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第10話 そのいち
投稿者/氏照
投稿日/2007年6月20日(水)13:52
サダハルの移送を最後に、バウンド王国と大迷宮を結ぶスタアゲートは閉じた。
現場はまだ不安定であり、いつまた先ほどのようなゲートが開くとも限らない。
SG-1とサダハルは大迷宮からやってきた残りのモンスターを撃破し、
SG-1の本部へと帰還した。
バウンド王国。
大迷宮とは別次元にある世界の王国である。
その世界の名はスーラ・リグス。
バウンド王国にある超古代遺跡を造った者たちが名づけた名である。
その意味は『第7世界』。
何を基準に“第7”なのか。
無論、彼らの世界を第1世界とした話の中でである。
彼らは自らをこう呼称する。
『偉大なる民』ウルス。
万有世界の始祖の民族を主張し、神を超えたる者とさえ言う。
彼らは彼らの宇宙だけでなく、異界間探索船をもって143の異世界へと進出した。
その中の、第7世界というわけである。
ちなみに、大迷宮のある世界は第137世界『フィブリア・スーラ・リグス』となる。
ウルス人は143世界をもって全次元とした。
実はまだ未知の世界が残っているという論もあったが、探索はそこで終わっている。
バウンド王国は遺跡の探索により、これらのことを知った。
これは極めて幸運なことであり、
およそ他の世界に住むものたちでこの歴史に到達した者はいない。
ウルス人は143世界の到達のあと、忽然と全次元から姿を消した。
彼らの残した痕跡の多くは失われ、また、ほとんど民族はそれに気付くことさえない。
例えば、その星の大陸の形が彼らによって造られたものであるとか。
そしてそれが彼らの残したメッセージだということに。
バウンド王国と大迷宮を繋いだスタアゲートの出現。
更なる異界人サダハル。
これらの現象は何か大きな異変の前触れなのか、それとも偶発的な事故なのか、
だが近い未来、再びサダハルとSG-1は大迷宮へと現れることとなる……。
一方そのころ、やはり窮地を脱したブルードラゴンの青田さんは、
彼女の伯父にメールを送っていた。
伯父は青田さんのことを娘のように可愛がっているのである。
支配するフロアの防衛に失敗した彼女は、粛清される恐れもある。
その前に魔界の有力者である伯父に頼ることにしたのである。
程なく、伯父からメールが返ってくる。
その内容はこうである。
(わが姪よ、心配には及ばぬ。そなたはしばらくわが館で静養していればよい。
この偉大なる大迷宮を襲った輩は魔王軍の名誉にかけて滅ぼす)
青田さんはその返信に満足し、ひとまず身を隠すことにしたのであった。
第10話 そのに
投稿者/氏照
投稿日/2007年6月20日(水)13:52
「アー、大トロ食べ損ねたよー」
ここは大迷宮、一台の馬車が猛スピードで走っていた。
乗っているのはデモリンとその秘書。
デスマッチ寿司屋『エルフ寿し』でタモさんと共に飲んでいたのだが、
急な会議ということで呼び戻されてしまったのだ。
情報部のタモさんとは店で別れ、迎えに来た秘書と共に議場に向かっている。
「イヤー、それにしてもサダハルには悪かったなー」
そう、寿司屋で意気投合したデモリンとサダハルであったが、
呼び出しの際にそこに置いてきてしまったのである。
「悪いけど環クン、
食事代なんだけどサダハルの分も一緒にあとで経費で出しといてよ」
環クンと呼ばれたのは彼の秘書である浅川環。
魔族の魔法剣士で、名門中の名門『王立第一軍学校』を次席で卒業している。
比類なき剣才と魔法力、卓越した見識と智謀は魔王であるデモリンを凌駕する。
本来ならデモリンの代わりに魔王に就任しても十分勤まる。
ただ、あまりに家柄が低く、そのせいで主席の座も逃している。
「……ダメですよ閣下。
後程“閣下の”口座からちゃんと支払っておきますからご心配なく」
「アーアー。環クン、オレにチョーキビシーよねー。愛のムチってヤツ?」
「ええ、愛の鞭で結構です。ですから、大人しくしていてくださいね」
冷静にデモリンをあしらう環。
そのクールビューティーな横顔にデモリンも見とれてしまうが、
そうそうエロゲーのようにご都合的なラブラブ展開にはならないのであった。
ところで、緊急会議の件であるが、既に環から報告を受けている。
第1階層パート5の17階で、異界へと繋がるゲートが開き、
異界の軍隊が進入して大打撃を受けたとのことである。
17階は壊滅し、統括していたブルードラゴンの青田さんも逃走したという。
問題はその部隊が持っていた兵器である。
それはこの大迷宮でもときおり発見される超古代の遺産。
いったい何者が遺したのか、その多くは使い方も分かっていない。
この世界の創世神話にも登場しないまったく未知の、謎の文明。
その遺産を使いこなすという軍隊が現れたとなっては一大事である。
何しろ、現場に残っているのはこちらのモンスターの死体ばかりで、
向こうの部隊には1名の死者も出ていないと考えられるのである。
かように重要な案件についての会議がこれからあるのだが、
デモリンはそれを気にした様子もなく、携帯ゲーム機に熱中している。
馬車は大迷宮の暗闇の中を疾走する。
だがその行く手には邪悪なる牙を持つものが潜んでいた。
『夜明けの竜』。
彼らは魔王軍の現体制に対しテロ活動をもって改革を迫る集団である。
地上界と天界への全面侵攻を訴え、反戦運動や言論に対しても攻撃を加える。
その実態は解明されていないということになっているが、
実際にはみな、その正体を知っている。
夜明けの竜を操っているのは『火竜王ハイゼル』。
ハイゼルは魔界の大魔王の一人で、魔王軍統合幕僚本部長である。
その指揮下の竜族やオーク族を使い、様々な陰謀をめぐらしている。
そして今、その凶刃がデモリンにも向けられていた。
そんなことも知らず、魔王デモリンを乗せた馬車が進んでゆく。
ガタガタと馬車が揺れる。
御者はその揺れに違和感を感じていた。
それほど舗装がいいとは言えない通路だが、
通りなれているこの道だ、微妙な違いがわかる。
一見したところ、道に異常は無い。
馬車に細工されたのでは、その思いがよぎる。
事実、キシキシと車軸の上げる音が徐々に大きくなっている。
魔界の硬金属でできているこの馬車が経年劣化などするはずも無い。
もうしばらく進むと道が狭くなる、そこで仕掛けられるのではないか?
無論、御者には狙われるような理由は無い。
乗せている客が狙われているのだ。
実力的には小物だが、立場的には十分価値がある。
このまま行っても自分にはどうすることもできない、
ともかく後ろの魔王閣下に報告することにした。
第10話 そのさん
投稿者/氏照
投稿日/2007年6月20日(水)13:54
「エー、誰かが狙ってるんじゃないかってー?」
その魔王閣下殿は驚いた様子も無い。
「この昼行灯魔王様が襲われるわけ無いじゃーん?
3ヶ月前だって、冒険者パーティーが俺の部屋をスルーして行ったぐらいよ?」
「しかし、敵は外からだけとは限りませんが……」
御者も食い下がる。
だが、デモリンは聞き入れず、スピードを緩めることなく進んでゆく。
そして、御者の不安は的中するのであった。
坂に差し掛かったところで、道に仕掛けられた魔法地雷が炸裂した。
その衝撃でへたっていた車軸は完全に破壊され、
制御を失った馬車に御者は道に投げ出される。
坂上からすぐさま第二弾の攻撃が馬車を引く馬に向かって放たれる。
狙い違わず2つの火球が馬を炎で包み込む。
人間界の馬と違い魔界の馬はかなり大きい、いわばモンスターのようなものだ。
それがその2発の火球で燃え尽きてしまう。
起き上がった御者が見たのはあの悪名高い“夜明けの竜”であった。
すぐさま逃げ出したかったが、足をやられて身動きもままならない。
後ろの馬車からも突然の事態に困惑するデモリンが出てくる。
だがそのときにはもう完全に周囲を囲まれていた。
デモリンには護衛として3人のアークデーモンの戦士がついていた。
デモリンと秘書の環を入れて5人。
夜明けの竜のテロリストたちは見える限りで15名ほど、
そのほとんどは竜人の戦士であったが、リーダーと思しきものはオークらしかった。
竜人というのはリザードマンの上位種族で、竜族の眷属である。
夜明けの竜たちは全員覆面をしているため、はっきりと正体はわからない。
だがそのオークには見覚えがあった。
あのエルフ寿司に居た金鳳花☆YUKARIだ。
見た目はIKKOのようであり、実際オネエキャラである。
まず、テロリスト側から声を上げる。
「魔王デモリンよ、その怠惰な振る舞い、魔王軍の将帥にあるまじきものであるッ!
よって、われわれが大義をもってお前に天誅を加えるッ!」
その言葉を合図に全員がクロスボウを構える。
「片腹痛いわテロリストども! この俺が居る限り貴様らの好きなようにはさせんッ!」
アークデーモンの石毛が吼える。
石毛はデモリンの家に代々仕える譜代の家臣で、剛剣の使い手である。
他の二人、伊藤と秋山もそれぞれかなりの使い手だ。
竜人程度なら問題にならないはずである。
「ふふん、魔王軍の正義のために死になさいよッ!」
YUKARIが“やれ”と合図を送る。
すぐさま竜人兵たちが石毛たちに向かって射掛ける。
魔力を帯びたクォレルが青い流線を描いて飛ぶ。
巨体の石毛たちは避けることもかなわず何本かは突き刺さるが、
構わずそのまま抜刀してテロリストたちに向かってゆく。
クロスボウを捨て、竜人たちは3人一組で1人の護衛に立ち向かう。
だが、石毛のグレートソードの一撃で一組が切り裂かれる。
すぐに次の一組が向かうが、先頭の竜人は一合ともたず首が飛ぶ。
伊藤と秋山もそれぞれ3人を相手に優勢である。
石毛はこのまま押し切れると確信したが、まだYUKARIが残っていた。
そのYUKARIは役に立たぬとばかりに部下たちを押しのけ、石毛と対峙する。
第10話 そのよん
投稿者/氏照
投稿日/2007年6月20日(水)13:56
YUKARIの持つ黒い戦矛(ハルバード+2相当)が穂先から赤黒い光を放つ。
対する石毛の得物も魔剣(グレートソード+1)だ。
双方とも一撃必殺の長兵器を持つ、一発当たってしまえば均衡が崩れる。
まず、石毛が牽制気味に仕掛ける。
しかしYUKARIはそれを無視するかのように渾身の突きを繰り出す。
やむを得ず石毛は攻撃を諦め、シールドで防御を図る。
だが、YUKARIの一撃は石毛の予測を上回るパワーでシールドを粉砕する。
「クッ!」
いったん距離をとろうとする石毛に対して、YUKARIは矢継ぎ早の攻撃を加える。
鋭い突きが石毛の体を掠める。
辛うじてかわしているが、このまま下がり続けても不利は覆りそうもない。
相打ちとなっても攻撃に転じるしかない、そう悟った。
「うるァッッ!」
左腕でYUKARIの攻撃を受け止め、踏みとどまる。
残った右腕一本で魔剣を振りかざす、豪腕のなせる業である。
変化を察知したYUKARIはあっさりとハルバードを捨て、
両手で石毛の一撃を受け止める。
ガシィィィッン!!
青白い光が弾けて散る。
YUKARIの持つ籠手の魔力である。
魔力のシールドが展開され、装備者を守る。
そのまま石毛の剣を受け流し、右に飛びのく。
すぐさまハルバードを拾い、石毛が体勢を立て直す前に襲い掛かる。
横薙ぎの一撃が一閃、違わず石毛の顔面を捉える。
グシャリと鈍い衝撃がハルバードを伝わる。
石毛の頭蓋は粉砕され、脳漿が飛び散った。
ばったりと体は崩れ落ち、ピクピクと痙攣している。
そのころには伊藤と秋山のほうも決着がついており、
YUKARIは狙いをそちらに定める。
しかし石毛の敗退は残る2人の戦意を喪失させた。
そうなってはもはやYUKARIの敵ではなかった。
わずか数合の打ち合いで2人とも討ち取られる。
「ふふふ、護衛の者たちはいなくなったわ……
諦めてあなた自身で、戦うしかないわ」
デモリンにそう告げるYUKARI。
ハルバードを構え、ジリジリと近づいてゆく。
デモリンにはさらさらそんなつもりはなく、すがるような眼で秘書の環を見る。
「環ク〜ン、な、何とかしてよ〜」
環は自分の腕に抱きつこうとするデモリンを制し、YUKARIに相対する。
「石毛たちも存外、役に立たないわね……。
だから私だけいればいいと、あの御方には申し上げたのに」
冷たい視線を石毛の骸に向ける。
「な〜にこの娘? 私とやり合おうってわけ?」
「黙りなさい、豚。あなたなど相手になりません、すぐに去りなさい」
表情も変えずに言い放つ。
「キーッ! ナニ? ちょっとカワイイからって勘違いしてんじゃないの?
この最も美しき戦士である私にその言い草……死んでもらうわよッ!」
言うや否や猛然とハルバードを振るう。
YUKARIの苛烈な攻撃をかわしつつ、環も腰の剣を抜き放つ。
細身のサーベルだ、高品質なものではあるが魔剣ではない。
そのことはYUKARIにもすぐわかった。
「な〜にそのオモチャは……
そんなものであたしの攻撃が止められると思っているのかしらッ?」
そういいつつも攻め手は決して緩めない。
第10話 そのご
投稿者/氏照
投稿日/2007年6月20日(水)13:57
キィン キィン キィン
乾いた金属音が響く。
辛うじてYUKARIの猛撃を受け流しているように見える。
だが、YUKARIは焦りを感じ始めていた。
あんな細い剣でこの超重量の戦矛を受けきれるはずがない。
見切られているとしても異状である。
が、その疑問はやがて氷解した。
刀身に青白く浮かぶ複雑なルーン、ただのルーン文字ではない。
『エンシェントルーン』原ルーン文字とされる魔法語。
絶大な魔力を発揮するが使い方を誤まれば術者にも危険を及ぼす法である。
「そ、それは“禁呪”! まさか使えるの!?」
「目の前にあるのです……信じられませんか?」
YUKARIの動揺が現れたのか、じわじわと攻勢が逆転していく。
環の剣にかけられた『破敵』の魔力は攻撃を受けたものをたちまち破壊する。
YUKARIの持つハルバードにも徐々に負荷がかかっていく。
早めに決着をつけなければこちらの武器が破壊される。
反転攻勢か……さもなくば撤退。
このまま戦い続けることは危険、とYUKARIの長年の経験が教えていた。
悔しいが相手の剣技は自分を遥かに上回っているようである。
さらに禁呪を使いこなすほどの魔術。
なぜこれほどの者があのフヌケ魔王ごときに仕えているのか、
彼女の力はわが主ハイゼルにこそ必要なものである。
ここは撤退、そう、意を決した。
「ま、ちょっと待ってッ!」
武器を捨て両手を挙げる。
「……降伏するのかしら?」
「いいえ、今回は引き下がらせてもらうわ……」
そう言って、隠し持っていた魔石を取り出す。
「テレポートストーンね、いいでしょう、帰ってあなたの主に伝えなさい。
あまりしつこいようならいずれこちらから殺しに行くとね」
「後悔するわよ……」
そういい残しYUKARIは闇に溶けていった。
いつの間にか、残ったテロリストたちも姿を消していた。
のち、この魔王襲撃事件はなぜか報道されることもなく、黙殺されたのであった。
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