| 『Call your name』 |
閑静な佇まいをみせる住宅街のなか、木々に囲まれてうっかりと見落としそうな場所に 『花鶏』はある。 その閑静な佇まいとは正反対に、店内は現在とても賑やかだった。 「うわッカンッペキ遅刻じゃん!どぉーして起こしてくれなかったんだよッ連」 「なんでこの俺がおまえを起こさなくちゃならないんだ?」 「同じ部屋なんだから別にいーじゃんかッケチ蓮!!」 「……城戸……ッッ」 階段を降りるにつれ、大きくなっていく騒々しさに海之は何事かとひょこっと顔を覗かせる。 だが、二人とも様子を覗う海之にはまったく気づかずに、睨み合っている。 どうやら、先に起きていた蓮に思いっきり寝こけて遅刻しそうな(と言うか遅刻した)真司が 『起こしてくれなかった』と文句を言っているらしい。 そのまま放っておくといつまでも子供じみた言い争いを続けそうな蓮と真司に、密かに苦笑 しつつ、海之は仲裁に入ることにした。 「賑やかだな」 「あッ手塚〜。聞いてくれよッ蓮のヤツが…」 「それより会社に行かなくていいのか?遅刻なんだろ」 「あああーッッッそうだった!サンキュッ海之ちゃんv」 どこまでも賑やかに、バタバタと走っていく真司を、微かな微苦笑を浮かべながら見送ってい た海之は、背中にトゲトゲしい視線を感じてくるりと振り返った。 振り返った視線の先にいたのは、予想通りこの場にいたもう一人の人物で、いつもの仏頂面 を更に顰めて、不機嫌そのものといった顔をしている。 「どうしたんだ?秋山」 「……別に」 自分が割って入ったのが気に障ったのだろうか、と海之はほんの少し眉を寄せて蓮に問う。 だが返ってきた答えは彼らしい素っ気ないものだった。 (【別に】って雰囲気でもないんだけどな…) 海之が声に出さずに零した言葉どおり、蓮が纏うオーラは不機嫌のそれで。 蓮にすればさりげなく誤魔化しているつもりなのだろうが、常人より遥かに他人の気をみる のに優れた海之には一目瞭然で。 でもきっと、もう一度問いかけたところで本当のことなんて言わないのだろう。 (……仕方ないな) これもこっそり声に出さずに一人ごちると、相変わらずむすっとしたまま新聞に目を通し始め る蓮の前に座り、自分のために用意された朝食を食べ始めた。 パサリ……。 パサリ……。 開店にはまだ早い、蓮と海之ふたりだけの店内には、蓮の新聞をめくる音だけが微かに響く。 窓から射しこむ陽は、春のそれほど柔らかくなく、夏のそれほどきつくもなく。 ただただ眩しくて、海之は口元へ持って行きかけたティーカップを元に戻し、窓の外に視線を 向けた。 そっと目を閉じて光を感じると、心地よい明るさで優しく海之を包み込む。 穏やかな光は花鶏の人々にも似て。この優しい人たちといれば、未来を変えられると、自身 の可能性を信じられる。 (この優しいひとたちの笑顔が涙に曇ることがないように) どうか。運命を変える力を、と海之は祈らずにはいられなかった。 「おい」 ほんの少しばかり思考が内へとさ迷っていたのかもしれない。 自分を呼ぶ声に気づき、窓から声の方へ視線を移すと、呆れたような蓮の顔があった。 「ああ…すまない。どうかしたか?」 「…それはこっちの台詞だろ、冷めてるぞ」 「え?」 蓮の言葉が何を指しているのか、すぐには理解できず、何度も瞬きを繰り返す海之を見て、 一つ溜息を落とすと新聞を脇に置いて立ち上がり、海之の前にあるティーカップをすっと キッチンの方へと運んでいった。 (余計に怒らせたかな…) 今朝の状況から考えて、恐らくは蓮が用意してくれたのであろう朝食を(順番なら真司の筈だ)、わざとではないにせよ残してしまったのだ。 きっと先ほどの不機嫌に拍車が掛ってしまったに違いない。 海之が俯いて、どうやって謝ろううかと考えていると、コトリと目の前に何かが置かれた。 それは温かな湯気のたつ、新しい紅茶。 「冷めた紅茶なんか渋いだけだからな」 視線を合わせないまま、相変わらずの仏頂面でいう態度が、蓮独特の照れ隠しであることが わかった海之は微かな笑みを口の端にのぼらせ、素直に感謝の言葉を口にした。 「ありがとう…」 滅多に見せない海之の笑顔は窓から指しこむ光にも似て柔らかで。 思いがけない表情を見た蓮は、ほんの少し驚いたように目を見開いたが、次の瞬間にはもう いつものポーカーフェイスに戻り、テーブルの上に置いた新聞を再び手にとった。 それきり、また二人して黙りこむ。 蓮のほうがどう思っているのかは計りようもないが、海之にすれば、蓮と二人でこんな風に ゆったりとした時間を過ごすのは嫌いではなかった。 そのまま、ずっと続くかと思われた静かな時間を楽しんでいた海之だったが。 「…で…なんか…せるな」 不意に蓮がぼそりと呟いた。 「え…何だ?秋山」 蓮の言葉を聴きとり損ねた海之が、もう一度聞き返すと一瞬、顔を思いっきりしかめて更に 聴き取りにくい低い声で繰り返した。 「城戸に名前でなんか呼ばせるな」 今度は間違いなく言葉を捉えた。しかし聞こえたものの台詞の意味するところが今一つ つかめない。 「名前が…何だって?」 「城戸に下の名前でなんか呼ばせるな、と言ったんだ」 「……どうして?」 三度目でようやく、言葉が意味をなして海之へと届いた。だが、理解できたのは単純に言葉 じたいが持つ意味だけで。その下にある蓮の意図がどうしても読めない。 真意を探ろうとして海之の零した独り言のような問いに返ってきた蓮の答えは。 「俺が不愉快だからだ」 「ッ!」 あまりにも唯我独尊なセリフをあっさりと告げられた海之は、言葉もなくただ蓮の顔を穴があく ほど見つめるより他になかった。 時計の秒針が、裕に3回は廻っただろうか。 ほぼ呆然自失状態だった海之がなんとか立ち直り、蓮の方を覗うと爆弾を落とした当の本人は唇の端を少し引きあげ、おもしろそうにこちらを見つめている。 その、まるで海之をからかっているような表情がいつになく癪にさわるのは、心を乱されている 証拠。 「…秋山だって名前で呼ばれているじゃないか」 蓮以上にポーカーフェイスな海之には珍しく、憮然とした表情で反撃を試みてみれば。 「じゃあ、俺も名前で呼ぶことにしよう。いいな、海之」 更に倍の威力はあると思えるような爆弾を落とされた。 今度こそ言葉をなくし固まってしまった海之は、こちらも珍しく全開の笑顔で、蓮にとどめの 爆弾を落とされたのだった。 「安心しろ。二人きりの時にしか呼ばん」 そう言って声をあげて笑いながら、二度目のお茶を、今度は海之と蓮の二人分を入れに席を 立った広い背中を、恨めし気に睨むしか海之には出来なかった。 |
| まあ、取り合えずは初めての蓮海話。な…なんか変?ヘン??ヘボ過ぎ??? できるだけ本家のキャラをいめえじしつつ書いたつもりなんですが。 というよりか、私の中の蓮海像なのかなー。そーなんだろーなー(笑) どうも私の中の二人はこんな感じらしいデス。やっぱし龍騎もほのぼの路線(笑) (2002.08.19) |