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第6話 前編
投稿者/ベガ
投稿日/2007年4月8日(日)23:26
サダハルは戸惑っていた。
(つか、俺、だれ!? てか、ここ、どこ!?)
突如として現れ、ゴブリンやラットと戦闘を繰り広げた挙げ句、
いきなり死に、そしてわけもわからず復活したサダハルなのである。
「いかがした勇者サダハルよ」
呆然と立ち尽くすサダハルに王様が声を掛けた。
「え、あーっと……」
サダハルは答えに窮した。
(勇者ってなに!? つか王様ってなにさ!?)
という想いが顔に滲む。
かつては格闘技雑誌の編集者であり、
後には格闘技興行のプロデューサーにして、興行会社の社長にまでなった男である。
それが突如として謎の地下迷宮に召喚され、なぶり殺しにされたのであった。
戸惑うな、という方が無理である。
「そ、そうだターザンさんに聞いてみよう! あの人ならこういうことにも詳しいはず!」
なんの根拠があるのかわからないが、
ともかく、かつての上司に電話することにしたサダハル。
困ったときのドラえもん感覚である。
「あ、あれ?」
だが、いくら懐をさぐっても、携帯電話は見つからなかった。
「どうしたのじゃ勇者サダハルよ」
再び王様が心配そうに声を掛ける。
「え、あ、いや、電話が…」
「ああ、そうかそうか。いやいや、死ぬのが初めてでは無理もない」
納得したように王様が言う。
「え、初めてって…」
「うむ。実は死んでしまうとお金や持っていた品物はなくなってしまうのじゃ」
「ゲェエー!」
サンシャインが胸のマークを掴まれたときのように叫ぶサダハル。
腐っても格闘技雑誌編集者の血が流れている。
「そ、それじゃ再チャレンジ無理じゃないですか!
ただでさえ勝てなかった相手にお金もアイテムもなしでどうやって戦うんですか!」
突然ゲームシステムの矛盾点を突くサダハル。
「じゃあ生き返れなくとも良いのだな?」
王様の強気な発言。
ちょっとキレ気味である。
(ちょ、なにこのひとー!? 助けてターザン!)
異国の地で泣きそうになるサダハルだった。
第6話 後編
投稿者/ベガ
投稿日/2007年4月8日(日)23:41
一方その頃、地下迷宮では。
「イェーイ! 勇者を倒したぜイェーイ!」
ゴブ彦くんたちが祝宴を開いていた。
「やったなクリモトくん!」
「おうよ! ゴブ彦くん!」
「乾杯だなタケダくん!」
「そうだな、カンパーイ!」
飲めや歌えのどんちゃん騒ぎである。
なにしろあの伝説の勇者の末裔を倒したとあっては、無理もないことである。
とっておきの密造酒を引っ張り出し、
いつか出世したあかつきには、と取っておいた極上の干し肉をここぞとばかりに喰らう。
実際、出世は間違いのないところであった。
「なにしろ伝説のユ・ウ・シャだからな!」
「そうともよ! 俺たちゃあのユウシャをやっつけたんだ!」
「俺たちすごい! 超すごい!」
「乾杯だー!」
「カンパーイ!」
「はいはーい! 一発芸やりまーす!」
「あ、次おれおれ、歌を歌いまーす!」
しっちゃかめっちゃかだった。
皆、ご機嫌だった。
今まで虐げられてきた(と少なくとも本人たちは思っている)鬱憤を、
ここぞとばかりに晴らしていた。
ひとりを除いては……。
「おいおまえ! 全然酒が進んでないじゃないか! 飲め飲め!」
隅で小さくなっていた少年を発見したゴブ彦は、酒瓶を持って近寄った。
「あ、いや、僕はもう…」
少年は小さな声で答える。
「なに言ってんだ! 伝説のユウシャを倒したんだぞ俺たちは!
飲め飲め! ここで飲まないでいつ飲むんだ!」
「は、はぁ、じゃ、じゃあ、ちょっとだけ…」
「おうよ! じゃんじゃん飲め!」
ばしゃばしゃと音をたて、杯に酒を注ぐ。
どぶろく特有の甘酸っぱい臭いが、少年の鼻をついた。
少年は戸惑っていた。
突然仲間の蛮子が係長に変身したかと思ったら、
ゴブ彦たちに襲われ、謎の人物サダハルが現れて、自分の身代りに死んだのであった。
しかも係長は殺された挙げ句にゾンビとなり、今はモンスターたちの祝宴で暴れていた。
「フクモトくんの飲むとこ見てみたい! はいイッキイッキイッキ!」
「いや、もう無理だって係長〜」
「なに言ってんですかあ!
フクモトくんも今後は部隊を率いていかなければならないんですよう!?
このぐらい飲めなきゃ!」
「お、おれが部隊を? 斥候のおれが?」
「当然ですよー! なにしろあの伝説の勇者の末裔を倒したんですからね!」
「そ、そうか、う、うん! そうだよね! よーし、おれ飲みまーす!」
「イッキイッキイッキ!」
だが、その勇者の末裔は、祝宴の席の隅で小さくなっているのだった。
戸惑うな、という方が無理である。
謎の格闘技興行プロデューサーと、係長を倒したモンスターたちにとって、
サダオ・ショージはただの少年にしか思えなかった。
というか、目に入っていなかった、というべきであろう。
あるいは、彼が伝説の勇者から引き継いだというべき、
天性の「影の薄さ」がそうさせたのかも知れない。
あ、そうだ。あの緑の宝石が淡く光っていた。淡くすごく光っていた。
いずれにしても、この阿鼻叫喚のモンスターたちの祝宴の中、
伝説の勇者の末裔は、途方に暮れざるを得ないのであった。
どうするサダオ!?
どうなるサダオ!?
むしろサダハルの運命やいかに!?
次回こうごきたーい
第7話 そのいち
投稿者/氏照
投稿日/2007年5月28日(月)14:02
さて、裸一貫で再び冒険の世界へ旅立つこととなったT・サダハル。
プロレス団体『P−1』の社長の肩書きはこの世界で何の役にも立たないのであった。
格闘技の知識はあっても彼自身が戦えるわけもなく、
「魔王を倒して来い」と言われてもどうにもならないのであった。
いま彼が身につけているのは麻の服とサンダル。
武器防具はおろか、銅貨の1枚も無い。
先刻、王様に訴えた通り再チャレンジどころではなかった。
「やべー、やべえよ。まずどうすればいいのさ。冒険以前に生きていけないんじゃないの?」
あてもなく城下をさまようサダハル。
やがて一軒の店の前で足が止まる。
―冒険者の宿 類井田の店―
“よろず相談事 揉め事受付”
とある。
まるで何かに導かれるかのようにその店の扉を開け、カウンターの席に座る。
古びた店の中は様々なニオイが染みついており、独特の雰囲気がある。
テーブル席に二組の客と、カウンターの奥に店の主らしいババアがいる。
この街の住民はほぼ白人っぽい感じであったが、このババアはあきらかに黒人である。
なぜか割烹着を着込み、背中には赤ん坊を背負っている。
アフリカンビートなババアはサダハルに一杯の水を差し出した。
第7話 そのに
投稿者/氏照
投稿日/2007年5月28日(月)14:02
一方そのころ大迷宮――
勇者倒さるるの報はすぐさまダンジョン中を駆け巡った……。
というのはいかにも大げさで、社会面の訃報欄にちょっと載るぐらいである。
ここ20年ばかり冒険者ブームで、勇者を名乗る者は世界各地にゴマンといる。
ともかくも大迷宮内外で起きたさまざまな情報は出張所、支部局を経て、
“魔王軍中央情報局”に集められる。
情報局冒険者第3課の課長でヴァンパイアロードのK・タモリは、
一応この件を魔王に報告しておくことにした。
通称“タモさん”と呼ばれる彼は不死であるがゆえにかれこれ340年もこの役に就いていた。
オールバックに青白い顔の痩せ型の男であり、見るからに不健康そうで、気の弱い男である。
何しろ340年も昇給、昇進なしでやってきているのだ。
第3課は比較的低レベルの冒険者について情報を集める課である。
1課、2課に比べると明らかに各下の扱いを受けていた。
ヴァンパイアロードといえば魔族の中でもエリート中のエリートではあるが、
なにしろ世界は広い、いや、魔界はスンゴイ広い。
この魔族の総本山である大迷宮にあっては落ちこぼれのヴァンパイアであった。
そんな中間管理職のタモさんはそのほかの書類と共に第1階層魔王の間へと向かった。
第1階層というのは地下1階から30階までを言う。
第1階層はさらに6つに分かれ、そのそれぞれに魔王が君臨している。
タモさんの担当は第1階層のパート4を統治しているデーモンプリンスのデモリンである。
デーモンというのは人型魔族の中心的氏族で、
人間社会におけるエルフのようなポジションの種族である。
ともかく、デモリンの部屋の扉をノックする。
ややあって、「どーぞー」という間のぬけた返事が返ってくる。
部屋は5メートル四方はあり、それなりに広く、豪華な造りになっている。
ただ、どう見ても会社役員の部屋という感じで、およそ魔王の部屋らしくはなかった。
中央部に置かれた重厚なデスクと玉座ではないが豪勢な椅子に魔王デモリンの姿があった。
デモリンはひたすら消しゴムを削ってはそれを集め、大きな練りケシを作っていた。
ほとんど小学生並みの行動であり、相当ヒマであったことがうかがえる。
部屋の片隅には秘書と思しき女性がまるで彫像のように微動だにせず立っていた。
タモさんは彼女は初見であった、確か前任の秘書が産休で今月の頭から休んでいる。
かなりの美人で気にはなったが、とりあえず先に報告を済ませることにした。
「エー、昨日の昼3時ごろですが、新たに勇者を名乗る『サダオ・ショージ』という者を、
地下1階の第16分隊と38分隊が抹殺したとのことです」
「ふーん。それよりタモさんさあ、もう仕事終わらせて飲みにいこーよー。
ここ2週間ぐらい30階までたどり着くやつらも来ないしさー。
ちゅーか、最近パート1とか5が人気みたいでさー、こっちは閑古鳥だよねー」
「ええ、確かにパート4の入場人員は先々月から減り続けていますが……、
ですからその件について私がまとめた報告書と、
宝箱補充の上申書もエンドー部長から預かってきています」
エンドー部長というのは迷宮管理部のやり手のゴブリンロードである。
「あっそー、んじゃあハンコ押しちゃうけど……やっぱり読まなきゃダメ?」
「……ええ、一応目を通して頂かないと……」
「エー、マジでー。じゃあこれ終わったら飲みね、飲み」
「まだ終業時間までは間がありますが……」
「イヤイヤ、情報収集ってことでさ、行けばいーわけじゃない?
17階に新しくできた寿司屋がさー、ダークエルフのあんちゃんがやってるんだけど、
結構メジャーなパーティーも出入りしてるらしーよ。
お茶入れてくるからさあ、書類見終わるまでちょっと待っててよ」
そう言って立ち上がるデモリン、割と気さくなヤツである。
デモリンは格付け上はデーモンプリンスであるが、
実力的には2ランク下のグレーターデーモン並みであり、
現在の魔王という地位は縁故によるものである。
実力ではなく家柄。
タモさんとデモリンは互いに親近感を感じており、よく行動を共にしている。
今日も結局、仕方がないなあと思いつつもタモさんは付き合ってしまうのであった。
つづく
第8話
投稿者/ピヴィ
投稿日/2007年5月29日(火)15:58
第一階層パート5、17階。
この階は次元扉によって大陸の西端にある、バウンド王国とつながっていた。
バウンド王国は国土のほとんどを砂漠に覆われ、
その砂に埋もれた数々の遺跡を観光名所としており、
その観光収入や遺跡から発掘される宝によってとても潤っていた。
遺跡から出土した宝は50%を国が吸い上げているが、
何しろ量が多いためこの土地の遺跡を目指してやってくる冒険者は多かった。
しかし、ここ最近は情勢が違った。
今までみたことの無いような凶悪なモンスターたちが
遺跡から現れ町を襲い始めたのだった。
国の危機として重くみたバウンド王国は、
各遺跡に調査隊を送り込みすみずみまでみたあげく、
途中お宝をちょろまかしつつ、とうとう元凶である円形の扉を見つけたのだった。
一見ただの円形の門のように見えるが、
月のない夜になるとそこに水の幕を張ったような揺らぎが現れ、
そこから凶悪な怪物が出てくるのだった。
「ス(ピー)ゲートだ…」
誰かが死ぬ直前につぶやいた。
「第4区画と第5区画の仕掛け扉を閉鎖しろ!
第3区画のアロースリット部隊は急いで準備しろ。
奴らを追い込むぞ!」
くぐもるような声で号令を発している巨大な姿があった。
鋭い瞳に、よだれのしたたるでかい口がかすかに動いている。
鼻息は荒く灰色の煙を吐き出し、天井を焦がしていた。
優美な曲線を描く胴体はサファイアのような深い青色をした
強固な鱗で覆われている。
長いしっぽの先まで、未だに傷一つつけられたことがない。
巨大な皮膜のような翼もシミ一つ無く、それが彼女の自慢であった。
ブルードラゴンの青田さん(199歳、独身)である。
17階の大ボスである青田さんは、いま大あわてであった。
何しろ、自分の不注意でついうっかりあけてしまったゲートから
興味本位で第68分隊が出て行ったと思ったら、どこかの国の軍隊が
どかどかと押し寄せてきたのだから。
それも、どうやら遺跡荒らしになれた精鋭部隊のようで、
滅多に冒険者もやってこない日和見の17階連中は
不意を打たれて一気に1/3の兵力を失ってしまった。
「36番の部屋にテレポーターを張って!」
「ちがう、12番にはアシッドクラウドの魔法だ!!」
「48番は栄光の手を置いておきなさい!!!」
眷属であるリザードマンたちも彼女の指示が飛ぶたびに大わらわである。
『だ、第7区画破られました!』
伝令のリザードマンから悲痛な叫びが聞こえた。
第7区画は彼女の部屋の目の前である。もうじき人間どもがこの部屋へやってくる…。
こうなれば、思い知らせてやるしかない。人間風情が誰にけんかを売ったのかを。
17階のボスとして、ドラゴン族の誇りにかけて…
青田さんは意を決すると扉の前に顔を向け、大きく息を吸い込んだ。
「やだわ、せっかくのお肌が傷物になっちゃう」
そう言って吸い込んだ息を大きく吐き出した…。
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