SPECIAL MISSION SS - 07 セオドア(3)

 三日前の事である。ジュリアスで謹慎という名の休暇を楽しんでいた私の前に疫病神が訪れた。
 「おいおい、自宅謹慎なのに外出していいのかよ」
 白いスーツのにやけた疫病神はそう言いながら、俺の前に座るとチャイナドレスのウェイトレス・・・いつかの事件で機士団領に大量に移住した彼女達だ・・・にエスプレッソを注文すると、彼女が去るまでそのお尻を目で追いつづけていた。
 「いいんだよ。自宅に来た電話は全てこっちに回送するようにしてある」
 俺の言葉に疫病神は気障ったらしく鼻先で指を振りながら言った。
 「甘いなぁ。俺にでも簡単に逆探・・・」
 「できて当たり前だ。市販の使ってるからな」
 言葉をさえぎり、コーヒーのおかわりを注文すると俺は手にしてる雑誌に再び目を落とした。地方出版のゴシップネタ中心のくだだらない三流雑誌だ。こういった雑誌は第2次大戦後の日本のカストリ雑誌などに代表されるよう、時として検閲を間逃れた記事が乗っている事が偶にある。もっともそれが湖で怪物発見だの、モハーヴェ砂漠でUMAを発見だったりと姿を変えていたりもするのだが。
 2杯目のコーヒーはエスプレッソと共に届き、俺は口にすると、あることにやっときがついた。
 「珍しいな、今日は無口じゃないか」
 「余裕って奴だな。優越者のみに与えられる特権てとこか」
 ・・・コイツ、やばいやばいとは思っていたがとうとうあっちへ旅だってしまったか。
 「さて、それはいいんだわ。冗談だし」
 「・・・冗談だったのか」
 「あん?」
 「何でもねぇよ」
 俺がコーヒーを飲みながら視線を逸らす。視線の先にはメイド服姿のウェイトレスが目に入る。先ほどのチャイナドレスといい、どんどんこの喫茶が無国籍化して行くのは気のせいだろうか。
 「で、仕事だ」
 「断る」
 我ながら相手に隙を与えぬ絶妙のタイミングだ。
 
 で、俺は東日本連邦にいる。ようは断りきれなかったのだ。ああ、テリーの姑息な手段は腹が立つ。
 「いやぁ、やっぱ日本はいいところだぜ」
 隣の腹が立つ野郎は能天気に車を運転しながら、窓の外を流れる光の群れを目で追いながら言った。今カーステレオからは古いジャパニメーションのテーマソングが流れている。雅楽の次はコレらしい。
 「で、今回はどうすればいいんだよ」
 俺の言葉にテリーはハンドルを音楽に合わせ指で叩きながら答えた。
 「簡単さ。目的の場所でMCの工作員と合流し物資を受領。それを空港へ輸送し、機士団機にて空輸。以上」
「それだけ聞くとすげえ楽そうなんだけどな」
 と俺は胸ポケットから煙草を取り出し口にくわえるが、テリーが指でそれを弾く。口から離れた煙草は無常にも窓の外へ飛び出しハイウェイの後方へ流れていった。
 「あにすんだよ」
 「禁煙」
 とテリーの指差す先には禁煙のステッカーが張ってあった。
 「っちこれだからレンタカーは嫌いなんだ」
 
 「やぁ、また会いましたね」
 俺は待ち合わせ場所のホテルの一室で頭を抱えた。
 「あんたか・・・ってこたぁ、この仕事はヘヴィなんだな」
 俺の言葉に寛和河は嬉しそうに頷く。何故だ。
 「よぉう、久しぶりだなぁ。此間送ってもらった酒、なかなか美味かったぜ」
 テリーが寛和河に握手を求めると、寛和河はそれに応じると見せかけて・・・がっしりと抱き合った。そして二人はお互いに背中を叩き合う。アンタ達、何時のまにそんな関係になったんだ。
 「いやぁ、気に入ってもらえたようですね。苦労したんですよ、青森の方までわざわざ出かけて買ってきたんですよ」
 「そぉかそぉか、そりゃぁ道理で。あの辛味の効いた奴なんかはウチの近海で釣れる魚に良く合ってなぁ」
 「それはそれは。是非ともこっちに送ってくださいな。いやいや、どうせなら私がそっちに出向きましょう。夜釣りしながら、月を見つつ一献。そして釣れたらその魚をつまみながらの一献。いやぁ、格別ですねぇ」
 「おう、それは言い考えだ。あっはっはっは」
 私は想像する。片や浅黒肌で筋肉質の全身白スーツ人間、もう片やは糸目の上質なスーツを着た優男。その二人が防波堤に並び釣り糸をたらしている姿。冗談にしては上等だ。
 「あぁ、とりあえずちょっとまってくれよ。積もる話は別の機会に頼むよ」
 俺が髪をぼりぼりと掻きながら言うと二人はおおうと、今気がついたような反応を返す。
 「でだ、貰うモンはそれか?」
 俺が顎で指す先には大きめのジェラルミンケースがあった。ダイヤル式のロックにさらにご丁寧なまでにテープによる封印までしてある。これでは持ち運ぶのに困ってしまうな。
 「テープは剥がすと不味いのかい?」
 「ん、別に悪くはないと思うんですが、そのテープは封印としての役目以外に機密性をあげる役目を持ってるんで・・・やっぱ不味いでしょうねぇ」
 寛和河は肩をすくめながら言った。
 「機密性?なんかヤバい物なのか?」
 「いや、これが人間に危害を加えるというわけでもないんですがね」
 テリーの言葉に寛和河が言葉を濁す。まぁ、中身がナンであれそれを持ち帰ったらミッションコンプ。またゆっくりと謹慎生活がエンジョイできるってわけだ。

 俺達はレンタカーに荷物を載せるとハイウェイに乗った。ハイウェイが完全に安全というわけではないが、物を守りつつ目標まで移動と言う事ならこっちのほうがいい。で、相変わらずハンドルを握っているのはテリーで、俺はナビ。そして何故か後部席にはにやけ顔の寛和河だ。
 「なぁ、なんでアンタまでついて来るんだ」
 「護衛対象に対しての護衛は多い方が良いでしょう」
 と寛和河がにやけた顔で答える。俺はその顔をじっと見つめ、こういう顔もポーカーフェイスと言うのだろうかと思ってしまった。
 俺がため息をつき、席に座り直すと煙草を取り出し口にくわえた。するとテリーがまたしても指で弾き、哀れなる煙草はまたしてもハイウェイの向こうへ・・・その時、俺はバックミラーに注意が引かれた。
 「おい」
 俺の言葉にテリーもミラーを見る。
 「なぁ、アンタの国じゃぁハイウェイは無灯運転が主流かい?」
 「まさか。安全運転が一番ですよ」
 寛和河がそう返すと俺を含めた3人はそれぞれ銃をとりだした。俺はミラーから目を離さないで、後方の車両に注意を払いつづける。後ろから接近しているのは黒塗りMC社製のランドクルーザー、ジュピトリスだ。馬力や頑丈さではただのレンタカーの同社製のファミリーカー、プリスタを遥かに上回る。
 「銃撃戦ならなんとか・・・」
 寛和河の危惧はもっともだ。銃撃戦なら寛和河やテリーに巻かせておけば良いだろうが、もし相手が車両ごとぶつけてくればこちらはただでは済まないだろう。いや、そうすると相手は物資の強奪が任務だろうから、荷物を危険にさらすようなことは・・・そうか、荷物は頑丈に守られているのだった。まったく・・・
 「どうして力仕事しか来ないんだ」
 マガジンの弾数を数えながらもらす。テリーが何か言ったかと効き返すが黙殺する。マガジンがフルリロードであることを確認すると、ポケットから弾丸を一発取り出し銃のチャンバーに装填してからマガジンを挿入する。そしてそのままセーフティをかける。これでセーフティを下ろしたら何時でもいける。
 俺のこだわりは何と言ってもシンプルなオートマチックだ。リボルバーは打撃力は高いのだが、いかんせん汎用性がない。まぁ、テリーのように幾つものリボルバーを常時携帯するなら話は別だろうが、俺はそんな重い事はしたくない。
 するとやはりオートマチックになるわけだが、複雑な機構は頂けない。簡単に分解できて、かつ簡単に組み立てができるのが一番いい。その点、私の使っているコルトは最高だ。分解整備が容易で、オリジナルを含めリメイクなどのパーツは無数にありガンショプヘ行けば必ず手に入る。個性が無い分使い勝手が良いのが気に入っている。
 「・・・んあ?」
 ミラーから突然車が消える。いや、ミラーが消えたのだ。後ろからの銃撃でミラーが飛ばされた。俺は銃を後ろに向けて三度トリガーを引く。
 「撃って来やがったぞ!」
 テリーはハンドル片手にろくすっぽ狙いもつけずに後ろに向かって青塗りのリボルバーを乱射する。たしか青塗りのリボルバーはG−09、ショットシェルを使用できるハンドガンだ。
 「いやぁ、さすが我が社の製品。頑丈ですねぇ」
 寛和河が笑顔でいう。思わずこの顔面に弾丸を叩きこんでやろうかと思った。
 「でも、たしか正面は頑丈ですが、後のバックガラスが大きいですよ」
 「おっしゃぁ!」
 テリーはブレーキを一気に踏みこむ。急制動によるGが俺をシートに押し付ける。そして視界が右から左へとくるくる回る。おそらく後ろの奴が撃った弾丸でスリップしているのだ。・・・スリップ?
 「うわぁぁぁぁ!?」
 「わっはっはっは!楽しいなぁ」
 「いやぁ、安定性に問題がありますねぇ。この車」
 てんでバラバラに口にしながら車はジュピトリスの後方へ流れていく。そしてテリーのどりゃぁぁあという気合と共にフロントをジュピトリスの後方へつけてぴたりと止まる。その時にまた横のGが俺を襲い、シートベルトに拘束された俺の体を左右に揺さぶる。
 「Yeah!Show Down!」
 テリーがさも楽しそうに赤色のリボルバーを取りだし撃つ。赤色・・・あかいろぉ!
 「グレネードぉ!?」
 テリーがまた急ブレーキをかけ、ジュピトリスとの車間はまた大きく開くそして、ジュピトリスが弾けた。

 空港で楽しかったと謳う寛和河を張り倒しそうになった衝動を押さえ、俺達は傭兵島へ帰還した。荷物は機士団領で待機していた小猫隊長に渡し、俺達はその場で別の任務を言い渡されるのだがそれはまた別の話し。

 「いやぁ、役に立って嬉しいですよ。なんせ新型の保護液はうちの虎の子ですからね」
 「ああ、今のところ演習においては何ら問題は無い。すくなくとも5℃から40℃の間においての純度調整が省略できるのは大きい。ただ、隊員の言う事には反応が多少鈍るらしい。そんなに大きく作用するわけではないらしいが、ほんとに微小な値での差が出るらしい。」
 「おや、団長のご意見は?」
 「俺は明日からの演習に参加する」
 「そうですか。まぁ、おそらくは液の粘度が硬くなった事によるひっかかりでしょう」
 「まぁな。俺もそう思う。じゃ、明日にまた連絡する」
 「ああ、それじゃよろしく頼みますよ」



SPECIAL MISSION SS - 07 セオドア(3)
2003/02/21 掲載