夢みる頃をすぎても・前編
ある朝、気がかりな夢から目を覚ますと彼は愕然とした。
「な、何だ。何が起こったんだ?」
彼、沙悟浄は起きると巨大な虫に変身…していたわけではなく、変身していたのは彼の
隣でまだ寝息を立てている人物であった。
時間を遡ってみよう──昨日の夜──
コンコンッ。
遠慮ないノックとともにこれまた遠慮なくドアが開けられ、入って来たのは真紅の髪に
同じく真紅の瞳の長身の男、悟浄である。
「勝手にズカズカ入ってくんなっていつも言ってるの忘れたのか、てめえは」
応対するのは性格破綻な金髪美人の超俺サマ、三蔵である。
せっかくの自分だけの空間を 傍若無人に破られ不機嫌このうえない。
「まあまあ、固いコト言いっこナシよ、三蔵サマ♪」
三蔵の不機嫌オーラもなんのその、悟浄はご機嫌である。手には大量に酒の入った袋を
提げている。
「酒盛りなら八戒とでもするんだな。俺は願い下げだ」
「ええっ!何でよ?ちょっとくらいイイじゃねえか。三蔵サマのイ・ジ・ワ・ル」
茶化す悟浄の言葉でキレかけた三蔵のオーラが室温を一気に氷点下に下げる。
あまり、茶化すのは身の危険と悟った悟浄が慌てて言葉を継ぐ。
「冗談はともかく、マジに少しだけ。な?いいだろ??」
「却下」
いつも以上に執拗にカラんでくる悟浄に不快感を隠しもせず、三蔵は冷たく言葉を告げた。
三蔵は他人と必要以上に接する事を極端に嫌がる。
むしろ拒絶していると言った方が正しいのかも知れない。
それでも、今日だけは引き下がれない。
「な、今晩だけ付き合ってくれ。頼むわ」
悟浄はメゲずにもう一度トライする。
あんまり赤毛の男がお願いするので、溜息をおとしながら、話を聞くだけでも聞いてやると
尊大に顎で続きを促す。
三蔵の態度が少し柔らかくなったのを見て取り、肩の力を抜きつつ悟浄は話を続ける。
「今日は特別の日なんだよ、俺にとって。」
「特別?」
「そ、特別。今日は俺の誕生日なんだよ。」
だから、三蔵と一緒に飲みたいのだとニッと赤毛の男が笑う。
「ふん。俺には関係ない。何でオマエの誕生日を俺が祝わなきゃならん」
さもくだらないと、持っていた新聞に目を落とした三蔵に悟浄が言葉を返す。
「あ、そんなこと言って俺に飲み勝つ自信がねえんだろー♪」
「(ムカッ)コロされたいか?」
そんなに言うなら勝負してやろうじゃないかと息巻く三蔵にうまくいったと悟浄は
内心ほくそ笑む。それじゃあ、と酒瓶をテーブルに並べはじめた背中に向かって
三蔵が こう告げた。
「オマエの誕生日だって言うから乗せられてやってるんだ。有難く思え。」
『…バレてたのか』心で焦りつつそれでも三蔵と二人での誕生日の夜は始まった──


二日酔いで痛む頭を抱えつつ悟浄は必死で昨夜の記憶をたどる。
『えっと、それから酒盛り始めて…と。』
確か安物とはいえ、普通の酒を飲んでいたハズなのだ。
なのにどこがどうなったらこの様な事態になるのか。 恐る恐る隣の様子を窺う。
隣で眠る人物はまだ夢の中の様である。
このあたりでは珍しい金糸の髪に、女性的だが女性には見えない整った顔立ち。    
今は閉じられて見る事ができないが紫暗の瞳。少し厚めの肉感的な唇、
そして額には真紅の印。 紛れもなく玄奘三蔵その人である。
但し只一つの違いを除いては、になるのだが。
『確か4本目を空けたとこまでは覚えてんだよなあ。後…』
それから後の記憶が今一つあやふやではっきりしない。
これは三蔵に事実を告げて記憶の 補足をしてもらうしか手はなさそうだと判断し、
覚悟を決めてすやすや気持ちよさそうに 眠る三蔵を起す事にした。
「おい、寝てる場合じゃねえぞ、三蔵」
「……」
予想以上に酒量をこなしていたのか、三蔵に反応が無い。
もう一度声をかけようとして悟浄の動きが止まった。
寝返りを打った三蔵の顔が真っ直ぐ 視界に飛び込んできたからだ。
滅多に見ることの出来ない穏やかな寝顔。悟浄は声を掛けるのが躊躇われ
しばしその 寝顔に見入った。
『やっぱ、綺麗な顔してるよな。これであの性格ってんだから詐欺だぜ。』
きっと今で言えば天使のような寝顔とでも言うのだろう。
三蔵の顔を覗き込みながら悟浄はそう思った。
(但しこの世界に『天使』と言う単語が存在するかは謎)
どのくらい三蔵を見ていたのだろう、決して長い時間では無かったとは思うが不意に
三蔵の睫毛が震えうっすらと瞳が開いた。
その花が咲くのを思わせる様な一連の動きに一瞬悟浄の鼓動が跳ね上がり、
と同時にこの事態に纏わる何か重要な事を思いださせたのだが、
三蔵の不機嫌な第一声に消されてしまった。
「何、人の顔見てんだ。殺されたいか?」
「あ。め、目え覚めたのか、三蔵。調子はどうだ」
「悪い」
間髪いれずに返事が返る。
「え〜と。その、だな。三蔵落ち着けよ。」
「落ち着くのはオマエだろーが。」
「いや、そりゃそーなんだけど…そうじゃなくて。」
悟浄の歯切れの悪い言葉に気の短い三蔵がキレる。(怒りんぼ)
「朝から、うざってぇな!言いたい事があるならはっきり言えっ!!」
三蔵の言葉に覚悟を決めて、悟浄はこの事態を告げる為に口を開く。
「三蔵…気ィ落ち着けろよ。その、オマエの姿がな」
「俺が何だと言うんだっ」
「まあ、とにかく鏡みてみろよ…」
悟浄に言われしぶしぶ部屋に備え付けてある鏡を覗く。
「?」
鏡に映る己の顔を見て三蔵は違和感を覚えた。
いつもどうりと言えばいつもどうりなのだが、なんだか少し違う様な…
「どう言うことだっ!これはーーーっっっ!!」
鏡に映っていたのは、眦吊り上げて赤毛の男に詰め寄る美少年の姿であった。
そうなのだ、目が覚めると三蔵がお子ちゃまサイズになっていたのである。


果たして、三蔵は無事元の姿に戻れるのか?後半へと続く(爆)

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悟浄の誕生日に間に合わなかったうえ、いきなり反則技のお話です。
しかも、終わってない・・・(-_-;)
後半も半分くらいは出来てるのでそんなに遅くにはならないと思うのですが、どうなるかは
私にも分かりません。
「悟浄書くより他に書くもんあるやろがっ!!」と言う一部の方々(笑)の突っ込みは敢えて
無視させて頂いて(笑)結構悟浄書くのは楽しいです。きっと後半はもうちょっとかっこいい
ハズ・・・