| SPECIAL MISSION SS - 01 フォルテ
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燃え盛る火炎、瓦礫の山。夢の終わりのイメージは大抵そうだった。例え、楽園のような風景を見ていたり、酒池肉林の極楽の園だったりしても終わりの頃になると突然そうなる。 俺はその廃墟の真中にいた。そして何かと対峙する。とてつもなく巨大で、凶悪な波動を全身で感じることができる。だが、そいつは真っ黒でどんな姿をしているのか判らない。ただ赤く輝く二つの目で俺をにらみつけている。 俺はそいつに拳を向ける。拳法?空手?そんな立派なものじゃない。俺にとっては拳のみが唯一の武器であり、最大の武器だ。それを向ける。そして叫びながら突っ込む。夢は終わり。結論が出ない夢はそこで終わる。 俺は目覚める。ゆっくりと目を開けると天井の扇風機がゆっくりと回転しているのが目に入った。パンツにシャツ一枚で寝たのだが、それらは汗をしこたま飲み込み限りなく不快だ。首をさすりながら起きると下のベットの同僚の五月蝿いいびきを聞きながら体を起こす。昨日の訓練のせいか、体の節々が痛む。機士である俺達に本来なら白兵戦訓練は不要なのだが、部隊の特殊性から様々な訓練が実施される。昨日は機士団長直々に訓練に参加する格闘訓練だった。 俺の格闘はあえてジャンル分けするならばマーシャルアーツになるだろう。団長が組手の相手をするというので、手にバンテージをまいただけのだけの俺は殴りかかったが、気が付けば地面に転がっており、背中に激痛が走った。見てた奴に聞くと、突っ込んだ俺はそのまま投げ飛ばされたのだそうだ。居合とか言う技らしい。 とりあえずベットからおり、五月蝿い同僚のベットに蹴りを一発いれてからおもむろに椅子に座る。テーブルに手をつき、額を抑えているとやっとベットからうめき声が聞こえてきた。しかし、まだ起きる気配はなく熊のようなうめき声が聞こえるだけだ。俺はもう一発蹴りをかまそうかと考えたが、それも億劫なのでやめにした。 しばらくそうしているとうめき声もやんで、ただのいびきだけになったので俺はため息混じりに洗面台で顔だけ洗うと歯ブラシを口に突っ込み、元の椅子に戻った。時計を見るとまだ朝の10時前。熱帯性気候のリンドバーク島はいつの時間でも暑い。肌着を早く着替えないと不快感だけが増してくる。 「・・・おはようございます。10時になりました。団員の方は起床し、訓練任務に励んでください」 お決まりの朝の団内放送がかかった。いつも放送の声が違っており、これを誰の声か当てえることが朝の俺の日課になっていた。ビジネスライクな声とトーンからして小猫隊長だと俺はふんだ。 「おっはよー!」 ドアをバンとあける音がして、澪が快活そうに飛び込んできた。俺は歯ブラシを加えたまま振り向く。 「あらら、片方は寝てるんだ」 「まぁな。で、お嬢、朝っぱらからなんですかい?」 俺達は団長の娘であり、隊長でもある澪の事を「お嬢」と呼んでいた。澪は俺の対面の椅子に座って言った。 「んぅ、父さんに中央までお使い頼まれたんだけど・・・」 「そういえば、あいつは寝込んでるんでしたね」 澪にはグレッグという親衛隊というか、ボディガードが付いていた。このインディアンの青年は何度も瀕死の重傷を負ったどころか、その内の数度かは医師によって死亡診断書まで発行される直前まで行っておきながらも生還するという人並みはずれた身体能力者だ。その代わり、この青年はやたらと口数が少なくまた、感情の起伏が乏しい。 その彼は昨日の訓練の際に脳震盪をおこし、医師より絶対安静を言い渡されていたのだ。どんなに鉄片が肉体に食い込んでも生還した男でも、直接の振動には弱いってことだ。 「で、俺が運転手ってわけですかい?」 「だめ?」 俺に断る理由はなかった。 ジープのハンドルを握りながら俺は考える。自分の戦闘スタイルの事、次の任務の事、未来や過去の事、そして夢の事。 夢のことは結論が出ないがいつも考えてしまう。そうしているうちに目的についてしまう。 「じゃぁ、いくよ」 澪がドアを開けて言った。俺はハンドルにもたれかかったまま答えた。 「俺もですかい?」 俺は前の職業が職業なだけに、こういう公の施設はもう御免なのだ。 「そぉうだよ。だってあたしまだ未成年じゃない」 そうなのだ。澪は隊長・・・通常軍で言うところの准将という階級にいるのだが、年齢はまだ10代そこそこのはずなのだ。 中央での澪の仕事とは簡単なものだった。機士団の仕事は企業連に逐一報告をしないといけなく、その際に製作する書類も実に煩雑なのだ。無論、企業連に報告できないような仕事はその限りではないのだが・・・ 書類は一度製作してしまえば機士団の要職についている機士ならば誰が提出しても良いことになっている。それで澪が届に行くことになったのだそうだ。 帰りに澪の言葉に従い、ハンドルをショッピングセンターにむける。ここのショッピングセンターは世界各所に点在するジャンクヤードと呼ばれる非合法商店街にも似て実に猥雑で、かつその商品の種類は富んでいる。俺も最初は子供用の人形の隣にミサイルが売っているその姿に驚いたが、慣れると非常に便利だ。なにせ刀剣商店の隣が外科医だったりするからだ。 センターに入ると澪は用事があるからと姿を消し、俺は一人で散策することにした。もっとも、俺の行くところといったら限られて入るが。 ランバーステイツ。それが格闘型BSを専門に扱う俺の行きつけの店だ。ここの店主の東野という男はパンクという音楽が好きらしく、店内にも復刻版のパンクミュージックがかかっており、その店主の風貌もリベットの沢山ついた皮ジャンにモヒカンという変わったいでたちだ。音楽に詳しい同僚に聞くと、微妙にパンクを誤解しているらしい。 「よう」 俺が片手を挙げて店内に入る。狭いゲートを通り抜けると、機士団領にある整備棟ほど大きくはないものの沢山のBSがそろっているフロアにでる。多くは重量型だが様々なクラスがあり、共通している点といえば肩部分がやや大きく、腕部に装甲が集中している事だ。 格闘型BSの多くは腕部による殴打・・・つまりパンチによる攻撃をメインにしている。その為に腕部の装甲を厚くすることにより破壊力を向上させるとともに、耐久性を向上。そうすることにより発生する腕部過多積載量をクリアするために肩部に独立したアクチュエーターを装備し、かつ専用の振動石ユニットを搭載しているために肩がいびつな形をしているのだ。 BSの戦闘スタイルはパンチだけではない。例えば痩身型・・・軽量型ではなく、細身の機動型が便宜的にこう呼ばれるのだがそのタイプではキックなど、かなり人に近い闘法が取れる。俺は乗ったことがないのだが、国機連の新型はその限りなく人に近い形状から汎用性に富んだ動きが取れると思うのだが。実際に俺はこの目で奴が同僚のBSを投げ飛ばすのを見ている。 ここまで来ると無茶苦茶だが、実際のところBSの格闘はまだセオリーというものが確立されておらず、射撃などの兵器に比べ個人技量が如実に表面化することから愛好者が多いのもまた事実である。 「なんか新しいの入荷したかい?」 「MC社製強襲型クラブマスターってのがあるぜ。お前さんとこの頭の機体の廉価版、ていうか格闘戦に重点をおいた機体なんだが・・・まぁ、見てみるかい?」 東野にいざなわれ奥のドックにいくと一機のBSが立っていた。重装甲のその機体は両腕に巨大なスパイクをつけており、基本的なデザインはMC社の代表作である零式を踏襲しているようだった。一目、重装甲型は格闘に向いてないといわれるが、団長とほぼ同じ機体ということは装甲のパージング機能が標準でついているということだろう。これにより最大で機動力を数倍にまで引き出すことが出来るはずだ。 「悪くはないんだがなぁ」 俺の口からふと漏れる。 「まぁ、お前さんのパワーファイトには向いてないだろうがよ。でもよ、いつもズタボロになって帰ってくるじゃねぇか。やっぱよ、格闘戦は機動力できめるのがいいんだって」 東野は腕を組んでしゃべり出した。この男は格闘技をしゃべらすとちょっと五月蝿く、機士団の整備長と渡り合えるくらいは話せる。 「力は全てに勝り、全てを兼ねる。あんたもそう言ってたじゃないか」 「そりゃぁ、相手と同等くらいだったらな。けど、お前さんとこって何時も国機連の最新型とやりあってるって噂だぜ?そんなやり方じゃ、いつか死ぬぜ」 その言葉は聞き飽きた。 俺のスタイルは変える気はない。何時もこうして来たし、これからもそうだ。 狭いコクピットの中で俺は考える。そとでは戦闘が起こっているのに悠長なもんだ。センサーが短くなり、俺は直ぐに反応して迂闊に戦線を外れ近寄ってきた国機連の機体を殴り飛ばし、一撃の下に破壊する。国機連も今回は無理な動員をかけたらしく、兵力の錬度にムラがある。前線からの報告によると、かなりの実力を持った部隊が存在するということだが、中枢へはそれに乗じして紛れ込んだ新兵しかいないらしい。この程度なら束になってかかってこようが敵じゃない。 再度センサーが鳴る。今度はミサイル警報。俺は素早くチャフを展開し、その場を離れる。ミサイルは直線的な動きから不規則な動きに変わり、最初にいた場所の周辺に次々に炸裂する。 「っち!」 俺はその爆風に体制を崩し、機体を片膝づかせてしまった。これでは直ぐに攻撃できない。ミサイルの飛んできた方へカメラを向けると、フロンティアエッジがハンドミサイルを投げ捨て腰のハンドガンを抜こうとしていた。これでは間に合わない。 「なにやってんの!?」 無線に鋭い女性の声ともに漆黒の大鎌が回転しながらフロンティアエッジに飛んでいき、胴部をやすやすと貫通してしまう。 「・・・っち、余計なことを」 「余計なこと言わないの。さっさと立ち上がって、反対側の戦線がやばそうなの」 これ以上、口答えすると呪われそうだったから俺は素直に従うことにした。 「てめぇは絶対に許せねぇ!」 俺は拳を振りあげ、そう宣言した。俺はどうしても許せないものが三つある。炭酸の抜けたビールと、肉の少ないスペアリブ。そして人の「想い」を踏みにじる奴だ。目の前の奴は、それを俺の・・・いや、俺達の目の前で踏みにじりやがった。しかも、俺が思うに一番重いと思う「家族」と言う思いをだ。 「おやおや、どっか見たエンブレムだと思えば疾風機士団のお歴々ではありませんか」 嫌いな物に追加だ。すかした野郎も嫌いだ。 今、奴に俺を含め三人。一人は大鎌、もう一人は大ぶりの刀。これでは二人とも攻撃のときのモーションが大きい。とすると、一番早くダメージを与えられるのは俺か・・・ 「おっと、動くんじゃ有りません」 やつはそう言ってマシンガンを片手で俺に向けた。俺は構わずに拳を腰に引き、右足も引く。 「聞こえませんでしたか!?」 奴が引き金を引く。弾丸が装甲に命中する音が連続する。俺はブースターをふかし、奴に吶喊した。 「聞こえるかぁぁぁ!!」 装甲に数発の弾丸がもぐりこみ警報が鳴り響く中、俺の拳が奴のマシンガンごと右腕を吹き飛ばしたとき、俺は見た。国機連最新型主力機ゲシュペンスト、その鬼のような頭部の二つのアイカメラが赤く光るのを。 次の瞬間、俺は背中を蹴り飛ばされうつ伏せに地面に豪快に倒れこんだ。しかし奴は直ぐには追撃してこなかった。遠方の同僚が狙撃銃による超遠距離支援をしてくれていたのだ。俺は立ち上がり、二撃目の姿勢に入る。 「っち、分が悪いですね」 奴はそう言いながら両肩から煙を吐き出した始めた。煙幕に紛れて逃げるつもりだ。同僚の超遠距離狙撃で煙幕の中を狙うが、弾丸は煙幕をかき乱すだけだった。煙幕が薄らいで行くと、そこにはもう奴の姿はなかった。 俺は拳を下ろすと、何故か腹のそこから笑い出しそうになった。 「・・・そうか、貴様が俺の壁か」 奴が俺の夢に出てくる「紅目」じゃないのかもしれない。しかし、俺はやっと真の敵に出会えた気がする。俺は下ろした拳を天高く突き上げ、姿を消した奴に宣言した。 「貴様が俺の壁なら・・・叩き壊す!!」 SPECIAL MISSION SS - 01 フォルテ
2002/05/03 掲載 |