静寂を取り戻した部屋の中で、力を使い果たして昏倒していた紫が目を覚まし、身動きが取れない比呂を立花が支え起こした。ほかのメンバーも疲れ切った表情で、床に座り込み、荒い息をついている。
文字どおり、満身創痍の状態である。
しかし、今度も生き延びることができた‥‥
立花 どうでもいいから、下に行きたい‥‥
紫 立花、いっちゃえ。ドーン。
神崎 こっちは、黄さんに近付く。「‥‥生きてたのか?」
紫 「そうだ! 黄さん、黄さん、黄さーん!」(抱き着いて、うるうる)
黄 「あぁ? な、なんだぁ?」(ちょっとびっくり)
真藤 「よかったぁ、また黄さんの炒飯がくえる」
神崎 なんだかなぁ。(笑) まあ、立花についていこう。
立花 その前に。黄さんの話を聞かなくてもいいの?
真藤 「そうか。黄さんは、どうして‥‥」
黄 「アヤツという男に連れて来られた」
立花 「‥‥」
真藤 「じゃあ、奴らに拉致されたんですか?」
DM 彼は自分の意志で来たと告げる。
紫 ひどい目に合わされて、無理にさらわれたんじゃなかったのか‥‥「良かった、無事で」
黄 「俺が死ぬわけないだろうが」
紫 「黄さーん!」(又抱き着く)
神崎 「まぁ、そうだろうとは思ってたけれど」(笑)
立花 (耐え切れなくなったように)「國何おじさん!」
神崎 「次は、こっちを解決しないとな」
階段をかけおりた立花は、まだひらいていなかった奥の部屋のドアに手をかけ、一瞬ためらった後、一気に引き開いた。
覚悟を決めて部屋に入った立花の目に飛び込んで来たのは、半ばまで押し上げられた、スチール製の鉄格子だった。中には、だれもいない。
失望とも安堵ともつかない思いに、無感覚状態に陥っていた立花は、背後に気配を感じた。ぼんやりと振り返ると、いつのまにか黄の長身がそびえたっていた。
黄 「俺とアヤツは、ここに閉じ込められていた。アヤツは、アズミたちに手を出すのを止めるかわりに、俺にここに来ることを要求して来た。俺が承諾すると、アヤツは約束を守り、兵を引いた」
立花 「‥‥」
黄 「不思議な男だった。優秀な兵士独特の機械的な冷たさの根底に、無垢な精神が流れていた。ここに来るまでの間、アヤツはいろんなことを俺に質問して来た。なかでも、一番興味をもってたずねて来るのは、家族の話だった」
立花 それで?
黄 「その後、ここに来たとたん、さっきの奴(新所長)が、俺達二人をこの部屋に閉じ込めた。アヤツのやり方が、気にいらなかったらしい。閉じ込められてから、アヤツは何もしゃべらなくなった。やがて、急に建物の中が騒がしくなった。アヤツは俺に逃げろと言って、どうやったのか、この格子を開けた。俺は、閉じ込めてくれたヤツとケリを付けるため、ここで別れた」
立花 「でも、いないじゃない!」
黄 (ケロリと)「なら、出ていったんだろう」
立花 「ちょっとまてーい!!」(一同爆笑)
神崎 「いやー、良かった、良かった」(笑)
立花 「ちっとも、良くなぁーい!」(絶叫)
黄 「ハラ減ったな。寺にかえってメシにするか」
立花以外 「賛成!」
立花 「しくしくしく‥‥」
とりみだす立花をなだめすかして、PCたちは信明寺へ戻った。
「だから、ワシが言ったじゃろ? こいつが、くたばるわけはないって」
出迎えてくれた住職が、黄の頭をこづきながら、かんらかんらと笑った。隣で茶をすすりながら黄が当然だ、と小さくつぶやくと、話の内容が分かっているかのように、住職の腕の中の赤ん坊が、キャッキャと笑う。
比呂も麻痺から回復し、信明寺の居間で、お茶を飲んでくつろいでいる一同のわきで、不幸のただ中にいるのが約一名。
立花 「うううう‥‥おじさーん」
DM 混乱してるな。チャートでも振るか?(笑)
立花 ふってやるわよ、もう! (ころっ)「ほほほほ‥‥コボルトしょうかーん!」
一同 どわー!(笑)
住職 「むぅ、いきなり犬面の物の化がでできよったか! 黄よ、調伏せい!」
黄 「俺はメシの支度で手がはなせん。自分でやってくれ」
数日後−信明寺の門の下に、彼らは再び集まった。皆の戦いの傷がだいぶ癒えたのを見計らって、比呂が実家に帰るといいだしたのだ。
「お世話になりました。この数日の間のことは、たぶん一生忘れないと思います」
丁寧な言葉使いは相変わらずだったが、ぎこちなかった笑顔も、いつのまにか打ち解けたものに変わっていた。
「正直を言うと、あなたたちが鏡の重荷に耐えられないようなら、無理にでも取り上げて帰るつもりでした。しかし、不死者の群れの長を倒すだけの実力をもつあなた達なら、わたしがでしゃばる必要もありませんよね。私は一度、報告のために、おばあ様の元に戻ります。みなさんも、どうか、お元気で」
そこで、言葉を切った後、比呂は一瞬、視線をすべらせ、神崎を見つめた。ためらうように、小さく開かれた唇が、短い言葉を紡ぐ。その声はあまりにもかすかで、神崎の耳には、その一部だけしか届かなかった。
「私も‥‥‥‥だったら良かったのに」
春の雪のように、吹き付けた風に、はかなく吹き散らされたつぶやきを残し、少女は霧たちこめる町の中へ、その姿を消した‥‥
to be continued‥‥