人獣と獣人

371 名前:ツキノヨルオロチノチニクルフイオリ投稿日:02/02/09 03:09
暴走庵VSロン
獣の闘争
プロローグ

夜の都会を、一人の男が歩いていた。
赤い髪に、赤いボンテージパンツ。背中には、
ケースに収まっているベース。
一見して、バンドマンと知れる格好だ。
 
男の名は八神庵。この日は、ライブを終えて帰る途中だった。
 
……突如、庵は立ち止まり、口を抑えてうずくまった。
「・・・・・ガフッ」
手の端からは、真赤な血が溢れ出している。
・・・まただ。庵は最近夜になると、この発作に苦しめられた。
だが、今日はいつもと様子が違う。
自らの中に流れる「血」の疼き。
身体中が、燃え盛るように、熱い。
そして、
自らの脳内で、延々と流される声。
 
憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
 
その声は、音量を上げながら、次第に増幅されて
庵の思考を容赦なく攻め立てる。
憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い。憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。 殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
………………あの男を、殺せ!!!!!!!!!!!!!
 
「キョオオオオオオオオォオォォォォォォォォオオォオォオォォオォ・・・・・!!」
庵は、絶叫した。
 
彼の頭上に浮かぶのは、真円を描く満月。
その光の中、「イオリ」の眼は赤く、爛々と輝いていた。
 
男の奇声を聞いた通行人が、ひっと悲鳴を上げる。
「イオリ」はゆっくりとその通行人ーサラリーマン風の男ーに
向き直った。
「キョォォォォッ!!」
美しき月夜に、鮮血が舞い散る。


373 名前:ロン投稿日:02/02/09 03:14
>371 暴走庵VSロン

 目の前で、一人が死んだ。
 眼鏡の東洋人――ロンはそれを認めて眉をひそめた。

 ぞわり、と身内に蠢くものを感じる。男の狂気に、己のそれが感応している。
(月に狂ったか・・・)

 男がこちらを向いた。次の標的に自分を選んだのは偶然ではなさそうだ。
 自分の発する狂気の匂いに、やつ自身が惹かれている・・・

 身を翻した。
 ついてくる男の気配を感じながら、人気の無い路地に誘導する。
 衆人の中で戦うわけにもいかず、これ以上の犠牲者を出すのもできれば避けたかった。

 誰もいない空間で、ロンは静かに男を振りかえった。

374 名前:ツキノヨルオロチノチニクルフイオリ投稿日:02/02/09 03:21
>373
庵は、運悪く居合わせたサラリーマン風の男をその爪にかけると、
もう一人の人間の気配を感じ、そちらに顔を向けた。
眼鏡をかけた、中国人風の顔立ちの男だ。
だが、そんな身体的特徴は、今の「イオリ」には見えていない。

唯、食らい、引っかき、燃やし、殺す。
あの男を、殺す。
 
東洋人風の男が、身を翻した。
結構な速さで、奥まった裏路地へと駆け出す。
「・・・・・・・・・ぐるぅうう・・・・」
「イオリ」は身を屈めて、前傾姿勢のままその後を追いかけるべく、
走り出した。

376 名前:ツキノヨルオロチノチニクルフイオリ投稿日:02/02/09 03:32
暴走庵VSロン
>374 続き
 
男が裏路地に入る。「イオリ」もそれを追いかけて、路地へと入った。
すると、中国風の男は既に少し離れた場所で、「イオリ」を待ち受けていた。
「イオリ」は、誘い出されたのだ。だが、それも、彼にとっては些細な問題。
 
「ぐるるる・・・・グアアァッ!!」
絶叫と共に、「イオリ」は右腕を下に向けて振り下ろした。
同時に、「イオリ」の腕から青く輝く「炎」が生まれでて、
地を這うように中国風の男へと飛んでいく。
そして「イオリ」自身も、その炎を追いかけるように、前傾姿勢で
駆け出した。
炎も、彼自身の突進も、常人の見切れるスピードを遥かに凌駕している。
彼が唯の人間ならば、これで終わっていただろう。だがーー

378 名前:ロン投稿日:02/02/09 03:46
>376 暴走庵VSロン

(気孔術? 炎か・・・)
 燐を使う殺し屋とやり合ったことはあったが、さすがにこれほどのものは経験が無い。

 サイドステップで炎をやり過ごす。
 突っ込んでくる相手が回避直後を狙っているのは計算の上。

 ふわりと惑わすように後退する。
 一瞬、間合いを誤魔化して機先を制し、端脚――サイドキックを男の胴に放った。

379 名前:ツキノヨルオロチノチニクルフイオリ投稿日:02/02/09 04:12
>378
暴走庵VSロン

「イオリ」の放った炎は、軽いサイドステップで狙いを外される。
だが「イオリ」はそれに全く頓着せず、さらに接近を続けた。
 
中国風の男は背後にふわりと後退した後、「イオリ」の
胴を狙ってサイドキックを放つ。
だが、「イオリ」は既に動物的本能で、相手の攻撃を予測している。

「フゥォオオオオアアッ!!!」
ダッシュに急激なブレーキをかけ、右腕を真下から遥か上空まで、
カウンター気味に振り上げる。腕の先から、猛烈な勢いの炎が
迸った。腕の勢いは殺さず、「イオリ」はそのまま空中へと跳躍する。

382 名前:ロン投稿日:02/02/09 04:22
>379 暴走庵VSロン

 振り上げるような一撃、軌道は端脚との交差。
 タイミングは遅すぎ、普通であれば打ち負けるタイミングではない。
 が、ロンはその手の先端に炎が生まれるのを見、とっさに蹴り足の軌道をずらした。

 炎を纏った手刀がふくらはぎを大きく抉っていく。

 蹴り足を踏み降ろす。激痛、ふんばりの効きにくい右足を酷使。
 がら空きの胴、一番下の肋骨を狙って痛烈な突きを放った。

383 名前:ツキノヨルオロチノチニクルフイオリ投稿日:02/02/09 04:34
>382
暴走庵VSロン
 
「イオリ」の手刀と、男の蹴りが交差する。
男は咄嗟に蹴り足をずらした為に、右足一本を
焼き尽くされずに済んだ。だが、ふくらはぎを大きく抉られた
右足から漏れ出る、血と、肉の焼ける匂いが、「イオリ」を更なる
狂気の渦へと誘って行く。
 
殺せ、殺せ、殺せ、コロセ、コロセ、コロセ。
コロセコロセコロセコロセコロセコローーーー

痛烈な打撃が、「イオリ」の腹部を直撃した。
先程の手刀を振りぬいて、がら空きになった胴部に向けて繰り出される、
非常に的確な一撃。肋骨が割れる嫌な音が響き、
「イオリ」は血反吐を吐きながら吹き飛び、地面に叩きつけられる。
 
セコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセーーーーー

脳内に響く声は途切れない。「イオリ」は倒された状態から、コンマ一秒と
立たずに起き上がった。同時に、目にも止まらぬ速度で低空に跳躍。
 
「キュアアアァァァァァ!!」
口の端から血の泡を吹きつつ、「イオリ」は奇声を上げる。
爪を鋭く立てての一撃が、男の肩口目がけて振り下ろされた。

387 名前:ロン投稿日:02/02/09 04:47
>383 暴走庵VSロン

 それは、獣の動きだった。
 電光の一撃に、とっさに右半身から左半身にスイッチして流そうとする。
 瞬間、右膝がくだけた。先ほどの一撃が効いている。

 体勢が崩れる。
 掲げた腕をかいくぐり、一撃が胸元に入った。
 体勢を立て直せぬままロンは数メートルを飛ばされ、隅においてあった得体の知れないゴミの山に突っ込んだ。

 直後――

「グゥオ・・・ゴァアアアアア!」
 正真正銘の獣の咆哮が響き渡った。
 ゴミを跳ね除け、虎が四足で走る。
 低い姿勢から跳躍、男の胸元に飛び掛かった。

388 名前:ツキノヨルオロチノチニクルフイオリ投稿日:02/02/09 05:00
>387
暴走庵VSロン
 
男は「イオリ」の攻撃を受け流そうとしたが、突如体勢を崩す。
先程の技に焼かれた右足が響いたらしい。
そこを逃さず、「イオリ」の爪は男の胸元を
容赦無く抉り、切り裂いた。
強烈な威力に飛ばされ、男はゴミの山に頭から突っ込む。
 
だがーー
獣の方向と共に、「虎」と化した男が「イオリ」へと跳躍し、
踊りかかってきた。
その異常な事態にも、「イオリ」はむしろ悦びの表情を浮かべて、
まさしく「本能」のみでその攻撃に対処する。
高速で突っ込んでくる「虎」の顔面に右手を伸ばし、
凄まじい反応を持って、おもむろに掴む。
そのまま、「虎」の巨体を振り回すと、地面に向けて顔面を
叩きつけようと試みた。

390 名前:ロン投稿日:02/02/09 06:48
>388 暴走庵VSロン

 爪の植わった両足で路面を噛み、踏ん張る。
 左手を背中からまわして相手の頭を抑え、瞬間的に自分の頭をねじって男の右手を振り解いた。
 同時に、腰で男の両足を払う。

 魔法のように攻守が逆転し、宙に浮いた相手の体を虎は路面に叩きつけた。


 追撃。否、虎の動きが止まった。
 荒い息。獣の吐息だ。

 殺すことに躊躇があるわけではない。もとより、殺さねば生きられぬ世界の住人だ。
 虎として、捕食者として、肉食獣として「殺せ、喰らえ」と叫ぶ本能をロンは抑え付けた。

(黙れ! 私は人として生きる!)
 人と獣との狭間で揺れ動く虎人の鼻先で、すでに人を止めてしまった男がびくり、と動いた。

393 名前:ツキノヨルオロチノチニクルフイオリ投稿日:02/02/09 15:26
>390
「イオリ」の抜き手は、完全に「虎」を捉えた。
だが、「虎」は彼の動きに完全に対抗し、自らが
地面に叩き付けられることを防ぐ。
 
そして次の瞬間、立場は完全に逆転していた。
足を払われ、地面に転倒する。
背中を強烈に叩きつけられ、さらに血塊を吐く。
そして「虎」が更なる追撃をかけるべく、毛だらけの拳を
振り上げたーー。
 
そこで、動きが止まる。
 
その隙を、「イオリ」が見逃すはずもなかった。
腹筋の力のみで素早く跳ね起きて、
己の肩口を相手の顔面に叩き込んだ。
めしり、と「虎」の鼻柱が折れ曲がる音が聞こえる。
そのまま吹き飛んでいく「虎」に向けて、
「イオリ」は更に、その場から動かずに右腕を振り下ろした。
「ヒイャアアアアッ!!」
「イオリ」の腕から放たれた蒼穹の炎が、飛んでいく「虎」へと
直接追撃をかける。

410 名前:ロン投稿日:02/02/09 19:39
>393 暴走庵VSロン

 空中で身を捻り、巨体を感じさせぬ動きで猫のように四つ足で着地する。
 目前に蒼い炎。
 虎は、片足を上げ、呼気とともに無造作に踏み降ろした。
 震脚――。地表すれすれに発生した"気"の衝撃が炎を吹き散らす。

 痛みが狂気を加速する。
 生きるために殺すという大義名分、明確な「敵」を与えられ、本能が猛り狂う。

「……ゥゥゥゥゥウゥルゥオオオォオォォオ!」
(私に力を使わせるな!)
 闇に黄色い眼をきらめかせ、しかし、虎は確かに嗤っていた。

 跳躍。人には到底取り得ぬ緩い放物線を描いて、飛び蹴り。
 かわされると、地面を引っかいて制動。振り向き様の横殴りの斬撃から蹴り上げ、
 急激に身を沈ませ、身体を回転させて膝への両爪の斬撃――

 致命的な攻撃を次々繰り出しつつ、一片の拳法家としての意識がささやく。
 カウンターにはカウンター。苦し紛れの反撃を誘い、一撃を合わせろ、と。

445 名前:ツキノヨルオロチノチニクルフイオリ ◆nyl/tv6Y 投稿日:02/02/10 00:59
>410
炎をあっさりと吹き散らされる。
だが、相変わらず「イオリ」の表情に浮かぶのは「狂気」のみ。
 
「虎」が超常的な動きで跳躍。飛び蹴りを放ってきた。
「イオリ」は素早くバックステップで、身をかわす。
そこに、横殴りの爪による斬撃が繰り出される。
身を僅かにそらせるが、爪は「イオリ」の服を大きく切り裂き、
肉までも抉り取る。
更に顎を狙っての蹴り上げ。これは頭を横にずらして避ける。
また、下段への急激な変化の後、爪による引っ掻き。
再度のバックステップで避けようとするが、僅かに「虎」が速い。
膝の肉が少々持っていかれた。だが、それだけでは彼の動きは
止まらない。止められない。
 
更なる連撃をかけようとする男に対し、「イオリ」は
本能で、反撃を試みる。
相手の上段を狙ったとび蹴りに対し、両腕を上空に交差させて
防ぐ。
この構えは、八神流古武術最大にして最凶の禁技の予兆である。
だが、今の「イオリ」本人が意識している訳では無い。
彼の意識の奥深くから、完全に受動的に出てきた行動なのだ。
 
そのまま「イオリ」は、「虎」を肉片と化すまで切り刻むべく、
ほぼ零の距離を突進する。
「キョオオオオォォォォォォアアアアッ!!」
(トリップ判定)

450 名前:ロン ◆JJRcGMqc 投稿日:02/02/10 01:18
>445 暴走庵VSロン

(来た!)
 闘争本能に突き動かされつつも、ロンはその瞬間を拳法家としての勘と経験で察知した。
 己のうちに荒れ狂う力を超人的な精神力で制御し、一撃の下に解放せんとする。

 両手を揃え、右足を踏み降ろすと同時に叩き付けて防御をこじ開け、
 掌打をその胸元に叩き込まんとした!

(トリップ判定)

465 名前:ロン投稿日:02/02/10 02:22
>450 暴走庵VSロン
(J>n ロン側の勝ち)

 両拳をそろえての打ち下ろし。それによってできたあるか無きかの隙間に全身で踏み込む。
 下肢から腰、肩と伝えられ、増幅された力が解放された。

 右掌が男の胸元に炸裂、胸骨を叩き割ってめり込み、
 次の瞬間「イオリ」の身体は車に跳ねられたような勢いで吹き飛んでいた。
 路地の壁に激突して落下し、そのまま崩折れる。


 ロンは獣の狂気を燃やし尽くしたかのように、掌打の姿勢のまま人の姿に戻っていた。
 息を吐き、荒い呼吸を整える。
 男が動かないことを確認し、ロンは眼鏡を拾い上げて路地を後にしようとした。

 ふと、振り返る。

「狂気の、末路か・・・」
 自分もいつか狂気に取り込まれるのか。
 男の姿に自らを重ねあわせ、ロンはしかしそれを振り払うように向き直った。
 静かに路地を後にする。

 獣の狂気を見つめ続けた満月は、物言わぬまま、なおも彼らを照らし続けていた。

End