ACT-01 ACT-02


 1

赤道直下の南国のとある島。
 だが、今回はまいどおなじみのリンドバーク島ではない。

 「・・・ねぇ」
 「あん?」
 港で南川は一人釣り糸をたらし、太公望を決め込んでいた。今回の仕事は滞在が含まれているために整備班を幾つか引き連れてきたのだが、その多くは実に暇なのである。
 その南川の近くにある大量に積まれたコンテナによって出来た日陰の中で、何やら厚い本を読んでいた一人の眼鏡を書けた青年が声をかけた。
  「釣れます?班長」
 青年はシエルといった。元々は機士志望で機士団に入団したもの、適正検査ではねられ代わりに整備員としての適正が高かったために整備班に編入されるが、先日の隊内脱走者騒ぎで一名欠番が出たために急遽「穴埋め」に目出度く機士への昇格を果たした。彼が南川を班長と呼ぶのはその名残である。
 「釣れるわけねぇだろ」
  トレードマークの飛行帽の変わりに麦藁帽子を被り、ツナギを半分脱ぎ、上半身Tシャツ姿の南川は完全な「釣り親父」と化してた。
 「こんな所で釣れるのは雑魚ばっかじゃい。本格的に釣れるとしたら・・・日が沈んでからだな」
 水面を浮かび、漂う「うき」を見つめながら南川はそう言った。昼間は輸送船などが頻繁に出入りする港では魚も周回するぐらいしか近寄らず、夜にり船の出入りが無くならないと大型の魚は近寄らないのだ。もっと確実性で言うと、港自体を避けたほうが言いのだが余り遠出すると有事の際に駆けつけるのが遅くなってはいけないと、配慮のあって離れられないのだ。
 「だったらどうしてしてるんですか?」
  突然ふってわいた女性の声にシエルは振り向いた。南川は振り向きもしないで答える。
  「釣りってのはロマンなんだよ」
 その返答に丸眼鏡をかけ、軽くウェーブがかかった赤髪の女性は首をかしげた。
 「ロマン・・・ねぇ」
 「深く考えるとだめっすよ、アイナさん」
 アイナ・レミハントはシエルの言葉に、そうねと言うと彼が背にしているコンテナの施錠を確認し出した。
 「何してるすか?」
  「中にテロリストがいるかもしれないでしょ?」
 扉を何度か揺すり、しっかりと施錠されていることを確認するとアイナは胸ポケットからチョークを取り出し、チェック済みと判るように扉にマークをつけた。
 「アイナよ・・・コンテナの中の温度って知ってるか?」
 南川の声にアイナは眼鏡の中のどんぐり眼でじっとコンテナを凝視した。
 「かなり暑くなるっすよ。ほんの2、3時間で脱水症状を起すくらいっす」
 「中から出れば・・・って、外から施錠されてるから無理か」
 「おうよ。船の中からコンテナ の中って事はありえねぇし、ましてや荷がついてから入りこむなんで面倒な事だれがするやい」
 「言われて見ればそうですねぇ・・・」
  「それによ・・・」
 南川はそう言って、やっと「うき」から目を離すとすっと指を明後日の方向へ伸ばした。
 「アレだけのコンテナ・・・全部チェックする気かい?」
 アイナがそっちへ目をやると山のように詰まれたコンテナが無数にあるのが目に入った。
 




  2

 「ねぇ、父さん」
 「何だ?」
  「遊んでて良いの?私達」
 水着姿で、サンチェアの上でサングラスなぞして寛いでいるカローライに澪が言った。そういう澪もセパレートの水着姿で、その傍らで砂の城作りで隠された才能を発揮していた。荘厳。華麗。どの言葉からもかけ離れ、かろうじて当てはめるならば、そう前衛芸術という言葉が当てはまる奇妙奇天烈な城だ。
 「これも仕事だ」
 カローライはそう言ってずれ出したサングラスを元の位置に直した。
 「警備任務ってことはわかってるよ。でもさ、いくら非公式と言え浮かれ過ぎじゃない?」
 そう言って澪は回りをぐるっと見ますと、 海で思い思いの水着をまとい遊んでいる隊員たち、カローライのように肌を焼いている隊員たち。見えないところでは、ロバートと小猫は島内のカジノで虎の子の50万ν$で一攫千金を狙っており、また闘技場で自らの力量を試す隊員もいる。
  「大丈夫だ。通常警備はあいつ等にでも任しておけ」
 カローライがそう言って海岸線の幹線道路を指差した。澪がそちらに目を向けると、過度の装飾が施されたたナイトUが二機ペアでパトロールをしていた。
 「なにアレ?ダサいよ」
  「輝かしき企業連警備部直属の近衛兵団の皆様だ」
 カローライが皮肉タップリにそう言った。近衛兵団と名は大層だが、中身は企業連の権力闘争の縮図ともいえる内容をていしていた。
 現在、企業連の評議部は追放されたタカサケミカルの座席分が空席となっている。 その席を狙わんと、様々な傘下の企業が動いている。その動きの一部として、自分の息子などの身内を評議部の近くに配して、評議部の心証を良くしようという動きがある。 つまり近衛兵団のように、直接上層部へ関係する部署へ送りこんでいるのだ。
 こうなってくると、他の企業も差をつけられまいと躍起になって送りこんでくる。そうなると個人の技量は二の次になり、金を積んで潜りこませたりする事が多くなり、 結果として要人警護のエキスパートであるはずの近衛兵団の実力があっと言う間に見るも無残なモノになってしまっているのだ。 「あんな張子。何の役に立つの?」
 「立たんさ。実戦ではな。見る分としては十分だろ?」
  「張子はね」
耐熱特殊素材を編み込まれたマントをまとうナイトUは、元のデザイン性の高いナイトをさらに強くした印象を受けるが、この近衛兵団のナイトU二機並んで行進している姿はもさっそうとしていて、中々にかっこの良いものではあった。だが、ときどき引っかかったような動きを見せたりと、機士の方でもたついている姿がみられ、それが非常に不安感を残した。




 3

 「あのさ・・・視線感じない?」
 引いては押し寄せる波打ち際でビーチボールをもったイチコがミズホに言った。イチコは白いビキニ水着で、ミズホはスポーツタイプのワンピース水着を着てサングラスをしていた。
 「お得意の霊感は?」
  ミズホはそう言って、投げられたビーチボールをトスした。
 「それが感じないんだよね。入水自殺だとか、無理心中だとか聞かないし。ここ」
 トスされたボールをイチコがさらにトスする。
 「聞かないって・・・ここ来るの始めてでしょ?」
  「憎念渦巻く企業連のプライベートビーチ・・・何か無いかって、調べたくなるのが乙女心って奴じゃない?」
 「・・・そんなのいらない」
 と振りきるようにミズホがいきなりのサーブ。頭上を越えようとするボールをイチコはジャンプして打つ。しかし、ジャンプして思いのほか勢いがついたボールはミズホの上を軽々と越えていってしまう。
  「あっ、やば」
 ボールは放物線を描き落ちて行く。砂浜に落ちれば問題は無いのだが、落下予想地点には一人の女性がいた。その女性は水平線でも見ているのか、ずっと海の方を見ていて気がついている様子は無かった。
 ミズホがイチコの代わりに危ないですよ、と言おうとした時にはボールは女性に当たろうとしていた。だが、女性はそれが頭に当たる直前、すっと右腕を上げ手の甲でボールを弾くと、落ちるボールをその手でキャッチした。
  「おー」
 ミズホとイチコ、二人が口を揃えて驚く。その女性はボールを脇に抱えると、二人に向かって微笑み近づいてきた。
 「アナタたち、もうちょっと注意した方が良いわよ」
 「あぅ、すいません」
 「すいませんでした」
女性の言葉に二人は素直に詫びた。その女性は赤毛のウェーブがかかった長い髪で、布面積がかなり少ない黒いビキニを着ていた。本人のスタイルが抜群だから、立っているだけで妖艶とも言える色香を匂わせていた。
 「まぁ、私も怪我無いし。それより、アナタたち観光?」
 「はい」
 ミズホがそういうと、女性はまた微笑んで
 「奇遇ね。私もそうなのよ」
 「そうですねぇ。あははは・・・」
 今回の仕事では「秘密裏」に事を進めてくれとクライアントからあったらしく、全員バラバラに島に乗りこんできたので「観光」で入ってきた人数が今週はかなり多い。それで偶然だと言われたら笑うしかない。
  「でも、アナタたち凄いわね」
 「いやいや、えっと・・・私はミズホ。彼女はイチコです」
 「私はジェーン・・・ジェーン・ディモンズよ。どうしたの?」
 「ジェーンさんの方が、スゴイじゃないでか。色々」
 「そうかしら?でも私はあなた達みたいに追っかけはいないわよ」
 そういってジェーンは道路の方の向こうの茂みを顎で示した。 二人がそっちの方を見ると、どこかで見たような二人組みが望遠レンズをつけたカメラで3人を狙っていた。
 「ねぇ、ミズホちょっと向こう向いててくれる?」
  イチコの指示にミズホは疑問符を浮かべながらその二人から視線を外した。それを確認すると、イチコはカメラを持った二人組みの方を見ると、短く一度だけっふと笑みを浮かべた。




 4

 「うあわぁぁぁぁ!?」
 疾風機士団整備班所属ロベルト・アナハイム(23歳・独身)は悲鳴を上げながら、愛用のカメラを投げ出し、地面にしりもちをついた。
  「どうしたよ?」
 カメラ仲間のイーサン・プラプテス(24歳・独身)はロベルト(23歳・独身)に声をかけた。すると相棒は振るえる手で海岸の方を指差していた。イーサン(24歳・独身)もそちらへカメラを向けていたのだが、ほかの女性の写真を撮っていたので別の方向なんだろうとそちらへカメラを向ける。
 イーサン(以下略)とロベルト(同略) はカメラに対して1つの哲学を持っている。すなわち、「サイトで狙うのも、ファンダーで狙うのも同じ」だ。ただ、サイトで狙った後に引き金を引けば目標は倒れ敵となるが、ファンダーで狙った後シャッターを落せば目標は被写体となってコレクションとなる。 破壊と保存。相反する二つが彼らには等価値であり、ただのパパラッチである行動を正当化できる理由なのだ。飽くまでも彼らにとってだが。
 イーサンが相棒の指差す方にカメラを向けると、すらりとした足がファンダー越しに見えた。どんどんカメラをアップさせる。白ビキニの腰が写り、胸。そして・・・顔。
 「うひゃぁぁぁうあうあうあ」
  イーサンはロベルト以上に意味不明な悲鳴を上げると、同じように尻餅をついた。
 「あれって、あれ・・・」
 「イチコさんだよ・・・」
 二人はぐっと唾を飲みこむ。ファンダー越しに見えたのは、イチコの笑みだった。笑み。そうそれはパパラッチにとっては絶好のシャッターチャンスである。特に自然にもれる笑みなどはプレミアもの一品といって過言ではない。二人にとってはだが。
 ただ・・・イチコの笑みは普通の笑みではなかった。 どんなに太陽が出ていようと、そう投光器で明かりを向けていようが、不思議にできる陰影を強調し口元だけで笑う。ゴーストスマイル。二人が見たのはまさしく夏場の幽霊だった。
 「どうすんだよ・・・なんか写ってたらどうするんだよ」
  「折角、水着美女を網羅できそうだったのに・・・変なモノが写ったらやバイよな」
 そこで二人は各々のカメラを手にとり、自分のカメラをじっと見た。ミズホ隊員のベストショット、澪隊長のベストショット、そして謎の美女のベストショット・・・それに心霊写真・・・
 「てかよ、あの笑いやばいって。祟られたらどうする?」
  「祟られると思うか?やっぱ」
 「絶対祟られるって」
 「謝りに行こうか?」
 「直接行ったら、直接やばい呪いとかされたらやばいって」
  「んじゃぁ、盛り塩」
 「・・・だとうだな。あと十字架だ。十字架」
 意見がまとまった二人は無言で頷き、話しを区切ると急いでその場を後にした。夏は怪談が風物詩だ。だが、自分達がその登場人物になるのは真っ平だからだ。

  「さっき、悲鳴が聞こえたようだけど・・・」
 「なんでもないですよ」
 ジェーンの言葉にイチコは「普通」の笑みで返した。その言葉にミズホは肩を落す。普通に写真・・・まぁ、盗撮も百歩譲って許したとしても、確実に何か「別なモノ」と一緒に写っているんだろうと予想がついたからだ。
 「そう言えば、さっきずっと海の方を見てたみたいだけど。 何かあるんですか?」
 イチコがそういうと、ジェーンは短く笑みを浮かべ、髪をかきあげながら水平線を見て言った。
 「ちょっとね、友達の事をね・・・」




 5

 「・・・海」
 島の反対側ではグレッグが一人、断崖絶壁に腕を組んで仁王立ちになっていた。強い潮風がからだ中に当たるが、微動だにせずに立っている彼は彫刻のようだった。
 「・・・海は・・・広い」
 アメリカ大陸の内陸部の砂漠地帯で古きインディアンの生活を崩すことなく生きている少数部族で育った彼は、こうやってゆっくりと海を見る機会が無かったので感慨深げに海を見ていると海の広大さが体中に染み渡っていくようだった。
  「おーい、そろそろ次いきますよ、次」
 ここまで運転してきたジープの運転席でレイスがグレッグに声をかけた。
 「完全に自分の世界に入ってるな」
 助手席に座っているネズミがダルそうに団扇で自分を仰ぎながら、投げやりに言った。 途中で海が見たいと言い出したグレッグに海を見せるために、車を一度停車させてからそろそろ一時間。それからグレッグは動く様子は無い。
 「ちっ、失敗しましたね。置いて行きますか」
 「そうだな。腹減ったら帰ってくるだろう」
  その言葉にレイスは頷くとアクセルを踏んだ。ジープは快調な音を立てて走り出す。
 「・・・海」
 グレッグはただ海を堪能していた。楽しみとは人それぞれである。




 6

 島の中央部にあるホテルの会議場では企業連重鎮による会議が行われていた。題目は「食品事業部来年度予算検討会」である。だが・・・
  「・・・とこの様に、現在時点での抵抗勢力は国機連をはじめとする犯罪組織程度です」
  整髪料を多用し、ゴワゴワになった髪を七三にしている役員がプロジェクターを操作しながら言った。正面のスクリーンには世界地図が写っており、 その至る所に犯罪組織の勢力や国機連の判明している勢力などが表示されていた。
 表向きはただの予算会議。これは国機連などの襲撃を避けるためのカモフラージュである。実際に行われているのは警備課、保安部合同の抵抗勢力への作戦会議だ。
  「これに抵抗勢力への転化への可能性があるのは・・・」
 そう言って次の地図を映し出す。
 「マスターズ・コーポレーション、イルミテッド・テクノロジーが抵抗姿勢を示しつつあります。また、イルミテッド・テクノロジーに関してはイルミテッド国ぐるみでの 反企業連ムードが高まりつつあります」
 その役員の言葉に会場はざわつき出した。しかし、役員の次の言葉で静まった。
 「ご安心下さい。 両勢力に共通して国機連の工作は確認されておりません。国機連の戦力増強計画とは無関係と我等保安部は確信しております」
 会場内に安堵のため息があちらこちらで起きる。
 マスターズ・コーポレーションは最近台頭してきた企業だが、 その製品の性能は他の企業を大差でぬきんでており、武闘派企業という別名をなぞるように、その社員の多くが旧戦略自衛隊関係者であるから正面からぶつかるとなるとかなりの脅威になる。
 また。イルミテッド・テクノロジーは以前に全面戦争をして、 国単位での結束力の強さに企業連は一度敗戦している。しかもそれ以来、極地戦に重点を置き特殊な機体を開発を進めているので完全勝利は難しいだろう。
  「ですが、保安部で一番危惧してるのは・・・」
 新しい地図には傭兵島の拡大写真で、そこには3名の顔写真が出ていた。
 「ミッキー・M・カローライ、レイモンド・ガルシア、ハンナ・アナミラーズ」
 役員が一人一人の名前を読み上げる。
  「そう、今後機士団が最大の障害になる可能性があります」
 会場で収まったはずのざわめきが先よりさらに大きく起る。
 現在の地球の勢力は大雑把にわけて5つ。企業連、国機連、独立企業体、武装犯罪組織・・・そして機士団。企業連は年々総合戦闘能力が低下し、 国機連はその性質から人員数が減少傾向に陥っている。 独立企業体は企業連の締め付けによりめぼしい戦闘力を持たず、武装犯罪組織は他の組織とのすくみ状態で当面は障害にはならない。問題の機士団は欠けている物が結束力だけと言う最強の武装集団なのだが、 近年になって台頭してきた三大機士団の団長はそれぞれ多大なるカリスマ性をもっており、他の機士団を纏める可能性が出てきた。収束した武力ほど危険なものは無い。
  「内偵の調査によりますと、カローライとガルシア間に共闘の姿勢が見られます。が、ハンナはいずれの勢力とも関係する点が認められません」
 そこでカローライとガルシアの顔が消え、ハンナの顔だけが表示される。
 「そこでカローライとガルシアを仲たがいさせる手段は使わず、ハンナを利用する手段が最適かと判断いたします」
 「それはつまり、ハンナを使ってカローライ達を始末すると言う事かね?」
 会場からの質問に役員はよどみ無く答える。
  「いえ、残念ながらそれはカローライとガルシアが正式に手を組む口実を与えるに過ぎません。現在は共闘するも非公認でありますから、他の機士団への影響は少ないのです。ですが、これが公式となると他の機士団もこれに参加する恐れがあります」
  「ではどうするのかね?具体的にいってくれ」
  「まずハンナを味方につけます。後に二勢力トップを同じに始末します。つきましては・・・」

 会議場の一番奥の席に一人の男が座っていた。男は愛用のバイザーを外し、役員の言葉を一字一句暗記するように聞いていた。
  「・・・どう?」
 背後から声がかかり、男の肩に手がかかる。男は無言でバイザーをつけると、その声の主に隣の席を勧めた。
 「結構きな臭い事を相談してるみたいじゃない」
 その席に座ったのは小猫だった。小猫はそう言って、一枚のメモ用紙を男に渡した。
 「良く調べましたね・・・全部で23人ですか」
 Dはそのメモを握りつぶすと自分のスーツの内ポケットへ突っ込んだ。 小猫は会議場に潜伏している各勢力の諜報員の数を調べていたのだ。例え表題を誤魔化そうとも、それなりに力を持っている勢力からすればばればれなのである。
  メモには各有力機士団や武装犯罪組織の諜報員の名前が記してあった。小猫は元々、国機連での諜報活動を専門にした特殊部隊の出身であるために適任であると、自ら志願してこの任についていた。  「国機連の名前がありませんが・・・」
 Dは元々マスターズ・コーポレーションからの派遣で企業連へ入っていたのだが、今でも社命とあらばコーポの為に働く。 今も企業連への派遣社員という地位を利用して秘密裏に情報を送る事を命じられている。
 「それがいないのよ。人っ子一人ね」
  「事前にこの会議の内容を知っていたとでもいうんですかねぇ・・・」
 「虫は?」
 虫とは盗聴機の隠語である。
  「ありえません。だからこそ、忍びこむ必要があるんです」
  「バカンスでもしてるのかしらね」
 「さあ・・・どうでしょう」
 そういってDは懐からカードケースを一個とりだした。
 「そういえば、これは社長からです」
 「何?」
 「闘技場の9番ゲートに社長名義でブースがあります。自分の目で確認してください」
 そういうと、Dはこれで話しは終わりだとも言うように目をつぶって腕を組んだ。




 7

 ガシィンと鉄と鉄がぶつかり合う轟音が場内に木魂する。 瞬間に火花が散り、互いのぶつかった箇所が大きく破損する。
 「がぁ!」
 一機のBSが獣のような声を上げ、一度距離を取ると再び掴みかかろうと急接近する。それに対し、相手側の一回り小さいBSは左右へ細かく平行移動を繰り返しフェイントをかける。
 「この野郎!」
 右手を振り上げ、 ラリアットを決めようとそのまま突っ込む。しかし、そのラリアットは相手の頭部を掻っ攫ったが、代わりにギリギリで胴体への直撃を避けた相手の機体に足をさらわれてしまう。
 「ほんがぁぁぁ!!」
 壮絶なるうめき声の後に機体がもんどりうって仰向けに倒れる。轟音と砂塵が巻き起こる。直ぐに立ちあがろうとしたが、その前に相手のの足が胴体にのしかかる。
  「そこまで!」
 場内にホイッスルの音と、試合の終了をつげる声が響く。そう、これは試合なのだ。
 
 「くそっ!」
 アッシュはヘッドギアを怒りの声とともに投げ捨てた。
 「おーおー、怒ってるねぇ」
 整備員がちゃかすようにいいながら破損部分のチェックをしていた。
 「こりゃぁ、ダメだね。バックパックやら、 背面基盤やらにそうとうキテる」
 「っち、機士様が闘士ごときに負けるなんざ洒落にならないっての」
 「でも負けたっと・・・メインのアビオニクスもかなりだね。 メーカー修理の方が安いね」
 「あの野郎、次あったらとっちめてやる」
 そういってアッシュは指の骨を鳴らした。
 「あのさぁ、見てて思ったんだけど筋はいいんだから 変化つけろよ」
 「変化ぁ?どうしてそんな小細工をせなならんのだ」
 「だってよ、さっきのだって真っ直ぐに突っ込まずに横から攻めたら、もうちっとは粘れたぜ?」 そういって整備員は左手で握りこぶしを作ると、反対側の手で同じように握りこぶしを作って左手の脇を叩いた。
 「そんな小細工はな、パワーでカヴァーできるんだ」
  「どうやって?」
 「そりゃぁ、決まってるだろう。力押しだ」
  「だからどうやって?」
 「・・・力で押しきる!」
 「過程は?」
 「こぅ、相手を力でねじ伏せてだな。うむを言わさぬパワーで圧倒すれば・・・」
 整備員は思いきりため息をついて、こめかみを手で抑えた。
 「はぁ・・・とりあえず、 俺達を楽させてくれよ」


→ Go to "ACT-02"