SPECIAL MISSION SS - 05 セオドア(2)

 世の中に馬鹿は数あれど、俺の目の前に居る馬鹿は究極の馬鹿だと思う。しかし、世の中には憎むべき馬鹿が居れば、憎みきれない寧ろ愛すべき馬鹿も居る。今回はそんな馬鹿な相棒の話だ。

 
 「おっきろぉぉ!」
 ドアをバンバン叩く物音と朝っぱらテンションの高い声で俺は目覚めた。この天井を突き破るような、よく言えば爽やか、ずばり言えば非常識なテンションの持ち主に俺は心当たりがあった。寝床に使ってるソファから体を起こす。ベットなんてここ数年使っていない。ソファが俺のベットで、腕が俺の枕だ。
 俺がドアを開けると俺は目がくらんだ。声の主の真っ白なスーツに真っ白な帽子、そして漂白剤をこれでもかという位に使ったような真っ白な歯にだ。
 「お前、朝っぱらなんだよ」
 「ご挨拶だなぁ、セオドア。任務だよ、に・ん・む」
 テリー・ギャリクソンはそう言いながら情報部部長の指令書を俺の目の前にちらつかせた。
 俺は首をひねって部屋の中の壁掛け時計を見る。まだ寝てから5時間しかたっていない。つまり、俺が謹慎命令をくらってまだ半日も経ってないという事だ。こう言うときにテリーと組まされるなんて、どうせろくな仕事ではないことは判りきっている。
 「やだ、行きたくない」
 「なぁに行ってんだ。この登校拒否中年」
 「・・・まだそんなに歳食ってねぇ」
 「まぁ、とにかくだ善は急げだ!」

 あいも変わらずテリーに強引に引き出されるように俺はガンシップに乗り込んだ。すでに馴染みになったパイロットは俺に同情の視線すらよこして来る。モーターに電力が伝わり、プロペラが回転し出すとガンシップはゆっくりと離陸した。
 「おい、何処へ連れていこうってんだ」
 「ん? なぁにいい所さ」
 俺の問いにテリーは何時ものようにはぐらかすと、これまた何時もどおりに女性の裸ピンナップが売りの低俗雑誌を懐から取り出し読み始めた。この男、女性の裸に執着があるかといえばそうではない。こいつが見るのは決まって幸運の腕輪だとか、幸せを呼ぶキーホルダーだとかの広告ページなのだ。それを長い時間、食い入るように見るのだから普通じゃない。

 「で、ここどこよ?」
 「決まってるだろ。俺の故郷、アメリカ帝国ニュートーキョーさ」
 そこは桜が満開だった。



 テリーが日系の血が入っているのは驚きだった。あの日本食へ向ける異常なまでの情熱は、自分の中に流れる日系の血を意識してのことだろう。テリーの先導でニュートーキョー近くの空港からレンタカーでこの街の中心部へやってきた。
 「おい、これって任務だよな」
 渋滞に巻き込まれた俺達は車の中でタバコを吸いながら時間を潰していた。窓をある程度開けているにもかかわらず、車内はかなり煙で充満していた。本当は全開にしたいところだが、夜になるとかなり冷え込むから開けたくは無い。
 「おうさ、れっきとした諜報任務さ」
 「そろそろ詳細を見せろよ」
 俺の言葉にテリーは足元のスーツケースから一つのファイルを取り出し、俺に渡した。俺はタバコをくゆらしながらその書類を流し読みした。今時レトロなペーパーメディアである。これは後の処理が容易なために諜報組織ではよく使うのだ。
 「人身警護ぉ?」
 俺は一通り書類を読んでから声をあげた。
 「そうさ。ボディガード。それがお仕事」
 ハンドルに持たれかかってテリーが言った。運転はこいつの仕事なのだ。
 「そんなの諜報員の仕事じゃねェだろ」
 俺の言葉にテリーは舌を鳴らしながら人差し指を立て左右に振った。
 「とぉころがよ、それがお仕事なわけだ」
 「どういう事だ?」
 「寛和河家の関係者がWWとの業務契約で来るンだ。寛和河家といやぁ、あのMCの会長の家系だ。一族世襲制を嫌いながらも、その一族の多くがMCの重役に食い込んでいるから切れ者ぞろいの一族だ。誰が代表で来るかしらねぇけど、とんでもない食わせ物には違いねェゼ」
 「だからよ、テリー。俺が聞きたいのはどうしてその警護がウチの機士団で、なんで諜報部の仕事なのかってことだよ」
 「それは簡単さね。寛和河家はウチの団長様とプライベートの付き合いあるし、何より対人戦闘経験が豊富なのが全員出払っちまってるからな」
 その言葉に俺は慌てて言い返した。
 「何言ってるよ!俺、銃撃戦は苦手だぞ!」
 その言葉をテリーは豪快に笑い飛ばした。
 「はっはっはっ。何を言ってる。この前、一緒に麻薬組織の拠点を潰したじゃないか」
 「・・・あれは不可抗力だ」

 「いやぁ、わざわざお呼び立てして申し訳ない」
 目の前の糸目のスーツ姿の男は照れくさそうに頭を掻きながら言った。約束のホテルへ長い時間をかけ、やっと出会えた寛和河家の人間。そいつを目にしたとたん、テリーですら引きつった笑いを浮かべた。無論、俺なんか冷や汗をだらだら流した。
 「あのぉ、お供の方は?」
 「まぁ、ああいう堅苦しいのは苦手ですし。ま、ここは一つ」
 と俺の言葉を笑顔でさばき、その男は右手を出した。俺達は顔を見合わせると、一番身なりが社交的(?)っぽいテリーが手を出した。
 「それにしても会長直々に御出でになるとは」
 テリーが引きつった声で言った。そう、寛和河正義。東日本連邦の事実上の管理企業であるマスターズコーポレーション社の会長である。その会長様はその言葉にまたもや照れくさそうに答えた。
 「こう言う取引はトップが出向いたほうが何かと有利に事が運ぶんですよ。それはそうと、商談は三日後です。商談が終わってしまえばそのまま直帰できるんで大丈夫ですが、それまで・・・商談が始まるまでの警護をお願いしますね」
 「判りました。ですが・・・」
 テリーがなれない敬語で喋り出したが、会長様が途中で割って入る。
 「当然、ホテルから出るつもりはありませんよ。一応、この街は帝国内の商業特別地区として我が社に自治権が与えられて入るんですが、どこで私の命を狙ってるか判りませんからね。」
 
 俺達は寛和河が宿泊している部屋に通された。ホテルの1フロア全てが彼専用の部屋になっており、その大半は警備システムで構築されていた。これだけ警備を厳重にしても国機連に工作員が本気を出せばやすやすと無力化されてしまうだろう。これは寧ろ普通の犯罪組織対策と見た方がいい。
 部屋の中はその馬鹿げたほどの広さと比べると普通だった。しかし・・・
 「Oh!畳だ!」
 テリーが歓声を上げた。なんとテレビの前に普通ならソファや椅子を置くものだが、なんとこの部屋には畳が10枚もひいていたのだ。そこには日本古来の米を板状にした焼き菓子と、ペーパーメディアの新聞が転がっていた。
 「あぁ、申し訳ない。ちょっと片付けを怠ると直ぐにこうで」
 と会長様が照れくさそうに言うと、テリーはその会長の手に飛びつき合ったときと同じように手を繋ぐと大きく上下に手を振った。
 「素晴らしい!エクセレント!」
 「はっ、はぁ」
 おいおい、行き成りなんで会長様も驚いてるぞ。 
 「さすが日本の代表!わび・さびを心得てらっしゃる!」
 「はぁ、日本がお好きで」
 「YES!」
 テリーが今度は両手をぶんぶんと振り回し、富士の風景を賛美し、阿蘇の風景を賛美し会長からそれは連邦ではないと突っ込みが入ったのを黙殺し、日本酒を絶賛した。
 「はぁ、日本酒がお好きで」
 「好きなんてモノじゃありません!命です!暖めても、冷やしてもよし!さらにつまみとの組み合わせで味も極上となる!もぅ最高です!」
 「じゃぁ、飲みます?」
 会長様の突然の申し出にテリーは有無を言わせずに顔を上下に振った。

俺は死んだ。ものの見事に死んだ。二日酔いって奴である。ハイペースで酒をあおる二人について行く・・・なんてさらさら考えていなかったが、何故かふつふつと負けて入られないという考えがあり、ふと気が付くと撃沈していた俺がいた。
 畳の上で目覚めると既に昼を当に過ぎていた。まったくいい護衛もいたものである。頬に畳の目がついたらしくムズ痒い。
 寝起きに近くに灰皿が有るのを良い事にタバコを吸うことにする。火をつけ、周りを見渡すとテリーが同じく畳の上で、会長は離れたソファの上で寝ていた。もう一度時計を見て考える。俺が最後に見たのが11時だったから、恐らく俺が撃沈したのが1時くらい。彼らは何時まで飲んだのだ・・・
 タバコが半分ほど灰になると頭も大分クリアになる。あと二日。あと二日この会長を守りきれば依頼は完遂できる。なんとも楽な仕事だ。それだけに俺はしっくりとこなかった。仮にも俺は自宅謹慎中だ。それをキャンセルしてまでの辞令というのは大抵は荒事ややっかいごとなのだ。何かある。
 タバコが根元まで灰になり、灰皿に捨てる。ここまで吸ったなら、もはやこのタバコに未練は無い。新しい一本を取り出しうとしたとき、ふとソファで寝癖のついた髪を手で直そうとしている会長の姿を捕らえた。
 「なっ・・・」
 「あっ、おはようございます」
 会長がやんわりと挨拶した。しかし、俺は挨拶どころではなかった。これでも俺は有名機士団所属の諜報員だ。その諜報員に気配を感じさせないというのは只者ではない。特に寝起きというのは誰でも行動が鈍るものだ。
 「そうそう、昨日テリーと話したんですけど」
 もうそんな仲!?
 「近くに美味い飯屋があるんで今夜のご飯はそこでしましょう」
 「外出するんですか?」
 「なぁに直ぐ近くですし」
 「いや、そういう訳では・・・」
 俺が会長を止めようとしたら、俺の背後で気配を感じた。面倒な奴が目覚めたようだ。
 「いいじゃないか。寛和河も安全って言うんだし」
 ああ!?もうそんなに仲良し!? 

 で、俺達は路地裏を走っていた。いきなりである。前触れもなく、走っているのである。
 俺達は結局ホテルから徒歩一分のレストランへ来たのだ。まぁ、仮にもMCの本拠地代わりにしているホテルの近場に有るところなのだから、例え国機連の工作員でさえ迂闊に手は出せないと踏んでいたのだ。しかし・・・
 「くそぉぉ!ロケット弾打ち込むなんて無茶苦茶だぁ!
 「そうですねぇ」
 テリーが両手を大きく振って走りながら言う言葉に、会長が涼しげに答える。
 「警備の連中は何してたんでしょうか。まったく怠慢ですね」
 アンタ、自分の身を心配しろよ。俺は懐からコルトを抜きながら心で毒づいた。いきなりロケット弾を打ち込んでくるような非常識な奴にこの時代遅れの銃が何処まで通用するかわからないが、無手よりはマシだろう。
 「しかし・・・」
 俺は走りながら会長の様子をうかがった。ロケット弾の飛来に最初に気が付いたのが何を隠そう、この会長なのだ。
 「会長」
 「寛和河でいいですよ」
 「じゃぁ、寛和河。どうして攻撃がわかったんだ?」
 俺は元々遠慮のない男なのだ。
 「ロケットの発炎が見えたんですよ。まぁ、素人の攻撃ですね。プロならもっと離れたところか、死角から撃ってきます」
 寛和河の言葉に俺は頷くしかなかった。こいつ、ただの会社の重役って訳でもなさそうだ。発炎を確認して、そこから素早く店の裏へ駆け出したときの瞬発力。それに瞬時に店内に居た人間に危機を知らせた判断力。いずれも一級品の兵士か工作員のものだ。
 その時、俺は首筋に嫌な感じを受けた。ぱっと目の前のごみ箱の陰へ飛び込む。案の定、頭上からマシンガンの銃声がして俺達が今まで居たところの水溜りの水が跳ねた。俺が僅かに頭を出して後ろの二人を確認すると、二人は近くのわき道に身を隠したようだ。
 もう一度銃声がして、今度は俺の隠れているごみ箱の近くに着弾した。銃声が鳴り止むまで少しの時間、そしてやんだ時に俺は銃声の元を確認した。敵はビルの非常階段からマシンガンを撃って来たようだ。俺は素早く敵に二連射。しかし、この位置からだと非常階段の転落防止の鉄板に阻まれ貫通できなかった。それに気がついた敵は再度俺に向かってマシンガンを撃ってくる。
 「テリー!駄目だ俺の銃じゃ!」
 俺が頭を抱え、小さくなりながら叫んだ。
 「悪い!銃忘れた!」
 なんとも心強いお言葉。と、その時銃声がしドサリと落ちる音がした。俺が恐る恐る顔を出すと、マシンガンを持った男が地面に転がっていた。俺がテリー達が逃げ込んだわき道を見ると、そこから大型拳銃を持った寛和河が出てきた。
 「大丈夫ですか?」
 寛和河が笑顔で聞いてきたので俺は片手を上げて答えた。しかしよく見れば、俺の一張羅のトレンチコートに風穴があいているではないか。それにしても俺が驚くのは寛和河の銃だ。俺の記憶が確かならば、あれはレックスと言う名の11ミリ拳銃ではないか。アレをまともに扱える人間は俺は三人しか知らない。
 「あぁ、こいつは評議会の犬ですね」
 地面に落ちたときに首の骨でも折ったのか絶命している男の顔を座り込んで確認しながら寛和河が言った。その言葉にテリーが驚く。
 「評議会・・・って、もしかして企業連!?」
 「他に評議会があったら聞きたいですね」
 と寛和河が立ち上がりながらズボンの埃を払っていった。俺が聞く。
 「MCと言えば、評議会企業じゃないですか。それがどうして評議会に?」
 「うぅん、アレですよ。あんまり僕って評議会からよく思われてないんですよ。評議会決議の戦争案に拒否権使ったり、企業連より独立しようとしている勢力の独立を幇助したり・・・まぁ、色々ですよ」
 寛和河は何時もの笑みに肩をすくめるしぐさで苦笑を表した。そう言えばそうだ。MCは評議会の中でも、元企業連の植民地同然だった地位から独立を果たしたイルミテッドと同じく『企業連にして反企業連』の姿勢をつらぬいく企業なのだ。それにそのイルミテッド独立戦争の際に非公式なれど援助した企業が何を隠そうMCなのだ。俺は前から気になっていた疑問をこの若き会長にぶつけてみた。
 「だったら何で企業連に所属してるんだ?」
 「企業連は馬です。よく人民の為に働く馬かと思えば、時としてとんでもない暴れ馬となる。その騎手になるためですね。これは一族の方針でもあります」
 「じゃぁ、なんで企業連もあんたらほっぽり出さないんだ?迂闊に評議会なんかに入れておくから問題が起きるのに」
 テリーの言葉に寛和河が答えた。
 「それは我が社が巨大だからですよ。それに我が社の社員の多くが旧戦略自衛隊の関係者ないしはその隊員です。迂闊に野放しにして国機連に回られるよりはVIPで迎えたほうが安全策とでも考えたようですがね。まぁ、その辺りはイルミテッドと同じですよ。もっともあそこの場合は独立戦争なんて直接対決している分、評議会も敵に回られないように必死なんでしょう」
 なるほど、だから企業連の護衛をつけられないわけだ。社内の人間を護衛につけようにも、社の戦力を落とすわけにもいかない。だからイルミテッド独立戦争の影で同じく暗躍した我が機士団へ護衛の依頼をしたのだ。
 「さて、これで安心だな」
 テリーが背伸びをしていった。俺がその理由を尋ねる。
 「単純さ、プロの暗殺者なんて独りで動くものさ。そいつ倒せば後は安心安心」

 全然安心じゃなかった。完全武装の一個小隊が襲ってきたのだ。俺達はホテルにも帰れず、路地裏や下水を逃げ回る羽目になった。途中、食料を確保するためにコンビニで強盗の真似事をする羽目になって警察に追われたり、挙句の果てには武器を調達するためにガンショップに押し入るなどして駆け足で三日が過ぎた。
 俺は今まで色んな最悪な出来事を経験してきたが、この三日が最低だった。一個小隊を倒し、さらに警官隊を振り切り、ガンショップのオヤジに発砲され、生身で軽量型といえBSと戦闘したり。お陰でこの街の港湾部が大分焦土と化したが不可抗力だ。とにかく普通なら百回死んでもおつりが来る。場合によっては小切手で来る。
 しかしテリーが高笑いを上げながらロケットランチャーをぶっ放したり、寛和河があの笑顔のもとに両手に持ったサブマシンガンを乱射したり、俺が二人の無茶苦茶具合にわめき散らしながら国機連と企業連の工作員を蹴り飛ばしたりしてなんとか商談が予定されているビルの近くまでたどり着いた。恐らく企業連側の兵力はさっきのBSで最後だろう。国機連にしても目の前はMCの支社ビルだ。さすがにここでは手を出さないだろう。
 「いやぁ、色々ありましたねぇ」
 と髪がぼさぼさに鳴り、一級の仕立てのスーツもボロボロになった寛和河が笑顔で俺達に言った。常にポーカーフェイスのこの男だが、この三日間で実は熱く、そう暑苦しいくらいの熱い男だと言うのはわかった。11ミリ大型拳銃レックスを片手で扱う熱き男。仲間でこんなに頼もしいものは無い。
 そう、寛和河と俺達の絆は仲間と言うものになっていた。最初のころのよそよそしさはもう無い。それはテリーが自分のトラウマを始めて俺達に告白したと言うのもあるかもしれない。しかし、俺達は今この瞬間は確実に戦友であった。
 「まぁ、それなりには楽しかったよ。な」
 テリーがそう言って俺の肩に手をかけてくる。俺はその言葉に苦笑いをうかべるしかなかったのだ。そう、実に認めたくない事ではあるのだが楽しかったのだ! 路地を走り、警官隊に追われ、銃弾の中を走り抜けてでさえ今では楽しい思い出。戦争狂?戦闘マニア?トラブルメーキング?なんとでも言って欲しい。現に楽しかったのだ。
 楽しいという言葉を使うことをはばかられるのならば、充実していたと言おう。今までのミッションで一番危険で過激だったのにもかかわらず、充実感だけはやたらとあったのだ。
 「まぁ、とりあえず後はアンタをあのビルまで送り届けたら任務完了だ」
 「いやぁ、最初の昼飯がこんな大冒険になるなんて予想外だったですねぇ」
 俺の言葉に寛和河はおっとりと答えた。まったく、いい神経をしている。俺は懐からコルトを抜くと残弾数を数えた。6発。他の武器は全て港で使い果たしてしまった。テリーもそれは同じようで愛用のパイソンの弾も二発しか残っていない。寛和河のレックスは二丁合わせて・・・そう、寛和河は二丁拳銃だったのだ!・・・9発。なんとも心もとない。
 「ビルまで直線で50M・・・何秒でいける?」
 「オリンピック並み・・・と言いたいところですがなんとか善処しましょう」
 「なんとも力強いお言葉だ」
 俺はそう言いながらコルトを握る。
 「俺とテリーが援護するから、アンタは真っ直ぐにビルに走ってくれ」
 「判りました。貴方達もここまで来たら死なないでくださいね」
 その言葉にテリーが風穴のあいたソフトハットのつばを指先で上げながら言った。
 「当然。このテリー様がそうそう死ぬかよ」
 俺達は顔を見合わせると軽く笑いあい。そして、ビルに向かって一斉に走り出した。

  全てが終わってからふと俺は気が付いた。これは愛すべき馬鹿な相棒の物語ではなく。馬鹿な俺達の物語だったんだと。



SPECIAL MISSION SS - 05 セオドア(2)
2002/07/13 掲載