≪冷ややかな視線≫
「誰かしら?」
メイは冷ややかな視線を私に向けてそう言った。
そんなメイの様子に戸惑い、私はメイの名前を呼んだ。
「……知らないわ、あなたなんか」
視線と同じ、冷たい口調が返ってきた。
何かに拗ねてそのような態度なのかと思ったが、すぐに違うとわかった。
私を見るメイの目は、他人――いや、他人以下の存在を相手にしている時のものだ。
メイの嘘はすぐにわかる。
そして今、メイは嘘をついていない。それが私にははっきりとわかってしまう。
つまりは、私を知らないという言葉は嘘ではなく、メイは本当に私を知らないという事になる。
何故? いったいどのような経緯でこのような状況になっているのか、私は思い出そうとした。
だが……わからない。
いや、その前に。
いったいここはどこであるのだ?
どうしてメイが私の前にいるのだ?
疑問が次々と心に浮かび、そのどれもに答えを出せない曖昧な思考が続き、これはどういうことなのだと自問し、次の瞬間目の前の光景がぐしゃりと潰れ――
――私は、目を覚ました。
情けない事に呼吸が荒い。覚醒した後も数十秒間、身体が麻痺したように動かなかった。
やっと、痺れが抜けてきて――私は身体を起こした。
ゆっくりと、肺に溜まった重い空気を吐き出す。
夢とわかっている今ですら、あの光景を思い出すとそれだけで言いようのない気分になってくる。
この気分はなんだろうか? 不安か、さもなくば恐怖か。
あれは単なる夢であり、現実には決してなりえないものだ。
それはよくわかっているはずなのに、それでも理由もなく怯えのような感情を抱くのはどういうことなのだろうか。
まったく、自分が理解できない。
隣では、メイが眠っている。手を伸ばせばすぐに届く距離だ。
何を恐れる事があるというのだろうか、あの夢にはどこにも真実はない。
暗い寝室で、隣のメイの輪郭がぼんやりと見える。
私は手を伸ばし、メイの頭にそっと触れた。少し寝汗をかいて、細い髪がしっとりとしている。
頭を撫で、そのまま指を頬に滑らせてやると、メイは小さく声をあげた。
「ン……」
起こしてしまったかと思ったが、そうではないようで、メイは目を閉じたまま頬にある私の手に触れ、そして。
そして、私の指を軽く握り、メイはまた静かな寝息をたてはじめた。
私はメイの顔を覗き込み、髪に優しくキスをした。
暗い中で見えたメイの寝顔が、私に触れる事で安堵しているように感じたのは、私の気のせいではないと思いたい。
2003.11.08.
恐ろしくナチュラルに、冥が御剣の隣で寝ていますが、
これは自分の脳内設定における仕様です。
なんだかとりとめのない話を書いてみたかったんで書いてみましたが、
オチは何もありません。