≪留守番電話≫
この時間では、まだ自宅には戻っていない事はわかっていた。
『御剣です。ただ今、留守にしています――』
留守番電話に録音された御剣自身の声での応対メッセージは、いつも聴きなれている御剣の口調と少し違っていて、なんだか見知らぬ他人の声のような違和感を感じる。
『発信音の後に、お名前と用件をお願いします』
素っ気無さをにじませた短い応対の後に、高めの発信音が鳴った。
ここで電話を切ってしまおうか……そう思ったけれども、やめた。
「私よ」
名乗りもせずに、そう口にする。自分が誰かは、声でわかってくれるはずだから。
「特に用事はないわ。声が聴きたかったの。それだけ」
こんな時間に、御剣の自宅に電話をかけておいて、何を言っているのだろうか――自分でもそう思う。
御剣が不在であることは承知していた。電話をかけても、本人が出る事などありえないとわかってはいた。
だが、携帯にかけても電源が入っていなくてつながらず、それでも声が聴きたい、声だけでも聴きたいと思ってしまったのだから仕方がない。
もちろん、留守電に録音された声を聴いたくらいで、飢えを感じている心が静まるわけはないのだけれども。
他人に対するよそよそしいその声は、逆に妙な焦燥を生み出す事にもなったのだけれども。
いつも自分に向けてくれる御剣の声と、同一人物のもののはずのそれは、聴き慣れないもののようで。
本当に、自分は何をしているのだろうと思う。
あと少しだけ我慢して、御剣の帰宅時間を待てばいいのだ。その時間を見計らえば、電話で声を聴く事ができる。
録音のメッセージを聴いてどうなるというのだろうか。自己満足にもならない、無意味な行為でしかないというのに。
「……今度かけた時は、録音ではなくレイジの肉声が聴きたいものだけれども。期待しないでおくわ」
一方的な用件だけを吹き込んで、冥は通話を切った。
自分だけしか存在しない、静かな空間が後には残る。
――御剣の声が聴きたい。もう1度かけようか……みっともない真似が心に浮かぶ。
電話をかければ、録音された御剣の声を聴く事はできる。
できる、が――
しばらくして、冥の携帯が鳴った。
2003.11.18.
留守電で思いついた話です。短めなので、いつかもう少しこっそりと書き足すかもしれません。
ついでに、ものすごくどうでもいい話ですが、留守電応対メッセージで思い出した事が1つ。
●年前、大学時代の友人S君の下宿に電話をかけたところ、留守電になっていました。
以下、その留守電メッセージ。
「はい、Sですけど……実は、今、留守に、して、るっす(ピー<即発信音)」
笑いました。
S君にきいてみたところ、ほぼ例外なく、留守電にはかけてきた人々の笑い声が録音されていたそうです。
……いや、本当に関係ない話です。別に御剣の留守電メッセージが上記のようなものであるわけではありません。
いや、それはそれで面白いかもし(略)