|
第9話 1/5
投稿者/ベガ
投稿日/2007年6月16日(土)04:28
吸い込んだ息を大きく吐き出した青田さんは、さくっと撤退することにした。
人間ごときに撤退を余儀なくされるのは腹立たしかったが、こちらが油断していたことも事実。
好奇心に任せてゲートを通ってしまったのが運の尽きと諦めるしかなかった。
ここは一度退却し、体勢を整えてから、なぶり殺してやればいい。そう考えた。
だが単に逃げたのでは、このドラゴン族の中でも特別美しく、気高く、
360的にハイデフ的な存在であるブルードラゴン的に嫌な感じだった。
「せめて相手の顔くらいは見てやりましょう、そうしましょう」
そう考えた。
そこでしばらく部屋で待ってみたが、いっこうに人間たちの現れる気配がない。
あまりに暇なので、自分の尻尾を謎の物体と見立てて追っかける遊びをしてみたが、
比較的速攻で飽きてしまった。
そこで今度はキープの二人と本命の三人にメールしてみたが、返信はなかった。
悲しかった。悲しみはやがて苛立ちに、そして怒りへと変わっていった。
そこで自ら扉を開けてみることにしたのだった。
「SG-1よりムーア将軍へ、どうぞ」
SG-1隊長であるライスは、手首に付けた飾り気のない腕輪に向かって言った。
「どうしたSG-1?」
即座に腕輪から応答があった。
バウンド王国スピーゲート部隊「SG-1」。
その存在は無論のこと、その名を知る者はほとんどいない。
文字通りバウンド王国のトップシークレットであり、
国王以下、直接の関係者以外、数名の者しかその存在を知らない。
その実体は、王国全土に広がる超古代の遺跡から発掘された各種アーティファクトによって、
完全武装された国王直属の特殊探索隊である。
その武装は強力無比。他国の一個師団に相当する。
だが、平和と富を愛するバウンド王国は、その力を戦には使わず
、自衛と遺跡探索に使用しているのだった。
そして異界へと繋がるスピーゲートの存在は、国家の脅威であると同時に、
極めて有益な発見でもあった。
「どうやらこのフロアは制圧できたようです、しかし…」
ライスは困ったようにSG-1の責任者、ムーア将軍に告げた。
「なんだ?」
「あーっと、実は、妙なものを発見しまして」
「妙なもの? なんだそれは?」
「寿司屋だ…」
超古代考古学者でSG-1のメンバーである「ドク」ことエルマーが呟いた。
「寿司屋? それはどういう意味だ?」
「どうやら何かの店舗、あるいは飲食店のようです、将軍」
同じくメンバーである紅一点のマレイが答える。
いまSG-1メンバーの目の前には、どっからどう見ても純和風の寿司屋があった。
ダンジョン内にある寿司屋は異様としか言いようもなかったが、
地底湖の水を引き上げて作られたと思しき「ししおどし」や、店の戸の脇に植えられた笹、
達筆なルーン文字で書かれた「エルフ寿司」の看板などが、妙にダンジョンの岩肌とマッチしていた。
「すごい発見だ、こんなもの見たことがない…」
ドクことエルマーは呆然と呟きながら、看板の脇に張られたおしながきを熱心に読んでいた。
「これは間違いなく寿司屋だよ、酢を混ぜた穀物と魚介類を組み合わせて食べるんだ」
「酢?」
ライスが怪訝そうに聞く。
「あー、つまりね、元々は保存食としての意味合いがあったんだ、だけど」
「見たこともないのにどうしてわかるの?」
マレイが突っ込む。
「ああ、勿論だよ! 実際に見たのは初めてさ!
だけど古代人の遺跡には寿司に関する項目がいくつも…見てこれを!」
熱心におしながきを読んでいたエルマーは、その一点を指差し叫んだ。
「大トロ時価と書いてある! 本当にこんなものがあるなんて! すごい発見だよ!」
「すまないんだが、博士…」
腕輪からムーア将軍の声が響いた。
「…せめて話を先に進めてほしいんだが」
「でも将軍! これは我々人類と新たな文明との接触を」
「もういいエルマー、それよりも私は、この先にあるでっかい扉の方が気になる」
ライスが首を振って示した通路の奥には、巨大な扉があった。
「ああ、確かにあそこにはボスの間って書いてあるね、でもそれよりもまずはこの寿司屋を」
「隊長!」
マレイが叫んだ。
皆が巨大な扉を振り仰ぐ。扉はわずかに開いていた。
その奥から青く美しい巨大な鱗状の顔が、こちらを覗き込んでいた。
「散開ッ!」
一斉に散ったSG-1メンバーは、首に下げたペンダントに触れる。
淡い光を放ったペンダントは鈍い音を立て、即座にメンバー各人の全身を半透明の球体で包んだ。
「射撃用意!」
続いて響いたライスの声に、脇に抱えていた長大なワンドをかざすSG-1メンバーたち。
ワンドの先端が機械的な音を発し、四つに割れる。その先端に、
バチバチとオレンジ色の閃光が帯びる。
「撃てッ!」
第9話 2/5
投稿者/ベガ
投稿日/2007年6月16日(土)04:29
雷鳴のごとく轟く足踏みのリズム。
熱に浮かされた観客たちの叫び。
それが一体となって、場内を包んでいた。
オイッ! オイッ! オイッ! オイッ! オイッ!
怒号とも絶叫とも取れる叫び声。
それらがひとつのうねりとなって、叫んでいた。
拳を突き上げ、興奮に目を見開き、叫んでいた。
オイッ! オイッ! オイッ! オイッ! オイッ!
それは歓迎の叫び。
新たな興奮の。
新たなの熱狂の。
新たな殺戮の。
それらを迎える叫び。
それが類井田の店の地下闘技場を覆っていた。
オイッ! オイッ! オイッ! オイッ! オイッ!
石造りの通路。
薄暗い通路には、血と汗と糞尿と、雄の発する強烈な臭いとが混ざり合い、充満していた。
狭い通路には一列に並んだ10人の男たち。
全員が全裸だった。
目は血走り、額には玉のような汗が滴り、息遣いは荒い。
白い、黒いの、赤いの、黄色いの。
様々な人種がいる。様々な人種の睾丸が、一様に極度の緊張から縮み上がっている。
人は緊張で糞尿を漏らすことはない。
漏らすのは、それから開放されたときだ。
全員が目の前の扉から漏れるわずかな光を、凝視していた。
その扉が、重々しい音を響かせ、開かれていく。
10人の男たちは、緊張と興奮、恐怖と狂気に目を見開き、光の中へと一気に駆け出した。
オイッ! オイッ! オイッ! オイッ! オイッ!
それは文字通りの殺戮だった。
闘技場にいたのは、ハルバートを引っさげたオークがただ1体。
そこへ10人の男たちが一斉に雪崩れ込んだ。
まず彼らを襲ったのは、音と光だ。
闘技場を隈なく灯す魔法の光。
狂気に取り憑かれた観客たちの叫び。
それが男たちを打った。
目が慣れる前に、3人の首が吹き飛ばされた。
オークの動きは迅速で的確だった。
旋風のように人間たちを襲う。
4人目の頭蓋骨がカチ割られたとき、ようやくにして残りの6人は事態を把握した。
そして逃げ出した。
観客たちから怒号が響く。
同じ人間の観客も、ここでは同情心など芽生えないらしい。
またひとり。
背中から突き殺された。
ドッと観客が沸く。
残り5人。
そのうちのひとり、褐色の男が他の者に指示を飛ばした。
どうやら逃げるのはやめたらしい。
全員が距離を取ってオークを包囲する。
褐色の男が砂を蹴って、オークにぶっ掛けた。
オークは怒って男にハルバートを振り上げる。
だがその瞬間、背後にいた別の男が砂を蹴ってオークにぶっ掛けた。
オークは怒り、今度はその男に向かって行く。また別の者が砂を蹴る。
それが何度か繰り返された。
オークは怒り狂う。
上手い手だ。
だが勝機は見えない。果てしもなく見えない。
苛立った観客から怒号が響く。
オイッ! オイッ! オイッ! オイッ! オイッ!
第9話 3/5
投稿者/ベガ
投稿日/2007年6月16日(土)04:30
また砂がぶっ掛けられた。
怒り狂ってオークがそちらを向く。と、背後にいた褐色の男が、一気にオークへ向かって走った。
背後から組み付いて武器を奪う戦法だ。
その瞬間、一斉に残りが飛び掛れば、勝機が見えるかも知れない。
だがオークは、くるりと男を振り返った。
まるで待っていたかのように。最初からそれを待っていたかのように。
ギクリとするような瞬間。
ニタリ…。
オークが笑ったように見えた。
男の目が絶望に見開かれる。
回転を加えてしごき出されたハルバートが、男の胸元を突いた。
一突き。それで男の心臓は貫かれた。
残された男たちに動揺が走る。
そこへ旋風のごときハルバートが、次々と襲い掛かった。
一匹!
二匹!
三匹!
観客たちが喜悦の表情で倒れる肉塊を数える。
まるで血の詰まった皮袋のように、次々と薙ぎ倒される人間たち。
風を切って振り回される鉄塊が、肉を、骨を、えぐる、削り取る。
指が飛び、腕が飛び、首が飛んだ。鮮血が噴き出し、辺りに撒き散らす。
オークは怒り狂ってなどいなかった。
最初から最後まで。
冷静に、確実に、仕留めていく。
死者の国へといざなう者のように。
オイッ! オイッ! オイッ! オイッ! オイッ!
オークの名は、金鳳花☆YUKARIといった。
地下闘技場にあって3年間無敗のツワモノだ。
そのツワモノの持つ業物が、命乞いする10人目の首をすっ飛ばした。
回転し、血を撒き散らしながら、その首が観客席に飛び込む。
割れんばかりの喝采。
無論それを計算した上でやったのだ。YUKARIはその名に恥じぬ、花のある男だ。
誰しもが立ち上がり、足を踏み鳴らす。
拳を突き上げる。
紅潮した顔で叫ぶ。
オイッ! オイッ! オイッ! オイッ! オイッ!
血の喝采。
ホッと安心したかのように、倒れた肉塊たちから糞尿が漏れ出す。
その臭気が血と混ざり合い、観客たちの興奮をさらに煽り立てる。
それが類井田の店の地下闘技場「エルフ寿司」を覆っていた。
オイッ! オイッ! オイッ! オイッ! オイッ!
と、闘技場中央近くの地面が開かれ、下から床がせり上がってきた。
そこにひとりの男が片膝をついて座っている。
気づき始めた観客の興奮が、叫びから徐々にざわめきへと変わっていく。
それが十分に浸透するまで待って、男は顔を上げた。
「……あの、お金なら払えませんけど?」
それはサダハルその人だった。
ふてぶてしいまでの微笑みと脂汗を顔にへばり付けた、サダハルその人だった。
第9話 4/5
投稿者/ベガ
投稿日/2007年6月16日(土)04:30
「射撃用意!」
一斉に散開したSG-1メンバーは、脇に抱えていた長大なワンドをかざした。
ワンドの先端が機械的な音を発して四つに割れる。バチバチとオレンジ色の閃光を帯びる。
「撃てッ!」
ライスがそう叫んだ瞬間。
「お助けーッ!」
「ゲェッ!」
「うあっ!」
「ぐぽ! な! なにをしてるんだエルマー!」
「隊長! ドラゴンが!」
それは一瞬のことだった。
一瞬のうちに様々な混乱が起きていた。
突然開いた寿司屋の扉から飛び出したサダハルは、まず目の前にいたエルマーにぶつかった。
ぶつかってよろけたエルマーは、つんのめってライスの股間に頭突きをかました。
頭突きをかまされたライスは腰を引いてよけようとしたが、よけきれずにモロに喰らった。
そんな人間たちを見た青田さんは、それなりに満足して、テレポートした。
それに気づいたマレイが叫んだ。
「クソッ!」
エルマーを振りほどき、ワンドを向けたライスだったが、
時既に遅く、青田さんは光と共に掻き消えていた。
残されたのは、SG-1メンバーと、謎の男、サダハルその人のみだった。
「魔王を倒せだって?」
類井田バアさんはしわがれたハスキーボイスで言った。
口の端に突っ込まれたハイライトから紫煙が漂う。
数時間前。
サダハルは類井田の店にいた。
「ええ、そうなんです……いったいどうしていいものやら」
サダハルはうなだれて呟いた。
「かーっぺ!」
からまったタンを吐き出した類井田バアさんは、
しわくちゃな顔をぬっと近づけ、カウンター越しにサダハルを見た。
「あんた、あたいの肌の色を見て、なんとも思わないのかい?」
しわくちゃな顔に刻み込むように埋まったバアさんの黄色い目が、じとりとサダハルを見つめる。
「え、いえ、別段」
世界中を回り、様々なファイターと接触してきたサダハルである。
肌の色の違いは、それほど気になるものではなかった。
「……そうかい」
バアさんは首を引っ込めると、すぱーとタバコの煙を吐き出した。
「ここいらはね、城下町の中でもいっとう物騒なところなんだよ」
にっ、と笑った。ヤニまみれの鋭い歯が剥き出しになる。
「だがあんたの糞度胸は気に入った。こいつを持って地下の寿司屋に行きな。
そこにあんたの求めるもんがある」
黒い石の欠片のようなものを、バアさんは放ってよこした。
石には紐が巻いてあり、首からさげられるようになっている。
「これは?」
「ダークエルフの許可証さ。その寿司屋は、あたいの孫がやってるんだ」
「孫?」
「そう。あたいの115人目の孫がね」
その言葉に反応したのか、バアさんの背負っている赤ん坊がもぞついた。
「これは、ひ孫さ」
にっ、とバアさんは笑った。
第9話 5/5
投稿者/ベガ
投稿日/2007年6月16日(土)04:31
「つまり、君はそこで魔王に出会った?」
「はい……」
「魔王だなんて、こいつは頭がどうかしてるんだ」
「ちょっとライス! 黙っててくれ、これは貴重な情報かも知れないんだから」
「やれやれ、わかったよ」
「でも不思議ね、あなたはその…」
「寿司屋」
「そう、その寿司屋に行ったんじゃなかったの?」
「…ええ……でもそこはコロッシアム風のデスマッチ寿司だったんです」
「まったくバカにしてる、二人ともこいつの言うことを信じるのか?」
「ライス!」
「わかったよ、ともかく話は最後まで聞こう」
「…それで、そのデスマッチ寿司というのは?」
「人間やモンスターが殺し合いをするんです。そしてそれを見ながらお寿司を食べるという…
「野蛮ね」
「そんなことはない、古代バウンドの人々は」
「あーはいはい。それで? その魔王というのは?」
「え、あー、いえ、それは僕自身もよくわからないんですが…」
「でも彼は魔王と呼ばれてる?」
「ええ、まあ、ざっくばらんに言えば」
「それで彼と意気投合したあなたは、彼にご馳走になった、その…」
「寿司」
「寿司を」
「ええ、そうです。でも彼はなんていうか……その忘れっぽいようで」
「君を置いて帰った?」
「はい…」
「それであなたはそのデスマッチで殺され掛けたのね?」
「はい…たぶん、あのオーク…」
「えっと、YUKARIだっけ?」
「はい、あいつはたぶん、僕を追って来てるに違いありません!
お願いです! どうか助けてください!」
「そう言われてもな、サダハル。あー、サダハルって呼んでもいいかい?」
「え、ええ、どうぞ…」
「ありがとう。サダハル、我々はあくまで探索隊でね、他国の事情に干渉するつもりはないんだ」
「それはちょっと冷たすぎるんじゃないか、ライス?
現に僕たちはあそこで随分のモンスターたちと戦ったろ?」
「それは仕方がないさ。攻撃を受けたんだ」
「でも結果的に交戦した。エルマーの言うことにも一理あるわ」
「それにスピーゲートの件もある。あれがまた開いて向こうの連中が大挙してやって来たら、
今度は危ないかも知れない。協力し合える仲間が必要だよ」
「こいつに何ができるっていうだ?」
「少なくとも彼は僕たちより向こうの世界に詳しい。それだけでも大きな戦力だよ。大事なゲストさ」
「ゲストね……わかった、ともかく一度帰って将軍に報告しよう」
「ええ、それがいいわ」
そういうことになった。
|