今村を睨み付け呻く小岩井は、正体を現し始めた。鱗が、翼が、牙が生え、完全に異形の姿を現した。穂之香 変身したぁ。
次のラウンドPC側の先手。穂之香はまたも「初の座」に失敗し、命運消費する。結果8点の回復。今村は防御姿勢を続行。ピクシーのプリンパは回避される。綾小路の攻撃はみごとに命中。DM/小岩井 回避ファンブル。命運消費。次はこっちだな。今村に攻撃命中。
5ラウンド目。またもPC側の先攻。ピクシーは再びプリンパするも回避される。穂之香は静観。綾小路の攻撃は外れる。小岩井の攻撃はダムド。穂之香 回避せいこーう。
6ラウンド目、小岩井の先攻。綾小路に攻撃。命中しダメージを18点与える。穂之香 どっちから回復しよう‥‥連続で両方にかけちゃえ。(ころころ)両方成功、7点回復。
7ラウンド目、PC側の先攻。しかし穂之香の攻撃が成功した以外は成果が上がらない。小岩井はまたも綾小路に攻撃を命中させ、瀕死に追いやる。DM/小岩井 ダムド!威力は13。
8ラウンド目は、小岩井の先攻。
9ラウンド目、小岩井の先攻。穂之香にブフを放つも回避される。穂之香は「初の座」をかけるもまたも失敗。命運消費するもさらに失敗。穂之香 どうなってるのぉ。(泣)
10ラウンド目、ピクシーを欠くPCたちは中々イニシアチブをとれず、小岩井側の先攻。しかし綾小路に回避される。PC側の攻撃もまたも穂之香は「初の座」に失敗、後の二人も成果があがらない。綾小路 覚醒チェックは失敗、命運消費して、また失敗。もういい倒れとく。
11ラウンド目。小岩井は残り少ないMPにも関わらずアギラオを穂之香に放つ。魔法回避の高い穂之香だか、ダイスの神様に見放されたか、回避に失敗し命運を消費する。今村の攻撃は失敗。綾小路はクリティカルを出すも、小岩井に回避され通常ダメージ。
12ラウンド目。又も小岩井の先攻。綾小路に攻撃を命中させる。
何をしてもうまくいかないPC側をあざ笑うかのように、小岩井は多様な魔法と攻撃を命中させ、PC側の命運を削り取っていく。PC側も攻撃を命中させるのだが、厚い装甲に阻まれ思うように成果があがらない。遂に穂之香は諸刃の剣であるマッスルドリンクに手を出した。マッスルドリンクの副作用により、穂之香はダーク値を増やしていく。穂之香 部長さん回復しようか?
続く綾小路の攻撃がクリティカルし、小岩井に大ダメージを与えた。一方小岩井はMPを使いつくし、魔法の使用が不可能になる。しかし、戦況は余り変わらない。今村もいま一つ攻撃があたらない。穂之香 ボクだけじゃなかったんだ。(笑)
PC側の命運の消費量はいっこうに減らない。小岩井はほぼ攻撃しか出来ない状態ではあるが、当たれば一撃がいたい。それに比べ、穂之香の回復は相変わらず成功せず、ダメージをうけるたびに命運を消費することになるからだ。穂之香 気合がからまわりぃ。カラカラ。(笑)
あまりに戦況に変化がないため、穂之香も覚醒チェックを試みるが、あえなく挫折。
ピンチの筈なのに緊迫感がまったくないPCたち。雰囲気とは裏腹に、戦況は泥沼化になってきた。今村 集中を1回増やそう。あたらなさすぎる。
さらにラウンドを重ねること数回。今村の判断も功を奏し、目に見えて戦況が変わり始めた。今村 ジオ、ダメージは9点。
残り少なくなったにもかかわらず、PCたちはなかなか止めをさせない。命中はさせるのだがダメージがチクチクとしか通らない。DM うおおおっ、チクチクチクチク。蛇の生殺しだぁ。(一同爆笑)
小岩井は執念でPCたちにダメージを与えていく。しかし、その攻撃も命運の前には無力だった。そんな戦いに終止符を打ったのは、綾小路だった。綾小路 攻撃はクリティカル!
戦いが終わったとき、今村たちは満身創痍だった。だれもが死力をつくし、勝利をおさめたのだ。そんな彼らを憎々しげに見つめ、地に倒れながら小岩井は呻く。穂之香 え? そうだったの?
「バカな‥‥俺は悪魔どもの力を手に入れたのに‥‥悪魔をも越えた俺より強いとは‥‥貴様ら人間ではないな‥‥」
そう言い残し小岩井は息絶えた。綾小路 「悪魔に魂を売り渡したお前に、俺たちが負けるものか!」
今村たちが勝利の余韻にひたるまもなく、この場に新たな訪問者が現れた。3人の黒スーツの男たちである。穂之香 もう戦えないよ。(泣)
穂之香の呟きを無視し、男たちは吉原のほうを一瞥すると、穂之香 「よっしーさんって偉い人だったの?」
「吉原、君の任務は完了だ。さっさとここを立ち去れ。あとは我々が始末しておく」と言い捨てた。
今村たちに吉原が何かを答えるよりも早く、黒スーツの男たちは、今村たちの前に立ち、穂之香 「いいよ、こんな難しいの、私にはわからないもん」
「(証拠物件を指して)それは君たちの所有すべき物ではない。当方に引き渡してもらう」
と、高圧的な態度で言い放つ。
今の自分たちでは、勝てない。今村たちは納得いかないものを感じながらも、男たちの言うように、証拠物件をわたす。
悔しさを噛みしめ穂之香は手帳と、メモを渡す。男たちの要求に答えるため、残り少ないマグネタイトを駆使し、ジャックフロストを呼び出した今村だが、穂之香の様子を見、同じく渡すために取り出したはずの、固形マグネタイトのビンのフタをおもむろに開け、
「ほらジャック、口を開けろ。これやる」
と、なんの前触れもなく、ジャックフロストに中身を食べさせた。
『ヒーホー、うまいぜ!』
何も知らないジャックフロストは、素直に喜んだ。そんなジャックフロスト横目で見、
「すまんな、手がすべった」
と、言ってのけた。男たちは無言で見ている。そんな男たちに気押されたようすもなく、男たちに食ってかかりそうな綾小路を抑え、再びジャックフロストに声をかけた。
「おいジャック、俺のコンピュータの居心地が良かったら、また戻ってこいよ。ひとまずはお別れだ」
『おう、ニイチャンたちのことはわすれないぜ。』
ジャックフロストも言葉をかえす。その言葉に重なるように、今まで無言を守っていた綾小路が口を開いた。
「これで全部返したんだ。俺たちの身の安全は保証してくれるんだろうな」
怒ったような声で言う綾小路に、
「それは保証しよう、さっさとここを立ち去れ」
と、突き放すように答える。
納得出来ないものを感じながらも、今村たちはさっさとその場を後にした。外に出る前に、穂之香は振り返ってさけんだ。
「ヒーホー君、大きくなって帰ってきてね!」
それだけを言うと、みんなの後を追って走っていった。
秘密工場を後にし、しばらく進んだ所で、綾小路は口を開いた。綾小路 「吉原、あんた一体何者なんだ?」
吉原は、綾小路の問いに肩をすくめ、「俺はなにもしらん。見ざる、言わざる、聞かざるさ」と答えた。穂之香 「よっしーさん、ずるぅい」
まったく反対の言葉を2人が口にする。そんな2人に苦笑しながらも、吉原は、「さあ、かえるか」と延び延びと言った。そこまで言ったところでふと思い出したように、
「あ、そうそう、金を払わないとな。ほい、2万円。ご苦労さん。ひとまずは解決だ」
一人一人に金を渡すと、吉原は手を振って去っていった。
「ヒーホー君、どうなるのかな?」
吉原を見送った後、穂之香はポツリと呟いた。
「さぁ、やっぱ‥‥」
『かき氷か!』
3人は声をはもらせてそう言うと、誰からともなく笑いだした。
「ま、大きくなって帰ってくるんじゃないの?」
「あいつがそう簡単にかき氷になるはずがない」
「そうだよねぇ。ヒーホーくんだもん」
それぞれがそれぞれの結論を出し、家に向かって歩いていく。元の日常生活に向かって。一時的な非日常。それによって得た物は多く、また、代価も多い。
それからしばらくして、マッスルドリンクの売れ行きは、目に見えて悪くなり、ついに発売が中止された。鈴木製薬も、赤字を出し倒産。また、生命の神秘派の存在もいつしか忘れ去られていった。原因は誰にも分からない。ただ結果のみがマスコミで放送される。
「ま、世の中こんなもんだな」
部室のテレビを眺めながら、今村は呟いた。あれから時が流れ、3月も終わりになろうとしている。東京には珍しく、今日は雪が降っている。
「大学決まったって? 俺たちを部活に引きずり込んだ張本人」
「おう、春休みなのにお前もひまだな。また姉貴が怖くて逃げてきたのか? 聖良ちゃん」
「その名で呼ぶなといっただろうが!!」
例の事件で知り合った綾小路とは、未だに腐れ縁のなかである。そしてもう1人。
「せーら、部長さん!! 駅前の公園で、大きな雪だるまが、雪だるまを降らせてるんだって!」
元気よく部屋に駆け込んできたのは、同じく腐れ縁の穂之香である。
「大きな雪だるまって‥‥あいつか?」
「あいつだな」
「ヒーホーくん!」
顔を見合わせると、笑みを浮かべ、
「じゃああいつを迎えにいくか」
すくっと立ち上がり、外を見る。雪は更に激しく降くる。楽しそうに踊りながら。
「雪で動けなくなる前に、いかないとな」
その言葉を最後に、部室を後にする。
消し忘れのテレビが次のニュースを伝えはじめた。
『○○公園の上空に、突如、巨大な雪だるまが現れました。東京一帯の大雪はこの雪だるまが原因と思われ‥‥‥‥』
彼らの非日常的な生活は終わらない。終わりがあれば、始まりがある。それはすべてにおいて言えること。今日が終わって明日があるように。