小さな奇跡
「遅いな…」
時計で時間を確認しながら仙道はそう呟いた。
奇しくも時は十二月。街はクリスマス一色になり、カップルには外す事の出来ない
一大イベントの季節なのである。ましてやクリスマスイブなんて日には、まさに
恋人達のペイヴメント(?)だ。
ラブラブなカップルは尚一層盛り上がり、そうでない人達もそれなりに進展できる
チャンスとあってはこれを逃すテはない。
そして、綺麗にデコレーションされたツリーの側で愛しい人を待っている
仙道彰もその中の一人であった。
すったもんだの末にやっと付き合い始めた一つ年上の可愛い人。県予選の試合会場で
一目惚れして以来、貴乃花の様なつっぱりで押し捲り、ようやくお付き合いの許可を
頂いたのである。それもかなり一方的に。
そしてクリスマスイブの今日。この日も部の後輩と約束があるという年上の人を
ゴリ押しで約束を取りつけたのだった。
『なぁ〜んて俺ってケナゲなんだろう。純愛してるよなあ』
こうして来ないかも知れない彼の人を待ちながら、仙道は取りとめもなく思う。
今までの自分からは考えられない事だった。相手を待たすのではなく、自分が待って
いるなんて。まして、未だに清く美しいお付き合いしてるなんて!
『せっかくのイブだもんな、今日こそ一歩前進するゾ!』
何食わぬ涼しい顔で人待ちしている男前が、ヨコシマな固い決意に燃えているなんて
周囲の熱い視線を送ってくるお嬢サマ方の一体誰が想像出来様か。
こうして仙道の決意は待ち人が来るまで衰える事なく燃えつづけていたのである。


───その頃───
『うわっ、やべえ!あいつ怒って帰っちまったかなあ』
三井寿は引き止める後輩を振りきり、待ち合わせ場所へとダッシュしていた。
どういう因果か猛アタックを受けた挙句、お付き合いを承諾させられてしまった
一つ年下の奴。今だに自分の置かれた状況がよく把握出来ていない。
顔は良いし、人当たりはいいし、バスケはうまいし、一緒にいて楽しいのだが…
果たして男同士と云う最大の壁を乗り越えれる程、自分の気持ちは固まっていない
のである。
『何だかなあ…』
人込みを縫う様に約束の場所へと急ぎながら三井は考える。
自分でも相手に酷な仕打ちをしていると言う自覚はあるのだ。それでも抵抗のあるものは
あるのである。こればかりはどうしょうもない。
クリスマスイブという神様からの贈り物。
これをきっかけに一つでも変われば──そう思いながら、三井は相手の待つ場所へ
急いだ。


約束の時間からニ時間───
やはり来ないのかも知れない、と殆ど諦めかけた仙道の視界に息をはずませながら
走って来る愛しい人の姿が入って来た。
「悪いっ仙道!宮城達を中々振り切れなくてよ。」
「三井さん…」
待ったよな?と申し訳なさそうな顔で切れ切れに言葉を繋ぐ。
そんな年上の人の姿を見た途端、胸が熱くなり名前を呟いた切り何も云えなくなった。
只、愛しい人が目の前にいる。それだけでこんなにもいつもの自分でいられなくなる。
今までこんな胸の熱くなるような出会いは知らなかった。黙り込んでしまった自分を
不安そうに見上げてくる年上の人。この出会いこそが運命だったのだと思えて来る。
仙道は胸の内に込み上げる衝動のままに、目の前の細い肢体を力一杯抱きしめた。
「ちょっ!仙道!!」
「暫くこのままで…お願いです、三井さん」
周囲を気にして真っ赤な顔でもがく三井を更に力を込めて抱きしめる。そうして
思いつくままに独り言のように言葉を綴る。
「俺…三井さんに出会えて良かったです。三井さんの名前を呼んで、笑いあって…
三井さんって人に巡り合えた事が俺にとっては奇跡です…」
「仙道…」
いつもの用意された様な言葉ではない告白に、三井の胸がじんわりと暖かくなる。
仙道と同じように、自分も仙道に出会えた事が嬉しかった。恥ずかしいので絶対口には
出してやらないが。気持ちは同じだった。
そうして暫く抱き合っていたが、三井が小さくクシャミをしたのをきっかけに
仙道はプレゼントがあるのを思い出した。
「すみません、三井さん。こんなに冷えちゃって。コレ、気に入ってもらえるか…」
そう言いながらプレゼントだと言うマフラーを三井の首に巻く。
すると、三井のすんなりした腕が伸びてきて、仙道の首を引き寄せ聞き取れない様な
小さな声でこう云ったのだ。
「おまえがあっためてくれるんだろ…」
「え…」
仙道が三井の言葉の意味を理解するのにしばらく時間が掛かった。そして意味を完全に
理解した時、彼の目には天使が祝福の花を撒いてる光景が見えた。
あまりの嬉しさに固まった仙道の態度を誤解した三井が、離れようとするのを慌てて
引き止め、嬉しい言葉を綴ってくれた唇に軽く触れながら、仙道は囁いた。
「すぐにでもあっためてあげますよ、三井さん♪」


───夜もかなり更け、もうすぐ陽が射し始めるというような時間───
仙道は自分の腕の中で眠る、愛しい人の寝顔を見つめながら幸せをかみ締めていた。
ようやく手にいれる事ができた、自分だけしか知らない年上の人の姿。
羞恥に潤んだ瞳も、甘い声も、そして泣き顔も全て自分だけの中にある。
クリスマスの奇跡があるとしたらまさにこの事ではないか。
飽きる事なく三井の顔を見入っていた仙道は、ふと思いつき彼の人を起こさぬ様に
そっと腕を引き抜いた。そしてサイドテーブルに置き去りにされていたものを
手にとる。
「今までで最高のクリスマスプレゼントです。」
そう悪戯っぽく囁いて仙道は再び三井を抱きしめ眠りに着いた。


仙道の腕に抱かれ、安らかに眠る三井の手首には真紅のリボンが巻かれていた──
                      END