ACT-01 ACT-02 ACT-03
1.

 バルサロム海底基地。それは国土を持たずして、機密性を優先事項とする国際機密連合の西部方面の中継点を兼ねた海底基地である。常駐兵力八千、保有BS数約三千、戦闘艦船三十の大型要塞である。
 この施設は海底にある事から航空よりの発見はまず不可能で、この近隣の海流は暖流と寒流がいりまじり赤外線を始めとするあらゆるレーダーや、ソナーまでも無効化していた。事実上の不可視要塞である。
 そこの潜水艦ハッチより一人の女が降り立った。ビキニの水着をまとい、パーカーを羽織っている姿は軍施設からは浮いていた。
 
「館内放送。ジェーン一級研究主任は至急司令部へ出頭してください。くりかえします・・・」

 ジェーン・ドゥは鬱陶しげにその放送を聞くと、長い赤髪を書き上げると歩き出した。要塞内は広くまた防衛面の観点から各施設がモジュールごとに形成され、モジュール間の移動はエスカレーターでしか出来ない。よって、モジュール間移動は楽なのだがエスカレーターまでがこれまた長い。
 
「ん?」

 エスカレーターに辿りつき、ボタンを押して扉が開くまでの短い間の時間にジェーンは短い声を上げた。ドアの向こうに珍しい人が居たのだ。
 
「おや?これはジェーン博士じゃないですか」

 短い銀髪に三白眼。細身の、むしろやせぎすのその男はジェーンに笑顔でそう言った。 

「なぁんだ、犬か・・・」

 ジェーンがいかにもかったるいと表明するがゆえに耳なぞカキながら言った。その言葉に銀髪の男はほほを引きつらせた。
 
「犬・・・ですか。手厳しいなぁ」
 
「でも嘘じゃないでしょ?良い噂聞かないわよ、あなたの部隊」
 
「そりゃぁ、アナタもでしょ」

 と銀髪の男は笑いながら扉を潜ってジェーンの居るモジュールに移った。
 
「所で・・・全滅したそうですよ」
 
「え?」と通り過ぎ様に言った銀髪の男にジェーンがふり返る。
 
「まぁ、熟練度の差ってやつでしょうね。作戦の特殊性からいきなりあんな機体を載せられちゃぁ」
 
「ちょっとアンタ!」

 とジェーンが拳を振り上げるが、銀髪の男はその腕をさっと掴む。
 
「やめなさい。一介の学者が私に勝てるはずがないでしょ」

 と銀髪の男はさらに顔を近づけてジェーンの耳元で囁いた。
 
「・・・どうやら戦略は3流のようですね」
 
「馬鹿にしないで!」

 とジェーンはあいてる手で銀髪の男に殴りかかり、今度は男はさっとそれを避けると拘束していた手を放し飛びのいた。
 
「おっと怖い怖い。それじゃぁ、僕は任務がありますので」

 と男は快活にそう言うとさっさと背を向けて歩き出した。ジェーンは掴まれた腕を見ると、その部分が赤くなっていた。あの男は見かけによらず力が強いのだ。
 とりあえず、その男の背中に中指を立てるとさっさとエレベーターに乗ろうとしたが、すでに扉は閉まっていてエレベーターの位置を知らせるランプは隣のモジュールの位置で点灯していた。
 
「あっ、あんにゃろぅ」

 とジェーンは体を振るわせた。


2.

 ジェーンと小競り合いを起す前に銀髪の男は別の場所でも問題を起していた。場所は反対側の士官食堂だ。軍隊において食堂はパブをかねる事も多い。ここもその例になぞっていた。
 カルツォ―クはカウンター席でウイスキーを薄めずに飲んでいた。彼はどうしても「酒に水を入れる」という行為が許せないタチだったのだ。
 
「となり,いいかい?」

 後ろからかかった声にカルツォ―クは右手でグラスを上げて返事する。隣に座った銀髪の男は給仕にジュースを頼んだ。
 
「酒はやらねぇのか?ゲオルグ大佐」
 
「次の任務がまってるので・・・それに大佐はやめてくれよ。こそばい」

 とゲオルグ・ヴァスティーニュはいった。給仕が茶色い炭酸飲料が入ったグラスをカウンターに置くとそれをぐっと飲んだ。
 
「かぁ、やっぱストライク・コークは一気に飲むに限るねぇ」
 
「変わってるなぁ」

 彼方もね、とゲオルグはウイスキーを飲むカルツォ―クに言った。食堂の中は閑散としていて、BGMが程よい音量で流れていた。
 
「世の全てはすべからくして作り出される理由があって、それを維持する理由がある。そう思わないか」

 ゲオルグの問いかけにカルツォ―クは黙ってウイスキーを喉へ流し込む。そして拳でカウンターをノックすると、カウンターの中の給仕がグラスに継ぎ足す。
 
「例えば・・・このストライク・コーク。元は炭酸の清涼飲料水だ。清涼飲料水は・・・まぁ、はしょっても問題はないだろう。それに炭酸をプラスした。それは何故か?」
 
「喉越しじゃねぇのか」
 
「そう。つまりこの喉に染み渡る感触を得たいが為に炭酸をプラスしたわけだ。それに単一の味では物足りない。そこでバリエーションが増える」
 
「で、何が言いてぇんだ。俺に薀蓄を聞かせてぇわけじゃねぇだろ」
 
「さっきいったじゃないか。これは万物に適用さえれる・・・いわば法則」

 とゲオルグは半分くらいに減ったコークを一気に飲んだ。
 
「つまりモノは必要とされる理由を喪失した時点で消滅する・・・断ったそうじゃないか。新機種への乗換えをさ」
 
「どうも体を機械化するのは抵抗があるし・・・薬は気に食わん」

 国機連は現在主力BSを従来のフロンティアエッジからゲシュペンストと呼ばれる機体に移行している最中だった。フロンティアエッジが第二世代機と呼ばれるのに対し、ゲシュペンストが第三世代機と呼ばれるように性能は格段に上昇した。だが、1つの問題が発生した。操縦方法が従来のものと違い、フルトレース方式になったことによりパイロットの負担が大きくなったのだ。
 これの一番の問題は「フルスレイブ方式」でなく「フルトレース方式」ということだ。スレイブ方式はパイロットの動きに追従して、それを機械的に増幅してマシンの動作として反映させるものだが、トレース方式は最小限のスレイブ機能のほかに脳波を「追尾」してその動きをマシンの動作に反映させるものだ。これによりさらに「人間らしい」動きと、反応速度の驚異的上昇が可能になった。
 だが、その得意な操縦システムは時としてソフトウェア的負荷をパイロットの脳に直接フィードバックしてしまう危険があった。それをある程度緩和するために、パイロットは負荷を電子的処理をしてくれるガードチップを体内に埋めこむか、向精神剤で常に脳波を一定に保たねばいけないと言う事が国機連医学部の調べでわかっていらい義務化されたのだ。
 
「こわいのか?」
 
「怖かねぇさ。不気味なだけさ」
 
「不気味?」

 ゲオルグはもう一杯同じモノを注文すると、鸚鵡返しに問うた。
 
「体に弾ぁ入ると熱が出る。そりゃ異物が入ったんだからな。でも、そいつは入っても不都合がでねぇ」
 
「そりゃぁ、そういう風に作られているから・・・」

 ゲオルグの言葉をさえぎるようにカルツォ―クは言葉を重ねる。
 
「異物が入ったら体に不都合が起きる。それが道理だろ。なのにそれは不都合が起きねぇ。水と油は一緒にならねぇように、人と機械は一緒にならねぇもんじゃないのか」

 とカルツォ―クはふと妹の事を思い出した。妹は小さい時から心臓の病にかかっており、当時は一介の闘士だったカルツォ―ク(当時は名前は別のものだったが)は妹を企業連の病院へ入れたのだが、診察の結果は心臓移植しか生き残る道はないと診断された。闘士であるカルツォ―クに「天然臓器」は手に入るはずもなく、「人工臓器」の移植に踏み切った。しかし、人工でも高価で低程度のものしか移植できなかった。そして妹は臓器が適合せずに死んだ。
 
「機械が体に入って不都合が起きるならともかく、普通になじんでるってのは不気味でしかたねぇ。ようはパーツ交換。マシンといっしょじゃねぇか」
 
「なら薬使ったらいいじゃない」
 
「それが一番げせねぇ。ほんとにレイブン・・・」

 カルツォ―クは言葉を飲みこんだ。何時の間にか自分のわき腹にゲオルグが銃を付き付けていたのだ。
 
「やめとけ。僕の部隊の任務はしってるだろう」
 
「ああ、そうだったな。それでだ、ほんとに『あの御方』の指示なのか」
 
「国機連の総指揮権は彼にある」
 
「でも、薬(ヤク)は一番毛嫌いしてたはずだぜ」

 国機連の総司令官とも言える人物は麻薬の類を毛嫌いしていたのだ。実際に麻薬組織にたいして攻撃を掛けたこともある。
 
「薬薬っていうなよ。薬品だぜ」
 
「でも薬には変わりねぇだろ」

 ゲオルグはその言葉に肩をすくめ席をたった。
 
「古い男だねぇ」
 
「やかましい。殴り倒すぞ。若造」

 カルツォ―クが睨みつけるが、ゲオルグは鼻で笑うと背を向けて歩き出した。
 
「とにかくだ。勅命を断りつづけてるんだ。次に旧式機でしくじると、見せしめに消されるぜ」

 カルツォ―クはそれを笑い飛ばした。
 
「そん時は、若造。てめぇが相手か」
 
「だったら良いけどね。僕って力仕事苦手だから」

 とゲオルグはそう嘯くと軽く手を振ってから歩き出した。
 カルツォ―クが給仕が下げようとしているゲオルグのグラスを見ると、2杯目のストライク・コークは半分も減っていなかった。


3.

 潜水艦ビゴロ。戦闘能力はほとんど0に等しいが、そのぶんステルス機能などを強化に強化を重ねた特務艦である。その中腹あたりのミィーティングルームではゲオルグを始めとする5人のメンバーが打ち合わせをしていた。
 
「まぁ、飽くまでも悪性腫瘍を切り取る手術だと思えばいい」

 とゲオルグがいうと他のメンバーから小さな笑みがこぼれる。
 
「企業連に属さないのは評価できるが、やってる事は下司だからな」

 と右目に眼帯を当てているアロルがいった。
 
「ようは今までのゴミ掃除と同じってわけだ」

 アロルの言葉を長髪のクレイブが引き継ぐ。
 
「具体的にはどうすりゃぁいいんすか?」

 とこの場においては一番年下、そうやっと二〇代にさしかかった頃と思われるジョナサンがいった。
 
「ワン・センテンス&ワン・ミッション」

 ゲオルグはそう言ってメンバーを見まわすと快活に一言で締めくくった。
 
「壊して逃げる。以上!」


4.

 中東圏にあるガルヴァ社。表向きは独立企業協会と呼ばれる企業連に属しない企業の組合に属している軍事産業である。主に他企業の製品のライセンスを取得し、その機体のバリエーションの製作をしていた。それを企業連のルートで販売はしないで、組合のルートで独自に販売している。ある意味、まっとうな企業ともいえる。
 だがそれは表向きはである。ガルヴァ社は裏ではあこぎな商売をしていた。例えばAとBの勢力が戦争をしている場合、片方だけに兵器を販売すればミリタリーバランスが崩れ戦争は集結する。だが、どう勢力に均等に兵器を販売すれば戦争は長期化する。戦争が長期化すれば消費も多くなり市場は活性化する。だが、長期化し膠着化した市場には新参の企業が入り込む余地はほとんどない。つまり、最初から兵器を卸している企業が最後まで市場を独占できて「儲かる」のだ。ガルヴァ社はそれを意図的に行っていた。
 具体的にはAに新型の巡航ミサイルを販売する。するとある程度してからBに新型の迎撃ミサイルを売りつけ、更に新型の巡航ミサイルを売りつける。そしてまた時期を見てAにも同じ事をする。これだけでミサイルのイタチゴッコがはじまり、兵器はどんどん売れる。最初はその新型の性能UPの度合いを見極めなかったから短期的にしか儲からなかったが、今では「ほとんど変わらない」新型という微妙な力具合が判って来たためにかなりの荒稼ぎをしていた。
 この一見、市場荒らしとも見える営業形態に対して組合が問題を起さないのには理由がある。それはガルヴァ社の製品ラインナップにある。つまり、他社の製品をライセンス生産してるのも同然だから、詳しく解析しない限りはガルヴァ社の製品だとは気が付かないのだ。この解析というものは戦時下において他企業が早々と割りこんでやれるものでない。それにももと密輸出の形態を取ることも多かったから、そうそうに気が付かれるものではない。それでガルヴァ社は散々荒らしていた。
 企業連はどうかというと、全くの無視状態だった。所詮は中小企業のしてること、巨大コングロマリッドともいえる企業連にとってはこの規模の市場荒らし程度は対した事無いのだ。
 
「路傍の石って奴なんだよねぇ」

 ジョナサンが腕を組みながら呟いた。
 
「石は石でもネオンバリバリだぜ」とアロル。

 確かに企業連にとっては路傍の石であるが、他の勢力からみると邪魔意外なんでも無い。特に諜報戦を得意とするところである国機連陣営にとっては、紛争時における兵器供給源として悪名高く企業連についで撃破するところの目標になっていた。
 
「現在周辺にて他勢力の反応はありません」

 と女性の声が全機に伝わる。部隊の紅一点ミチルだ。
 ミチルの機体は森の中に匠に身を隠し、両肩から伸びるワイヤーを巻き取っていた。やがてワイヤーの先端の探査用プロープが戻ってくると肩に張りつき収納が終わった。
 
「問題は増援だが・・・速攻で終わったら問題は無いな」

 ゲオルグはそういうと被っていたカモフラージュネットをゆっくりと脱いだ。他の機体も順に脱いでいく。ネットの中から姿を現したのは、真っ黒な服をまとったゲシュペンストだった・・・


5.

 時は数日戻り傭兵島の中心街にあるPUB「K&D」、その奥のBOX席。そこでカローライはウィスキーの入ったグラスを持ったまま固まっていた。
 
「・・・もう一度言ってくれないか?ガルシア」

 そう、カローライの目の前でビールのジョッキを持っている髭の濃い山男のような男こそ、ガルシア義勇機士団団長のレイモンド・ガルシアである。
 
「耄碌しやがったか?カローライ」
 
「あまりにも無謀と言うか・・・馬鹿馬鹿しい話を聞いた気がするんでな」
 
「どこが馬鹿馬鹿しいって言うんだ?」
 
「企業を潰すってあたり」

 そうなのだ、ガルシアは企業潰しを持ちかけてきているのだ。
 
「そもそもどう言う吹きまわしなんだ。お前の所が」

 カローライがそう問いかけた。義勇機士団は傭兵部隊にしては非常に珍しい金以外で動く機士団なのである。「義」がある仕事なら例え報酬が出なくとも彼等は出撃する。実際に紛争地帯にて医療活動を行うR.X.M.(レッド・クロイッシング・アーミーズ。旧赤十字を母体とする紛争地帯において医療活動及び、難民保護の為のNGO軍隊)の部隊錬度向上の為に教官を派遣したり、部隊の提供を無償で行っている。そんな所が企業を潰すと言うのだ。
 
「ガルヴァ社って知ってるか?」
 
「ああ。企業連に入ってない企業で、カスタムマシン中心のあそこだろ」
 
「裏は?」
 
「兵器の密輸出。詳しい事はしらんが」
 
「実はな・・・」

 ガルシアがガルヴァ社の影の仕組みを説明するとカローライの顔つきがだんだん変わって行った。
 
「証拠は?」
 
「掴んでる。俺のところの情報部が内偵でな」
 
「良く掴めたな」
 
「やれば掴めるさ。だれもしなかっただけ。お前の所もノーマークだったろ?」
 
「こっちは現状処理で精一杯さ」
 
「だがな、こいつぁ蓋を空けてみたら簡単な仕組みさ。まるでオルゴールみたいにな」
 一気にジョッキを空けながらガルシアが言った。  
「ただ、簡単である分はやっかいだ」
 
「どうして?」
 
「第三者の視点にならないとわからない仕組みなのさ。争ってる当事者達は戦争で手一杯。兵器を格安で売ってくれるガルヴァは英雄様様さ」
 
「なるほどな・・・で、つぶす?」
 
「おう、つぶす」
 
「やっぱ、降りる。俺」
 
「まてまてまて!!」

 席を立とうとしたカローライをガルシアは肩を押さえ、強引に椅子に座らせた。単純な力勝負ではカローライが分が悪い。
 
「お前んところの機士団の根本は?」
 
「戦争の早期解決」
 
「だったらな、ここは1つ。戦争を長く延命し続ける諸悪を撲滅すると思って・・・」
 
「・・・古い言い方ををするなぁ」

 とカローライは腕を組んで考え込んだ。