなりガッカリしている。
民間防衛隊に来た人間は男ばかりで女の子の影もない。
「ああ、あの寿司屋に行くのが怖くなったな」
そう言う豹介もガッカリしていた。
すぐにでも最新の兵器をいじれると思っていたが
これまで行ったことと言えば、体力作りと漫才の練習だけだった。
「あとは、じじぃの昔話か…」
「ん、なんか言ったか?」
ぎろりと蛮太の目が豹介にむけられる。
「いえ。教官殿、我々はコーネフ中佐を追わなくて良いのでしょうか」
あわてて取り繕う。
「そんなもんは軍にやらせときゃぁ良いんだ。
お前達ヒヨッコはとりあえず走っとけ。
必要な時がくりゃぁ、ババァから連絡が来るだろう」


「びぇ〜っくしょん。てやんでばーろちきしょー!」
艦長室にでかいくしゃみが響く。
「また、誰かババァとか噂してやがるな」
ババァ、いやミソラは視線を上げ、机の前に立っている若い男を見る。
かなり顔が引きつっているが、なんとかたじろがずに直立していた。
早く顔に飛び散ったつばを拭きたいと、とても思っているようだ。
「いや、悪かった。
それでだ、この書類が辞令だ。これでお前さんも立派な民間防衛隊の一員だ」
書類を受け取ると、若い男は安心したように表情を和らげた。
「今はジジィが砂浜でしごいてる頃だろうよ。
お前さんも行ってきたらどうだい?」
「はい、すぐに行ってきます」
男はしっかりとした敬礼をすると、急いで艦長室を出て行った。


つづく。

newきゃらくたー
若い男
さて、主人公になれるか?
そろそろ人が多すぎてわからないぞ!!