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佐伯たちと別れ、立花は一人ビリヤード場を出た。長話をしたため、日はとうに高くなっていたが、夏の凶暴さを潜めた日差しはどこまでも穏やかで、通りを行き交う車や人の数も少ない。日陰では猫があくびをし、爽やかな風が通りを吹き抜けていく。 | |
| DM | 立花はそのまま信明寺にもどるの? 寄り道とかは? |
|---|---|
| 立花 | しない。そのまま帰る。 |
| DM | では、しばらく歩いて行くと、遠くの方でキキキキキキィッという不穏な音が聞こえる。どうやら、車のブレーキ音のような。(笑) |
| 立花 | はぁ?? |
| まりあ | うわぁ、煙が上がっている。 |
| 神崎 | こ、この下手くそさは……(笑) |
| 立花 | ねぇ、その音、どっちから聞こえて来るの? |
| DM | どうやら、あなたの背後からのようだ。(一同爆笑) |
| 立花 | さっと、電柱の陰に隠れる。 |
| DM | 真紅のフェラーリが風を巻き上げて君の横を擦り抜けて行く。本当は君の隣で、ききっと停止したかったようだが…… |
| 神崎 | 行き過ぎたのか? |
| DM | そう。(笑) ブレーキのタイミングが悪かったみたいで、10メートル程さきまで行ってからようやく停車するね。で、ゆっくりバックで戻って来る。(一同爆笑) |
| まりあ・紫 | かっこいいーっ。(笑) |
| 立花 | 心の中で、かっこわるすぎると思っています。 |
| DM | 立花の前で車を停めると、ドライバーが声をかけて来る。 |
| ドライバー | (爽やかに)「やあ、偶然だね」 |
| 立花 | どこが!!(笑) |
| DM | もうみんな正体は分かってるとは思うけど、彼はシオンホテルで会ったことのある、田村と名乗った若い男ですね。 |
| 田村 | 「あれから全然来てくれなかったから、寂しかったよ」 |
| 立花 | どこに? |
| 田村 | 「勿論、シオンホテルに」 |
| 立花 | …………。 |
| 田村 | (ドアから身を乗り出して)「これから一緒にドライブに行こうよ」 |
| まりあ | こわい! 命運がいくつあっても足りない。(笑) |
| 立花 | ……もうちょっと運転がうまくなってから誘ってください。(笑) |
| 田村 | 「キミが望むところならどこでも連れて行ってあげよう。地獄であろうと、お供するよ」(にっこり) |
| 立花 | (吹雪の声で)やめとくわ。 |
| まりあ | 立花って、いろんな人にモテてるよなぁ。 |
| 立花 | 全部ロクなやつらじゃないんだけどね。(一同爆笑) このまま無視していっちゃおうか。 |
| 田村 | 「ところで……おじさんは見付かったのかい?」 |
| 立花 | ………………! |
| 紫 | あ、立花が凍ってる。(笑) |
| 立花 | 今、ナイフでも持ってたら、首筋につきつけてたかもしれない。(笑) とりあえず、黙ってる。 |
| 田村 | 「俺はキミのことなら、なんでも知ってるよ。綾津立花さん」 |
| 立花 | ふーん。じゃあ、國何さんが、どこにいるのか教えて欲しいな。 |
| 田村 | 「教えてあげたいのは山々なんだけど……その前にドライブに行こうよ」 |
| 立花 | 遠慮しとくわ。 |
| 田村 | 「綾津國何……君の叔父。そして、鳳凰会の幹部だった男、か」 |
| 立花 | 鳳凰会? |
| 田村 | 「非凡な才能を持った浅井貴之という人物をリーダーとして結成された思想集団の名前だよ。会員たちは『生命』を世間の認識よりも、より高度な次元でとらえ、神がさだめた『人間のあるべき姿』へ成長することを目的として活動している。ま、生きるということについて同じ考え方を持つ人達の集まりだと思ってもらえればいいかな。キミの叔父さんである綾津國何さんも、鳳凰会のメンバーだったんだよ」 |
| 立花 | ふぅん。「で、あなたはそこの人なの?」 |
| 田村 | 「うん。とは言うものの、俺なんか会では全然下の階級だから、高位の修行者だった綾津さんと話す機会はほとんどなかったけどね。だけどさ、ホテルでキミが綾津って名乗っただろう? 珍しい名前だったから、もしかしてと思って調べてみたんだ。キミ、あの人の姪なんだよね?」 |
| 立花 | そうだけど。おじさんが、そんなところに入っていたなんて、聞いたこともなかったわ。いつごろ、國何さんはそこに入ったの? |
| DM | 半年前。國何さんが、死んだ後ですね。 |
| 神崎 | なんか、立花の叔父さんって、死んだ後からのほうがいろいろ活躍しているような。(一同爆笑) |
| 立花 | 違うでしょ!(笑) 「でも、半年前に入ったばかりなのに、そんなに高位にまで昇進できるものなの?」 |
| 田村 | 「あの人は特別だったみたいだよ。浅井さんのお気にいりだったし」 |
| 紫 | 確かにあの人は変わってるよね。(笑) |
| 立花 | (険悪な声で)浅井さんのお気にいりぃ? 「じゃあ、久我山さんも、そこに入っていたの?」 |
| 田村 | 「久我山さん? ああ、たしかに久我山太夫さんなら、ウチのメンバーだけど……どうして君が彼を知っているんだ?」 |
| 立花 | それは勿論、叔父さんの親友だったんだもの。 |
| 田村 | 「そうなのか? 会の中では、それほど親しくないように見えたけどね。どちらかというと、仲は良くなかったんじゃないかな」 |
| 立花 | ……。 |
| 田村 | 「そばにいても、お互い無視しあっているような風だったよ。久我山さんは気さくな性格で若いメンバーにも人気があったけれど、浅井さんの側近だった綾津さんは、いかにも雲の上の人って感じで、親友みたいな人はいなかったんじゃないかな? リーダーの浅井さんが亡くなってから、結構組織内がゴチャついててね。綾津さんも、急に行方不明になったってウワサだし」 |
| 立花 | それは、いつからなの? |
| 田村 | 「1月ぐらいほど前からって、聞いたけどね」 |
| 立花 | あなたは今どうしてるの? |
| 田村 | 「鳳凰会は今、二つの派閥に別れ、メンバーはそのどちらかに所属している。1つは、浅井さんの遺志を継いで、これまでどおりの形式でやって行こうという保守派。もう一つは、鳳凰会という大きくなり過ぎた組織を、もっと計画的に運営していくべきだとする革新派だ」 |
| 立花 | はぁ。 |
| 田村 | 「組織が大きくなるということは、それだけ多くの人を満足させ、うごかしていかなきゃならない。旧来どおりのやりかたでは、いずれ破綻が起きる。スポンサーたる企業サイドとも関係を結び直し、もっと内部機構の合理化をすすめるべきなんだ。企業におけるリストラと同じだよ」 |
| 立花 | あなたは、革新派なのね。 |
| 神崎 | それっぽいな。 |
| 紫 | 奈良さんは、保守派と見た。 |
| 神崎 | それっぽいよな。(笑) |
| 立花 | 田村さん、私、あなたがつけているのと同じバッヂ、楠木奈良さんっていう人がつけていたのを見たことがあるの? 奈良さんとは、知り合いなの? |
| 田村 | 「ああ、楠木さんね。あの人は、俺の会社の先輩だ」 |
| 立花 | 先輩? じゃあ、革新派と結び付いている企業って、あなたの会社なの? |
| 田村 | 「平たく言えば、元々、鳳凰会は俺達の会社−クレハコーポレーションを母体として発足した組織なんだ。設立者の浅井さんは元々クレハの社員だったし、スターティングメンバーも全員クレハの人間だった。時間がたち、そういった発足メンバーの会社内での地位が上がって行く。出世の野心に燃える社員の中には、上司にとりいる手段のひとつとして入会する奴もいるくらいだ。いまじゃ、クレハ社内で石を投げたら、会員にあたるほどに増えているんじゃないかな」 |
| 一同 | ううーん。(考えこむ) |
| 立花 | でも、鳳凰会ってつぶれたんじゃなかったの? |
| 田村 | 「まぁ、一部でちょっとゴタつてるけど、組織自体は何の問題もなく運営出来る。だからさ、立花さん−君も鳳凰会に入らないか?」 |
| 紫 | いきなり勧誘モードに入った。(笑) |
| 立花 | あたし、宗教は信じないタイプだから。(笑) |
| 真藤 | そんな人がなんで『オカルトの知識』に興味があるんだよ。(一同爆笑) |
| 紫 | 後ろに守護天使とか背負ってるし。(笑) |
| 立花 | ほほほほほ……それはヒミツよ。 |
| 田村 | 「ウチの派閥にも、ずっと昔からこの会に参加していて、内情にくわしい古参の先輩がいる。入会して、そういう人と親しくなれば、キミの大切な叔父さんのことをもっと深く知ることができると思うんだけどな」 |
| 立花 | それでも、あたしは新参者になるわけでしょ。だったら、あなたからじかに聞いた方が、ずっと手っ取り早いわよね。 |
| 紫 | 今、むっちゃヤバいセリフ言ったんじゃない? あたしが彼だったら、「そうか、じゃあ今夜ゆっくり教えてあげるよ」って言ったと思う。(一同爆笑) |
| 立花 | はははは!(笑ってていいのか?) なんかユカちゃんが、段々大人になってくなー。(笑) |
| 田村 | 「だからさ、俺は、会の中では全然末端の末端にいるんだって。そうだな……もっとお互いのことを知るためにも、明日デートしない?」(笑) |
| 立花 | いや。 |
| 外の4人 | おおっ、あっさりフったなー。(笑) |
| 立花 | 「好みじゃないから」(きっぱり) |
| 田村 | 「残念だな。でも、デートの目的地はキミの好みに合うかもしれないよ」 |
| 立花 | どこ? |
| 田村 | 「鳳凰会の中でも超過激派のアブナイ連中の根城 」 |
| 立花 | ……。(溜息)「そんなところに連れて行かれて喜ぶと思う? 神経疑うわ」 |
| まりあ | グループデートということで、みんなで行くとか。 |
| 立花 | それも、ちょっと考えたんだけどね。「アジトでデートねぇ……もうちょっと、粋な所に誘ってくれたんだったらいいけど」(笑) |
| 田村 | 「とっても、スリリングな一時になると思うんだけどな。そこらの遊園地よりも、ずっと楽しめる」 |
| 真藤 | 遊園地? あそこのことじゃないのかな? |
| 紫 | (6話で出て来た)後楽園のコト? でも、今は関係ないんじゃない。 |
| 立花 | 大体、立花本人が、そんなの覚えてるわけあるまい。(笑)「スリリング、ね。ふぅーん。仲間も一緒に行ってもいいのなら、いいけど」 |
| 田村 | 「仲間ぁ? デートってのは二人きりでするもんだろう」 |
| 立花 | 「だって、そんなに危ない所に行くんだったら、味方が多いほうがいいじゃない。ほら、グループ交際というやつ」(笑) |
| 紫 | ウチら、高校生か?(笑) |
| 田村 | 「俺はキミに大人のつきあいを望んでるんだよ」 |
| 立花 | 「あなたみたいな人と、二人きりだなんて、とっても危ないと思うの」(笑) |
| 田村 | 「君は自分で自分の身を守るくらいの力はもってるように見受けられるんだが……それだけ美しければ、狼の牙を退ける術も自然と身につくものだろう」 |
| 立花 | 命運消費してストラス召喚したろか。(一同爆笑) |
| 田村 | きゃー。(笑) |
| 立花 | まぁ、今回は遠慮しときましょ。 |
| 田村 | 「そっか、残念だ。次に会うときは、君の気が変わってることを祈ってる」 |
| DM | では、ボボボボボ……キキキキキィィーッと、彼は去って行く。遠くの方では「きゃー」という悲鳴も聞こえるような。(笑) |
| 立花 | あ、名刺貰おうと思ってたのに……。あれだけ、口説いておきながら。連絡取りたい時はどうすればいいのよ、バカッ。 |
| DM | あやや、ホントだ。(笑) あげるつもりだったのに、会話が楽しすぎて忘れてたわ。まぁ、仕方ない、このままいこう。 |