SPECIAL MISSION SS - 02 D・GUY

 ターニャ・マクファーレン。それは私の昔の名前。
 タカサケミカルの実験体としての人生とD・GUYと名乗る養父との人生が半分づつ私には存在する。
 漫画とかにある陳腐な議題に「人生とは?」というのが有るけど、私にとって人生の証明とは名前だと思う。私は様々な記録から抹消された人間。ならば私個人を特定する情報は私個人の名前しかない。もっとも養父に育てられていたときは別の名前で、先日その養父が戦死した時にまた私は昔の名前に戻った。それは私が再び企業の所有物に戻ったという意味もある。
 
 企業の人間がきたのは養父が再び機士になって間もない頃だった。それは養父の功績をたたえるものではなかった。たった一枚の死亡通知表。そして私の今後のことを口頭で告げられただけだった。予想通り、私は企業の所有物に逆戻りらしい。ただ、今の部屋を引き払う準備期間や養父のリンドバーク島での葬儀に参加するために二週間の猶予は与えられた。その間は企業から監視役が来るそうだ。どっちにしろ、ゆっくりはしていられない。
 
 監視役の男は一言で言うなら優男。糸目のひょろひょろとした感じの細い男だ。養父のように力強い意志をもった瞳やスーツに詰め込んだ屈強な体もない。私は自分の体は守れるのでいいけど、こんな男が企業の特殊工作員だとは到底思えなかった。男は自分の名前は 寛和河かんながわ正義だと名乗ると右手を差し出した。企業人にしては珍しい挨拶だと私は思った。

 私の印象は寛和河と出会って三日で変わった。リンドバーク島へ向かう途中、空港へ寛和河の運転する車で高速道路を走っているときだ。先に回りの異常に気が付いたのは寛和河だった。東日本連邦の首都の高速になると、深夜になっても車の姿が消えることはない。だが、私たちの車以外の姿がめっきりなくなってしまったのだ。
 「気をつけてください」
 寛和河はそう言うと座席の下から拳銃を取り出した。11ミリの大型弾丸を撃ちだせるオートマティック拳銃レックス。この優男はこんな化け物を使いこなせるのかと、私は不安になった。ふと、バックミラーを見ると真っ黒なバンが高速で接近してくるのが見えた。
 「頭を下げて」
 私が言葉に従い頭を下げると、彼は窓を開けるとレックスをバンに振り向きもせずに向けると、なんと連射した。通常の拳銃の音とは明らかに違う発砲音を鳴り響かせ、8発の弾丸がバンに向かって飛んでいく。バンのフロントガラスはこなごなに砕け、バンは制御を失い防壁に衝突した。
 「しつこいですね」
 バンが更に二台追いかけてきたのだ。今度は二台とも窓からサブマシンガンを突き出し、こっちに向かって撃ってくる。しかし距離も離れているために、防弾仕様のこの車はびくともしない。
 「つかまっててください」
 今度は私が近くのものにつかまる前に彼は一気にブレーキを踏みこんだ。高速で移動していたときの急ブレーキにかかわらず、車体はブレもせず真っ直ぐに二台のバンの間をすり抜けていった。すれ違いざまにマシンガンの弾丸が車体にかなり降りかかったが、それでもビクともしなかった。彼はまたレックスを窓から突き出し二台のバンに四発づつ弾丸を打ち込むと、バンはまた制御を失い防壁に衝突した。
 
 それから空港までは襲撃はなかった。空港のロビーに入ると、一人の男が待っていた。その男は養父に似た強い瞳と肉体を持ち、寛和河の姿を見ると力強い握手を交わした。
 「まさか、貴方直々に警護に出るとは思いませんでしたよ」
 「いやぁ、同僚の娘さんですからね。何か有っては申し訳ないですよ」
 と男の言葉に彼は照れくさそうに頭を掻きながら答えた。彼はしゃがんで私の目線の高さに合わせると、私の肩に手を置いていった。
 「いいかい?君はこれから彼の元で世話になる。それで君は企業の手から離れ、自由に慣れるんだいいね」
 私はその言葉の意味がわからなかった。しかしここは頷くシーンだと私は思い、頷くことにした。そしてその瞬間、遠くで悲鳴と銃声が聞こえた。
 「派手なおまけ付きですね」
 男が言うと、寛和河は舌打ちをして答えた。
 「言わないでください。にしても私の庭で民間人を巻き込むとは・・・許しませんよ」
 今度は爆音。エントランスの方で誰かが爆発物を使用したようだ。おそらくはさっきの奴ら。
 にしてもここ・・・東日本連邦第一国際空港は防衛空軍の施設に隣接しているためにそうそうテロが発生しないところ。そこへ強襲を敢行するとは、相手はよほどの力を持ったところなのだろう。さすがに寛和河一人では危険じゃないだろうか。それにそこまでのリスクを犯すまでの重要性が私にはあるというのだろうか。
 「いたぞ!」
 覆面をつけた男がマシンガンを撃って来た。直ぐに二人が反応して銃を抜く。銃声が三度。レックスが一発、そして男の10ミリオートマティック拳銃「アトラス」の二連射。寛和河も並じゃないが、この男もアトラスを片手で扱うあたりが普通じゃない。
 「警備隊は全滅したみたいだな。おそらくはさっきの爆発音は警備室であったんだろう」
 男が冷静に判断しながらもう一丁のアトラスを懐から取り出した。
 「足は?」
 寛和河はレックスを一度握りなおすと男に聞いた。
 「二番滑走路」
 「いけるか?」
 「楽勝」
 と二人は弾かれたように動き、私の頭の上で腕を交差するように拳銃を突き出し発砲する。どさっと重いものが落ちる音がしたので見ると、二階の吹き抜けから射撃しようとしていた覆面が二人落ちていた。
 「では僕は奴らを殲滅します。貴方はこの子を頼みます」
 そういうと寛和河は気障っぽく私にウインクするとエントランスの方に走っていった。マシンガンとレックスの銃声が鳴り響く。
 「さ、君はこっちにくるんだ」
 男はそういって私の腕を取ると走り出した。男は二つのアトラスを巧みに扱い、現れる覆面を攻撃させるより先になぎ倒していく。本当ならば前を見て走るべきなんだろうが、私は後ろが気になって仕方がない。
 「・・・寛和河」
 つい、口から彼の名前がこぼれる。すると、男は驚いたように私に言った。
 「君、彼の名前を知ってるのか?」
 私が頷くと男はうれしそうな顔をした。
 「奴は二つの顔を持っててな、一つは駄衛門。MC社の特殊工作部隊の総司令官であり、第一級工作員として現場に出ている。もう一つは・・・」
 男はそう言いながらまた現れた覆面に弾丸を叩き込み、アトラスのマガジンを交換し始めた。手際に不備はなくスピーディーなマグチェンジだ。
 「寛和河正義。俺の個人的な友人であり、戦友。そして、MC社の最高責任者だ」

 滑走路につく頃には銃声は聞こえなくなった。きっととなりの基地から援軍が来たのだろう。相手がどれほどの戦力を投入したのかはわからないが、軍がでてきたのなら勝ち目はないだろう。
 「団長!ご無事でしたか!?」
 深い青色のガンシップがアイドリング待機をしていた。ハッチから金髪の短い髪をした利発そうな女性が男に向かって言った。
 「銃声やら爆発やらで心配したんですよ!」
 「すまない。ちょっと面倒に巻き込まれた」
 男はそういうと私を中へといざなった。
 「あなたがターニャちゃんね。あたしはセリカよろしくね」
 金髪の女性が言ったので私は軽く頭を下げた。こういうのは苦手だ。
 「直ぐに離陸、全速で空域を離脱してくれ。空でも襲われたら厄介だ」
 男の言葉にセリカは了解というとコクピットに消えていった。男は収納型のシートを出すとそれにすわり、私を前の席に座るように薦めた。
 「彼の事なら心配ない。あの程度の奴が束になっても、彼に傷一つすら負わせることは出来ないよ」
 そうは言われても私にはあの糸目の優男がそんなに強いとは思えなかった。一応、その実力を目で見てるのに。
 「さて、私はカローライ疾風機士団長のカローライだ。君は聡明な子だと君の父親君から聞いている。私の言うことが判るかな?」
 カローライの言葉に私は思い当たった。疾風機士団とは養父が入団した機士団だ。
 私は無言で頷いた。これからどうなるかは判らない。ただ養父が私を置き去りにしてまで人生を預けた機士団が私をここまで必要とするなら、私はそこに身をおこうと思った。


 「・・・本当にこれでよかったのか?」
 疾風機士団領の中心部にあるカローライの自室。そこでカローライは質素な机にすわり、水槽の熱帯魚を見ながら電話していた。
 「ええ。そもそも彼の遺言でしたし、それが彼女のためでしょう」
 電話の相手、寛和河はMC本社ビルの社長室で電話を受けていた。ターニャにあったときと同じスーツを身にまとい、まったく同じ表情だ。
 「彼女に悪いが・・・お前の会社にとって最高の実験体じゃなかったのか?」
 その言葉に寛和河は笑って答える。
 「それを言うなら、貴方の娘さんも同じですよ。ほぼ同じコンセプトかつ、ほぼ同じ素体」
 「悪かった。俺が悪かったから、娘をそういう風に言わないでくれ」
 「じゃぁ、貴方もそういうことは滅多に口にするものじゃないです。彼女達は人間です。我が社の研究員がなんと言おうとね」
 寛和河のその言葉は今までの中で一番冷たい響きを持っていた。カローライにはそういう喋り方をしている寛和河は怒っているというのを判っていた。しかし、その言葉にカローライはため息をついた。
 「やっぱりそうか。いいのか?そういうことしてると社内で吊し上げくらうぞ?」
 その言葉に寛和河がまた笑いで返した。先の口調と変わって人懐っこいものに戻っている。
 「結構結構。でもね、我が社の社員は理解してくれるはずですよ。それより、彼女の事は頼みましたよ。なにせ私の部下だった男の娘なんですからね」
 「判ってる。なにせ俺の部下の娘なんだからな」



SPECIAL MISSION SS - 02 D・GUY
2002/05/03 掲載