星の船で征こう!その5


 

第17話投稿者:ベガ投稿日:2011/12/11(Sun)12:35No.101  

「わぁーはっはっはっはっはっ!」
褐色の巨漢が、ひもののひもくんの頭を握り潰す。
「おやめなさいッ!」
と、いきなりつみれの回し蹴りがシャーマンの胸にめり込んだ。
「おふぅッ!」
仰け反り、巨体が吹き飛ぶ。
「意味もなく暴力をふるうなんて何を考えているの!」
だがシャーマンも負けてはいない。
素早く体勢を立て直し、つみれに向かって言った。
「なんばするんだ、お嬢しゃん」
対するつみれが凛として言い放つ。
「ウミヤマ市民全員の目が私を見ているのよ! バカはおやめなさい!」
そう言ってつみれは、上空を旋回するヘリに向かって笑顔で手を振った。
半裸の巨漢と、鎖で繋がれた少女。
鬱蒼とした森の中に立つ二人の姿が、
Uテレクルーによって上空から捉えられていた。

アステロイドベルトに浮かぶ人工島くじら359。
かつての軍事基地は、荒れ果て、密林と化していた。
その中で、地獄の死闘、チェーンデスマッチ宝探しが開催されていた。

「悪かのお嬢しゃん、俺はこぎゃん茶番に興味はなかんだ」
まったく悪びれた風もなく、流暢な博多弁でシャーマンが言った。
「知ってるわ。でも私とペアになった以上、協力してもらう」
「知っちいる、だと…?」
鼻ピアスを光らせながら、シャーマンが鋭い眼でつみれを見た。
腕を開き、わずかに腰を屈める。
「そいはどげん意味かいな、お嬢しゃん?」
「あなたはただ力を誇示したいだけ、証明したいのよ」
「…なん?」
「あなたインポテンツでしょ? わかってるわ」
「は?」
「力を見せつけて自信を得たいのよ。その変な恰好もそのためだわ」
シャーマンが無言で自分の姿を見下ろす。
刺青だらけのマッチョボディに乳首ピアスが光っている。
「全部わかってるわ、最近学んだの、ぷろふぁーりんぐよ」
「ぷろ…なんだって?」
「ぷろふぁーりんぐよ」
腰に手をやり、ふんぞり返ってつみれは言った。
「……」
しばしその姿をシャーマンが見つめる。
「…ひょっとして、プロファイリングか?」
途端につみれの顔が赤く染まった。
「ふっ! ふはーっはっはっはっはっ!」
思わず巨体を揺らし、シャーマンが吹き出す。
「な、なにが可笑しいのよ! ちょっと間違えただけでしょ!」
顔を真っ赤に染め、つみれが食って掛かる。
「わかったわかった」
手で制し、シャーマンが言った。
「そうだな、確かにそうかもしれなか」
笑いをこらえながら言う。
「やけど当面の問題はこれじゃなか?」
言いながらシャーマンは一枚のメモを取り出した。
「宝ば手に入れるには、これば解く必要あるけん」
それは開始直後に渡された宝のヒントだった。
「お嬢しゃんにこれが解けるかいな?」
「無理ね」
呆気もなくつみれは言った。
「なぞなぞは苦手なの」
「やったら俺の好いとぉにさせてもらうけん」
「でも考えたわ、宝のありかはひとつじゃない」
「…どげんゆうこつだ?」
不意につみれは、視線を脇に向けた。
成す術もなく呆然と立ち尽くすひもくんと、
いのししちょちょちゃんを見る。
その手には小さな宝箱があった。
「既に見つかってる宝を手に入れればいいのよ」
びくりと二体のゆるキャラに戦慄が走る。
「…ふふ、はは、はーっはっはっはっ!」
巨体を揺らし、シャーマンが笑った。
「なるほど、そいはよか。俺っちとしても願ったりだ」
「さあ、あなたたち、頭を潰されないうちに宝を置いていきなさい」
ゆるキャラたちは顔を見合わせると、すぐさま宝箱を置き、
どたどたとその場を去ろうとする。
「待て」
それをシャーマンが呼び止めた。
ゆるキャラたちが震え上がる。
「カメラに向かって手ば振っていけ」
そう言ってシャーマンは上空を指差した。
彼らはその言葉に従った。
「私たち、いいコンビになれそうね、やぁーすけ」
笑顔でつみれが言った。
「や、やぁーすけ?」
「あなたの名前よ、その昔、戦国時代の」
「うっ!」
と、いきなり膝を突き、シャーマンが頭を抱えて屈み込んだ。
「どうしたの、やぁーすけ?」
「ううっ! 頭が…」
「…そんなに名前が気に入らないの?」
寂しげにつみれは呟いた。
だがそれは違っていた。
その時やぁーすけは、『合図』を受け取ったのだった。

くじら359、そこからやや距離を取って浮かぶウミヤマ。
その二つの背景には、ガスによって形成された星雲があった。
時に妖しげに、時に神秘的に、さながら蠢めくかのように光り輝く星雲。
その中に、一隻の艦が潜んでいた。
暗闇の中、各モニタとパネルの光だけが反射するデッキ内。
その艦長席に座ったプールが、インカムに向かって言った。
「ハリボテの調子はどうだ、コーネフ?」
「ハリボテ?」
ノイズ混じりの声が答える。
「おまえの乗ってるδ(デルタ)機のことだよ」
「…調整は完了した」
「せっかくのUGシリーズだが…役に立つんだろうな?」
「私が乗るんだ、問題ない」
「そう願うよ。ウミヤマ奪取の要はおまえだ」
「…暗殺計画の方はどうなっている?」
「いま始めるところだ」
そう言ってプールは目の前のメインスクリーンを睨んだ。
「全クルーに告ぐ」
メインスクリーンには、ウミヤマとくじら359の映像が、
折り重なるように映し出されていた。
「当艦はこれよりウミヤマ奪取、及びミソラ艦長暗殺作戦を開始する」

つづく

 

第18話 詰め込むだけで...投稿者:ピヴィ投稿日:2011/12/13(Tue)12:32No.102  

「あれ、オレ主人公じゃないんじゃね?」
軍警兵士2人の首をはねた男は、ちょっとだけ自問した。
「まぁ、いいや。オレつえぇぇぇぇぇ!!!」
主人公だか主人公ではないのかわからない男は自分によって暴れていた。


無線機までたどり着いた豹介は、民間防衛隊を名乗り甲兵隊へ繋いでもらう。
(甲兵長のハーニャ少佐だ。アンナの生徒だな?)
応答したのは甲兵長自身だった。
豹介は少し驚きながらも、知っている声に安心して状況を伝えた。
すると、ハーニャからは他にも同じ報告が来ていること、
すでに多くの被害が出ており甲兵隊総出で事に当たっていること、
甲兵を派遣するので他に被害が行かないように食い止めておいて欲しいと伝えられる。
(民間防衛隊の力に期待する)
そういって無線は切られた。
豹介は、ラーメン屋内で暴れる男を見張っていた鷲雄と鮫を呼ぶと
ハーニャの言葉を伝えた。
「食い止めろって言ったって……あれを?」
ラーメン屋の中では男が暴れているのが見える。
しかし、店内に誰もいないので飽きたのか、のしのしと出口へ向かってくる。
「外へ出すとやっかいだ、店の中で抑えておくぞ!」
鷲雄はそう言うと、先んじてラーメン屋のドアをバンと開け
そのまま男へ突進していく。
主人公男は、不意を突かれた形になり、鷲雄の体当たりをもろに食らうが、
もともとの力が違うのか、ぴくりとも動かなかった。
鷲雄の体を両手でつかむと、そのままドアの方へと放り投げる。
続けて入ろうとしていた豹介と鮫にちょうどぶつかり店外へと転がり出た。
「ぶへぐはぁ」
3人はダンゴになって路上へ転がり出る。
「なんだあれは。ロボットか? 強化人間とかか?」
強化人間、そんな噂を聞いたことが3人には……なかった。
やたら強い人間を何人か知ってはいるし、
そういう種族?をついこの間見たばかりではあるが、
それとはまた別物のように見えた。
「なんにしろ、外に出られたまずい。なんとか留めよう」
3人は付近に散らばっている物を手当たり次第に投げつけるが、
主人公男の動きは止まらない。
その時豹介が2人に向かって「2人ともどいて!!」と声をかける。
2人が振り向くと軍警の車に乗り込んだ豹介がエンジンをふかしていた。
「おい、やめ……」
鮫が危ないと声をかけようとしたとき、豹介はギアを入れ一気に車を発進させた。
車は急加速して店内へ突っ込んだ。
ドガシャーンと、でかい音がして煙が上がる。
「ひょうすけ〜!!」
崩れ落ちる鮫と鷲雄。変なヤツだったが惜しい男を亡くした。
とか、感動のラストを飾ってみたりしていると
煙の中からよたよたと太った男が出てくる。
「って、言うほどスピードも出てないし……とはいえエアバッグが優秀で良かったよ」
煙が落ち着いても、主人公男が出てくる気配はない。
「倒せたのかな?」
「あれで死ぬようには見えないけど、気を失うくらいはしたんだろうか」
鷲雄が黙って店の中へ入っていこうとする。
「お、おいっ」
そこへ、大型の軍用車両が猛スピードでやってきた。
「おっと、甲兵隊がやってきたようだぞ」
車の荷台から数体の甲兵が降りてくる。
「あんた達、無事だったか!」
聞き覚えのある声がした。
ハーニャがライトアーマーを着込んで豹介達の前に進んできた。

「ぶへっ、もっとそっちいけよ豹介」
暗闇の中、鮫が小声で悪態をつく。肘で脂肪の塊をつつく。
「無理だよ、狭いんだから我慢してくれよ」
豹介はすでに体積的には半分くらいまで縮こまっている。
ハーニャ達甲兵隊がやってきたあと、
3人は他の現場で避難誘導や甲兵の手伝いをしていたが
そこで見つけた怪しいマッチョな男を追って、軍の連絡艇に潜り込んでしまった。
「さっきの話は本当なんだろうか……」鮫はマッチョな男達が話しているのを思い出した。
「ミソラ艦長の暗殺計画かぁ、まさかね。でも、町で暴れてる変な奴らもいるし
何か陰謀が進められてるのかもしれない」
「このままついていって、俺らで妨害してやろうぜ」
「ついていくと言うよりは、このままじゃもう帰れないだけだけどね!!」
3人を詰め込んだ連絡艇はウミヤマを離れ人工島へと向かっているのだった。

 


第19話投稿者:うじてる投稿日:2011/12/14(Wed)21:23No.103  

「所属不明艦よりHA隊が発進しました!」
重巡航艦『牡丹』のブリッジがにわかに騒然とする。
ミソラ以下、ウミヤマの主だったクルーが人工島に行っているため、
最先任士官である牡丹の艦長、権田東平中佐が艦隊の指揮を任されていた。
「くそったれ! こっちも出動させんかい!」
ひょろ長い腕を振り上げ、権田が怒鳴りつける。
ドージマ艦隊のHA隊は半数ほどがパイロット不在のため出撃できない。
が、それでも16機が出撃し、数の上では倍の優位がある。
「艦長! さらに大型のHAらしき機体が一機現れました!」
ヘビーアーマーの倍ほどのそれは、UG試作4号δ機であった。
「所属不明に正体不明機か、罠にハメられたかのう……?」

一方、ウミヤマ艦内のPH重工研究所も敵機襲来の報を受けていた。
「δ(デルタ)だと!? あれは月面にあったハズだぞ!」
鋭い眼を吊り上げ、大塚博士が怒鳴りつける。
現れたδ機はHA用の兵装を改造したらしい武器も持ち、
試作機とは言え戦える状態に仕上げてあるようであった。
「もし、収束フィールドが使えるとなると厄介だが……」
大塚は険しい顔で戦場を映したモニターを睨みつけた。

「HA隊はUGの後方から来い。まずUGで攻撃を仕掛ける」
冷静沈着にコーネフが指令を下す。
眼前にはドージマ艦隊のHA隊が、
突出したコーネフを包み込むように展開している。
そこに、通信が入る。
「こちらは、連合軍のドージマ艦隊。そちらの所属は?」
『モノリス』側の旗艦からは当然、応答しない。
「返答なき場合は……」
通信は途中で途絶え、そのHAの頭が吹きとぶ。
コーネフが攻撃の口火を切った。
δ機のレールガンはHA用を改造した物で、高出力を誇る。
敵機の構える盾ごと貫いたのだ。
コーネフの攻撃を受け、敵HA隊もすぐさま反撃を開始する。
包囲を縮めつつ砲撃を仕掛けて来る。
コーネフはそれを避けようともせず、迫る敵に向かっていく。
「さあ、シールドとやらの効果はどうかな……?」
はたして、集中砲火を受けてもδ機は全くの無傷であった。
攻撃を受けるたびに機体の周囲がぼんやりと光を帯びる。
収束フィールドの効果が表れていた。
UGの基本武装である収束フィールドは、
超光石エンジンの起動に伴って発生する機体周囲のエネルギーを、
高密度に収束させてバリア化するものである。
「さすがにこのまま反撃するには出力が足りないか、だが……!」
敵機まで一気に距離を詰めると、そのまま素手で殴りつけた。
元々倍のサイズ差があるUGの攻撃である、
パワーの差は歴然で、一発で弾き飛ばす。
後方からの味方の支援も受けて、数に勝るウミヤマのHA隊を押していく。
この状況を見て、背後の艦橋でプールがほくそえむ。
「くくく、ずいぶんと遊べる玩具じゃないか。
 やはり『あの男』の頭脳は恐ろしい、味方に引き込んで正解だったな……」

正体不明機の攻撃に押される自軍の姿を見て、権田が大きく舌打ちをする。
「チィ! あんのデカブツ、こっちの攻撃が効いとらんぞ!」
『牡丹』以下の艦艇の援護射撃で辛うじて敵の進軍を遅らせてはいる。
だが、あのままあの正体不明機を放置しておけばいずれ突破され、
ウミヤマに取りつかれてしまう。
今のところ敵の攻撃の目的がわからないが、
直接『ウミヤマ』を攻撃してこない所を見ると占拠、強奪を目論んでいるようだ。
「ええい! ウミヤマに艦砲攻撃させろ! 新鋭艦の力を見せてやれ!!」
指令はすぐさまウミヤマにも伝わったが、帰ってきたのは意外な答えであった。
「ウミヤマの火器管制に異常! 攻撃できないとのことです!!」
「ぬわんだとう!! 腐れ岩尾の酔いどれは何をしくさってんじゃあッ!!」
叫びに答えて、メインスクリーンに岩尾の赤ら顔がドアップで映る。
「スケコマシ! 困ってんのはこっちも同じじゃわい!!」
そう言い放つと一升瓶をあおり始める。
権田と岩尾の二人は軍大学以来の同期でかれこれ五十年来の喧嘩仲間なのだった。
スクリーン越しに喧嘩を始めた二人を尻目に、
ねじり鉢巻きを締めたドクターヒムが牡丹の副長に説明をする。
「火器管制のプログラムにトラップが仕掛けられていたようです。
 これを解除しない限りどうにもなりません、しばらく時間を下さい!」
日村にしては珍しく焦りの表情を浮かべている。
それだけ言って、通信を切る。
とにかく急がなければならないのだ。
「どうじゃドクター? なんとかなりそうか?」
「これを仕込んだ奴……おそらくあのコーネフ中佐だろうけど……、
 この天才の僕に劣らず優秀なようです。なかなかに厄介ですよ!」

『牡丹』の権田は通信が切れるや否や、指示を出す。
喧嘩をしつつも日村の報告は聞いている。
「やむを得ん! HA隊は相互を守りつつ防御を固めてゆっくり後退しろ!」
ドージマ艦隊のHA隊は連合宇宙軍でも歴戦の猛者ぞろいである。
時間稼ぎに徹すればしばらくは持つとの判断だ。
一方で攻撃が始まってから、ミソラ提督と連絡を取ろうとしているのだが、
一向に連絡が取れない状況が続いてもいた。
「どうやら人工島及びウミヤマ艦内で暴動が起きているようです!
 ミソラ提督は人工島にいるようですが確認が取れません!」
「甲兵小隊の一つも出して確認せんかい!
 提督にもしものことがあったらどーするんじゃ!!」
唾を飛ばして新任の副長を怒鳴りつける。
副長は慌てて各所へ指示を下す。
「よーし、粘りさえすりゃあこっちの勝ちじゃ! いくぞぉッ!!」
「えい、えい、応っ!!」
権田の叫びにブリッジのクルー一同が声を揃えて答える。
これが『権田流』のやり方であった。

ウミヤマ艦内、PH重工研究所では『敵』UGの対策で紛糾していた。
「収束フィールド無しでは勝負にならん!
 ε(イプシロン)とζ(ゼータ)を出すのは無謀だ!」
独自にUGの情報を掴んでいた日村からの出撃要請を受け、
研究所の職員は出撃止む無し、との考えに傾いていた。
ただ一人、大塚博士だけが反対していた。
UGの総責任者で本社の名代でもある大塚の意見を無視はできない。
一応、二人のパイロット候補者だけは招集させたが、
それは最悪の事態=『UGの単独脱出』を想定してのことである。
「ウミヤマには多数の市民も乗っています!
 これを見捨てるわけには……」
研究員の一人がおずおずと意見を述べる。
「そんなことはわかっている! だが勝てなければ意味があるまいッ!!」
そんなやり取りを繰り返していたが、一向に決着を見ない。
「ウミヤマの火器管制が戻れば撃退できる可能性は高い!
 私はそちらの手伝いに回る。いいか、くれぐれも……」

ファン! ファン!

言いかけたところで緊急事態を告げるアラームが響く。
「何だ!」
「そ、それが、イプシロンが勝手に発進しました!」
「何だと……! いったい誰だ!!」
そこに、音声のみの通信が入る。
『こちら、クラウス・アイゼンシュタット少尉だ。
 このまま手をこまねいてはいられない、僕が奴を撃つ!』
それだけ言うと一方的に通信が切れる。
招集したUGのパイロット候補の一人で本社からの報告では、
ギリギリ戦闘に堪えうる資質とされていた。
ただし、性格にいくらか難があるとも言われていた。
さっそくの独断行動である。
「くっ! 勝手なことを……ッ!
 仕方がない、とりあえず軍に事情を説明し援護を頼めッ!」

つづく


○ニューキャラクター

【権田東平】ごんだ・とうへい
 機関長の岩尾厳とは同期。
 将官候補にもなったが、女癖の悪さが祟って艦長止まりであった。

【クラウス・アイゼンシュタット】
 軍事の名門、アイゼンシュタット家の三男。連合軍少尉、23歳。
 功名心が強く、UGという『特機』で名を上げようとしている。
 実戦経験は乏しいが、シミュレーションと実機模擬戦ではエース級の実力。
 金髪碧眼のゲルマン系美男子。若干背が低めなのを気にしている。

 


第20話投稿者:ベガ投稿日:2011/12/18(Sun)11:25No.104  

「だ、だましたわねやぁーすけ!」
つみれの声がこだました。
「わぁーっはっはっはっ! だましたわけではなかぞ、お嬢しゃん!」
操縦席に座ったシャーマンが叫ぶ。
「宝ば見つけた者はこん周辺に現れる、そう言ったのはお嬢しゃんだ!」
二人は今、ヘビーアーマーのコクピットにいた。
その巨体に圧迫されながら、つみれはシャーマンの膝に座っていた。
「だ、だからって、なんでこんなもんで襲撃してるんですの!」
旧軍事基地の兵舎。
森が開け、白いテントがいくつも並んだそこは、兵士たちの詰め所となっていた。
制限時間を迎えたとしても、宝を奪われてしまえばポイントは得られない。
故に宝を見つけた者は、自ずとゴールである各詰め所に近づこうとする。
それを狩りだそうというつみれの作戦だったが……
シャーマンは古びた格納庫からHAを駆り出したのだった。
「副長になりたいんやろ? ならゴールば潰して回り、一網打尽にすればよか!」
そう言ってシャーマンは、テントのひとつを踏み潰した。
「おやめなさい!」
狭いコクピット内で、つみれのマッハパンチが飛ぶ。
到底人間の動体視力で捉えられるスピードではない。
「な…」
だがその拳をシャーマンが易々と掴んでいた。
「やぁーすけ…あなた…」
「正解だ」
瞬間、シャーマンの裏拳がつみれの額をコツンと打った。
途端につみれの体がぐったりと崩れる。
「俺は改造人間、人ならざるもんじゃ」
倒れるつみれを抱きとめ、シャーマンが呟いた。
「むしろおまえに近いかも知れんな…」
「うぅ撃てェーッ!!」
そのとき、兵士たちの一斉射撃が始まった。

「…どういうことだい、こりゃ?」
突然本部テントに現れた三人を見つめ、ミソラが呟いた。
「艦長大変なんです! あんささ! あんさささッ!」
開口一番、豹介が噛み倒しながら叫んだ。
「落ち着け」
鷲雄が冷静に言う。
ごくと豹介が唾を飲み込んだ。
「暗殺だッ!!」
「…なに?」
「俺たち、艦長を暗殺しようって連中と一緒にいたんだぜ!」
なぜか嬉しそうに鮫が叫んだ。
「暗殺…だと?」
「事実です、艦長」
鷲雄が言った。
「事態を知ってなんとか脱出しましたが、森で迷い、そこで運良く」
「俺の嗅覚が迷子になってたスミレちゃんを見つけたんだやほーい!」
鷲雄の言葉を鮫が継いだ。
「スミレが迷子? あり得ない話だね」
「能力を妨害されていると言っていました。それで迷子になったと」
「…そのスミレは今どこに?」
と、そのとき、謎のHAとスミレが戦闘中との報が入った。

「きさんがスミレか」
身を屈め、シャーマンがふわりと着地した。
その背後には、片腕をもぎ取られ、頭部を潰されたヘビーアーマーが、
煙を上げて、鎮座している。
「こん距離でさえ、能力ば完全には殺せなかか」
「念力のコントロールは奪われました」
目前に対峙したスミレが言った。
そこは既に戦場と化していた。
薙ぎ倒され、吹き飛ばされた兵士たちがそこかしこで呻き、
潰され、踏みにじられたテントの残骸が散らばる。
空は赤く染まり、黒い雲がたなびいていた。
「ここまでどげんやって来よった?」
吹きすさぶ風に目を細め、シャーマンが言った。
「出鱈目に飛ぶようテレポートも誘導したはずやけど」
「彼のおかげです」
そう言ってスミレが片手をあげる。
鎖で繋がれたその先で、ぬっと転送班のジェロが姿を現した。
「しゅるる…」
「ふはっはっはっはっ! それではどげんしよもなか」
シャーマンが笑った。
「そうですね。諦めて投降してください」
「できんな」
言ってシャーマンは背負っていたつみれを胸に抱いた。
繋がれた鎖がじゃらりと鳴る。
「眠れる美女は俺の胸だ」

つづく


第21話投稿者:ピヴィ投稿日:2011/12/20(Tue)15:53No.106  

「ユキ、いるかい!?」
ミソラが周囲を確認もせずに声を張ると、背後から「はい」とひとこと返事がある。
牧野ユキコ中佐もチェーンデスマッチに参加していたはずだが、いつの間にか戻ってきていた。
その左腕にはまだ鎖がついたままである。その鎖の先には……
「ユキ、ここはお前に任せる。アタシらぁウミヤマへもどんべぇよ!」
ミソラは、サンバカンを率いてダッと本営幕舎を脱出した。

「おめぇたち、乗ってきた船の場所はわかるかい?」
ミソラが走りながら聞く。けっこうな速度で走っているのに息を切らせる様子もない。
「は、はい〜」
黄原豹介は顔中汗だく、血色も悪く青い顔をしながら必死に追いすがる。
赤羽鷲雄はさすがに平気な顔をしているが、青海鮫はしゃべる余裕はないようだ。
鮫ちゃんしゃべるだけが活躍の場なのに!
一緒に走っているのが若くて美人ならきっと違う反応だったに違いない。
やる気のない2人に変わって豹介は
「親分、敵の連絡艇はこの先に泊まってやす!」
「親分じゃない! キャプテンとお呼び!! キャプテンミソラと!!!!」
ドバシッとミソラの鉄拳が豹介のプニプニほっぺに飛ぶ。
「へ、へい。キャプテン〜」

「キャプテンミソラ、あれが俺たちの乗ってきた船です」
木陰に隠れながら4人は目の前に泊まっている連絡艇を観察していた。
周囲にはヘビーアーマーが2機と歩兵が3人哨戒している。
「ちょっと多いね、もっと出張って手薄かと思ったんだが」
「あの歩兵も普通の人間じゃ無さそうです」
鷲雄はぐっと歩兵をにらみつける。
強行突破は無理かと、一同に落胆が走る。
「キャプテン、ここはおいどんにまかすでばってん」
そういうと、豹介はお腹のポケット……いや、背中の鞄からタブレットを取り出すと
なにやら操作しはじめる。
「あのタイプのHAなら〜。
鷲ちゃん、ちょっと。鮫ちゃんはこんなふうに〜」
豹介はこそこそと2人に指示を出す。
「ええぇ! やだよオレ、死んじゃうよ」
「豹介、その注文は難しすぎるぞ……」
「キャプテンの前なんだから、ちょとはかっこつけようぜ」
困った顔をしながらも、それぞれの配置につくように散っていく。
「キャプテンはしばらくここでお待ちを。
チャンスが来たら、こいつを持って船に乗り込んでください」
ミソラに自前のパーソナルシールドを渡し、自分も配置につく。
「よし、いくぞ〜」豹介は手で合図をだす。

鷲雄がこぶし大の石をハンカチで作った即席のスリングで思いっきり投げつける。
歩兵Aの頭に命中すると、石が砕け散る。
「て、てき……」
さすがの強化人間、一言だけ発するとその場に崩れ落ちた。
異変を察知した残りの歩兵BとHAの1機が鷲雄の姿を確認すると素早く追いかけはじめる。
銃声が響くと、連絡艇がエンジンを始動した。
「しまった、鮫ちゃん急いで!!」
豹介はあわてて鮫に指示を出すが、鮫はすでに自分の仕事に取りかかっていた。
鷲雄が相手の注意を引きつけた瞬間に、鮫はもう一体のHAの背後に取りついていた。
豹介に渡された端末を口にくわえ、10mはあるHAの背面を登っている。
「ふほ、なんへほんなひゃふはっはり(くそ、何でこんな役ばっかり)!」
頭部の背後まで登ると、豹介の説明通りの所にあるソケットにプラグをはめ込む。
鮫は、手を振って豹介に作戦成功を連絡すると、急いでその場を逃げ出した。
連絡を受けた豹介は、手元のタブレットで素早く操作をすると
船の前にいるHAが怪しい動きをし始める。
「よし、上手く繋がった」
HAは180度旋回すると足下にいる歩兵Cを蹴りつける。
強化人間といえどHAのキックに耐えられるわけもなく吹き飛ばされる。
そのまま連絡艇の方へと向かせると、掴みかかり動きを止めた。
「キャプテンいまだ!」
その声とともにミソラが木陰から飛び出し、連絡艇へ走り出す。
船までは30mほど、後部ハッチは開いたままだ。
しかし、そこへ敵HAが戻ってきた。豹介の動かすHAとミソラに向かって銃を乱射しはじめる。
ミソラはあわててシールドを展開するが、
HAの攻撃をパーソナルシールドでは防ぎきれずに吹き飛ばされる。
「キャプテン!!」
豹介はHAを動かし、ミソラの盾とすると反撃をはじめる。
その間に戻ってきた鮫がこっそりとミソラを木陰へと避難させた。
それを確認すると、豹介は一気に攻勢に出る。
タブレットで操作しているにもかかわらず、圧倒的な動きで敵HAを制圧した。
「キャプテン、無事ですか!」
豹介が鮫とミソラの元へ駆け寄ってくる。
敵をまいたのか、鷲雄も戻ってきた。
ぐったりと横たわるミソラ。
「意識は失ってるけど、出血もしてないし大丈夫だとは思う……」
「そうか、よかった」
ややもするとミソラが意識を取り戻した。
「連絡艇は逃がしちまったようだね、減点だな」
ミソラは3人の顔を見わたす。3人とも無事で良かったとほっと表情に出る。
「敵のHAを捕獲してあります、これで脱出しましょう。1人乗りに4人乗ることになりますが」
「じゃぁまぁ、及第点にしといてやるかね」
ミソラはそういって起き上がり「さっさといくよ!」とHAに乗り込んだ。
こうして4人はウミヤマへと帰還を果たした。


つづく


第22話 結果的にロング...投稿者:うじてる投稿日:2011/12/21(Wed)21:48No.107  

『赤き森』の作戦開始から二時間ほど前、第二海山市中央公園。
代表的待合せスポットである噴水池の周りも、今日ばかりは人影もまばらである。
ほとんどの市民は副長選挙をUテレの中継か会場で観戦している。
喫茶店や食堂はもちろん、居酒屋やバーなどの飲み屋も昼から営業し、
大型スクリーンに中継を映して客を取っている。
そんな閑散とした公園で一人の少女が待ち合わせをしていた。
いかにも『清楚なお嬢様』といった風で、服装もややクラシックである。
すらっとした長身と、長く艶やかな黒髪がより雰囲気を高めている。
少女はチラリと、これまた高価なブランド物の腕時計を見る。
待ち合わせの時間は既に十五分ほど過ぎていた。
そのとき、公園の入口から大きな声がした。
「おーい! まーとりー!!」
大きく手を振り息せき切って制服姿の少女が駆けてくる。
第二海山高校の制服にスクールバッグとトートバッグ、揺らしている。
黒ぶちメガネに三つ編みお下げと、昭和の雰囲気そのままである。
と言って、格別この町で浮いた格好というわけではない。
そもそも海山市は旧西暦時代から昭和の街並みを色濃く残し、
その後積極的に再現復刻していったのである。
これは何も海山市に限ったことではない。
地球外進出後、宇宙からの大量の資源調達が可能になり、
またそれが殖民星の開拓、宇宙基地、コロニーの建設などに使われ、
経済の中心はすっかり地球外に移った。
一方で地球には地球連合政府の大統領府が置かれ、
政治家、高級官僚や富裕層は文化と自然豊かな地上に残った。
彼らは自然環境の回復と文化資産の保護・復興に努めた。
多くの地域は『保護区』となり『懐古主義』の元、
旧西暦以前の文化が残されたり甦ったりした。
海山市もそんな場所の一つであり、
ウミヤマ艦内の『第二海山市』もそのエッセンスを受け継いでいる。
ともかく、そんな昭和の臭いが濃い少女『橘アサミ』は、
ぺろっと舌を出して謝っていた。
「ごめーん! 今日発売の新刊が初版のみ特典付だったから!
 ちょこーっと本屋にね……あはは……」
トートバッグからは特典のリバーシブルポスターが覗いている。
ちなみに『新刊』とは言っても、およそ二百年前の漫画の復刻版である。
「本当に、アサミは変わってないわね?」
そう言って、お嬢様風の少女『マトリ』は怒った風でもなく微笑み返す。
「マトリのほうはずいぶん変わっちゃったよねェ。
 あの『三中のアマゾン』も今じゃ立派なお嬢様だよ」
アサミはオイオイ、と泣いた振りをしてみせる。
振りであったが、一抹の寂しさがあるのもまた事実であった。
ほんの二年前、中学生当時は少年と見まがう身なりで、
おせっかい焼きで義理人情に厚いが、とにかく荒っぽいという性格であった。
かつての、アサミがよく知る彼女の姿はすっかり消え失せていから。
「ねぇねぇ! とりあえずどこかお店に入ろうよ、お腹空いたし!」

二人は市庁舎の地下にある喫茶店『森の熊』に入った。
ここは時候に関係なく、いつもほどほどの客入りでゆっくりできるのだ。
昼食を済ませていなかったアサミは盛大にカレーとデザートを平らげ、
その間マトリはミルクティーを飲んで待っていた。
「ところで、どうしてわざわざウミヤマに来たの?
 よくお父さん許してくれたね?」
「うん……一応、PHの研究所の見学なの」
マトリは高校進学の際、海山市を離れて大統領府の名門校に進学した。
これは彼女にとって本意ではなかった。
中学卒業の前に母親を亡くしたが、母は死の前に家の名を汚さぬよう、
父親の言うことを聞くよう、言い残した。
そして、もしその約束を違えた時は家との縁を切れとも。
丁度そのころ、自分の進路に迷いがあった。
幼いころから武道にのめり込んでいたが、いざチャンピオンになってみると、
特別それほど達成感はなかった。
予選から決勝まで、まともに相手になる者はいなかったのだ。
いっぺんに、目的を失ってしまった。
以後、彼女は不承不承『お嬢様』としての道を歩み始めたのである。
「一応ってことは、なんか裏があるってこと!?」
「……そうね。そのことは父は反対しているんだけど」
「え、なになに? それって……」
言いかけたところで、店内に連合軍の緊急放送が流れる。
それによれば市内各所で暴動が起き、甲兵隊が出動して鎮圧にあたっているが、
市民はすぐに各避難所に避難して治まるのを待つようにとのことだった。
「わー、暴動だって! やっぱりこういうことが起きるんだな〜」
アサミは非日常的な出来事に、いささか楽しげであった。
「もう! のんきなこと言ってないで私たちも避難しましょう!」
二人は店員の誘導に従い、ここから最も近い避難所……PH重工研究所に向かった。
避難所となっている研究所にはすでに多数の人々が退避していた。
若者や大人たちは副長選挙の舞台である人工島に多数が居るせいか、
ここには子供たちやその保護者、老人などが多かった。
所内は騒然としており、小さな子供や赤ん坊がわんわんと泣き叫んでいる。
「どうも結構大変なことになってるみたいだね……」
アサミは避難所の情報操作盤を操り、状況を調べた。
映された映像では、まさにこれからUG同士の戦いが始まろうとしていた。


 第22話 結果的にロ...うじてる-2011/12/21(Wed)21:49No.108  

 

勇躍、出撃したクラウスであったが、実戦経験は数えるほどしかなく、
その手は汗でびっしょり濡れていた。
「さあ、UG! 僕の栄光のために闘うんだ!」
言葉だけは勇ましく、コーネフのデルタ機に向かっていった。
なお、クラウスが乗り込んだのはε(イプシロン)機である。
とは言え武装は何もないから、無手での格闘戦に持ち込むほかない。
相手の状況を悟ったコーネフはすかさず荷電粒子砲を撃ち込んでくる。
クラウスはこれを洋々とかわし、急加速でデルタ機に取り付く。
このあたりの動きはエース級パイロット(シミュレーターの)らしい。
ただ、相手のほうが一枚も二枚も上手である。
コンポジットバトンの達人であるコーネフはこれを真っ向から受ける。
背中からUG用に調整した超硬度鋼のロッドを取り出し、先制攻撃を放つ。
「遅い!」
コーネフの振るったロッドは打ち込んできたクラウスのパンチを砕く。
一撃で右手首が中破し、使い物にならなくなる。
UGの受けたダメージはMMFという独自のシステムもあって、
搭乗者にもダメージとして感じられる。
実際に肉体が負傷するわけではないが、右手にかなりの痛みを受ける。
「くそ! まだ左手がッ!」
意外とタフに耐えきり、怯まず、左フックを打ち込む。
が、それは 光る壁― 収束フィールドに防がれた。
「気持ちだけは立派だが、それだけでは勝てんな」
コーネフはわざと、クラウスに聞こえるよう短距離通信をする。
「何をッ!!」
激昂したクラウスは続けざまに攻撃を放つが、巧みに避けられる。
そして相手の前蹴りで再び、距離を取らされた。
「あまり、お前の相手もしてられないのでな……」

一方、PH重工研究所では大塚博士がウミヤマ艦橋の日村と協力し、
火器管制の復旧を図っていた。
だが、大塚はUGのことが気がかりで作業に集中できなかった。
「おい、進! どうだそっちは?」
「ん、ああ……どうも良くないな……」
「って、お前! こっち見てないだろ!」
日村の指摘通り、大塚はデルタ機とゼータ機の戦いに見入っていた。
「くそ! やはりフィールド無しでは勝負にならん!」
「しかし博士、友軍と連携し何とか進撃を押し止めています!」
「あれではいつまで持つかわからない、やはり引き上げさせねば……」
そのとき、もう一人のパイロット候補者を連れてきたとの報告が入った。
職員と共に、慌しく二人の少女が駆けてくる。
大塚は作業から離れ、二人に目を向ける。
「君がマトリ君か……そこのもう一人の彼女は?」
「それが、その、勝手について来てしまって……」
職員の制止を振り切り、ずずいとアサミが前に出てくる。
「ちょっと! マトリがあのUGってロボットのパイロットってのは本当!?」
ビシッと大塚を指さす。
「搭乗者候補だ。まだ決まったわけではない」
すると今度は職員たちが切り込んでくる。
「博士! ここでもう一機UGを出せばあるいは……」
「馬鹿な! 二機だからと言ってどうなるものでもあるまい!
 それに、彼女はまだテストも何もしていない、全くの素人だ。
 いきなり実戦に放り込むなどできる訳がないだろう!」
大塚は大きく手を振り否定する。
いくら『寝太郎』のお墨付きがある適正者とは言っても、
一介の女子高生に過ぎない者を乗せるなどありえなかった。
無論、研究所の職員たちも本来ならこんなことは言い出さない。
だが今に限っては、そう言わせる『何か』があった。
大塚と職員たちの議論を尻目に、マトリはスクリーンの戦闘を見つめていた。
アサミはそのマトリの背から彼女の手を握った。
「マトリ。あんた、あれに乗んなよ!」
「……どうして?」
マトリは振り向き、アサミの眼を見つめる。
「どうもこうもないよ!
 このままじゃウミヤマが、この街のみんなが危ないじゃない!
 だから、あんたがあたしたちを助けるのよ!!」
「だから、なんで私が……」
二人はお互い、眼を逸らさない。
まるでお互いの言うことがわかっていたかのように。
「だって、そのために来たんでしょ!
 お嬢様の真似事なんかやめて、あたしたちと一緒に行きたいんでしょ!」
「私には……約束があるわ……」
「約束守ってッ! それであんたは幸せなのッ!」
「…………」
「やりたいことが、無くたって! やめられないことがあるでしょッ!!」
「やめられないこと……?」
「お節介焼きで! 乱暴者で! 反抗的で! 女らしさのカケラもないッ!
 正真正銘!『本当の真鳥』をさッ!!」
マトリは、固く握りしめられていたアサミの手を無言で優しく払った。
そのまま言い争いを続けていた大塚の肩に手を置いた。
「だからッ! あの世間知らずのッ! 議員のお嬢様に何ができるとッ……!」
それに気づき、振り向いた大塚の視界が瞬間、真っ暗になった。

ズガァーーーーーッン!!!

振り向きざま、マトリの右ストレートが顔面に入った。
そのまま背後の壁まで吹き飛ばされた大塚は気を失いかけたが、
ヨロヨロと盛大に鼻血をこぼしながら立ち上がる。
「い、いったい何の真似だ……ッ!」
しゃべった拍子に口から歯が一本、ポロリと落ちる。
マトリはスウと大きく息を吸い込む。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーッ! すっきりしたッ!!」
腹の底からの大声が、部屋に響き渡った。
それまでとは、目つきが、物腰が、違っていた。
「まったく、好き勝手言ってくれるじゃない? アサミ!?」
大塚のことは無視して、ニヤリと彼女に顔を向ける。
「でもさっすが親友、『人生は、やめられない……やめられない』ってね」
古い歌の一説を口ずさむ。
「なな、何で博士を……」
職員たちも、お嬢様の突然の豹変にいささかビビッていた。
「だって! まさか女の子を殴るわけにはいかないでしょーがッ!」
「だからって博士を……」
マトリはぎろりと大塚を睨みつける。
「こいつ、さっきからあれがダメだのこれはダメだのやかましいからさッ!」
今度はスクリーンに近づき、そのコンソールに拳を叩きつける。
「あまつさえ、このアタシがッ!
 あんなテロリスト風情に敵わないとか思ってるみたいだからさ!」 
画面にはちょうど、コーネフのデルタ機が大写しになった。
「お前、こいつは競技でも、遊びでもないんだぞ……殺し合いだ。
 もうひとりの君も、友人に軽々しく『戦え』なんて言うもんじゃない」
「マトリは……彼女は殺し合いがしたいんじゃないわ! 大切なものを、守るの!」
「アタシは誰かに頼まれたって戦わない。自分がそうしたいから戦うのよ……」
しかし、大塚はなお食い下がる。
「しかし! 科学者の端くれとして、
 調整の済んでない機体で無謀な戦いに挑ませるわけにはいかないぞ!」
「舐めてんじゃないわよ! あの味方のロボットだってやってるじゃない!
 アタシだったら楽勝よ!」
そこにゆらり、とサンバカたちに肩を貸されたミソラが現れる。
「大塚博士、艦隊司令として要請する。あそこの彼女にUGを貸してやってくれ。
 火器管制復旧までの時間を稼ぎたい」
「ミソラ艦長、その姿は……」
「なかなかにしつこい敵さんでね、ウミヤマを奪うためにあたしの命を狙ったのさ」
「艦長を暗殺!?」
ざわざわっとその場に動揺が広がる。
「だが、この餓鬼どものおかげで助かった。
 あそこの命知らずのバカ娘にも賭けてみる価値は十分にある」
「そーだぜー! おれたち海山高校三銃士が味方だぜ! セニョリータたちッ!」
意気揚々と鮫ちゃんが声を上げ、必死にアサミたちに向かってウインクする。
だがしかし、マトリはそんな鮫ちゃんたちには目も向けない。
「アタシは、あんな婆さんの命令なんかなくたって勝手にやらせてもらうわ。
 いいわね! あんたたちッ!」
そういって近くの職員の胸ぐらを掴む。
すっかり怯えた職員は顔を青白くし、無言で頷く。
「っと、その前に……。
 アサミ、あんたカッター持ってるでしょ? ちょっと貸して」
「……? まあ、持ってるけど。はい」
がさごそとスクールバッグから取り出し、渡す。
漫研部の彼女にとっては、スクリーントーンを貼るための標準装備である。
ちなみに、デジタル作画が当たり前の現在にあっても、
中にはアサミのようなマニアックな制作手法を頑なに守る人々がいるのである。
「さんきゅ」
カチカチッと無言で長めに歯を伸ばし、
それをスカートに当てると膝上辺りから引き裂く。
続いて、無造作に後ろ髪をバッサリと短く切り落とす。
「あーっ! せっかく綺麗だったのに、もう?」
「だって、邪魔だし」
あっけなく、切り取った髪を投げ捨てる。
「うむ、切り替えの早さは鮫並みだな」
鷲雄がかつてのライバルの姿に大いに頷く。
「さあーーって! その、UGとやらにアタシを案内しなさい!」


 第22話 結果的にロ...うじてる-2011/12/21(Wed)21:50No.109  

 

クラウスとウミヤマ旗下のHA隊はよく防戦していたが、それも限界を迎えていた。
「アイゼンシュタット少尉! これ以上は無理だ、下がれ!」
後退するウミヤマHA隊から通信が入る。
「僕はまだ……まだやれます!」
意外にしぶといクラウスは諦めずに、単機で再度デルタ機へ向かっていく。
「引き際を間違えたな!」
コーネフは容赦なく、荷電粒子砲を撃ち込もうとした。
が、新たな敵機が現れたとのアラームに気持ちが乱れた。
左足が大破したが、辛うじて直撃だけは免れたクラウスは友軍に曳かれ、引き下がる。
「ほう、もう一機のUG……ζ(ゼータ)か」
イプシロン機の追撃を中止し、猛然と新たな機体に襲い掛かった。
「もう、遊んでいる時間はない。すぐに落とさせてもらうぞ!」
ピンポイントでコクピットや強度の低い弱点を狙い撃ちする。
しかし、出撃したマトリは初めて飛び出した宇宙の感覚に戸惑い、
あたふたと虚空を空しく泳いでいた。
「そら見ろ! そら見ろッ!! 直撃するぞ!」
大塚博士が天を仰いだ。
デルタ機が放ったビームの弾は無情にも全弾が命中した。
光に包まれ、ゼータ機が一瞬見えなくなる。
収束フィールドを持たないウミヤマ側のUGがまともに食らえば撃沈するはずである。
だが次の瞬間、研究所オペレーターの歓喜の声が上がる。
「ゼータ健在! 損傷軽微です!」
『おおっ』と、ウミヤマ艦橋、避難所からもどよめきが起こる。
手ごたえを感じていたコーネフも目を疑う。
「む、まさか奴にはフィールドがあるのか?」
ようやく体勢を立て直したマトリは、ゆっくりとデルタ機に向かって泳いでいく。
「データはッ! あれは一体どういうことだ?」
「その、ハッキリとはわかりませんが『光量』が多いせいではないかと……」
『光量』とは、UGが機体周囲に放つエネルギーの量のことである。
先にも言った通り、これを収束させてバリア化させたものが収束フィールドである。
「およそ、これまで観測標準の平均値と比較して十五倍!
 目前の敵UGとの比較でも十二倍です!」
「収束無しでも防いだということか? 光の衣か!」
「そうでなければあの直撃を耐えられません!」
だが相変わらず無重力に慣れないマトリはのろのろと漂っている。
「しかし、あれではどうにもならんぞ! 慣性制御システムに問題は!?」
「機能はしていますが……UGの場合、搭乗者のバランスが重要なので……」
「君、彼女はスペースアーツか無重力競技の経験は?」
UGの操作系は極めて感覚的で、無重力ないし低重力下での動きに慣れていれば、
操縦方法を覚えなくてもだれでも容易に動かすことができる。
「えーっと……無いと思います。私たちは地球育ちだったから……」
アサミの言葉通り、経験の無い彼女は無重力に翻弄されていた。
まごつく様子を見て、コーネフは接近戦を仕掛ける。
ゼータ機の下面に回り込み、死角からロッドで攻撃する。
「んがっ!」
したたかに背中を撃たれ、くるくると回転しながら機体が飛ばされる。
すかさず、アサミがアドバイスを送る。
「マトリーッ! アルディアンの足元に地面があると思って!」
「そんなムチャクチャな……大体アルディアンというのは何だ?」
ウミヤマに仕掛けられたトラップと格闘しつつ、大塚が呆れ顔で訊く。
「あのロボットの名前……、長いから縮めたの。カッコいいでしょ?」
何とか態勢を直したマトリに、アドバイスは届いていた。
他の者ならいざ知らず、彼女にとっては十分な内容であった。
「アルディアン……! あいつに向かって走れッ!!」
ゼータ機ことアルディアンは叫びに応え、力強く宙を蹴った。
光の軌跡を残し、アルディアンは滑るように虚空を走り出した。
「足元に光量を集中させ、それを足場にしているようです!」
”ありえない”動きにさしものコーネフも面食らう。
そのわずかな隙を逃さず、マトリが起死回生の一発を見舞う。
「アルディアン必殺! 正ェェ拳突きィィィィッ!」
我を取り戻したコーネフであったが時すでに遅かった。

ガッシィィィッン!

アルディアンの光る拳はデルタ機の防御した右手を根こそぎ粉砕する。
コーネフは激しい痛みにもがき苦しむ。
そしてそのとき、大塚の前に解除パスワードの画面が開いた。
「む! パスワードだ……くそっ! 一体なんだ……!」
「なあに、簡単だ。それッ!」
日村が素早くキーを叩く。

 〜パスワード?

 モノリスの意志―

 〜OK!

「よし、火器管制システム、オールグリーン!」
してやったりと日村が小躍りする。
「あの小娘に敵から離れるように伝えな!」
ミソラは機を逃さず、砲撃準備の命令を下す。
「どうにか……なったようだな!」
大塚もほっと、安堵の表情を浮かべる。
「マトリ! 早くーーッ!」
アルディアンは逃げようとするコーネフのデルタ機を捕まえた。
「私はまだやられん!」
何とか逃れようとするが、先ほどのダメージが機体の駆動部をおかしくしていた。
デルタ機の両足を抱えると、大きくそれをジャイアントスイングで振り回す。
「そーらッ! 潔く星になっちゃえ!」
猛烈な遠心力が付いたところでウミヤマに向かって投げ飛ばす。
急加速に、機体の制御が利かない。
そこに、白熱の束が襲い掛かった。
「ウミヤマ主砲! 撃てェェェェーッ!」
号砲一発、UGデルタ機は跡形もなく消し飛んだ。
「やった! って、ちょっと! アルディアンが流れて行っちゃうよ!?」
アサミの指摘通り、ピクリとも動かず宇宙を漂っている。
「何だ、今度は一体……?」
「その、光量による負荷で機体の耐久度が限界を超えたようです」
「まったく、とんでもない奴だ……。
 しかし、彼女こそ『究極の守護者』、その操者にふさわしいようだな」

つづく

○ニューキャラクター

【石神真鳥】いしがみ・まとり

『寝太郎』が見出したUGのパイロット候補。17歳。
中学時代は『三中のアマゾン』として恐れられた空手のチャンピオン。
当時、赤羽鷲雄からは一方的にライバル視されていた。
荒っぽい性格だが、義侠心の強い少女。
大好きなのは、大盛りの白飯。

【橘阿佐美】たちばな・あさみ

マトリの中学時代の同級生。現在は第二海山高校の生徒。
大人しそうな外見とは裏腹に、明るく快活な少女。
漫研部所属で、BLモノと百合モノが趣味。
大好きなのは、イチゴショート。

 


第23話投稿者:ベガ投稿日:2011/12/23(Fri)16:37No.110  

艦長席に座ったプールは額に手を当て、呟いた。
「…デコイ射出、離脱準備」
首から下げたロケットを取り出し、開く。
小さくオルゴールが鳴った。
「……」
無言でロケットの写真を見つめる。
「艦長!」
と、クルーのひとりが叫んだ。
「緊急ハッチに生命反応!」
「なにッ!」
はっと顔をあげる。モニタを見る。
生命反応が赤い点となって映し出されていた。
「まさか…保安要員を回せ! 急げ!」
「ハッチ開放! 侵入しました! 速い!」
モニタに艦内の図面が現れ、
赤い点が猛然と通路を進んで行く様が映し出される。
「なぜ警報が鳴らん! 使用IDはッ!」
「342089X10RF……まさかそんな…」
青ざめた表情でクルーがプールを振り返った。
「コーネフ…」
モニタを睨んだままプールが呟く。
「保安部、到着!」
モニタではT字に分かれた通路に、保安部員を示す黄色い点が集結していた。
「状況報告!」
プールの怒声が響く。
しかしその声に応えがない。
「報告しろ!」
ノイズまじりの銃声と叫び声が、遠くから聞こえる。
やがてモニタの黄色い点が点滅し、次々と消えていった。
「そんな…」
クルーが呟いた。
最後の黄色い点が弱々しく点滅し、そして消える。
「保安部、消失しました…」
その声にブリッジ内がしんと静まり返った。
「馬鹿な……」
プールは立ち上がり、インカムに向かって叫んだ。
「応えろ! 繰り返す! 状況を報告しろ!」
「無駄だ」
「なッ!」
プールがその声に振り返る。
出入口の前に一人の男が立っていた。
即座にクルー全員が立ち上がり、一斉に銃口を向ける。
「キサマ…何者だ」
呻くようにプールが言った。
男はボロボロになった連合宇宙軍の軍服をまとっていた。
顔は煤にまみれ、火傷を負っている。
それは紛うことなく、ラーメン屋で屠れらたはずの若い男だった。
その顔がニヤリと歪んだ。端正な顔立ちだけに凄惨に映る。
「やめとけ」
男が言った。途端、
「ウッ!」
「ギャッ!」
両脇から忍び寄ったクルー二名が一瞬にして吹き飛ばされた。
壁に並んだコンソールに激突し、火花を散らしてその場に突っ伏す。
「うぅ…」
倒れたクルーのひとりは肩口を抉られ、
もうひとりは顎先から頬にかけて、ざっくりと切り込まれていた。
男は微動だにもしていなかった。
ただその場に立っているだけだった。
手の先からポタポタと血が滴る。
その血が赤い染みを作っていた。
「俺は主人公男(ヌシト・キミオ)。赤き森の新たな幹部だ」
さらに口の端を歪め、ヌシトが言った。
「あんたに代わってな」
犬歯を剥き出す。
「キサマッ!」
一喝したプールが腕を突き出した。
瞬間、サイボーグ化された腕が男の胸元に向かって発射される。
30mmの鋼鉄板さえぶち抜くその攻撃はプールの切り札だった。
だが。
「なッ…!」
合金製の腕がブリッジの壁を突き破り、めり込む。
そこにヌシトはいなかった。
「なぜ、だ…」
ごぶぼ、と音を立てプールが血を吐く。
心臓を貫手で抉られ、その体をヌシトに抱え込まれていた。
「失敗も裏切りも許されない。潮時だぜおっさん」
耳元でヌシトが囁いた。
「…なめるな…小僧」
途端、ヌシトの首筋をプールが噛んだ。
その義歯には致死性のウィルスが仕込まれている。
「ふふん」
動じもせず、ヌシトはプールを突き飛ばした。
「が、は…」
おびただしい血にまみれ、プールが倒れる。
その姿を見下ろし、ヌシトは自らの首に触れた。
「ヌッ」
一気に肉を抉り取る。ぴしゃりと肉片を床に叩き付けた。
首筋からビュッと血が飛ぶ。
「おまえら、ついてくんなら歓迎してやる…」
クルーに背を向けたまま、ヌシトが言った。
「だが殺されてえ奴は前に出ろ! きっちりこの場でぶっ殺してやるぜ!」
言い放ち、振り返った。
ボロボロの軍服を破り捨てる。
露出した肌には、いたるところに禍々しいまでの刺青が施されていた。
それは改造人間の証、身の毛もよだつような地獄のごとき手術の跡だった。
それが複雑に絡み合い、一連の図案を形作っている。
ぎょっとしてクルーたちが顔を見合わせた。
薄暗い中、ぼうっと光るその図案は、
赤き森の幹部だけに許された印章、十字に合わさった『モノリス』だった。
通常はナノメートルサイズで描かれる図案がでかでかと全身を覆っている。
首から垂れた血の筋が、蛇のごとく『モノリス』に絡み付いていた。
「……」
戸惑いながらも、クルーたちは無言で銃口を下ろした。
「ふっふっふっ、はぁーはっはっはっはっはっ!」
ヌシトが笑う。
「どいつもこいつも根性がねえ! 俺が全員叩きなおしてやるぜ!」
その背後で、事切れたプールの目が血まみれのロケットを見つめていた。
そこには愛犬を囲んだ妻と娘の写真がはめ込まれていた。
小さくオルゴールの音が響く。

Daisy,Daisy,
Givemeyouranswerdo,
I'mhalfcrazy,
Allfortheloveofyou......

「新生赤き森の誕生だぜえッ!」
ヌシトの絶叫がオルゴールの音を掻き消した。


 Re:第23話ベガ-2011/12/23(Fri)16:38No.111  

 

「おめでとう!」
「おめでっちうやね」
「よかったの!」
「おめでとうさん!」
「おめでどーごし!」
「おめっとうーさん」
ウミヤマ高校の校庭では、副長選挙閉会の式典が行われていた。
朝礼台に立ったひもののひもくんと、いのししちょちょちゃんが手を振り、
盛大な拍手が巻き起こる。
彼らはつみれ・シャーマン組に宝を奪われてしまったが、
圧倒的なまでの人気得票によって、ぶっちぎりで優勝を果たしたのだった。
「いや〜みなさん! 今後もご贔屓にー!」
各店舗の主人たちが、集まった人々に無料で干物や生肉を配っている。
おまけで福引券も付けていた。
それを必死の形相で主婦たちが奪い合う。
まさにリアルデスマッチが繰り広げられていた。
その光景をUテレクルーがスタイリッシュに捉える。
「なんなんですのぉおぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」
それを本営テントから見つめていたつみれが、
わなわなと震えながら叫んだ。
「意味ねえ! 意味ナッスィン! わたくしたちの戦いが、
てんでまったくもって完全に、無意味化していますですわッ!」
「まあ艦長的には成功なんだろうね」
その横で干物をもぐもぐ頬張りながら、ドクターヒムが言った。
「盛り上げたかったわけだから」
「ええ、大成功ですよ」
せっせと炭火で肉を焼きながら豊島が言う。
「暗殺騒ぎで中途半端に終わりましたが、それを覆す盛況ぶりです」
「いやいや君はあれだろ、ユキ君と鎖で繋がれてうれしかっただけだろ?」
「い、いや〜そんなことは」
言いながら豊島は、校庭の隅にいる牧野をちらりと見る。
彼女は人々に囲まれ、どうしていいのかわからず困り果てていた。
混乱の中で発揮した優れた指揮っぷりから、
彼女は男女を問わず幅広い層からの支持を集めたのだ。
その補佐をしたのが、牧野と鎖で繋がれていた豊島だった。
報道官にも関わらず、彼はそのためだけに、
ちゃっかり副長選挙に参加していたのだった。
「そん肉ばもらうぞ」
ひょいと横から手を出し、シャーマンが豊島の肉を奪う。
「ああ、まだそれ生ですよ!」
「構わんけん」
血の滴る肉をむしゃむしゃと食うシャーマン。
彼はつみれを人質にしたものの、
赤き森の部隊が敗退したことで、あっさり投降。
本来なら営倉にぶち込まれるところだが、スミレのテレパシーを受け入れ、
知り得るすべての情報を吐き出していた。
加えて反逆の意志もまるでなかったため、完全なる無害、
もはや、いてもいなくてもどうでもいい人と化していたのだった。
「ふざけんなぁああぁぁあああッ!」
つみれのハイキックがシャーマンの胸にめり込む。
「どぅふッ!」
思わず肉を吹き出しながら、巨体が大きく仰け反った。
「なんばする、そげん肉ば喰いたいんか?」
「違うッ! 納得できないと申し上げているんですわ!」
易々と額のスイッチをシャーマンに押され、
活動不能に陥ったつみれは、怒り心頭、ぶんぶくれていた。
無論、シャーマンが精妙なまでにヒットさせたからこそできたことで、
通常そんなことは起こらない。
「人質のことなら謝ったやないか? もう許しとってくれ」
「まあまあ、つみれちゃん、許してやりなよ」
はふはふと肉を頬張りながら、鮫が言った。
「おっちゃんのせいで傷付いた人間は誰もいないわけだし」
実際シャーマンはテントを踏み潰したものの、
兵士や他の誰かを攻撃することはなかった。
むしろコントロールを失ったスミレの念力が、
二次的なものではあったが、甚大な被害を及ぼしたと言える。
「うむ。それに結局、副長代理に選ばれたわけだしな」
携帯コンロでぼたん鍋を作りながら、鷲雄が言う。
「ぼくらと同じ高校生で副長だなんてすごいよ!」
「そうかも知れませんね。でも責任も重大です」
豹介の言葉に、素早く鍋のあくを取りながらスミレが答えた。
「それも納得いかないのですわ! なんでわたくしがこれと同じ階級ですの!」
ビスィっとスミレを指差し、つみれがわめく。
つみれとスミレの両名は、
ひもくんとちょちょちゃんから副長の権利を譲り受けていた。
彼らはこれから店の宣伝のみならず、
ライブやグラビア、ドラマの撮影など、分刻みのスケジュールが待っており、
副長なんぞやってる暇はないのである。
そこで総合第二位で同率だったスミレとつみれに
副長の権利が移ったのだった。
「ま、なんにせよだ」
その光景を見守っていたミソラが、パンとひとつ手を打った。
「丸く収まったんだ。これから『子供たち』を救いに行くよ」
その言葉に、皆が顔をあげる。
「何が待ってるかわからない…だがあたしゃ諦める気はないからね」
頭に巻かれた包帯は痛々しいが、ミソラの表情は明るかった。
「気を引き締めてくよ!」
その言葉に皆が頷いた。
「レッツラゴーだぜ! 待ってろカワイ子ちゃん!」
ただ鮫だけが、調子っぱずれな希望的観測を吐いていた。

「裏切り者の始末はつきました」
アステロイドベルトに浮かぶ小惑星、その背後に一隻の小型艦が潜んでいた。
「ええ、問題ありません」
黒い合金張りの室内、その中央にはカプセル状の水槽が据えられていた。
緑色に輝く液体で満たされたその中に、コーネフはいた。
左の肩から先、左側面の胸骨下から腹部、そして左大腿から先が失われていた。
こぽりとコーネフが気泡をひとつ吐いた。
「多少修復に時間は掛かりますが、それほどではないでしょう」
液体の中でコーネフは、苦もなく言った。
もぎ取られ、抉られた傷口には蛆のような白い虫が沸いている。
それが必死にもぞもぞと蠢き、肉の繊維を編んでいた。
「シュ、シュシュ」
カプセルの外でボロ布をかぶった人影が言った。
それをコーネフがちらりと見る。
人影が鋭く手を動かし、何かを伝えた。
「…ウミヤマが出航したようです」
こぽとコーネフの口から泡が漏れる。
「ええ……『モノリス』の意のままに…」

つづく

【主人公男】
ヌシト・キミオ。赤き森の若き幹部。
連合宇宙軍の士官候補として将来を期待されていたが、
凶暴な性格が災いしてか、上官を半殺しの目に遭わせドロップアウト。
モノリスメンバーとの接触を得て、そのシンパとなった後、
ミソラ暗殺計画に参加。
ラーメン屋で屠られたかに見られたが、自力で脱出。
モノリスメンバーからの指示により、ほぼ根性だけで赤き森艦艇に辿り着き、
プール艦長を殺害、乗っ取りに成功した。
後に致死性ウィルスの副作用により、女性化する。

 


第24話投稿者:ピヴィ投稿日:2011/12/29(Thu)13:00No.112  

レッツラゴーと鮫ちゃんの号令の元、ウミヤマは最高速度を保ちながら
暗い宇宙の中を一隻ですすんでいた。
「もうじき、ワームホールの座標に着きます」
スミレがモニターに映る真っ暗な空間を見ながら言う。
「ワームホールって一体どんな物なんだ、人類の科学的にはさっぱりわからないぞ」
ドクターヒムが興奮した表情をしている。
彼だけではなく、誰もがこの初めての遭遇に期待と不安の混じった顔をしていた。
ブリッジには、メインキャラがだいたい揃っている。
ワームホール突入に備えるために集められていた。
「つみれ、ワームホールの開く時間は計算できてるかい?」
「そんなもの、このわたくしにかかればお茶の子さいさいのプーですわ」
つみれは与えられた席でコンソールを叩きまくっている。
「で、いつなんだい?」
「わ、わたくしの計算では……3時間15分って所ね!!」
「正確には3時間14分47秒です」
すかさずすみれが訂正を入れる。
「なな、ぐぎぎぎぎぎ」
つみれの超硬質エナメルでつくられた強靭な歯にひびが入る。
しかし、超強靭性象牙質までは達していないので、表面の交換だけで済む。
もし、超強靭性象牙質まで達してしまったら、ウミヤマでの交換が出来ず、
つみれの歯がインプラントになってしまうのだった。
「艦長、指定座標に到着しました。」
牧野航行長がウミヤマを停止させた。
眼前には真っ暗な空間があるだけだ。
ここに、科学でもすべてを解明できない自然の穴が穿くという。
「今のままだと、何もわからないな……センサーにもなんの反応もない。
ほんとにここにワームホールが出来るのか」
メインモニターと目の前のコンソールを見比べながら日村がつぶやいた。

クルー全員、艦長からしばらくの休息時間をもらった。
家族がいる者は、ほとんどがその元へ帰って行ったが
独り身の連中は特に行くところもなく、クルー用のバーに集まっていた。
しかし、もっと行く場所が特に思いつかなかった3バカンは
艦内をフラフラと歩いている。
「豹介よぉ、ワームホールってのはなんだい?
そこへ行くと俺たちどうなるんだい?」
大人達の真剣な表情に、鮫ちゃんはちょっと困惑していた。
無い頭で色々と考えてみたが答えが出てくるはずもなかった。
「SF映画とかの話なら出来るけどね、人類はまだそれとは遭遇してないんだ。
僕にもわからないよ」
豹介の表情は鮫ちゃんとは対照的に
これから起こる未知との遭遇に興奮しているようだ。
もちろん、鷲雄は無表情だ。
「あ、すみれちゃ〜ん!」
鮫ちゃんの表情が急に変わり大声を出す。
通路を歩いてくるスミレに気が付いたからだ。
「あら、スミレじゃないわよ、わたくしはつみれですわ!」
スミレの後から声がした。一瞬ぎょっとしたが、
つみれがスミレの後をついて回っているらしい。
「皆さんと同じように、ご家族の元へは行かないんですか?」
つみれの存在をまるで無視するように、スミレは3バカンと話す。
「んー、それもパッとしなくてね。いつものように3人でつるんでるわけ〜」
(フン、サンバカンがつるんだってミミズの知恵もでないわ……無視されているつみれの声)
「このウミヤマは大丈夫ですよ。
わたしの知識でワームホールに耐えられるフィールドの改造を済ませてありますし。
最大出力の問題もあり完全ではありませんが、
後は艦長の指揮で乗り越えられると思います。安心してください」
(改造にはわたくしが大活躍でしたのよ!! ……無視されているつみれの声)
「んあ! スミレちゃん俺の心を読んだ!?」
「いえ、『表情』から『察する』練習をしてますから。
青海さんの顔は、練習にならないくらいわかりやすいですしね」
(バカ鮫の心なんて手に取るようにわかりますわ……まだ無視されているつみれの声)
「そうだ、スミレちゃんこれからヒマかな、
これから一緒にお茶でもしな〜い?」
だいぶバカにされている鮫ちゃんだが、そんなことには全く気が付かずに
スミレとつみれの肩を抱いてすたすたと行くのであった。

3時間後、再びメインキャラがブリッジに集まっていた。
艦内のクルー全員が配置についている。
一般市民にも戒厳令が出され、艦内の深部にある避難シェルターに集められている。
「前方の空間に異常が発生しています。未知のエネルギー反応!」
日村の声がブリッジに響く。
「僕は医者だからこういう時は医務室につめていたいんですが!!」
「うるさい、科学的なことが出来る立ち位置のキャラが他にいなかったんだから、
お前がやれ!!」
もっともなことを理不尽なことでぴしゃりとつぶされる。
眼前には何もなかった空間に突如光が満ちあふれ、渦を巻くようにうねっている。
「ワームホールが開きます」
メインモニターを見つめながらスミレが言う。
「ワームホールのエネルギーが安定次第、
フィールドを展開してから突入してください」
艦長の両隣に、副長であるスミレとつみれの席がある。
なぜかその隣に簡易座席が取り付けられ、鮫ちゃんが座っていた。
スミレに連れられて座らされている。
場違いな緊張と、目の前の光景に呆然としていた。
「エネルギーが安定します」
「艦長!」
全員が艦長を見つめる。その指示を待つ。
「機関室、フィールドを展開だ。そのまま全速前進!
全員気を抜くんじゃないよ!!」
機関室から、ほとんど出番のない岩尾が返事をすると
フィールドが展開され、ウミヤマが全身をはじめる。
もっとも、その動きを感じることはない。
そして、もっと出番のなかった男は、
現在一般市民とともに避難シェルターにいた。
後藤蛮太を覚えているだろうか……。
そんなこととは関係無しにウミヤマはその光の空間へと飲まれて行くように進んでいった。


 第24話その2ピヴィ-2011/12/29(Thu)16:16No.114  

 

「うわぁぁぁぁぁぁ」
重力制御されているはずのウミヤマだが、そんな物も関係がないほどの激しい揺れが
乗員全員を襲っていた。
砲撃による衝撃でさえ、周囲を覆っている液体金属によって緩衝されるため
ここまでの揺れが襲うことはない。
ブリッジにいるメンバーは全員シートベルトを着用しているが
ジェットコースターのように、ぐるんぐるんと振り回される。
「ユ、ユキ、姿勢を安定させてくれ……」
「やってますが、このエネルギーの激しい流れで制御できません!」
ちんさむろーどを走るバスのごとく上下にゆられながら
必死に艦をエネルギーの流れに乗せようとするが、なかなか上手くいかない。
牧野ユキコはデータ等を正確に伝達、入力することにはたけているため
通常範囲の航行では彼女をしのぐ者はいないが、
このような予想範囲外のことには弱いところがある。
「まるで波乗りだな」
鮫ちゃんがつぶやく。
すでに何度も座席の背に頭をぶつけたんこぶだらけである。
(十分にバカだから、これ以上バカにはならないわ
でも、わたくしは優秀な精密機械よ、バカになったら大変よ……つみれとのやりとり)
「艦長、あのとても差し出がましいのですが……」
とても改まって艦長に進言する。
「何だ、青海。いってみぶへゅいでっ!」
思いっきり舌を噛む。
「俺、何の取り柄もないけど海だけは得意なんです!
この波、俺なら乗り切れるかも!!」
すでに艦内でも多数の被害が出ている。
フィールドは保たれているが、それもいつまで保つかはわからない。
ユキにも制御しきれないようだ。
「ひょひ、ひゃってひほ」
艦長の許可を得た鮫ちゃんはベルトを外し、牧野中佐の横へ行こうとする。
「うわわわ」
姿勢を崩した鮫ちゃんはまっすぐ操舵席の方へ吹っ飛ぶ。
「え?」
ちょうど振り向いたユキのやわらかい部分へめり込んだ。

鮫ちゃんは意外な才能を発揮し、
ウミヤマは安定してワームホールを進むことが出来た。
「操舵手に推薦しようかねぇ」艦長はえらくご満悦である。
出来の悪い孫の才能を見いだしたようだ。
数時間後、体内感覚ではもの凄く長かったような、
過ぎてみればあっという間の出来事だったような、
正確には2時間半程度の航行だった。
ワームホールを抜けると周囲の光が消え、再び真っ暗な空間に出た。
ウミヤマの後には光の渦がいまだその姿のままに浮かんでいる。
正面には赤く光る恒星が見えた。
現在地からは60億qほど離れた場所だが、ウミヤマは明るく照らされている。
もっとも、その光が艦内まで届くことはない。
「あれが私たちの太陽です。
あの太陽から2億5千万q離れたところにあるのが私たちの星です。
地球と太陽の関係よりも離れていますが、私たちの太陽の方が少し大きいので
環境は地球に似ています」
スミレが状況を説明する。
「Mクラスの惑星を感知しました。地球とほぼ同じ大気の構成です」
センサーを見ていた日村が科学者の見地から安全と太鼓判を押す。
「また、エネルギー反応や敵対意志などは認められません。
生命反応は……あ、一つあります。人型の生命がいるようです」
「よし、上陸班を編成する。HA隊は艦の周囲を警戒しろ」
上陸班にはミソラ艦長、スミレ、
なんだかんだ言ってついてくるつみれとジェロ、シャーマンの3点セット。
甲兵長のハーニャ、甲兵班数名(中に見習いとして鷲雄)、
科学班としてドクターヒム、大塚進博士が選ばれた。
忘れてる人がいれば入れてください。
親善大使としてひもののひものくんと、いのししぼたんちゃんが希望したが
丁重に却下された。
牧野由紀子中佐などは、上陸班にもしものことがあった場合の艦長代理として
ウミヤマに残された。
帰るのに必要と思われる鮫ちゃんも同じく。
HA隊には豹介が見習いとして編入されている。
2隻の上陸艇に乗り込むと、スミレの惑星へと降りていった。

上空から見たこの星は地球に似ていた。
蒼い海が広がり、大地は緑色に輝いていた。
文明の明かりや大きな建物は見あたらない。地球ではよく見る巨大な機械の動く姿もない。
しかし、よく見てみると緑に埋もれたなかに朽ち果てた人工の建物の姿が
確認することが出来た。
「これは……滅びてからだいぶ経っているな」
大塚博士はため息のようにはき出した。
「おいっ」日村が大塚の脇腹をこづく。
はっと気が付き、大塚はスミレの方を見て「すまない」と頭を下げた。
そのスミレにしても、困惑したような表情を見せていた。
「時間が……私がいたときからもすでにだいぶ経っているようです(T△T)」
スミレはホログラムに新たに付け足したエモーション機能で、泣き顔を表現した。
「大丈夫なのかい、すでに手遅れだったのか?」
日村がセンサーを操作しているが、
「生命反応のほとんどは植物です。それも、スミレちゃんみたいな生命体ではなく
地球上にある普通の植物と変わらない反応です。
昆虫のような物は存在しているようですが、敵対勢力は確認できません。
唯一確認できる人型の生命は、あの丘の上にいるようです」
すでにだいぶ地上に近づいてきた艦から、その丘は確認できた。
小さな家のような物が建っているのがわかる。
その周囲は綺麗な紫色の花が咲き乱れていた。
スミレの本体と同じような紫色の花が。

もう少し続くよ!!


 第24話その3ピヴィ-2011/12/29(Thu)17:17No.115  

 

地上に降り立った一行は、警戒をしつつも艦長とスミレを先頭に
丘の上へと向かっていた。
甘い花の香りが漂い、さわやかな風が吹き抜ける。
「これは、天国だろうか」
誰かがつぶやいた。
この場にいる全員が景色と空気におなじことを感じていた。
LAに身を包んだハーニャや鷲尾達も例外ではない。
ミソラは一行を引き連れて丘を登っていく。
大塚などはコンソールを手にしきりに植物や空気のデータを取って遅れ気味になるが
鷲雄につままれて前方へ放り投げられる。
つみれはシャーマンにまたがりながらアクビをしている。
それをやや悲しそうにジェロが見つめていた。
「お弁当でも持ってくれば良かったですわね!」
つみれの言葉に、キラーンとジェロの目が光り、一瞬消えたと思ったら
次の瞬間にはつみれの前にお弁当の入ったバスケットを差し出していた。
「ジェロは気が効くわね」
つみれはすっかりピクニック気分だ。
のんびりした空気のなか、すぐに丘の上に立つ小さな家の前にたどり着いた。
一行(一部除く)に緊張が走る。
甲兵隊がミソラの前に出ようとするが、ミソラはそれを手で制止する。
「そんなナリでお邪魔して良いような家じゃないよ」
お前たちはそこで待っていろ。というと
ミソラはスミレを連れて玄関の前まで行く。
とても小さな家で、昔の映画に出てきたホビットの家のようとでも言うのか
ミソラは背をかがめてトントンと優しく戸を叩いた。
(はーい)
返事があるが、弱いテレパシーのようなもので頭の中にふわっと感じられる。
しばらくすると戸が開き、中から小柄な女の子…のようにも見える…が現れた。
(おまちしてました)
中へどうぞと手招きをするが、ミソラが少しとまどう。
(失礼、あなたにはこの家は狭すぎますね。では外で)
そういって、家から外へ出てきた。
太陽の光に当たると金色の長い髪が輝き、白く透き通った肌がきらめく。
「お嬢ちゃん、で良いのかな?」
ミソラがどう形容するべきか迷う。
金髪の子は(わたしは、わたしです)と。
「名前はないのかい?」
(わたしは、わたししかいませんから……名前というものはわかりますが
考えたこともありません。
種族としてはトリニティというのだと伝わっています)
「トリニティね、不便だからあんたのことはトリンって呼ぶことにするよ」
(わぁ、名前をつけてもらった〜。ふふふ、わたしトリンよ〜)
そういうとトリンは庭を走り回り、上陸班1人1人に(わたしトリンよ)と
自己紹介をして回った。
さらにその自己紹介が庭中の花や植物に向かいそうになるのを見ると
ミソラはあわてて話題を切り出した。
「トリン、私たちがここに来たのは……」
(あら、わかってますよ)
再びミソラの前に戻ってきた。
(あなた、スミレね。あらあら、こんな狭いところに植えられてかわいそうね)
ミソラの隣にいるスミレを見て、
トリンはスミレを鉢から引き抜いて地面に植えようとする。
(な、ちょ、やめなさい!)(わはは、やれやれ〜!!)とスミレとつみれ。
「わわわ、まて、スミレはそのままで良いんだ!」
ミソラがそれをあわてて止める。
(そうなの?)と、残念そうに鉢植えに戻す。
(あなたたちが来ることは、何億年も前から伝わってるの。
ついていらっしゃい、大いなる先祖の船に連れていってあげる)

しばらくついていくと、山肌に人工的というより機械的な入口がある場所に着いた。
トリンが手をかざすと、入口は埃を立てながらその口を開ける。
(ここが、あなたたちの求めている場所です)
「これは……ウミヤマ?」
作りがよく似ている。これをみた大塚博士が興奮しはじめた。
しかし時間がないので割愛とばかりに、鷲雄に首根っこをつままれて運ばれてしまう。
通路はうっすらとした明かりがつき、辛うじて周囲が見える程度になってる。
ぴくりとも動かない冷たい空気が不気味な雰囲気を醸し出す。
廃校や廃病院といった心霊スポットのような雰囲気ですらある。
トリンはすたすたと前を歩いていく。そのあとをゆっくりと進む一行。
(ここです)
小さな扉の前に立つ。
(どうぞ)
ミソラがその前に立つと、トリンは機械に手をかざし扉を開けた。
小さな何もない部屋。
一瞬騙されたか!? 
とミソラは思ったが、部屋の隅になにかがおかれている。
ドラム缶?
古びたドラム缶のような物が置かれている。
(さぁ)
トリンに促されるままに、ミソラはそのドラム缶へ近寄っていった。


ラストへ続け!!

 

第24話 進キャラ情報 ピヴィ - 2011/12/29(Thu) 17:24 No.116     

トリン
トリニティの最後の生き残り。
人間型の生命体。地球人類と比べると、やや小柄で、線が細い。
金髪色白。
性別や年齢は不詳。
トリニティについては最終話で。




第25話第1章完投稿者:うじてる投稿日:2012/01/02(Mon)22:39No.117  

そのドラム缶には顔や手足がついており、古い時代のブリキのロボットのように見える。
「あれは一体なんだい?」
(大いなる祖先への訪問者が現れたとき、それは古の言葉を伝えると聞きます)
「アタシたちがその訪問者だとは限らないと思うが?」
トリンはふるふると首を横に振る。
(いえ、《遺跡の声》があなた方が来ることを告げていました。間違いありません)
「ふん、この船がまだ活きてるってことか?」
(少し違います。永い永い時間の中でこの舟は待っていたんです)
ミソラが近づくと、ロボットはギギ、と音を立て首を上げる。
同時に手足も動き出すが、どうやら立ち上がるだけの力がないようである。
「おっ! いよいよクライマックスだ!」
日村が余計な茶々を入れる。
しかしその鮫の声に応えるように、ついにロボットが口を開く。
「ガー、ガガッ、オ、オレハ、ハ…………ロウ。
 オマ……、タチ……ヲ、ガガッ、テイタ、ロボ」
言葉はほとんど聞き取れなかったが、それに構わずロボットは自分の腹を開く。
そこにはモニターがついており、ぼんやりと映像が映る。

時は2035年、本格的な宇宙開拓が始まるより三十年ほど前である。
当時、世界最高の科学者と呼ばれた春日光博士は超光石で得た有り余る資金を元に、
外宇宙調査船『ウミヤマ』を建造した。
『ウミヤマ』の名は彼の生まれ育った町から取られた。
春日博士は超光石研究の過程で古代文明を調査していたが、
その中で地球外文明がいずれ侵略のために襲来するという結論に至った。
当時の学会では超光石の研究を含めそれらは全て無視されていた。
そこで博士は独自に宇宙船を建造し、自ら調査に乗り出そうとした。
だが、予想外に世界中から乗船希望者が現れた。
既に世界経済は閉塞しきっており、宇宙開拓が残されたフロンティアであったのだ。
『ウミヤマ』は博士の息子を団長とし、開拓移民者と共に旅立った。
だがウミヤマ開拓団は太陽系外への到達後、ワームホールに飲み込まれた。
ワームホールは空間だけではなく時間も越え、十億年前の宇宙に辿りつく。
そこから長い漂流が始まった。
ウミヤマは外宇宙で資源を回収しながら船体と環境を維持するシステムとなっていたが、
中々思うようにはいかず、徐々に疲弊していった。
コールドスリープを併用した三百年あまりの漂流の後、
最後まで残った乗組員が力尽き、船内にはたった一人の赤ん坊が残った。
この赤子は船内で生まれた団長の息子、春日博士の孫であった。
全滅寸前となった開拓団であったが、ここでスミレたち植物生命体の星に流れ着く。
『植物生命体文明』“クウォール”はウミヤマを迎え入れ、この赤子を助けた。
十億年前クウォールは極めて高度な文明を築いていた。
が、既に生命体として行き詰まりを迎えてきており『新たな血』を求めていた。
クウォールは死にかけていた赤子と融合し、植物人類として生まれ変わった。
新たなクウォール“たち”が殖え始めていたころ、新たな脅威が現れる。
『捕食者』である。
その名前はクウォールが付けたもので、彼らの自称は判っていない。
捕食者が何処から来たのか、その目的が何なのか、不明であるが、
彼らは執拗にクウォールの本星を襲撃してきた。
当初、捕食者とは一切の交渉が出来ず、クウォールは滅亡しかけた。
危機に際し、クウォールは一つの花……スミレの花を地球に向かわせた。
ウミヤマの遭難を伝え、可能であれば救出を頼むために。
捕食者は敵対生命をナノマシンによって分解し、
自身の複製を生み出し数を増やしていくという特徴を持っている。
が、ここで意外なことが起きたのである。
ウミヤマの赤子と融合したクウォールたちを分解した際、
新たに生み出された捕食者たちは地球人類が持っていたウイルスに感染した。
古代より地球人の体内に潜んでいたレトロウイルスは、
捕食者の内部に入ったとき、彼らの細胞を癌化させ死に至らしめる作用を示した。
体長一ミリと身体の小さい彼らはその癌化の進行と影響が早く、
見る見るうちにその数を減らしていった。
反対に窮地に陥った捕食者は始めて種の存続の危機に立たされた。
ここでお互いに和平の道を探りあい、ウイルスへの耐性を得るため、
捕食者も植物人類となったクウォールと融合することとなった。
これにより、地球人類、クウォール、捕食者は合一の存在となる。
クウォールと捕食者には適当な言葉がなかったため、
地球人類の言葉から新たな自称が付けられた。
三位一体を表す『トリニティ』である。
初期のトリニティたちは調査船ウミヤマの運命と共に、
自らの創生の記録を船内に残されていた自立型ロボットのメモリーに残した。
いつか、スミレに導かれた地球人類がここに辿り着くことを期待して。
そのときこの『ハチ五郎』という名のロボットが故郷に帰れることを願って。
そして今、十億年の時を経て新生『ウミヤマ』のクルーが現れたのである。

「……十億年か。ずいぶんと掛かっちまったねぇ」
「どうやら私が通ってきたワームホールは、
 クウォールの時代から十億年後の宇宙に繋がっていたということですね」
スミレの表情は変わらないが、何処となく寂しく見えた。
「それにしても、よくそんなに長くこの船が残ってましたわね?」
途中で映像に飽きてしまったつみれはそこかしこをつついて回っている。
「ふむ、どうやらこの『砂』に秘密があるようだ」
日村が床一面に広がる砂を掬ってぱらぱらと撒く。
「そうです、ナノマシンです」
スミレがすぐに答える。
「これで船内とこのロボットを維持していたようだな。
 ……でも、さすがに長すぎたのか、機能が止まって大分経ったらしい」
大塚博士は甲子園の砂よろしく持ってきた小瓶に詰めている。
一面に積もった砂のような粒は全てナノマシンの残骸であった。
それほどまでに十億年の時は永かったのである。
そんな話をしていると、ロボットが再び動き出した。
口から何かがこぼれ落ちる。
それを手で受け止めようとしたが、僅かに音をたてただけだった。
足元に転がったそれを日村が拾う。
「ん……、どう見てもサイコロだけど……」
何処からどう見ても、何の変哲も無い六面体サイコロである。
「ガ、ソレ、ガガッ、ワリ……、ハカセ、ガガーッ、……シテ、ロボ」
ロボットの目は明滅を繰り返し、今にも止まりそうである。
「とりあえずお土産みたいですよ、艦長?」
「おそらく大塚博士なら何か分かるだろう、預かっておいてくれ」
「艦長、このロボットはどうします? 持って帰りますか」
鷲雄が事務的に聞く。
「そうだな……、ん、通信が入っているようだな」
無言で合図を送っていた豹介が軍用の大型無線を操作する。
「艦長! 大変です!その、惑星中心部から異常な数値を検知!
 エネルギーが加速的に上昇しています。なにかそちらに変化は……」
無線からは牧野中佐の慌てた声が響く。
その言葉に反応するように旧ウミヤマの船体が大きく揺れる。
「ウワーオ! 明らかにやばい感じの揺れだよスミレちゃん!」
豹介がなんだか古臭い叫び声をあげる。
揺れはかなり激しく、その場に立っているのがやっとである。
「よし、ひとまず上陸艇に引き返そう。スミレ?」
「上陸艇までなら転送できます。一度に全員は無理ですが」
「彼女……はどうする?」
大塚がトリンに目を向ける。
(わたしはここで『終わりのとき』を待ちます)
「終わりのとき? そら一体なんだい?」
(ふふふ、お話ししているひまはなさそうです。
 でも、その前に皆さんが間に合ってよかったです)
そのとき、一際大きな揺れが起き、轟音が響く。
「どうやら、船体のどこかが衝撃で壊れたらしい。急ぐぞ!」
スミレが順々に上陸要員の転送を始める。
「艦長! 本当に彼女を置いていくんですか?」
豹介が悲しそうにトリンを見つめる。
(ありがとう。でもトリンは……あなた方の基準で言えば数百年も生きました。
 みんなを、この星に残っている遠い祖先、その子孫を見捨てていっていいものか。
 それがわかりません。だから残ります)
トリンは何処までも穏やかな微笑をうかべて話す。
(さようなら、大いなる祖先の星の方たち!
 最後にわたしはトリンという名前をもらいました。
 ありがとうもさようならも初めて言えました。
 初めて誰かに会えて、とても嬉しかったです)
豹介は彼女に手を伸ばそうとしたが、寸前で上陸艇に転送された。
最後に、ミソラとスミレとトリンだけが残った。
トリンはスミレの手をとり、一粒の種を置いた。
(これは、私たちトリニティの子供、その最後の一粒です。
 まだ種ですがきっといつか芽を出し、あなたたちと暮らせる日が来ると思います。
 どうか、大事に育ててあげてください)
ぎゅっと両手でスミレの手を包む。
スミレは無言で頷く。
「さあ、あたしたちも行こうか。みんなが待ってる」
スミレは最後にトリンに向かってぎこちない笑みを浮かべ、上陸艇へと転送した。


 第25話第1章完 その2うじてる-2012/01/02(Mon)22:39No.118  

 

「ユキ! 状況は!」
「はい、惑星中心部の高エネルギー化が進行中。
 いずれ星全体がエネルギーに耐えられなくなり崩壊、
 超新星のような爆発が起こるのではないかとの予想が出されています」
上陸艇に戻った一行は速やかに離脱の準備を始める。
「ワームホールまで飲み込まれるか?」
「はい。ですが今ならまだ十分間に合います。すぐに帰還してください」
「よし、大塚博士はどうだ?」
上陸艇の機器を駆使して大塚も状況を調べている。
「こちらでも同じ予測ですよ。ただ、気になることが一つ」
「何だ?」
「中心部から発せられているエネルギーが超光石が出すものと似ている気がする」
「こちらに何か影響がありそうなのか?」
「いや、今のところ何もなさそうだが……。
 その、申し訳ないのだが、嫌な予感がする」
大塚が渋面を作って答える。
「いやあ! そいつはよくないな! こいつの『嫌な予感』だけは当たるんですよ!」
日村が大仰に手を振ってみせる。
「ともかく、とっとと脱出しよう。発進だ!」

だが、飛び出してすぐ、問題が発生した。
「一体何だ!?」
上陸艇の艦長が叫ぶ。
「くそ! プロテクションフィールドだ!」
UGに使われている収束フィールドと同じようなエネルギーの壁が、
惑星の大気を包み込んでおり上陸艇の進路を阻んでいた。
頭を抱えながらも大塚が対策を述べる。
「すぐにイプシロンを発進させてくれ!」
彼の立てた作戦はこうである。
UGイプシロンの収束フィールドで惑星に巡らされたフィールドを中和し、
突破を図るという比較的単純なものである。
イプシロンには出撃したがったアイゼンシュタット少尉を制して石神真鳥が出た。
より高出力を引き出せる人選である。
「事情は分かったな! マトリ君!」
「おっけー、おっけー! “みんな”助ければいいんでしょ!?」
ようやくUGの操作に慣れたマトリは高速で惑星大気上に向かう。
「ところで、UGはそのまま大気圏に突入しちゃうんじゃないですか?」
豹介がもっともな疑問を口にする。
「突入そのものには耐えられるはずだ。あとはスミレ君が頼りだ」
地上に落下していくイプシロンを受け止めることは無理である。
そこで、スミレのテレポートを使い、
搭乗者のマトリだけを上陸艇に回収するという強引な手段を取る。
「十分に近づけば一人ぐらいの転送は簡単です」
スミレが豹介に向かって答える。
「よーし時間を食った、すぐに始めてくれ!」
UGイプシロンのマトリは気を高めながら惑星に向かって自由落下していく。
指定されたタイミングで最大出力の一撃を打ち込めば、
上陸艇が強行突破できるぐらいの穴を穿つことができる計算である。
落下するUGは輝きを増し、その瞬間が訪れる。
「てぇぇぇぇぇぇりゃあぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
気合一閃、光る拳をフィールドに向かって打った。
光が見渡す限りの細かい粒となって雲散霧消していく。
眼には見えないが、計測上では十分すぎるほどの大穴が大気ごと吹き飛ばされ空いた。
その刹那、上陸艇が落下を止めないUGの横を通過していく。
「よし! スミレ君のほうはどうだ?」
大塚が彼女のほうを振り向く。
そこには彼女とともに、マトリがいるはずだった。

「おい! 一体どうゆうつもりだ!」
大塚がUGイプシロンに向かって叫ぶ。
顔を真っ赤にし、コンソールを叩く手は震えていた。
「どうもこうもないわ。そのトリンって子を連れてくるわよ」
「無茶を言うな!」
「いいからあんたたちはとっとと逃げなさいよ」
「そんなことができるか!」
「そうでしょ。だからあたしがあいつを助けなきゃでしょ!」
マトリはあくまでもトリン救出にこだわり、スミレのテレポートを拒絶したのだ。
「なぜ、転送できなかったんだ!」
「……わかりません。力が弾かれた……そんな感じです」
スミレはいつにもまして無表情である。
驚きとともに大きな責任を感じているようにも見えた。
「通信、断絶! 目標をロストしました!」
星に満ちる高エネルギーに阻まれ、UGをついに見失った。
果たして、無事に地表に着地できたかどうかも分からない。
大塚はウミヤマに戻るなり、ミソラに掛け合った。
「提督! あの星に何とか戻れないんですか!」
「そいつは無理だ。お前さんのほうがわかっているはずだろ?」
その通りであった。
今から星に戻っても、再度脱出する術はない。
そもそも、この星に爆発に間に合わないのだ。
「しかし!」
大塚はなおも食い下がる。
「しかしもカカシもねェッ!!
 ウミヤマ十万の命を助けるのが先決だ!」
皆黙っている。
そうするほかないことは皆わかっているのだ。
「あいつはあいつでどうにかしてもらうしかない。奴が自分で決めたことだ」
大塚はがっくりと肩を落とし、呆然と立ち尽くす。
「ユキ! ワームホールはどうだ!」
「突入十秒前、九、八、七……」
突入の瞬間、全天が白い光に染まる。
ウミヤマは、消えた。

再びうねるワームホール内部を越える。
計測からは、このワームホールも惑星クウォール爆発の影響を受けていた。
亜空間を抜けると、そこは予想とは大きく異なる場所であった。
「植民基地K−101893、地球圏の最果てです」
「時間のずれは約二百五十四時間!」
オペレーターが告げたそこは地球連合がごく最近辿り着いた最果ての開拓星系である。
「ふん、まあいい。ともかく基地に通信を……」
「ちょ、ちょっと待ってください! これは……!!」
素早くコンソールを操作し、スクリーンに拡大画像を映す。
そこには破壊しつくされた植民基地があった。
「外からの攻撃によって壊滅したようです!」
「外からの攻撃? こんなところに海賊が来ているはずもないだろう!?」
だが、無情にも施設の全ては破壊し尽くされ、生存者はゼロであった。
食料や資材が奪われた形跡もない。
殲滅、そんな感じであった。
「一体何が起きた!!」
ミソラの怒号が虚空に響いたようだった。

第一章完。