≪TEL≫

 携帯が鳴った。
 この着信音はレイジの携帯から。
 私を呼ぶように、携帯は鳴り続ける。
 少しだけ自分に勿体をつけるようにして、私はゆっくりと電話に出た。

「――はい」
『メイ?』
「ええ」

 電話の向こうからは、やっぱりレイジの声。
 ちらりと時計を見ると、普通、電話するには少し非常識な時間になっている。
 勿論私は家に持ち帰った仕事がまだ終わらなくて、今この時間に眠っていられるはずもなく、その事をレイジは知っているからこそ電話を掛けてきたのだろうし。
 でもまだ起きているというのはレイジも同じはずで。
 最近、レイジは私の倍以上の仕事を抱えて、今日も自宅に戻れずに検事局に泊り込んで片付けているはずだから。

「何か用かしら、レイジ?」

 私はレイジにそう訊いてみた。
 だってこんな時間の電話が、無意味なはずはないと思ったから。

『メイが、私の声をききたがっているのではないかと思って、な』
「…………は?」

 レイジはそんな事を言う。
 ……何を言っているのかしら、いったい。
 私がレイジの声をききたがっていると思ったから、レイジが私の携帯に電話を掛ける……?
 ――私がそう思っていたのが事実だとしても、理由としてはとてもおかしいものだと思うのだけれども。
 少なくとも、万人を――私自身を納得させるような証言ではないわ。

「レイジ、それは少しヘンだと思うわ」

 率直にレイジに言ってみる。

『ふむ……メイは私の声などききたくはなかった、と。そういう事か?』
「誰もそんな事は言っていないのだけれども」

 声がききたくないわけないじゃない。
 今、こうして話せているだけでも……嬉しいのだから、口には絶対に出さないけれども。
 レイジの声は少しだけ黙って、その後、こう言った。

『今、私は、メイの声がききたかったのだがな』

 その言葉をきいて、私は少しだけ黙った。
 言葉を探して、少して口をひらいた。

「それはつまり、レイジは私の声がききたかったら、私に電話を掛けた――はじめからそう言えばいいのではなくて?」
『ム……なるほど』

 電話の向こうのレイジは……なんだか本気で私の言葉に納得しているように思えた。
 自分が電話を掛けた理由を、掛けた相手から指摘されて、それに感心している……そんな状況というのは、それはつまり。

「レイジ、さっさと仕事に区切りをつけて、早く寝なさい。起きたら、好きなだけ声をきかせてあげるから」
『……声よりも、メイ本人の方が嬉しいのだが』
「まずは仕事を片付けてから、次の要望があるのなら言いなさい。疲れで思考が空転しているような相手と約束を交わす気にはなれないわ」
『ああ……わかった』
「それじゃあね――」

 私は電話を切った。
 少しだけ、今の時間は息抜きになった。
 レイジも同じく、息抜きになっているといいのだけれども。

 ……少なくとも、電話を掛けてきた時よりは思考能力が回復していればいいのだけれども、本当に。


2003.11.14.


独りで仕事やってると、意味もなく誰かと話したくなったりして。
しかしながら、御剣は寝ぼけが入っている可能性アリ。
少なくとも、何かの自制心は疲労などにより麻痺している様子。