| 愛しき日々 |
| 「なあ〜。どーなってんだ、コレ?」 ザシュッ! 刺客御一行サマの一人を倒しながら悟浄が誰にともなく問い掛ける。 「ポイント倍増期間かなんかじゃないんですか?」 ドオンッ!! するとやはり、敵を倒しながら八戒がのほほんと答える。 「弱っちいってもこんなに居たら腹減ってしょうがないじゃんかあー。」 ゴキッ!!! 止めは悟空のこの一言。どう言う理由か今までと比べ物にならないぐらい 「質より量」式で差し向けられた刺客を前にした彼らのコメントである。 どの様な状況でも自分らしさを失わない彼らを天晴れというべきなのだろうが、 ちょっとは置かれた状況を考えろよオマエら、と思う者は決して少なくない筈なのだ。 そして、間違いなくその中に入る人物がここに居た。 玄奘三蔵その人である。彼は自分も次々と襲いかかる敵を倒しながら、上がる息を押さえた 胸の内でまさに『ちったあ、状況考えろ!てめえらっ』と毒づいていた。 三蔵は強い。中でも銃の腕前はピカ一であろう。しかし、である。 連れと置かれた状況が悪過ぎた。共に旅をしている悟空、悟浄、八戒は妖怪の中でも 実力はかなりのもの、体力も文字どうり化け物並。そのうえにこれも雑魚とはいえ、 よくもまあコレだけ集めたねとばかりの刺客妖怪様御一行である。 こんな状況で、いくら強いといっても人間の三蔵が彼らに敵うわけないのである。 疲れの見え始めた三蔵は辛うじて敵の攻撃を交わしたはいいが態勢を崩し、その場に 倒れてしまった。 「「「三蔵っ!」」」 夫々異句同音に叫んだ三人は目の前の敵をなぎ倒し三蔵に駆け寄った。 「三蔵っ!大丈夫かっっ」 「耳元で騒ぐな!このバカ猿」 心配する悟空をよそに三蔵はそう叫んで立ち上がろうとしたが、足首に走った痛みに 顔を顰めて再び蹲ってしまう。 「足やっちまったのかよ、三蔵」 「ここは、一旦引いた方が良い様ですね」 三蔵の様子を重く見た悟浄と八戒がそう決断し、逃げるが勝ちとばかり暴れる三蔵を 呼び寄せたジープの中に放り込み、すたこらさっさと逃げ出した。 ───そして、無事逃げ込んだ宿屋の一室─── 八戒に笑顔でさっくり安静を言い渡された三蔵は、恐ろしく不機嫌だった。 安静に寝てろと云われて素直に寝てる様じゃ玄奘三蔵はやってない。 先程の戦闘での体たらく。思い出す度自己嫌悪で気持ちが悪くなってくる。 この自分が悟空にまで心配されるとは。いつもそうだ。あのバカ猿は自分に何かあると 寄る辺ない子供の様な瞳をして自分を見つめてくる。 異端の証しである、金晴眼。その黄金の眼にはたった一人しか映っていない。 その瞳に見つめられると何故だかイライラした。 「ちっ」 気分を落ち着かそうと、袂から煙草を出したがどうやら品切れ中らしい。 着いてない時はこんなものか。身体も疲労しきっているし、それに少し頭痛もする。 熱が出て来たのかも知れない。そんな事を考えながら、いつしか三蔵は眠りの淵へと 引きこまれていった。 「三蔵、足大丈夫か?」 悟空がそっと声を掛けるが応えがない。怪我が酷いのかとベッドに近寄って見ると 寝息が聞こえてきた。どうやら眠っているらしい。 詰めた息を吐いて、悟空は三蔵の眠るベッドの側に腰を落ち着けた。 そのまま、三蔵の寝顔を見つめる。白い整った容貌、それを縁取る黄金の髪、そして 今は閉じられているが美しい造形を仕上げる紫暗の瞳。 光を集めて人を形作ったらきっとこのような形になるだろうと思わせた。 自分はこの光によって檻の中から救い出されたのだ。 そして、今は守る為にここにいる。三蔵を、自分の光を守るのだ、二度と暗闇の世界 へ戻らない為に──そう改めて心に誓いながら悟空は彼の人の顔を見つめていた。 ふいに三蔵の形良い眉が顰められた。 『足が痛むのかな…』 そういえば、呼吸が浅いようだ。良く見れば顔も少し赤い。 悟空はそっと三蔵の白い額に手を当てた。やはり熱がある。 『八戒呼んだ方がいいのかな…』 そう判断した悟空が八戒を呼びに行こうとした時、三蔵の口から小さな吐息が漏れた。 「ん…」 その声を耳にした途端、悟空の瞳は三蔵の顔に引きつけられて離れなくなった。 初めて見る三蔵の無防備な顔。こんな顔で眠るのか── 悟空はそのまま吸い寄せられる様に、三蔵の顔に自分の顔を近づけそっと唇を重ねた。 「っ!」 軽く唇が触れ、その柔らかさを知覚した途端、身体に電流が通ったようなしびれが走り、 悟空は慌てて三蔵から、離れた。 そして誰に見られている訳でもないのに、キョロキョロと当たりを見回すと 赤い顔をしてドアの方へと小走りに去っていく。 しかし、ドアを開けて出て行く寸前に一旦立ち止まって振り返り、 「三蔵は、俺が守るから…」 そう呟くとそのまま出ていった。 ドアが閉まった途端、眠っていた筈の三蔵の眼がぱちっと開いた。 と、同時に吐き捨てるように一言。 「あんの馬鹿ザル…」 それでも、即座に全身で拒否しなかったのは何故なのか。 それは三蔵にも分からないし、分かりたくなかった。しかし、確実に分かっている事が 一つ。それは明日からが更に頭の痛い日々になると言う事。 それを思った三蔵は溜息を一つ落とした─── 終 |