SHIN-DigitalDevilStoryTRPG― "AWAKEN"


訪問者

 七山市郊外にあるそのバーは、町の名物でもあるイチョウ並木に面した、閑静な住宅地の一角にあった。
 ころは8月の初旬。日が沈んでもなお、日中のほてりをのこした夜気がゆらめく中に、鮮やかなブルーのネオンが輝く。

『Harbest Moon』

 入り口の曇りガラスには、箒にまたがり得意げに月夜をかける魔女の姿が浮き彫りにされている。
 そのいびつで分かりにくく、そして少し不気味な物語りは、このバーから始まった・・・

 時間は少し戻る。
 その日、柿崎れもんは仕事の区切りがついた所で、終業のベルを聞いた。

れもん ふぅ、やっと5時だぁ。今日も元気に定時で会社を脱出しちゃおう。
DM  席を立ちかけようとする君に向かって「柿崎君、定時後にすまんのだが、この書類の修正をお願いしたいのだが・・・」と上司が声をかけてくるけど。
れもん 課長、ごめんなさい。それは彼にやってもらってください、と言って、隣の席の同僚に押し付けて逃げちゃいます。(笑)
一同  ご、極悪なやつ・・・
れもん だって、若い娘が会社にくぎづけになってるなんて、お肌にもよくないもんね。同僚には「ゴメンネ〜」と手を合わせてあやまってから、会社を飛び出しちゃいます。行き先はもちろん、行きつけのハーベストムーン。
DM  さすがにその時間だと、君が一番乗りです。店の中にはビートルズのイエローサブマリンが聞こえるか聞こえないか程度の音量で流れている。カウンターの向こう側からは、日に焼けたごつい体格のチーフが「いらっしゃい、久しぶりじゃないか」と白い歯を見せて笑いかけてくるね。
れもん あれ、そうだっけ? ごぶさたしてたんだ、わたし。「じゃ、早速、ジンジャーエールをひとつ」
DM  ノンアルコールでいいの?
れもん さすがにまだ外は明るいし。(苦笑)
DM  チーフは手際よく、檸檬の輪切りを浮かべたジンジャーエールに、つきだしのナッツをそえて出してくれる。そのとき、入り口のドアベルがからん、と鳴って二人連れの客が入ってくる。
れもん うん?(振り返る)
DM  夏だというのに黒っぽいシンプルな服に身を包んだ40代前半くらいの男性と、それより少し若い女性だ。男性の方はチーフと顔見知りのようで、彼と、先客のれもんに向かって軽く会釈するね。
DM/チーフ (軽くほほ笑みながら)「おや、神父さんじゃないですか。こちらにいらっしゃっるなんて珍しいですね」
れもん ええっ、神父さん? そういわれたら、確かにここの店の雰囲気から浮いてるよね。(笑) 思わず視線がくぎづけになっちゃうかも。
DM  神父と呼ばれた男性は少し落ち着かないようにしながら、チーフの方に向かって「こちらに大桃さんとおっしゃる方が出入りされていると伺ってきたのですが」とたずねてくる。
れもん 大桃さん・・って、モモちゃんのことですよね。ちょっと様子を見てます。
チーフ 「今日はまだ見ていませんよね、柿崎さん」
れもん (肩をすくめて)もうすぐ、みんなと一緒に来ます。彼に用事があるなら、神父さんもここで待っていれば会えると思いますよ。
DM  男性は「そうですか・・・。では、すこし待たせていただきます」といって、連れの女性を伴って、奥のボックス席の方へ移動する。女性は疲れ切った表情でふらふらと男につきしたがっていくね。
れもん (カウンターから見送りながら)なんか、深刻そうな話みたいですね。モモちゃん、ちょっと携帯で呼び出してみましょう。
DM  では、大桃君。君は仕事がひけて、旧友と飲みに行こうと、晴信の道場を訪れている。
大桃  久しぶりにみんなにあえるなぁ。おや? ケータイが鳴っとるやんけ。
晴信  どうでもいいけど、水戸黄門の着メロは恥ずかしいから変えろよ。
大桃  (無視して)「はい、もしもしぃ? おっ、れもんちゃんやないかぁ。今、あっきーといっしょにハーベストに向かおうと思っとったところや」
れもん まだ、何にも話してないのに。(笑) 「こっちにモモちゃんをたずねて、神父さんが来てるんだよ」
大桃  「神父? 神父には知り合いはおらんで」
れもん でも、神父さんはモモちゃんに深刻な用事があるみたい。(少し声を潜めて)もしかして、何かやばいことに足突っ込んでるの? とにかく、早く来てくださいね。ぷちっ。
大桃  切られた・・・れもんちゃんっておとなしそうに見えて、結構強引な所あるよなぁ。
晴信  (マイペースに)うん? 足がきたようだぞ。
桜   だれが足だ!(笑) 遠足ならともかく、バーに行くのに男二人バスに乗るのはいやだろうと思って、せっかく愛車で迎えに来てあげたのに。ところで、モモちゃんてば、何を携帯を握り締めて立ちすくんでるの?
大桃  うるうる・・・桜ちゃぁぁん。
桜   コラコラ、モモちゃんてば、どさくさにまぎれて抱き着こうとするんじゃないの。
晴信  周防・・・・腹が立つのは分かるが、こめかみをグリグリするのは勘弁してやれ。急所のひとつだからな。
桜   ほほほほ・・・。で、何があったの?
大桃  (頭を押さえてうずくまりながら)れもんちゃんが、れもんちゃんが、俺がなんかヤバい事してたって言うねん。
桜   やばいこと・・・やってたの?(ギワクのまなざし)
晴信  ・・・・。(静かに大桃から一歩距離を置く)
大桃  やってねぇってば! ちくしょー、こうなったらとっとと、れもんちゃんに会って身の潔白を晴らしてやる。
 そのころれもんは、ちゃっかり神父たちのボックス席にうつっていた。

れもん 電話もつながったし、もう間もなく来ると思いますよ。
神父  「お手数をおかけします。お知り合いの方がいらして助かりました。実は大桃さんには火急のお願いがありましたもので」
れもん 火急のお願い、ですか。
DM  神父の隣に座っている女性は、ひざの上で堅く手を握ってうつむいている。昔は美人だった面影があるが、今はすっかり疲れ切っている様子だ。
れもん 何があったんだろう・・・。
DM  そこで再びバーのドアベルが鳴ります。
晴信  よう、久しぶり。
れもん あ、みんな、思ったより早かったですね。ところで、モモちゃんの姿が見えないけれど、どうしたの?
晴信  周防の運転に酔って、外で吐いてるだけだよ。いつものことだ。
桜   (悪びれる風もなく)ちょっと制限速度の20キロオーバーで走っただけなのにねぇ。
DM  こらこら、捕まるぞ。
大桃  (青い顔で)このビニールもって店の中に入ったら怒られるかな。
桜   やめなさいって。
れもん 神父様、あまり紹介したくないのですが(笑)、あれがモモちゃんです。
神父  「そ、そうですか・・・」
大桃  うう、チーフぅ、水を一杯ください・・・
れもん モモちゃん、あのね・・・
大桃  (ごくごくと水を飲みほして)う、トイレぇぇぇ!
れもん ・・・・・。
桜   も、アレはほって話を進めましょう。
晴信  待て待て、一応この人たちはアレに用件があるようだし。
 10分後、げっそりとやつれた「アレ」こと大桃がようやくトイレから出て来た。

DM  神父さんはちょっと心配そうに抜け殻状態の大桃をみながらも、静かに口を開いた。
神父  「わたしは新星と申します。この度は、七山市立総合病院の六道先生に大桃さんのことをご紹介いただきまして、こうしてうかがったものです」
大桃  六道のオヤジか・・・
れもん モモちゃん、知り合い?
大桃  知り合いというか・・・まぁ、お客さんや。あの病院にはオレの会社の薬も納品してるしな。
桜   何か歯切れが悪いわね。ほんとにそれだけ?
大桃  それだけやって! で、新星さん、その用件ちゅうのを手短にお願いできますか?
新星神父 「お楽しみの場に押しかけておいて何なのですが、大桃さん以外の方にもお話ししてよいか・・・その、ちょっと普通の方には信じていただきにくい話なので」
大桃  ???
新星神父 「その・・・超常現象とかいう類いの・・・」
大桃以外の三人 げ・・?(イヤな予感)
大桃  (のほほんと)あー、ここにいるのは俺の[裏]の仲間やし、気にしんといてください。
晴信  ちょっと待て。その[裏]ってなんだ?(笑)
桜   深刻な話なんだったら、モモちゃん一人で聞いたほうがよくない?
れもん なんだったら、わたしたちカウンターで飲んでるし。
大桃  (逃すか!)いやいや、別に問題ないやろ。で、神父さん、超常現象がどうしたんや? と、その前になんでそーゆー話が俺の所にフられてきたんやろ。
新星神父 「六道先生いわく、こう言った件の処理に関しては大桃さんの右に出る人はいないということでしたので・・・」
大桃  う、そういう信頼しきった目で言われたら弱いんやな、俺。(笑) ともかく、ここにいるのは古い友達でみんな口も堅い奴らばかりです。一緒に話を聞かせてもらえませんか?
桜   モモちゃんに信頼できる仲間と言われるのはちょっとイヤかもしれないけど・・
れもん こんなに困っている感じの人をさらに傷つけるようなことはしないよね。(桜 とうなずきあう)
新星神父 「超常現象、と言う言葉を聞いたとき、皆さんの顔付きが変わりました。あなたがたも、[彼ら]の存在を知っている方々のようですね」
晴信  俺たちも昔、実際に見たから。あいつらの姿を。
れもん 神父さんのお話、信じます。
新星神父 「ありがたいことです。それでは、早速本題に入らせていただきます。こちらの方は篠宮さんとおっしゃいまして、高校生になる娘さんがいらっしゃいます。その娘さんが三カ月前から七山市立総合病院に入院しているのですが、娘さんの周囲で「常識では説明のつかないこと」がしばしばおこるのです」
一同  「常識で説明のつかないこと」?
篠宮と呼ばれた女性 (目を伏せる)
桜   具体的にどんなことが起こるんですか?
新星神父 「例えば・・・だれも触れていないものがいつの間にか移動していたり、棚の上の水差しが突然砕けたり、地震でもないのに家具が振動したり・・・・」
桜   ガラス窓にひびが入ったり、ぱんぱんとかいう音がしたりとか。(笑)
DM  神父は「ど、どうしてそれを」と驚いているよ。(一同苦笑)神父の話によるとそういうことが続いたために、篠宮さんの娘は個室に隔離されているそうだ。思い詰めた篠宮夫人は娘に悪霊が取りついている、と新星神父にお祓いを依頼したのだが、神父の手には負えない。そうして困っていたところに、患者の主治医である六道医師から「こういったことにうってつけの人材がいる」と大桃君のことを紹介されたそうな。
大桃以外の三人 なぁ〜るほど、そういうことだったんだ。
れもん モモちゃんってそういう人だったんだ。
桜   知らなかったわ、モモちゃん。(笑)
大桃  ちょっとまて〜い!!「し、神父さん、オレ、そういうことは・・」(ちょっと逃げ腰)
DM  ちなみに神父と篠宮さんは大桃君の方をすがるような目で見ているよ。
れもん モモちゃん、困っている人には力になってあげないとダメだよ。
桜   そうよぉ、男でしょ。
晴信  うむうむ。(何度もうなずく)
大桃  こ、こいつら〜。ええい! わかったわい。やったろーやないかぁ。「てなわけで神父さん、このヤマ、俺らにまかしてください!」
桜   あれ、今、モモちゃん俺「ら」って言わなかった?
晴信  言った。まぁ、この状況じゃ、しょうがないよな。
DM  神父はもう一度礼を述べた後、一枚の写真を取り出す。そこにはそこらのアイドル顔負けの美少女が写っているね。
大桃  おおっ、かわいいっ。(目がハートマーク)
桜   こら、どう見ても高校生くらいじゃない。これが娘さんなのかな?
篠宮夫人 「ええ・・・名前は篠宮鈴子(しのみや・すずこ)といいます」
晴信  ところで、入院しているという話ですが、よかったら理由を聞きたいのですが?
篠宮夫人 「学校のクラブ活動中の実験で事故がありまして、それに巻き込まれたのです」
桜   実験・・・ってなにの実験ですか?
篠宮夫人 「詳しいところはよく分からないのですが、警察の話ですと一人で化学室に遅くまで残っていた時に、備え付けのガスボンベが引火して爆発したようです。幸い外傷はたいしたことはなかったのですが、そのショックで娘は今も意識を失ったまま・・・」
晴信  意識が回復していないのか。
桜   それにしても妙だわね。普通、そういう実験をする場合、必ず教師が立ち会うはずでしょう?
DM  篠宮夫人の話によると、爆発音を聞いた人間が駆けつけたとき、事故現場には鈴子さん一人が倒れていたそうだ。
桜   教師は鈴子さんが残っていたのを知らなかったのかしら? そもそも鈴子さんは化学部に所属していたのかな?
大桃  ま、明日はデートの予定もないし、病院にいってみるかぁ!
桜   (気をそらされて)あら、モモちゃん、恋人なんていたの?
れもん (しみじみと)知らなかったなぁ。(一同爆笑)
大桃  なぜ???? なぜ、ここウケるんだろ?
桜   さてと、まず学校に行くべきかな?
大桃  とは言っても、今日はもうおそいなぁ。とにかく、明日みんなで・・・
晴信  ちょっとまて。いつから、俺たちも一緒に行動することになったんだ?
大桃  そ、そんな、ツレないこといわんといてぇな、長年の友達やろ〜??
桜   長年の友達だからこそ、わたしたちの性格はわかってるでしょ?
れもん とりあえず今夜の飲み代はモモちゃん持ちね。(笑)
大桃  しくしくしくしく・・・・・・
 落涙している大桃君に向かって、篠宮夫人がおずおずと茶封筒を差し出してきた。

篠宮夫人 (消え入りそうな声で)「ほんの気持ちですが・・・」
大桃  うっ。ここまで気の毒そうな人からは報酬とか受け取りにくいよなぁ。「オレたち、ちょっと様子を見るくらいやし・・・気ぃつかわんといてください」
篠宮夫人 「わたしは母親なのに、あの子に何もしてやることができません・・・どうかお願いします。娘を助けてください」
 夫人は何度も何度も深々と頭を下げ、神父に伴われてハーベストムーンを去ったのは夜半を回ったころだった。

大桃  ふぅ・・・ま、なんにしても今日はとりあえず飲みなおそか。
他三名 『ごちそうさま、モモちゃん!』
大桃  おまえら・・・ちょっとは遠慮せんかい! あ、ちなみに鈴子ちゃんの写真は俺があずかっとくで。(ごそごそと懐にしまい込む)
桜   くれぐれも悪用しないよーに。(笑)
DM  まあ、そんな感じで金曜日の夜は更けていきます。





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