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「はぁ?龍をさがせぇ?」
 と福来吉住教授はすっとんきょうな声を上げた。それに対して眼前のゲオルグは涼しげな顔で立っていた。
 福来の外見は特徴的である。胸まであるなまず髭に短脚に、肥満気味の体。そして肩まである長髪。変人である。
 「若造が、冗談もほどほどにしとけよ」
 福来が低い声でいうも、ゲオルグは怖気づきもしない。
 「いえいえ、こっちは至って本気ですよ。龍を探して欲しいんです」
 福来はゲオルグに詰め寄る。長身のゲオルグに福来とでは頭三つ分は楽に差がある。福来はゲオルグに指を突き付け言った。
 「いいか、龍とはファンタジィだ。我輩はファンタジィが何より嫌いだ」
 「知ってますよ。だからこそ、現実的な話しじゃないですか」
 「どこが現実的だ!そんな事は生物学のあの小娘にでも任しておけば良いんだ!」
 その言葉にゲオルグは困ったように頬をかきながらこたえた。
 「いやぁ、それでもやはり彼方以外に適任者がいないんですよ。ノーマンレポートはご存知でしょ?」
 その言葉に福来は何かに気が付いたのか、納得したように頷くとそうだよなと呟きながら腕を組んでしまった。
「ちょ、ちょっとどういう話しなのですか?」
 と木崎正敏は言ってから後悔した。教授は教授と呼ばれているにも関わらず、質問される事が大嫌いなのだ。実際に質問をしてしまった木崎を馬鹿にしたような目で見た。教授は右目が薬品の影響か、ただの白内障だかの影響で白く濁っているのでそれで見られると、ちょっと怖い。
 「あなたはノーマン・クラフゲーベル博士の10年前の論文をご存知ですか?」
 以外にも答えたのはゲオルグだった。木崎はとりあえず彼なら大丈夫だろうと思い、素直に知らないと答えた。
 「ノーマン博士は元々は物理学の研究家だったのですが、まぁひょんな事から風水に入れ込んでしまいまして最終的には民族心理学を研究する方になったのですが・・・まぁ、ここは福来教授と同じですね」
 「やかましい。小僧」
 福来教授は憎憎しげにそういうと奥にある機械を触りだした。福来教授は元々は地層学のエキスパートだったのだが、そこから発展した挙句に考古学のエキスパートとなり遺跡発掘に意欲を見せる国機連にとって最高の人材になっていた。
 「まぁ、知ってますよね?風水」
 「あの便所に鏡を置くと良くないだとか、鬼門に黄色おくと良くないとかいうアレですか?」
 「まぁ、そこまで詳しい事は僕は知りませんが」
 とゲオルグが苦笑を浮かべる。
「とにかくその風水なんですが、その基本は・・・知ってるみたいですね」
 「確か気を通すのでしたっけ?」
 「らしいですね。その気が流れ出す元を龍孔、そこへ気を供給する道が龍脈と言うそうです」
 「はっ、科学的根拠も無いたわごとだ」
 と福来が言うが、その台詞に意外そうに手を広げてゲオルグは言葉を返した。振りまわした手が実験機具に当たりそうになる。
 「何を言ってるんですか。それを科学的見地から検証したのがノーマンレポートで、それを実証したのが福来教授、彼方ではないですか」
 ゲオルグの言葉に福来の顔がさらに不機嫌なものになる。
 「気を文字通りのエネルギーと仮定するならば、龍孔とはエネルギー溜まり、そして龍脈はエネルギーの通路。ここまではだれでも思いつくところです。問題はこのエネルギーの正体です。マグマの地熱エネルギーなどが言われていますが、ノーマン博士はこれを電気エネルギーと仮定したのです」
 「・・・そのとおり。幾十にもつのった地層の下層部に掛かる圧力はかなりのものだ。これでもし地層が一枚だったのなら、はいそれまで。問題はない。しかし、地球には幾つものプレートがある。さらにその断面は広大で、かつ深い」
 「つまり、微細の地殻変動においてもプレート断面どうしでの摩擦が起こり、それにより静電気発生すると言う事ですか?だったら蓄積はしないんじゃぁ?」
 と、木崎の言葉に福来が今まで一番失望したような表情を見せた。
 「君は一体何年、私の下で学んでいるのだ?半年前にアンゴルモア隕石群の飛来について勉強させたではないか」
 「・・・あ」
 木崎はその言葉で思い当たったようだが、ゲオルグは何の事か判らなかったので木崎に聞いた。
 「簡単に言うとですね、地球の重力は一定じゃないんですよ。微妙に。たとえば、地層の中に大規模な鉄の層などがあると、そこが微妙に弱くなったりするのです。この重力変動は物凄く微細なもので例年地表に振りかかるだけの隕石では統計を取るのが難しいのです」
 「ものの本によると、それでも数千以上はあると読みましたが?」
 ゲオルグはあくまでも丁寧な物腰で尋ねる。
 「地球に突入するのはそんなものです。ですが、大気圏突入時の超高温に耐えぬくのは以外と少ないのです。その上、突入時についた加速は早々落ちるものでなく、大気圏をぬけた後の小さい隕石では重力の影響による機動変化が変わる事もないのです。ですが、アンゴルモア隕石群のような超大型の隕石が多数飛来した場合、僅かながらも変化を確認できる事ができるのです」
 「脱線し過ぎだぞ木崎。まぁ、簡単に言うと重力変動の原因に地下に何かが埋まってると言うのだけ理解できれば良い。そこの男はヒントさえ与えたら勝手に自分で調べる。そうだ。君もそういうところは見習いたまえ」
 思わぬ評価に苦笑をゲオルグは浮かべた。
 「つまり、木崎さんのいう所によると地下には重力に影響を及ぼすほどの何かが埋まっていて、それが蓄電してると。ざっと資料を読んだだけだったので、やっと判りましたよ」
 「そこまでいうと大げさだが、おおむねその通りだ。かなり省略するが、地層には鉄をはじめとする幾つかの鉱物で構成される地層があるのだが、これが蓄電器となっている。それがプレートの摩擦で発生した静電気を溜めているわけだ。これを風水に置換すると、電力の流れが龍脈、電力の溜まる所が龍孔だ。もっと判りやすくいうなら、発電システムと蓄電システムだ」
 「つまり、ゲオルグ様は教授にそのどちらかを探せと?」
 「蓄電システムの方ですね。それに正確に言うと場所はわかっているのです。その採掘作業を指揮して頂きたいのです」
 やっと本題にはいれたのが嬉しいのかゲオルグは嬉々として懐から一枚の地図を取り出した。
 「これはとある施設の地図なんですが、ここの改装中にWSが暴走したり急停止したりとトラブルが相次ぎまして、当時の現場指揮官が龍頭の関係者だったという事もあり先にそっちへ報告をした結果、気が悪いと」
 「それで龍探しか。そこへあっさり辿りつくという事は、貴様。最初からある程度の目星は付いていたな」
 福来がゲオルグを睨みつけるが、当の本人はそ知らぬ顔でもう一枚の紙を取り出した。こちらは何かの施設の構造図のようである。
 「これはその施設の地図です。そしてここの最下層部に該当個所があり、既に人員と機材は揃っています」
 教授をそれを一瞥すると深く考え込みだした。木崎も地図を見たが、教授が考え込むほどの問題を見付ける事はできなかった。
 「こりゃぁ、典型的な炭鉱だな。それを元に施設を作ったようだが・・・軍用だな。ふむふむ。ここの蓄電システムは大方、大規模な炭素鉱物だろう。とすると発電は・・・おい、小僧。さっきの周辺図と内部図ではわからん。全体図か、せめてある場所でも教えないか」
 ゲオルグは何時の間にか小僧呼ばわりである。
 「東日本連邦の北海道特別再開発区第26待機地区、旧名大雪山要塞です」